第72話 ローブを奪還せよ
ローブを盗られたという現実が頭に入ってくるまで数秒かかった。そして、私は辺りを見回して人影がないか確認する。―――しかし、ぐるっと見回してもそれらしき姿は見当たらない。
「そんな…」
ショックで頭がどうかなりそうだった。あのローブは上質な生地だし、リヒトは言わなかったけど、相当値が張るだろうからあの男は盗んだのだ。…でも、私にとってはそれよりも、リヒトが私の気持ちを汲んだ上でプレゼントしてくれたことの方が遥かに価値があった。だからあのローブは、他にどんな高級な代物があろうと変えられない、宝物なのだ。
「絶対に…取り返す」
私は静かに宣言すると、杖を上に掲げた。さっきの盗人は鳥を操って私のローブを盗んだ。…なら、私も。
杖の先が輝くと、無数の鳥が杖の先から飛び出した。私が杖を横に薙ぐと、鳥たちは散り散りに飛んでいく。
私から大切なものを盗むなんて良い度胸だ。すぐに見つけ出してやる。
相当な数の鳥を放ったので、盗人が見つかるまではそんなに時間がかからなかった。一羽の鳥が私の元へと戻ってきて、翼で盗人のいる方向を示した。私はすぐさま箒を発進させて、杖を持つ手に力を込める。
程なくして、鳥の翼が下を差した。箒を止めて眼下に目を向けると、木々の隙間に人影が見えた。…見つけた。
私はすぐに降下して、身を潜めていた盗人の前に姿を見せる。ローブは盗人が抱えて持っていた。
「はっ…!?もう見つかった!?」
盗人はうまく逃げられたと思っていたようで、私の姿を見て驚愕する。舐められたもんだ。さっさと返してもらおう。
「今返してくれたら許すけど」
私は杖を突き出して牽制する。最後の忠告。
「こんなに上等なローブ身につけてる方が悪いんだよ!」
なんと身勝手な言い分だ。…まぁ、身勝手だから盗みに手を染めるのか。盗人も杖で応戦する構えだけど、ここは…怖気付いてもらおう。
私は構わず杖を向け―――、杖の先から青白い光線を放った。
光線は瞬時に盗人の背後の木に命中し、その部分が赤熱。森の静寂を打ち破る爆発音とともに、幹から炎が勢いよく噴き出した。
一瞬の変貌に盗人は呆然としている。そして、火の粉が降りかかって盗人は慌てふためく。
「あ、あちあちあちっ…!なんだ今のは!?」
盗人があたふたしている隙に、私は風魔法で盗人の足元から突風を発生させて、ローブを上空へと吹き飛ばす。そして、今度は引き寄せ魔法でローブをこちらへと引き寄せて奪還完了。
「ふぅ…」
無事奪還できて安堵の息を吐く。
「ヤベェやつだ…!逃げろ!」
怖気付いた盗人は秒を争う勢いで箒に跨って一目散に逃げていった。…誰がやべーやつだ。やべーのはそっちだろうが。…まったく、一人になっていきなりの災難だった。しかも急いでる時に。
私は取り返したローブに目を向ける。…んん!?なんか色が若干違うぞ!?生地の触り心地もなんか硬めだし。
私はローブを広げた。明らかにサイズが大きい。……これ、あいつが着てたやつじゃんか!待てやこらぁぁぁ!
即座に箒に跨って飛び上がり、全速力で盗人を追いかける。盗人が今身に付けているのが私のローブで間違いない。
「おいこら!私のローブ返せコラァ!」
怒り心頭。もう容赦しない。私は狙いを盗人の箒に定めると、杖の先から光線を放った。離れていようが光線は瞬時に命中し、箒の穂先が発火。
「えっ!?わっ!燃えてる燃えてる!」
またもや慌てふためく盗人は、杖から水流を放って消火する。…ふ、かかったな。
私は氷魔法を発動。盗人が放っていた水が一瞬で凍り付き、穂先も杖も、杖を持つ手も諸共凍り付いた。箒とくっついてしまった盗人は飛行を継続できなくなり、茂みへと落下した。
私は盗人の眼前に降り立ち、杖の先を盗人の顔に向ける。
「次は顔面凍らすけど」
「わぁぁ!わかった返す返す!」
ついに観念したようだ。ただ、今の状態だとローブが脱げないので……。
盗人の凍った杖を風の刃でスパッと切断して、脱げるようにしてあげた。
「のわぁぁ!俺の杖がぁぁ!」
盗人がなんかショック受けてるけど、構わずローブを取り返して、代わりに盗人のローブを投げ捨てると、私は今度こそ安堵の息を吐いて、空へと飛び上がった。




