第71話 めんどくさい絡み
メリーベルを出発して何時間か経った頃、私は長閑な農村地帯に似合わない速さで飛んでいた。優に普通の速度の倍は出ている。今日の目的地は、グラツェまでの道のりの中間くらいに位置するテルミという町だ。なんとか日が暮れるまでには着きたいところ。
すると、前方に同じく箒に乗って飛んでいる人が見えた。向こうはそんなに速く飛んでいないため、みるみる近づいていく。向こうも黒のローブを羽織っており、後ろから見た感じ青年っぽそうだった。
あっという間に迫り、追い抜きざまに一応礼儀として挨拶してみることに。
「こんにちはー」
「あ、こんちは」
顔を見るとやっぱり若い男の人だった。私は顔を前に戻して先を急ぐ。景色は畑から森へと変わり、人家のない完全な無人地帯となった。しばらく海の上ばかり飛んでいたから、広大な森の光景も久しぶりである。もうすぐお昼の時間だし、どこか良さそうなところがあったら、降りてサンドイッチでも食べようかな。
「おーい、そこのレディー!」
不意に後ろから声をかけられた。下からではなく後ろからだ。振り向くと……さっきの男の人がいた。
「ねぇねぇ、そんなに急いでどこ行くのー?」
「うげ…」
私は本能的にめんどくさそうな顔をしてしまった。え…何…?追い抜くまで普通の速度で飛んでたじゃん。なんで急に追っかけて来てんの…。とりあえず速度速めよう。
私は会話を無視して、飛ぶスピードを速めて引き離すことに。
「この先は魔獣とかいるからレディー一人じゃ危ないよー!」
余計なお世話だ。っていうか、空飛んでたら魔獣に襲われることないでしょ。
「ねぇってばー!俺が護衛してあげるよー!」
「結構です」
キッパリと断った。…というかしぶといな。結構スピード出してるのについて来れるなんて、ただのナンパ男ではないようだ。ナンパ男に変わりはないけど。
「ねぇねぇー!お茶しようよー!」
し、しつこい…。あっちの魔力が切れるのを待っても良いけど…、ずっと声かけられ続けるのもだんだん嫌になってきた…。よし…、仕方ない…。
「ねぇねぇねぇねぇ!無視しないでよー!」
私は無言で杖をスッと後ろに向けて、杖の先から勢いよく煙を放った。
「どわぁぁー!煙たいー!目がしょぼしょぼするー!」
よし…、今のうちに…!
私がそう思った次の瞬間―――、箒を力強く掴まれた。動揺して顔を後ろに向けると、煙に巻かれたはずのナンパ男が、不適な笑みを浮かべて私の箒を掴んでいた。
「逃さないって〜。よくもやってくれたな〜?お、か、え、ししてあげる〜」
キモ……。なんだこいつ…。
私は怖いというよりキモさに冷や汗を垂らす。こんなところで道草食ってる場合じゃないのに。
私はナンパ男を引き剥がすべく、今度は突風を放つ。重い空気の塊が男を押し退けようとする。
「どわぁぁ!…って、ハハハ!効かなーい」
キモいんじゃー!さっさと箒から離れろキモ男!
「あの…、さっさと離してどっか行ってください。…じゃないと、もっと強い魔法で攻撃しますよ?」
私は据わった声で忠告する。痛めつける気は無いけど、諦めないようなら仕方ない。…というか、こんなに嫌がってるんだから普通諦めるでしょ…。
――しかし、この瞬間、私は意識を後ろに向け過ぎていた。
ふと前方に意識を向けると、目の前に鳥の集団が迫っていたのだ。
「わっ!」
私は慌てて降下して避けようとするが―――、体から何かが引き剥がされる感覚がした。そして、バサッ…と音がした時には、私が羽織っていたローブが鳥たちの鉤爪に掴まれていた。
「な…!待って!」
私はすぐに手を伸ばすが、鳥たちは既に離れた位置にいた。そして、いつの間にか私から離れていたナンパ男が鳥からローブを受け取ったのを目撃する。
「ハハハ〜!一丁上がり!あばよぉ!」
次の瞬間、ナンパ男が杖を向けて広範囲に炎を放ってきた。私はすかさず障壁を展開して炎を防ぐ。そして…攻撃が止んだ時には、男の姿はどこにもなかった。
そんな……まさか…ローブを盗られるなんて…。




