第70話 首都グラツェへ
私は封筒を手に持ったまま、じっとアリシアさんを見つめる。アリシアさんが…何かに困っている…?それは…、この手紙と関係があるのだろうか。このウィリアムという人がいるのはグラツェ……。アリシアさんがここでお願いしてきたということは……一緒には行けないということ。
昨晩のあの寂しそうな表情は…これを意味していたのか…。でもどうして、私が手紙を届ける必要があるんだろうか。何か理由があるに違いない。…それを、今訊いても答えてくれないかもしれないけど…。…でも、推測のままなのは嫌だ。
「アリシアさん、私に依頼した理由はなんですか?もし…話せるなら…話して欲しいです」
私の問いかけに、アリシアさんは柔らかな笑みを浮かべた。
「やっぱりシエルさんは優しいですね。こんな頼み方をしてしまってすみません。シエルさんなら…できると思ったんです。私には…会えないお方なんです。…ただ、どうしても手紙を渡したくて…」
私はハッとした。アリシアさんは、私を信頼してくれてるんだ。だからこの手紙を託してくれたんだ。
詳しい事情はまだわからないけど、ウィリアムという人に会えば何かわかるかもしれない。
「わかりました。私はアリシアさんの右腕ですからね!」
私は笑みを浮かべて、右腕でガッツポーズをする。そんな元気印な私を見て、アリシアさんが抱きついてきた。
「わわっ!」
私は驚いて声を上げるが、アリシアさんはじっと抱きついている。…なんだか愛おしい。私も静かに抱き返して、アリシアさんの確かな温もりを感じ取った。
宿に戻った私は、部屋の床に描かれたままの魔法陣を見つめる。グラツェに行くのであれば、これも消さないと…。
私はローブを着たままベッドに倒れ込む。さっきは快く引き受けたけど……、正直心の整理ができていない。アリシアさんは…何に困っていたんだろうか。数日間会えなくなるから?…寂しがり屋なアリシアさんなら、その可能性もあるか。
私は地図を手に取ってグラツェまでの経路を確認する。…普通に飛んだら片道三日くらい?往復一週間か…。……よし、いつもの倍の速さで行こう。それで、もちろん買い物とかトルテも食べて…。帰ってきたらリヒトに自慢しちゃお。
急にやる気が出てきた私はムクっと起き上がって、ローブをクローゼットに仕舞うと、シャワーを浴びに行った。
翌朝、私は支部の前でアリシアさんとエルザさんに出かける挨拶をしていた。
「道中気をつけてね」
「はい!速達便で行って帰ってきます!」
やる気満々な私にエルザさんは微笑む。一方、アリシアさんは未だに寂しそうだ。もー、仕方ないなぁ…と、私はアリシアさんの肩をポンと叩く。
「すぐ帰って来ますから!またお土産のトルテ一緒に食べましょう」
「シエルさん…」
寂しんぼなアリシアさんに元気づけの笑顔を向け、私は箒を発現させて跨る。
「じゃ、行ってきまーす!」
私は笑顔で手を振って空へと飛び上がった。気になることはあるけど、こういう時くらいは笑顔じゃないと。
これから向かうは首都グラツェ。いったいどんなところなんだろう。大都会過ぎて目が回っちゃうかも…なんて思いながら、私はメリーベルの街を背にして速度を上げた。




