第69話 静かなる動揺
翌朝、早速島の人たちが魔法陣の描かれた船に乗りこむ。魔法陣が輝き出すと船がゆっくりと岸壁から離れていく。滑り出しは好調なようだ。初めのうちは船頭さんがついて不測の事態に備えるようにしてもらった。それでもずっと漕ぐ必要がないから助かると喜ばれた。
アリシアさんと二人で離れていく船を眺めていると、ミレーヌさんが貝の串焼きを手に持ってやってきた。
「これ美味しいよ。どうぞ」
「ありがとうございます」
私は一つ受け取って口に入れる。お、美味しい…!レモンとオリーブの香りと貝の食感が絶妙にマッチしていて絶品。最初は抵抗があった独特の臭みも慣れて、私は島のグルメを堪能していた。
「シエルちゃんの魔法陣、やぁっと理解できたよー。でも、真似るにも何度か練習しないと!」
ミレーヌさんは串焼きを食べながら意気込む。あの魔法陣の普及をミレーヌさんにお願いしたのだ。ミレーヌさんはアリシアさんの前だと大好きが止まらなくなるような人だけど、理解力が高くて、私の癖が強いあの魔法陣も短い時間で理解してくれた。…これで島の人たちが少しでも自由に動けるようになったらいいな。
この後、私とアリシアさんはメリーベルに帰るので、ミレーヌさんとはここでお別れ。本当に偶然だった二人の再会は、かけがえのない思い出だ。別れ際、ミレーヌさんはアリシアさんに抱きついて、彼女の温もりを確かめる。
「またねアリー。今度はフリージアで会おうよ」
「うん。その時はまたクランベリーパン食べようね」
「うん!アリー、愛してるよ」
「もー、恥ずかしいよ」
ぎゅーっと抱きしめるミレーヌさんの頭を優しく撫でるアリシアさん。まるで姉妹のようで微笑ましいし、アリシアさんの優しさがとても良く伝わってくる。今まで知らなかったアリシアさんの別の一面が見れて新鮮だったな。
そして、ミレーヌさんが手を振って見送る中、私たちはアリコ島から飛び立ち、メリーベルへの帰路に就く。何度目かの海の上を飛ぶ時間。思い返すと毎回違うことを考えながら移動していたかも。
メリーベルに戻ってきたのはお昼頃。私たちは一旦支部へと立ち寄ってエルザさんに報告しにいく。
魔法陣を解読するどころか、大きな課題を解決してしまったから、報告を受けたエルザさんは驚いた後、感激してめちゃくちゃ褒めてくれた。
「お母様の残した技術を甦らせて、さらに改良までしちゃうなんて、なんだかドラマチックね!」
「そう言われると恥ずかしいですね…」
褒められ尽くしですっかり顔が赤くなってる私。ドラマチックというか偶然の賜物というか…、こういうこともあるんだという出来事だった。…でも、ママには感謝しないとね。
ひとしきり会話を終えた私とアリシアさんは午後休みを貰っちゃったので、お昼ご飯の後、二人で街をぶらぶらすることに。この前の休日に行けなかったところを中心に街歩きを楽しむ。アリシアさんの楽しそうな姿を見ているだけで私も楽しくなる。…だからこそ、昨晩見せたあの表情が頭の隅っこに引っかかったままだった。
日もだいぶ傾いた頃、私とアリシアさんは浜辺に来ていた。なんだかんだここに来るのも三回目だ。アリコ島の夕日もすごく綺麗だったけど、ここから見る夕日もやっぱり好きだな…。
私たちは砂の上にピクニックシートを敷いて座り込み、だんだんと水平線に近づいていく夕日を眺めながら身を寄せ合う。…不意に、アリシアさんがポツリと言葉を発した。
「昨晩の話なんですけど…」
心臓が高鳴りする。…今までずっとボーっと過ごしても許されるような和やかな空気だったのに、途端にそれを許さないような緊張感が走る。
「渡したいものがあるんです」
アリシアさんはそう告げると、小さな封筒を差し出した。私は不思議そうな目でそれを受け取る。飾り気のない茶色い封筒で、宛名にはウィリアムと記されていた。
「手紙ですか…?」
「はい。……実はそれを、グラツェにいる方に渡しに行って欲しいんです」
「…え?…その、ウィリアムさんにですか?」
「はい…」
私は静かに驚いた。グラツェにいる人に渡しに行く…?どうして急に…このタイミングで…?アリシアさんの頼み自体に違和感を感じたけど、それよりも…アリシアさんの表情が…なんだろう。今まで見たことないような感じだった。……ふと、リュックのポケットに目を向けると、ポケットが僅かに青く光っているのが目に入った。……青真珠が…光ってる…?……アリシアさん、一体何を隠してるの…?




