第68話 嬉しい思い
アリシアさんとミレーヌさんがようやく落ち着いたところで、私は船着場の側のスペースに杖を向ける。すると、杖の先が光り輝き、魔法陣が地面に展開された。
「これは複雑な魔法陣だねー」
ミレーヌさんが興味津々そうに覗き込む。なんだかこそばゆい。私としても自信作なので。
「この魔法陣、船の航行をサポートするものなんです。シエルさんが描きあげたんですよ」
「えっ!?そんな便利なやつなの!?すご!」
誇らしげに解説するアリシアさんに、ミレーヌさんは教科書通りなリアクション。…これは是が非でも成功させないとな。
早速私たちはミレーヌさんが乗ってきた船に乗り込み、魔法陣が機能するかの実験を開始する。船を沖まで出して、そこで折り返して戻ってくる感じだ。念のためミレーヌさんにはオールを動かせる体制を取ってもらいつつ、いざ出港。魔法陣が銀色に輝き出すと、船がゆっくりと動き出した。オールも漕いでないのに勝手に船が動くのは不思議な光景だ。
「あっ!すごい!船が動いてる!」
岸の方から声が聞こえたので振り向くと、いつの間にか島の子供たちが見物していた。元気に手を振ってくれる子供たちに私も笑顔で手を振って返す。これが上手くいけば、島の人たちも喜んでくれるかな。
「サポートどころか、もう自動で船を動かしてる!」
ミレーヌさんは、オールを漕がずに航行を続けていることに感激してくれている。実はママが描いた魔法陣にアレンジを加えていて、オールを漕がなくても船が目的地まで辿り着けるようにしている。なので、上手くいけば船頭さんがいなくても船を行き来させることができる。
沖まで無事に辿りつき、船は速度を落とすとゆっくりと転回して、また島へと戻り始めた。私は船のへりに手をついて、海面に目を向ける。海は透き通るように綺麗で、海中を泳ぐ魚の影も見える。すると、いつもミャーミャー鳴いている白い鳥が飛んできて、羽を休めにへりに止まった。私が人差し指を近づけてみると、クチバシをチョンとしてきた。かわいい。
島の船着場に近づくと、スピードを落としてゆっくりと岸壁に寄っていき、ロープが自動的に飛び出して、輪っかが船着場の突起へとスポッと入った。無事成功。……瞬間、拍手の音が耳に入った。
「すごーい!」
「魔女さん凄いぞ!」
「かっこいいー!」
様子を見守ってくれていた島の人たちが拍手で迎えてくれた。恥ずかしい…けど、達成感が心を満たしてくれる。
ふとアリシアさんに目を向けると、温かい笑みを浮かべて拍手を送ってくれていた。
その後は、島の人たちに魔法陣の効果について説明する。すると、島の人から、船着場ではなく船に直接魔法陣を描いてはどうかと提案された。それは盲点だった。確かに、船着場に描くと、一つの魔法陣で複数の船を操れるメリットがある反面、船が遠く離れると効果が弱まってしまうので、安全に船を動かすには、そっちのやり方のほうが良さそうだと思った。
ただ、今の魔法陣のままだと大き過ぎるので、船首に描けるくらいの小ささに改良することにした。島の子供たちとお喋りしながら魔法陣の改良に取り掛かり、気付けばもう夕方近くになっていた。
「できましたー」
私は船首に描かれた魔法陣を披露し、みんなから再び拍手を送られる。いや〜、えへへ。と嬉し恥ずかしで頭をさする。
その後は夕日のスポットに案内されて、夕日を背に島のシルエットが浮かぶ絶景に目を奪われたり、島の人たちからご馳走を振舞われたり、子供達に魔法を見せてあげたりして、すごく楽しいひと時を過ごした。
この日は、島にある宿に泊めてもらうことに。既にミレーヌさんがスヤスヤと眠っている中、私がベッドに潜り込むと、隣のベッドで横になっていたアリシアさんが声をかけてきた。
「お手柄でしたよ。お母様の魔法陣を解読するだけじゃなくて、より良い形に仕上げてしまうなんて」
「そんな…!でも…、島の人たちも喜んでくれて…嬉しいというか…、誰かの役に立てるのって、こんなに心が満たされるんだなって…」
「私も嬉しいです。シエルさんが心から楽しそうで」
「アリシアさん、今は抱きついてこないでくださいよ」
「警戒されちゃいましたか」
私は思わずクスッと笑う。こういう時でもアリシアさんのお茶目なところが出ていて微笑ましい。やっぱり私はアリシアさんのこと大好きだなぁと。
…すると、アリシアさんは一呼吸置いて、小さくも確かな声色で告げた。
「シエルさん。明日メリーベルに戻ったら、一つお話ししたいことがあるんです」
その言葉を口にした時、アリシアさんの表情はなぜか少し寂しそうだった。




