第67話 古びた魔法陣の記憶 後編
魔法陣の解読は七割くらいできた。ただ、細かいところで読めない部分がまだある。複雑な魔法陣はそういった細かいところが重要なので、頭の中でアレやこれやと組み立てては修正していく。
こんなに集中しているのは久しぶりかも。時の進みも忘れるほどで、今、私の頭の中は魔法陣の解読と構築に全振りしている。
集中しながらも、ふと、初めてママから魔法陣の描き方を教わった時のことを思い出した。杖を使って感覚的に使える魔法と違って、魔法陣の構築は、地道な作業と頭の中のイメージを可視化する能力が必要だ。だから最初は結構苦手意識があって、甘えん坊な私は何度もママに泣きついたっけ。でも、ママは優しい笑顔で私の頭を撫でてくれて、成功するまで付き合ってくれた。
今度は私自身が誰かのために……。
集中していたせいか、無音の世界にいた私がさざなみの音を聞いた時には、古い魔法陣の隣に新しい魔法陣が描かれていた。
「できた…」
「すごいですシエルさん。これだけの時間で完成させるなんて…」
アリシアさんが感嘆の声をあげる。ただ、魔法陣がちゃんと機能するかを確認しないといけない。この場所には船がないから、船がある場所で確認しないと。
「今使われてる船着場に行って、そこで確認してみます」
私はそう告げると、杖を振って魔法陣を吸い取るように杖に収めた。
「おぉ…!シエルさんがすごくかっこいいです…!」
アリシアさんは目をキラキラさせて、今にもスイッチが入りそうな感じだ…。いかんいかん…。早いとこ移動しよう。
私とアリシアさんは女の人と別れて、現在使われている船着場まで行く。しばらく山がちな道を歩くと、視界が開けて集落が見えてきた。そこに船着場があって、ちょうど船が到着するところだった。
よく見ると、船頭さんは杖を持った女性の魔法使いだ。帽子は被っておらず、肩までかかる紺色の髪をなびかせながら、杖を左右に振って船の両側に付いているオールを動かしている。見た目はアリシアさんと同じ年代に見える。岸壁に接近したところで、女の人は杖を前に突き出して、ロープを船着場にある突起へと綺麗に投げ込んだ。動作に無駄がなく、船はスムーズに着岸した。
「すごい手慣れてますね」
私がアリシアさんに話しかけると、アリシアさんがじっとその魔法使いに視線を向けていたので、なんだろうと思って目を向ける。
「ミレーヌ…?」
珍しく驚きの表情を浮かべているアリシアさんがボソッと名前を口に出した。…知り合い?
すると、魔法使いの女の人が私たちに気づいて視線を向けてきた。
「えっ!?もしかして…アリー?」
ミレーヌと呼ばれた女の人もアリシアさんを見て驚愕した。アリー?あだ名…?ってことは旧知の仲…?まさかこんなところで…?すんごい偶然。今日は偶然が連続している。
「アリーだよね!?てか魔女になってるし!」
ミレーヌさんはすぐにこちらに向かって駆けてきて、アリシアさんの手を取ると、嬉しそうにブンブン振った。
「えー!久しぶりー!超美人ー!」
「ミレーヌこそ大人っぽくなったね!…ちょっと手が痛いかも」
「あははごめん!嬉しくてつい〜」
アリシアさんの手をブンブン振りすぎたミレーヌさんは軽く詫びると、私に目を向けてきた。
「もしかして…アリーの弟子!?」
「違うよ。彼女はシエルさんで、私の仕事の手伝いをしてくれているの」
「ほおほお!アリーってどこに就職したの?」
「魔法省だよ」
「超エリートじゃん!さすがアリー!」
ミレーヌさんはまるで我が子のように自慢げだ。私も挨拶しないと。
「シエルです。アリシアさんにお世話になっています」
「ミレーヌだよ!アリーの幼馴染なんだ。よろしくね!」
私はミレーヌさんと握手を交わす。まさかこんなところでアリシアさんの幼馴染と会えるとは…!ミレーヌさんも美人だ…。そしてスタイルも良い。アリシアさんは幼馴染もレベル高いな…。
「シエルちゃんかわいいね〜。ローブもすごく似合ってる!」
「でしょでしょでしょ!シエルさんは世界で一番ローブが似合う子なのっ!」
ミレーヌさんが私を褒めたことに誘発されて、アリシアさんが突然エンジン全開に。…普通ならびっくりしちゃうけど、ミレーヌさんはびっくりするどころか、負けじと勢いを強める。
「むむ!ミレーヌ嫉妬しちゃうかも!」
「ミレーヌが嫉妬しても私のシエルさん愛は止まらないからっ!」
「本物だー!」
二人はワーワーキャッキャしてる…。ミレーヌさんは常時スイッチ入ってる感じだし、このカオスな空間を止めるのは……私しかいないか…。
「ミレーヌだってアリーのこと世界で一番愛してるんだよ!?」
「くっ…!ミレーヌも大好きだけど…!シエルさんは特別なの!」
セリフだけ聞いてると、譲れない二人が喧嘩してるかのようだけど…。っていうか、ミレーヌさん、私を敵と認識しないでくださいよ!?
「こうなったらアリーへの愛を行動で示してやるっ!」
ミレーヌさんはそう宣言すると、刹那の動きでアリシアさんに抱きついた。うひゃー!
「ぬあっ!?ミレーヌ!?こうなったら私だって!」
すると、今度はアリシアさんが、抱きついているミレーヌさんを引きずってでも、私への思いを見せつけるように勢いよく抱きついてきた。もちろん私に。
「うぎゃー!アリシアさんっ!お、重いです…!」
「シエルさん大好きですー!」
「アリー大好きー!」
結局カオスは止められなかった…。あれ…、私ここに何しにきたんだっけ…?




