第66話 古びた魔法陣の記憶 中編
女の人が、三十年近く前に魔法陣を描いた魔女のことを思い出してくれた……けど、私によく似てるらしい。三十年近く前ってことは、私が生まれる十年くらい前ってことか…。いやいや…それって…もしかしなくても……。
ママですね。私の。
ママは今年で四十二歳で、三十年前は行き過ぎだとして、二十五年くらい前だとしたら、ちょうど私と同い年か。……うん、大いにあり得るな。現役時代は国中巡ってたって言ってたし。
だから私と描き方が似てるのか…。さすが親子。…にしても、どうしよう。その魔女は私の母ですって言いづらいな…なんとなく。…でも、黙っていても仕方ないし……やっぱり言うか。
「えっと……、恐らくなんですけど……、この魔法陣を描いたのは…私の母です」
思い切って言っちゃった。うへー。アリシアさんめっちゃ驚いてるー。
「シエルさんのお母様が!?…でも確かに、あの方は凄腕の魔女ですからね…」
アリシアさんはすぐに納得したような顔になる。アリシアさんをも唸らせるとは……恐るべし。
「あなたが娘さんだなんて、すごい偶然ですね」
女の人も驚いている。まさか同じ場所に娘が来るなんて、そりゃ確かに凄い偶然だ。…にしても、ママはなんでここに魔法陣を描いたんだろうか。
「この魔法陣の効果までは憶えてないですよね」
「そうですね…。わたし自身は魔法に疎いので…」
試しに尋ねてみるが、そこまでは知らないようだ。…でもママが描いた魔法陣なら、なんとなく解読できそうな気がする。なんとなく。
「私、解読してみますよ」
私はそう告げて、魔法陣の方に向き直してじっと眺める。
「この船着場、今は使われてないんですか?」
アリシアさんがふと思ったことを尋ねる。
「はい。昔はここにまとまった集落があって船着場も機能していたんですけど、十年くらい前にはほとんど居なくなっちゃって、近くにもう一つ船着場があったのでここは使わなくなったんです」
もしかして、船着場に関係があるのかな。船が来なくなって魔法陣も使われなくなった…?
私は魔法陣をじーっと観察して、できるところから解読していく。読めないところもあったけど、なんとなくわかってきた。…これは確かに難解だ。かなり複雑な描き方をしてる。…ママすげぇ。
「なんとなくですけどわかりました。この魔法陣は船の航行をサポートするものですね」
「えっ…!そんな便利な魔法陣だったんですか!?」
私の説明に女の人は驚く。船頭さんが不足している今だって間違いなく必要とされる代物だ。魔法陣自体はそんなに長い年月持続できないから仕方ないけど、現状を考えたらもったいない。
「今…船頭さんがすごく減ってて…、この島の住人も魔法省の方に運んでもらったりしてるんです。だから、その魔法陣がまた使えたらかなり良くなるんじゃないかと。わたしも他の住人も、魔法の知識が疎くて何もできないんですけど…、あなたならできると思います」
女の人は私を見て微笑む。その言葉が私の心の中に染み入っていく。かつて魔法学校の時に周りから注がれた期待とは違う、とても心地良い感覚だった。私は自らを鼓舞すると、もう一度魔法陣をじっと見て、杖を手に持った。




