第64話 逢えて嬉しい
真っ白な世界に身を置き、私は手探りで前へと歩んで行く。程なくして、視界がはっきりしてきて、見覚えのあるリビングの光景になった。…そして、リヒトがソファーに座って静かに本を読んでいた。私は成功したことに安堵しつつ、そーっと近づいていく。すると、気付いたリヒトが顔を上げて驚きの表情を浮かべた。
「えっ…!?シエル…!」
「やっほ」
びっくり仰天のリヒトに笑みを零す。距離感がうまく掴めずに、私は至近距離まで寄っていた。
「すご…、どうやって…?」
「えへへ〜、頑張って魔法陣描いてみましたよ」
「やっぱ天才だろ」
リヒトは感嘆の声を漏らす。それが心地良くてほわほわする。
「撫でて〜」
私は屈んで頭を差し出す。リヒトは顔を赤らめて戸惑いつつも、ゆっくりと手を近づける。でも本当に撫でることはできない。リヒトのそばにいるのは、私の幻だからだ。
…だけど、本当に触れているみたいで、リヒトの手の温もりまで感じ取れる。
「逢えて嬉しい」
「私も」
私は目を瞑ってじっとする…けど、やっぱり目で見ていないのはもったいないと思って目を開ける。
「手紙ありがと」
「手紙……恥ずかしい…。なんか変な文になっちゃったし」
「初々しさが存分に溢れ出てたよ」
「バカにしてるだろ」
「してないしてない。書いてくれたことが嬉しくて、私もすごく逢いたくなっちゃったし」
姿勢が落ち着かないので、私は床に座って顔を上げる。……と、リヒトは一瞬目を合わせてすぐに視線を逸らした。んん…?
「どしたの?」
「シエル…!その…いや…!」
リヒトは冷や汗を垂らしてこちらを見ようとしない。私はふと自分の襟元を覗いてみると、あわわ、見えていた。
「あわわわ、見よったな?」
「見てない見てないっ!」
必死に否定するリヒトに思わずクスッとなってしまう。確固たる意思で顔を逸らしているけど、ずっとやってると首痛くなるぞ。
「俺も床に座る」
リヒトはそう告げて、狭い空間にスッと座り込んだ。ソファーがあるのに、二人とも床に座ってお互い目を合わせているのは奇妙な光景だ。幻の私がソファーに座れないからなんだけど。
「そっちはどうだ?」
リヒトが私の近況を尋ねてきた。手紙ではリヒトの近況は知れたけど、私のことはまだ伝えていない。うーむ…。いざ伝えるとなるとなかなか言葉が出てこない。
「いろいろあった」
結局曖昧にも程がある言い回しになってしまった。
「いろいろか…。そっちには確か…ミネルヴァがいただろ」
「うん、会ったよ。魔法学校の時よりもっと美人になってた」
表面的なことしか話せないけど、もともと美人だったのが、より社会人らしく上品な感じになっていたのは事実だ。
「シエルの方がかわいいけどな」
「え……?」
キョトンとして聞き返してしまう。リヒトはまたもや顔を逸らす。慌ただしい。
「二回言うのは恥ずかしい」
耳まで赤いリヒト。私はまたしても赤い耳たぶに手を近づけていく。
「や…や……うわ」
「うひゃー」
言葉にもならない声を出し合いながら、私たちは二人だけの時間を過ごしていた。




