第63話 逢いたくなったら魔法陣
宿に帰ってシャワーを浴びて、部屋のベッドに寝っ転がる。目を瞑ると、今日のできごとが頭の中にフワッと浮かび上がる。午前はアリシアさんと街で買い物したり美味しいスイーツを食べたりして楽しんで、午後は島で人助けをするルージュの優しい一面、それと対なる漆黒の心を覗いた。…そして最後にとんでもないものが。
私は一旦起き上がってデスクに置いてある封筒を手に取り、深呼吸すると、封筒を開けて便箋を取り出した。そしてもう一度ベッドに仰向けの状態で倒れ込む。
手紙…。なんて書いてあるんだろ…。読めば良いんだけど…、なかなか視線が文字に向いていかない。仕事のことかな?うん…きっとそうだろう。
私は勝手に思い込みを働かせて、手紙の冒頭に視線を向けた。
『元気か?俺はソフィーさん、ハンスさんと一緒にいい感じに仕事できてる。あの魔法陣のおかげで仕事の効率もかなり上がったし、シエルが来てくれて、いろんなことが良くなってると思う。田舎のエクサロだと、休みの日はあまりやる事なさそうだけど、そっちは都会だし、楽しそうだな。手紙書くなんて久しぶりというか、ほぼ初めてみたいなもんだから、何書いていいかよくわからないけど、なんというか寂しい。まだ一週間も経ってないのにだいぶ寂しい。文字だと口で言うより恥ずかしいな。勢いで書いた』
文章からでもわかるぎこちなさにクスッと笑いつつ、リヒトの気持ちが心に届く。…そう書かれると、すっごく逢いたくなっちゃうじゃん。私は起き上がると、バッグから地図を取り出して眺めてみる。うーん……。結構な距離だからなー、縮尺が難しいな…。とりあえず描いてみよう。
私は杖を発現させて、地図片手に床に大きな魔法陣を描いていく。地図でメリーベルとエクサロの位置関係を確認しつつ、頭で魔法陣の形をイメージしながら杖を動かしていく。
難しいのはここからで、メリーベルの街の中の私がいる位置と、エクサロの中のリヒトの寮の位置をどうやってここに落とし込むかだ。遠ければ遠いほど縮尺が小さくなるが、街の中の特定の場所を精度良く繋ぐには、ある程度縮尺を大きくする必要がある。だから縮尺が大きく変わるポイントを設ける必要があり、それが難しいのだ。
前にエクサロとロファを繋ぐ魔法陣を描いたけど、あれよりだいぶ難易度が跳ね上がる。魔法陣を大きく描く事で極力縮尺を大きめにできるが、もちろんスペースの都合があるのでそううまくはいかない。あと、あまりに大きいと描きづらくなって失敗しやすい。そこらへんのバランスを見ながら、時間をかけて少しずつ描いていく。
「ふぅ〜…、終わった〜」
やっとのことで描き上げて、私は体重をかけるようにベッドに腰掛けて手をつく。うまくいくかな…。怖いのは見ず知らずの人の家と繋いじゃうことだ。そうなったら私はただのヤバいやつだ…。うひー。
私はゴクリと息を呑んで、杖を魔法陣に向けた。…すると、魔法陣が眩しく光り輝き、周りが真っ白な世界へと変化した。




