第62話 預かりもの
ルージュが去っていった後も、私はしばらくベンチに座って海をボーっと眺めていた。夕日が海をオレンジ色に染めていき、だんだんとその輝きが弱まっていく。
「あっ!さっきのまじょさん!」
そこへ、さっきの女の子がトテトテと走ってきた。今度は転ばずに私のそばまでやってきた。そして、小さな貝殻のアクセサリーを差し出す。
「これあげる!」
「え…いいの?」
「うんっ!…あの赤い魔女さんは?」
女の子は辺りをキョロキョロ見回す。その表情はどこか寂しそうだ。
「もう飛んでいっちゃった…」
私がそう告げると、女の子はシュンとなってしまう。悔しいけど、ルージュに相当懐いてたしな。女の子と楽しくお喋りする横顔が印象的で、まだ私の脳裏に鮮明に焼きついている。アリシアさんに負けず劣らずのきれいで優しい顔だったな…と。
女の子はルージュに渡すつもりだったもう一つのアクセサリーを寂しそうに持っている。私はしゃがんで女の子に目線を合わせ、微笑みを向けた。
「私が代わりに届けてあげるよ」
「ほんとっ!?」
途端、女の子がパァーっと眩しいくらいの笑顔を振りまいた。
「うん」
私は頷き、女の子からもう一つのアクセサリーを受け取った。
「ありがとー!じゃあねー!」
女の子は手を振って帰っていく。私は女の子の後ろ姿を見送ると、箒を発現させて追跡の魔法陣を覗いてみる。……と、既にルージュの位置を示す光の点が無くなっていた。私はハァー…とため息をつくが、顔を上げてもう一度、淡いオレンジ色の最後の輝きを見せる海を眺めた。
また会うだろうから…ね。
「あっ!シエルさん!」
不意に上から声が聞こえ、顔を見上げると、箒に乗っているアリシアさんの姿があった。アリシアさんはすぐさま降下して……そのまま勢いよく私に抱きついてきた。
「良かった…!お怪我は無いですか!?」
「だ、大丈夫ですよアリシアさん!」
ぎゅーっと抱きつかれて、私は頬を赤らめて少し動揺する。…けど、アリシアさんはすごく心配してくれたんだ。
「ごめんなさいアリシアさん。心配させちゃって」
「良いんです。無事だっただけで、本当に」
アリシアさんの安堵の声色が私の心を撫でる。私はアリシアさんの背中をゆっくりとさすり、しばらくの間、アリシアさんの温もりを感じていた。
メリーベルまで帰ってきた時には夜になっていた。アリシアさんと夕食を食べた後、一人宿へ向かって飛んでいる―――と
「あー!ちょうど良いところに!」
聞き覚えのある元気な声が耳に届いた。振り向くと、エクサロからメリーベルへ移動している時に出会ったティナさんの姿があった。
「あれっ?ティナさん!偶然ですね」
ティナさんは速達郵便の仕事でいろんな街へ移動しているから、バッタリと出くわす確率はかなり低い。あの時は確かエクサロ経由でミロルまで行こうとしていたから、数日かけてここまで戻ってきたわけか。
「シエルさん宛に手紙を預かってるんです。はい!」
ティナさんはバッグから封筒を差し出す。私宛に…?私は小首を傾げながら封筒を受け取り、裏を見てみると、リヒトの名前が記されていた。…途端、私は頬を赤らめて動揺してしまう。
「もしかして恋人ですか?」
ティナさんがなんの悪気もなく特大の爆弾を投げつけてきた。見事に命中して爆散しましたとさ。
「ちが…ちがちがちがちがう!そう言うのじゃ無いです!さ、さよならー!」
お礼を言いそびれたけど、そんな余裕もなく、一目散に逃げるようにその場を離れた。




