第61話 本音
私はルージュの新鮮なドヤ顔を見つつ、その裏にある乾きを感じる。…気になる。…気になるのに、それを問うことに躊躇する。
「あっ!まじょさんだー」
不意に幼い声が聞こえて振り向くと、小さな女の子がトテトテと走ってくるのが見えた。…そしてコテンッと転んでしまう。
「いたぁーい!」
女の子は足を擦りむいてしまって、痛そうに泣いてしまう。私はそれを見て女の子の怪我を治そうと杖を向けようと思ったが、その時には既に、ルージュがそばに寄って杖を向けていた。
「あ!痛くなくなったー!まほー?」
「うん、まほーだよ」
「まじょさんすごいー!」
女の子はそう言ってルージュに抱き付く。ルージュは女の子の頭を撫でながら笑みを零す。…また、その顔を見た。冷酷さなど微塵もない優しさで溢れた顔だ。
そこに女の子のお母さんが走って来て、私たちにお礼を言う。
「それにしても美人さんね!赤い髪もきれい」
褒められたルージュは嬉しそうに頬を赤らめる。…なんだ。そんな顔できるんじゃないか。髪の色のように赤く染まった頬は、私から見ても鮮やかだった。
その後、私たちはお礼にと家に招かれて、お茶やお菓子をごちそうになった。ずっと女の子がルージュに懐いていて、なんか悔しい…けど微笑ましい。ルージュも女の子を抱きながら嬉しそうだし。
結構な時間お邪魔しちゃって、外に出た時にはもうだいぶ日が傾いていた。
「あっ…!アリシアさん…!」
私はハッとする。この間にもアリシアさんは必死に捜し回ってるんじゃ…。
「やばい…!戻らないと…!」
「え〜、もう帰っちゃうの?」
焦る私に対して、ルージュは呑気だ。呆れ顔を浮かべてルージュに目を向けるが、ルージュのちょっと寂しそうな顔が瞳に飛び込んできて、焦る心が崩れてしまった。
「…仕方ないからもうちょっとだけ居てあげる」
「いいの?やったー」
ルージュは子供のように両手を上げて喜ぶ。声は棒だけど。それでも、ルージュの意外な一面は見ていて飽きない…かも。ここで素直に別れるのは、なんだかもったいないと思えた。
私たちは船着場にあったベンチに座って、海をボーっと眺める。穏やかな波は今のルージュを表しているようだった。
「あーあ。結局半日あんたに費やしちゃったよ。あーあ」
私はハァー…とため息をつく。チラッと目を向けると、ルージュはおかしそうに笑っていた。
「…ねぇ、あの時の質問に答えてよ」
「あの時?」
ルージュは首を傾げる。とぼけようとしてるのか?そうはいかないぞ。
「魔法で人を苦しめたいのか助けたいのかどっちなのか聞いたでしょ?」
「あーあれねー。うーん…どうしようかなー」
私は思いきり睨みつけ、杖を握って圧をかける。
「今ここで戦ってもいいんだけど?」
「あはは!威勢がいいねぇ〜」
「いいから早く答えろ」
ルージュは決して自分のペースを崩さない。まぁ戦う気は私もないし、わかってるんだろうけど、ちょっとはこっちのペースに合わせて欲しいものだ。
「口悪いね〜。せっかくかわいい顔してるのに〜」
「うるさい。あんたのせいだろ」
「それは責任転嫁だよ〜」
「もう帰るぞ」
「も〜、わかったわかったよぉ。ここまで付き合ってくれたキミに特別に教えてあげる。あたしはね〜、人助け自体は今でも結構好きなんだよ〜?」
「それはなんとなくわかった」
「でもね〜、世の中には助けてもらって当然だと思ってるクズがいっぱいいるんだ〜」
「……」
私はじっとルージュの顔を見つめる。…すると、ルージュの表情から今までの穏やかさがフッと消えた。
「あたしはそいつらが許せない。魔女を便利屋だと思ってる奴らが許せない。この国には魔女に対してふざけた決まりがある。だからあたしはその決まりをぶっ壊す」
一転して語気を強めるルージュ。彼女から曲げようのない意志を感じ、緊張が私を襲う。
「そんなこと…どうやって…?」
「…さぁね」
ルージュは不適な笑みを浮かべてスッと立ち上がり、箒を発現させた。
「待ってよ。あんたは人助けが好きなんでしょ?」
私は視線を下げながら問いかける。
「好きだよ」
ルージュはまたもや穏やかな声色でそう告げた。
「…なら、そんなこと企んでも虚しくなるだけじゃん」
「さぁ…。あたしの心はもう壊れてるから…」
その声は、どこか諦めたような感じだった。それが私には耐えられなかった。
私は立ち上がってルージュの目をじっと見る。
「壊れてないから!私より懐かれてたくせに!」
私の目は真剣だった。自分でもびっくりするくらいに。
「…やっぱりキミは面白いね。たぶんまた会うだろうから、その時はよろしくね」
ルージュはフッと笑みを零すと、箒に乗って飛び上がっていった。




