第60話 気になること 後編
私は飛ぶスピードを速めてルージュを追いかける。ルージュの方もそれに合わせるかのように速くなって、距離はなかなか縮まらない。
「コラ!逃げるな!」
私はイタズラして逃げる子供を追いかける先生のように呼び止める。
「そう言われると余計逃げたくなるねぇ」
ルージュは余裕ある声で生意気な発言をする。もう意地でも捕まえてやる!
すると、ろうそくの火が消えるように、フッとルージュの姿が消えてしまった。…何?驚くか諦めると思った?もう対策は考えてあるんだよ。
私は前方に杖を向けて広範囲に突風を発生させる。ただの突風じゃない。煙を含ませた突風で、風の流れを目で追えるようにしているのだ。目論見通り、一部分だけ不自然に風が避けているところを見つけた。私はそこ目掛けて鎖を発現させて、ルージュの箒を縛りつけた。
すると、観念したようにルージュが姿を現した。
「やるじゃん。ちょっとは見直したよ」
「ちょっと?」
私は顔をしかめながら、鎖をたぐり寄せる。
「あー、割と?」
まだまだ生意気なルージュの箒をガシッと掴み、私は杖を向けながらそばに近づく。
「今すぐ海に沈めてもいいけど?」
「こわ〜い。かわいい顔してるのに」
「かっ…!急に褒めるな!敵だろ!」
不意を突かれてペースを乱されそうになるが、なんとか持ち堪える。ルージュの方はまだ余裕がある感じだ。その気になれば、ルージュこそ私を海に沈められるだろうに、杖を握る気配もない。
すると、前方に島が見えてきた。このまま飛んでても埒があかないので、一旦降りようかと考えた…ところで、ルージュが提案してきた。
「ちょっと降りない?」
「私もそう思ったところ」
「おっ、意外と気が合いそうだねぇ」
「うっさいわ」
本当に何を考えてるのかわからない。箒を鎖で縛られてるのにそのままだ。結局、島の浜辺に降り立つまで鎖で繋いだままだった。
「あの金髪来てないじゃん」
ルージュが来た方向に目を向ける。私も視線を向けると、確かにアリシアさんの姿が見当たらない。…しまった。こいつに夢中になり過ぎた。でも、アリシアさんならすぐに追い付いてくれるだろう。
「まぁ、途中でキミにも光魔法かけてあげたから、金髪はキミも見失ったと思うよ」
「なっ…!」
ハハハと冷たく笑うルージュに対し、私はここで初めて冷や汗を垂らした。こいつ…!何も攻撃してこないと思ったら、そんなことを…!
私が焦るのを見据えていたかのように、ルージュはあの時と同じ冷たい笑みを向けてきた。
私は咄嗟に飛び退くように後ろへ下がって距離を置き、杖を握る。
「いいねぇその緊張感。やっぱあたしにはそういう感じで来ないと」
ルージュも杖の先を向けて対峙する。今まで散々大口叩いていたけど、いざ戦うとなると、得体の知れない恐怖感が私を襲ってくる。
…いや待て。私はこいつと戦うのが目的じゃない。こいつのことをもっと知って、白黒ハッキリさせたいのだ。
「ねぇ、さっき女の子助けたとき、びっくりするくらい優しい感じだったけど、あれ演技?」
「さぁ…」
「さぁね禁止だから」
被せるようにすかさずさぁね禁止令を発出する。ルージュはめんどくさそうに困り笑いを浮かべる。
「黙秘権侵害だよぉ?」
「取調べに非協力的な場合は黙秘権無効だから」
「何その法律」
ルージュは不貞腐れた態度を示すが、ここで折れたらずっとわからないままだ。せっかくの休みをこいつに費やしてるんだから、それ相応の成果がないと気が済まない。
「あんたはなんで魔女になったの?」
私はルージュに質問を投げかける。とにかく質問を投げる戦法で様子を窺う。
「逆にキミはどうして魔女にならないの?」
質問返しされた。なんだよこいつ。ムカつくから答えてやる。
「私の人生を決めつけられたくないから」
「おー、なるほどー」
「答えてやったんだからあんたも答えろ」
「ん〜、そんなに聞きたいならまぁいっか。この前も言ったけど、昔は結構真面目だったんだぁ。魔法の才能は抜群だったから、魔法学校も首席で卒業して、自分の才能を世の中のために生かそうと思って魔女になったんだよぉ。偉いでしょ〜」
ルージュはドヤ顔を見せつける。…けど、その顔は妙に乾いていて、星を眺めていたときのように、なんだか寂しそうに思えた。




