第59話 気になること 中編
ランチの後、私たちは一旦いつもの格好に着替えてから、島に向かって海の上を飛んでいた。もうかれこれ島に行くのは三回目だけど、…まぁ、百五十のうちの三つと考えればまだ全然だ。全部回る気は無いけども。
それよりもルージュが何をしているかが気になって仕方がない。魔獣を増やしている悪いやつのはずだったのに、私の中でブレまくっている。このままブレた状態で放っておくのは落ち着かない。
最初に寄ったペール島を越えて、二回目に寄った名前のわからない島も越えた先にまた島が見えてきた。追跡の魔法陣を見ると、ルージュはこの島に居るようだ。島は全体的に山がちだけど、僅かに平地になっているところに家が建ち並び、その近くには小さな船着場があった。
船着場のそばに降り立って辺りを見回す。出歩いている人はいなくて、聞こえるのは波の音だけ。
「この近くにルージュがいるはずなんですけど…」
「少し歩いてみましょうか」
私たちは建ち並ぶ家に目を向けながら歩いていく。どの家も壁が白く、太陽の光が反射して眩しい。
「カミラしっかり!」
不意に家の方から叫び声が聞こえてきた。声のした方に反応し、この家からだろうという家の入口に近づく。
「魔女さん、頑張って!」
私はハッとして、入口のドアを開けて中に入ってみた。……中を覗くと、床に倒れている女の子と、座り込んで女の子の手を握っているお婆さん、…そして、片膝を床について体を屈めた姿勢で、杖を女の子に向けて何か魔法を発動しているルージュの姿があった。
「ルージュ…!」
私は驚きの表情を浮かべて声を出す。すると、声に反応したお婆さんもこちらを向いて驚いたような顔を浮かべる。一方、ルージュは反応せずに真剣な表情で魔法を発動し続けていた。
「今はそれどころじゃ無いから」
ルージュは視線を変えずにそれだけ告げた。私もアリシアさんもそれ以上何も言わずに、ただじっと様子を見守る。
程なくして杖の先の光が弱まると、倒れていた女の子が目をゆっくりと開けた。
「おばあちゃん…?」
「あぁ…カミラ…!良かった…!」
お婆さんは涙を浮かべ、カミラと呼ばれた女の子を優しく抱く。それを見たルージュは表情を和らた。
「まだ完全には回復していないので、無理させないでください」
「ありがとう…!魔女さん…!本当に」
涙を流しながらお礼を言うお婆さんに、ルージュは優しい笑みを浮かべる。
「あたしはルージュって言います」
「ルージュちゃん!素敵な名前ね!美人さんだし、赤い髪も綺麗で羨ましいわ!」
お婆さんがカミラちゃんから体を離し、ルージュに目を向けて褒める。すると、カミラちゃんが体を起こしてルージュに抱きついた。
「ありがとうルージュお姉ちゃん!私も魔女さん目指す!」
「応援してるよ。頑張って」
「うん!」
カミラちゃんは満面の笑みで元気に返事をする。ルージュはカミラちゃんの頭を撫でた後、立ち上がって私たちのそばを通り、去っていった。
ルージュは船着場の近くで箒を発現させて、空へと飛びあがろうとしているところだった。
「ルージュ!」
そこへ私が呼び止めようとする。ルージュは箒に乗ったまま、視線を私に向けてきた。
「何?」
さっきの声色とは違って、私の知る声色だった。
「なんであんたが女の子を助けてたの?」
「ダメなの?」
ルージュはしらっとした目を向ける。
「いや…!そうじゃなくて…!あんたは以前魔獣を増やしてたでしょ?ミロルはそれで被害が出てた。メリーベルでも私と対峙した時に魔獣で人を襲わせようとしてた。なのに、ここでは女の子を助けてた。気が変わったかのように。あんたは魔法で人を苦しめたいの?助けたいの?」
思っていたことが洪水のように口から出た。…わからない。ルージュの行動原理が。最初に遭遇した時は、得体の知れない雰囲気があった。…なのに、さっきの優しい笑みと優しい声色は、全くの別人のようだった。
「さぁね」
ルージュは短くそう告げると、見放すように飛び上がった。
「待って…!話はまだ終わってない!」
私もすぐに箒を発現して飛び上がる。体がほとんど勝手に動いた。後方でアリシアさんが呼び止めていたのに、私の意識は全て前方を飛ぶルージュに向いていた。




