第57話 不思議な星空鑑賞会
ルージュはじっと夜空を眺め続けている。近くにいるのに世界が違うかのようで、そしてなんだか儚くも見えた。そう感じてしまった私は、ルージュの背中をただじっと眺め続ける。
その時、不意にルージュが振り向いて、私の視線と交わった。
「こんなところまで追っかけてくるなんて、物好きだねぇ」
ルージュは乾いた笑みを浮かべる。見つかってしまったけど、不思議と焦燥感が生まれない。私は立ち上がって茂みから浜辺へと出て、ルージュに近づいて行く。アリシアさんもそれに合わせるように隣に並んでくれる。
ある程度近付いたところで足を止めて、私も空を見上げた。視界いっぱいに広がる星々の輝き。私に覆い被さるそれは、恐れを抱く存在ではない。むしろ私を包み込んでくれるかのようだった。
「星きれいだね」
私の一言に、ルージュはおかしそうに笑った。
「何それ?あたしを前にして全然緊張感ないじゃん」
ルージュの指摘はその通りである。目の前にいる魔女は底知れぬ恐怖を抱かせるような存在。今だって、油断させて攻撃してくるかもしれないのに、私の一言はそれとは程遠いものだった。
「だって本当にきれいだから」
私は再び夜空に目を向ける。その時、一瞬微かな光が線を描いた。
「あっ!流れ星!」
子供のような驚きを見せる。ルージュも釣られるように空を見上げた。
「見損ねちゃった」
ルージュは残念そうに声を漏らす。
「帽子のつばが邪魔」
ルージュはそう言って、自分の帽子を取って砂の上に置いた。そして露になった赤い髪は、輝く星のように暗闇を照らしていた。
「髪、きれいじゃん」
敵相手に褒めるなんてと思うけど、それすら忘れるほどの美しさだった。ルージュは夜空を見上げたまま、フッと口元を緩める。
「あたしを捕まえに来たんじゃないの?」
「そのつもりだったんだけど、今はそういう感じじゃない…かな」
「あ!流れ星〜」
ルージュが指差す。もちろん私は見逃したけど、ルージュの顔はとても満足そうだった。
「そこの金髪はなんで魔女になったの?」
失礼にも程がある呼び方だ。当然アリシアさんは不満そうな表情を浮かべるが、嫌悪感を抱いている感じではない。
「アリシアです。ちゃんと名前は覚えてください。…私の場合は、別に立派と言えるものではありません」
「そっかぁ…。あたしはねぇ、結構正義感丸出しだったんだよぉ」
「へぇ〜意外」
思わず声を漏らしてしまった。ルージュはおかしそうに笑う。
「だよねぇ。うん、いい反応だよぉ」
バカにしてるだろ絶対。子供のようなストレートな反応だと言いたいんだろう。むっかむっか。
むかつく心を冷ますために、吸い込まれるように夜空を見上げる。あっ!また流れ星!…へぇ〜、流れ星ってすごく珍しいものだと思ってたのに、実は意外とそうでもない?でも見れたら嬉しいのは変わらない。
「もうちょっと星を眺めていたいから、今日は諦めてくれると嬉しいなぁ〜」
ルージュの言葉は本心なのかわからない。まぁ、少なくとも捕まりたくないのはそうなんだろうけど、星を眺めていたいという理由が、今まで抱いていたイメージと違うものだった。
「まぁ、あんたなんて私にかかればいつでも捕まえられるし」
見栄を張ってみた。ルージュはアハハと声を出して笑う。やっぱバカにしてんなコイツ。今度会ったら絶対捕まえてやる。
「被害を出すようなことしたら、ほんと許さないから」
最後に釘を刺しておく。当然だ。魔法で悪事を働く奴を放っておくほど寛容じゃない。ルージュはわかったわかったと言わんばかりに軽く手を上げてヒラヒラさせる。わかったじゃなくてわかったわかったの方だ。生意気だ。
ハァー…とため息をつきつつ、アリシアさんに目配せすると、箒を発現させて空へと飛び上がった。




