第56話 暗闇に潜む赤 後編
アリシアさんは一呼吸置くと、優しく微笑んだ。
「私も行きますよ。ただ、夜も遅いですし、深追いはやめましょう」
「ありがとうございます!」
私も微笑みを返す。ルージュを捕まえるとは言ったけど、ここですんなり捕まえられるとは思ってない。街に被害が出ないようにするのが第一なので、牽制だけでも効果があると思う。
私とアリシアさんは外に出て、闇夜に向かって飛び上がる。箒の先端に小さく追跡の魔法陣を描いたので、飛びながら追跡できる。方向で言うと海の方に向かっている感じだ。飛びながら街の様子を見ている感じ、魔獣は出没していないようだ。ホッと安堵しつつ、私たちは街から漆黒の海へと飛び出した。昼間はあんなにも綺麗なのに、夜になればすべてを飲み込みそうな程の闇へと変貌する。鳥も飛んでおらずひどく寂しい。
ルージュとの距離がだんだん近づいていく。不意をついて攻撃してくるかもしれないので、いつでも対応できるように杖を発現させておく。
しばらく追跡していると、魔法陣の中でルージュの位置を示す光の点が止まった。
「ルージュが止まりました」
「島に降り立ったようですね」
私たちはスピードを遅くして周囲を警戒しながら飛んでいく。海は暗いけど、障害物がないから見つかりやすい。前方に微かに島の輪郭が見えてきた。ペール島とは違う小さな島だ。灯りは見当たらず、人が住んでるのかもわからない。ルージュの姿もまだ見えないけど、見つかる前に島の裏側に回ってから降り立った。箒を手に持ってルージュの位置を確認しつつ、周囲に目を向ける。
目が暗闇に慣れたのか、それとも月明かりに照らされているからなのか、意外と視界ははっきりしている。浜辺に流れ着くさざなみの音が緊張感を和らげてくれるようだ。…ふと、空を見上げると―――その光景に目を奪われた。
「わ…すごいきれい…」
思わず声を零した。空いっぱいに数多の星々が輝いている。こんなに見事な星空は初めてだった。人間を寄せ付けない漆黒の海がそれをより美しく輝かせているかのよう。
「きれいですね…。ルージュを追ってなければ、シエルさんと二人きりで…」
「あ、アリシアさん…!」
夕日に続いて星空を眺めるなんて……!恋人も恋人である。…いやいや!今はそんなこと考えてる場合じゃなかった。私は気を引き締めて砂浜を歩いていく。
ルージュの位置はさっきから動いていない。一体この小さな島に何の用があるのか。アイツの企みが一向に見えないのがもどかしくて嫌だった。仮に世界征服とかそういうのを企んでるのだとしても、早くその中身を知りたかった。
ルージュに接近したところで、後方の茂みに回って浜辺の様子を探る。…すると、ルージュが一人浜辺に佇んでいるのが見えた。私とアリシアさんは目配せして、茂みに隠れながら様子を窺う。
ルージュは顔を上げて夜空をじっと眺めているようだった。…その背中は…なんというか妙に寂しそうだった。




