第54話 暗闇に潜む赤 前編
シャワーを浴びて、ベッドに寝っ転がってまったりした時間を過ごす。今日もいろいろあったなー…。明日は何があるかな〜、でもそろそろ街の観光とかしたいな〜。今度の休みはアリシアさんと街をぶらぶら歩くのも良いかもな〜。……なんてことを思いながら窓の外を眺める。部屋の階数が高いのと、正面に高い建物が無いので、展望が素晴らしく、実に都会的な景色が広がっている。
しばらくボーッと眺めてても意外と飽きない。灯りが建物を温かく照らし、夜空とのコントラストが目に映える。―――その時、箒に乗った魔女が一人横切るのが見えた。全身が黒に染まる中、三角帽子から覗く髪が灯りに照らされて赤く映えた。
「なっ…!?」
次の瞬間、私は反射的に窓を開けて身を乗り出し、箒を発現させて勢いよく外へと飛び出した。今のは……まさか……ルージュ?
私はルージュが飛んでいった方向へ目を向ける。まだ後ろ姿を確認できる。すぐさま見失わないように追跡を始めた。
ルージュはまだ私に気づいていないようで、そのまままっすぐ飛び続けている。こんな大きな街にやってきて何を企んでいるのか。…まさか、魔獣でこの街を襲おうとしているのか…?
私は様々な憶測を頭に浮かべつつ、ルージュの動きを注視する。あの時は幾つもの罠を用意していたり、光魔法で私たちを欺いたりしたし、ここで素直に捕まえられる相手じゃない。ましてこんな街中で戦闘になってはかなり危険だ。…だからなるべくバレないように追跡しないと―――と、思った次の瞬間、私の箒が止まってしまったのだ。これは引き寄せ魔法だ…!と、ハッとして後ろを振り返った途端、私の目の前にルージュがいた。
「あらら〜、こんなところに迷い猫?」
「ルージュ…!」
ルージュは涼しげな笑みを浮かべつつも、私の箒を手放さない。…やられた。私が追っていたのはルージュの幻影だったのだ。
「また逢えて嬉しい?」
「なわけあるか…!」
私は瞬時に杖を発現させて、私の箒を掴むルージュの手に向けた。…次の瞬間、ルージュの手を箒から引き離して、そのまま彼女の箒と体ごと吹き飛ばした。しかし、ルージュの体はすぐにブレーキがかかってピタリと止まった。
「さすが〜、魔力強いねぇ」
口では褒めてるのか知らないけど、顔は明らかにバカにしている。…ムカッとするけど、まずは冷静に情報を聞き出さないと。
「こんな街中で何企んでるの?魔獣で街を襲う気?」
私が睨みを利かせながら問いかけると、ルージュは手を横にワタワタとしなるように振って否定した。
「いやいやぁ、違うよぉ。…でもぉ、例えばここであたしとキミが激しく戦ったら…ここらへんは火の海かもね〜?」
「物騒なこと言うじゃん。そんなことしようもんなら、私は街に被害が出ないようにしつつ、あんたを捕まえるけど」
私はビシッと腕を伸ばして杖をルージュに向ける。本当にできるかはわからないけど、牽制するにはこれくらい大口叩いておいた方がいい。
…すると、ルージュはやる気のない拍手を私に送った。
「さすがさすが〜。それができたらヒーローだねぇ。一躍有名になっちゃうかも」
相変わらず間延びした口調だけど、ルージュの目は私を品定めするかのように鋭くて冷たかった。




