第52話 濡れた砂 後編
アリシアさんは私の肩に優しく手を置く。肩に温もりを感じながら、私は顔を上げてアリシアさんと目を合わせる。とても優しい目だ。
「シエルさんは、あなた自身が思ってるよりもずっと素敵な人なんですよ。これまでシエルさんは何度も人や妖精を助けてきました。私だって助けられました。それは決して仕事だからではありません。シエルさんの優しさなんです」
「……私は、アリシアさんとじゃ無かったら、ここまで来れなかったと思ってます。アリシアさんが居たから頑張れたんだと思います。…でもそれって、甘えてるんじゃないかって。私一人だったら、同じことできたのかなって…」
「シエルさんは一人でも同じことをしていたと思います。リヒトくんを助けた時だってそうです。困っている人がいれば、自分の意思で行動できる……それって結構難しいことなんですよ。でも、シエルさんはそれができます」
「そう…ですかね。…でも、魔法省の人はみんな凄い人ばかりで…、昔学校で一緒だった子もずっと立派で…、難しいこともできて当然っていうか…、高いレベルを維持できて、レベルが低いと見向きもされない感じがして…」
私は再び視線を下げる。私は魔法学校の時は高いレベルを維持できていたのかもしれない。でも、大人になったら求められるレベルが上がって、いつの間にかレベルが高いと思っていたことが当たり前になって、もっとレベルを上げろ、他人と差をつけろ……なんて言われて、一生レベルに付き纏われるということが、私には苦痛だった。
「できることできないこと、レベルの高い低いは人それぞれです。世の中には競争心が強くて、一番じゃないと気が済まない人も確かにいますが、それがすべてじゃないですし、私は今のシエルさんの等身大の姿が大好きですよ」
アリシアさんから大好きと言われ、私は反射的に頬を赤らめてしまう。こう面と向かって言われると…やっぱり恥ずかしい。
でもなんだか、心が軽くなったというか…、やっぱりアリシアさんは聖母だなぁと。
「ありがとうございます。おかげで心が軽くなりましたよ。仕事中でしたよね。戻りましょう」
「あの…その…シエルさん」
私の調子が戻ると、今度はアリシアさんの方がモジモジし出した。おぉ?
「どうしたんです?」
「そういえば最近その…だ、抱きついてないな…って思いまして」
「抱き…?えっ!?」
顔を赤らめるアリシアさんがいきなりとんでもないことを言い出した。確かに、スイッチが入ることはあっても抱きつかれてなかったかな……って、ここで?
「リヒトくんと同盟を結んだのに抜け駆けする罪悪感もありますけど…」
アリシアさんはそう言うと、自分の三角帽子をサッと私の頭に被せた。…素早くて避けられなかった。
アリシアさんは両手を口に当てて、なんか凄く感激してる。
「か、か、かわいいですーーー!」
ガバッと猛烈にタックルする勢いで抱きつかれた。私は思わずぐえっと声が出たけど、抱きついてから微動だにしないアリシアさんの背中に手を回して、私もアリシアさんの温もりを全身で感じた。




