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魔女になりたくない魔法使い  作者: 甘塩
パルメ地方編
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49/53

第49話 陰と陽 前編

 メリーベルに来て二回目の朝を迎えた。なんとなくまぶたが重いけど、顔を入念に洗って目を覚ます。身なりを整えて食堂に行くと、既にアリシアさんが席に座って待っていた。


「おはようございます」


 私が声をかけると、アリシアさんはこっちを向いて笑みを浮かべ、挨拶を返してくれる。


「おはようございます。よく休めました?」

「はい。ベッドがフカフカですぐ寝れました」


 アリシアさんは私のことをすごく気にかけてくれる。まるでガラスの割れ物を扱うような感じだ。…たまに勢いよく抱きつこうとするけど。

 今日も別の島に行くのかな。百五十の島を全部回ろうみたいなキャンペーンだったらどうだろうか。…たぶん途中で飽きそう。

 支部の執務室に着くと、早速エルザさんがアリシアさんに声をかけてきた。


「アリシア。ミロルで魔獣調査した時に採ったサンプリングが、巡り巡ってここの環境調査課に届いたらしくて、ミネルヴァって子から、当時の状況とか詳しく聞きたいって依頼があったから、早速だけど対応してくれる?」

「承知しました。シエルさんもご一緒にどうですか?」

「あ……はい!行きます」


 私はワンテンポ遅れて返事をする。なんでワンテンポ遅れたかというと、エルザさんが口に出した名前に聞き覚えがあったからだ。

 私はアリシアさんに付いていくように歩きながら、目的の場所へと足を運ぶ。…なんでだろうか。なんとなく足の動きが鈍い。

 辿り着いた先の小部屋には、私と同年代の女の子が席に座っていた。ウェーブがかった淡い栗色の髪のミディアムヘアで、少し大人びた感じの整った顔立ちをしている美人。そして、頭には黒い三角帽子を被っている。女の子はこちらに目を向けてニコッと笑みを浮かべた。


「あなたがアリシアさんですね。はじめまして、ミネルヴァです」


 この子がミネルヴァ。…彼女は、私とリヒトに次ぐ、魔法学校を三番目の成績で卒業した子だ。


「えっ…?もしかして…シエル?」


 ミネルヴァは後ろに立つ私に気づくと、目を丸くして声を漏らした。もしかしたら気付かないかも…とも思ったが、そこは憶えていたようだ。


「久しぶりだね」


 私は視線を合わせて笑みを浮かべる。私の方は、魔法学校の時より髪が少し長いくらいで大きな変化はないけど、ミネルヴァの方は昔はストレートヘアだったし、おしゃれにも気を遣っていて、昔より一層美人になっていた。


「お二人はお知り合いなんですね」


 アリシアさんが微笑みながら私とミネルヴァを見る。リヒトと再会した時は初っ端からいがみ合ってたけど、今はとても穏やかそうな雰囲気が流れている。


「はい、クラスは違ったんですけど、シエルは有名人でしたから」


 ミネルヴァが笑顔のままそう説明する。脳裏に過去の情景が浮かんで来る。…そう。私はかつて有名人だった。だいたいの魔法はいの一番に扱えて、筆記テストの成績もだいたいトップで、実技試験は全勝だった。絵に描いたような優等生だなんて担任から言われたこともあるし、他の先生の間でもそんな目で見られていた。………記憶は案外しぶとく残っているんだなと思った。


「アリシアさん、早速なんですけど、いろいろお伺いしたいことがありまして、少しよろしいですか?」

「えぇもちろん。お力になれることがあれば」

「ありがとうございます!」


 アリシアさんはミネルヴァと当時のことについて会話を始め、私はそれを後ろから眺める。ミネルヴァは落ち着いていて、要領も良くて、愛想も良くて…だから三角帽子がすごく似合ってる。社会人としての素質もあって、アリシアさんやリヒトがいなかったら引き篭もっていたであろう私とは大違いだ。…なんだろう。私って…実はすごくめんどくさい奴なんじゃないかって…思えてきた。

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