第48話 静かな夕日
フーゴーさんが船頭をやってる経緯は、元々お父さんがやっていたけれど、少し前に病気で亡くなったから引き継いだとのことだった。母親は小さい頃に亡くなっていて、今は一人で生活しているらしい。
私だったら…親が死んだ悲しみを抱えつつも、役目を果たすなんてできるのだろうか…。フーゴーさんは、島の人たちがみんな気さくで良い人だから寂しくないと言っていたけれど、そう思えるのは心が強くないとできないと思う。
…今の私は、家族もいるし、自分の役目……それがもし、魔女になることなのだとしたら………。
「フーゴーさん、変なことを聞いちゃうんですけど…、他にやりたいこととかはあったりしないんですか?」
私は様子を窺いつつ尋ねてみた。フーゴーさんは困り笑いを浮かべた。
「以前はメリーベルで暮らしたいなとか思ったりしたんですけど、俺と同年代の奴らがみんな島を出て行っちゃって、俺まで出て行ったら…、島の人たちはどうなっちゃうのかな…とか、そういうのを考えるようになったら、もう船を漕ぐしかないなって」
「立派ですね」
私は素直にそう思った。
「え?いやいや、魔女さん達の方がよっぽど立派ですよ!俺みたいにこの島だけとかじゃなくて、いろんなところ回らなきゃいけないじゃないですか。それってすごいなぁって思うし、魔女さん達にしかできないことだよなって思うんです」
「そう…ですかね」
「だって、まず移動するだけで一苦労ですし、俺も箒で空飛べたらなぁ…って百回くらい思いましたよ」
それは確かにそうだろう。島の人は特にそうだし、街の間を行き来するのに馬車に乗っても、箒で飛ぶのには敵わない。
魔法使いの中にも、魔力をあまり持っていない人が結構いて、そういう人は箒で長距離飛べなかったりといろいろ制約がある。
私は…、そんな制約もなく、気力さえあればずっと飛べるし、スピードを出すことだってできる。
「昔聞いたことあるんですけど、女の人の方が魔力をたくさん持てるし、魔法との相性が良いらしいですね。…まぁ、俺の周りにいる人は女性でも使えてないですけど」
フーゴーさんはそう言って軽く笑う。…そういえば昔、コニーが魔法を使いたくて練習したりしたけど、一向にできなくて泣いちゃったことあったな。…適性。…役目。私の頭の中でその二つが行ったり来たりする。
しばらく会話した後、私とアリシアさんは島を出てメリーベルへ戻ることにした。行きと違って、私は静かに飛んでいた。アリシアさんも無理に話しかけてこない。風の音とたまに聴こえる鳥の鳴き声だけが私の耳に届く。
メリーベルの街に近づいた時には、斜陽が砂浜や建物をオレンジ色に染めていた。あ……夕日。
「アリシアさん、夕日とか…眺めます?」
「良いんですか?」
アリシアさんは少し驚いた表情を浮かべる。私から言ったことに驚いたのだろうか。
砂浜に降り立った私達は、砂の上にピクニックシートを敷いて座る。水平線に近づいていくオレンジ色の光をボーッと見つめながら、私は自分がこれから何をしたいのかを少し考えてみた。




