第46話 船着場にて 前編
船着場の周りは集落になっていて、あちこちで身を開いた魚を大きな網に載せて天日干しにしている。うーーん……独特の臭いが。
私が鼻をつまんで極力臭いを嗅がないようにしていると、アリシアさんがクスッと笑う。
「この匂いは苦手な人も多いですからね」
「アリシアさんは平気なんですか?」
私は鼻をつまんだまま尋ねたので声が変になっている。
「はい。私も小さい頃はこういうところで暮らしていたので」
「えっ!?そうだったんですか?アリシアさん海の女だったんですね」
「大袈裟ですよ。ただの女の子でしたよ」
「いやいやまたまた、村中で語り継がれる絶世の美少女だったに違いないです」
私が確信したようにそう言うと、アリシアさんはまたもクスッと笑う。私がさっき砂浜で小さい頃を思い出したように、アリシアさんも過去を思い出してるのかな。…知りたいぞ、アリシアさんの過去。どんな幼少期を過ごしたらこんな聖母になるのだろうか。
そんなことを思いながらふと船着場に目を向けると、一隻の船が近づいて来るのが見えた。船は小さめで、漕ぎ手の船頭さんが一人とお客が五人乗っている。船頭さんはベテランの風格があるおじさん……ではなく、私と同年代くらいに見える。ボーッと船を眺めていると、船着場に接近したところで、船頭さんがややぎこちない動きで、先端が輪っかになっているロープを船着場にある突起に向かって投げた。
「あっ…」
私は思わず声を発した。狙いが外れてロープの輪っかが海に落ちたのだ。
「やっべ…!ミスった…!」
「おいおい落ち着け〜」
「船が流されるよ〜」
あたふたと焦る船頭さん。客の方は逆に焦るどころか愉快そうに笑っている…。なりたての船頭さんなのかな。
「あー、フーゴー!流されてるよー。早く早くー」
「ちょ、ちょい待って…!」
フーゴーと呼ばれた船頭さんは海に落ちたロープを慌ててたぐり寄せているが、その間にも船がどんどん岸から離れていく。…助けた方が良さそうだ。
私は杖を発現させて船の方に向けた。…すると、海の中からロープの輪っかが飛び出して、ひとりでに船着場の突起へとすっぽり入った。
「あ、…れれ!?勝手に!?」
「フーゴー!あんた魔法使えたのか?」
「いやいやっ!んなわけ…!」
「あ!あそこに魔女の人がいるぞ!」
客の一人が私達に気付いたようでこっちを指差している。そして皆の注目がこちらに集まる…。恥ずかしい…。




