第42話 新たな地方へ 前編
話を聞くと、ティナさんは速達郵便の配達の仕事をしているようで、今日の早朝にメリーベルを出発して、これからエクサロを経由してミロルまで行くとのこと。見事に私達と逆の経路である。
速達なので、時短のために極力最短経路を辿りたくなるわけで、だからあの高い山を真正面から突っ切ろうとしたわけですな。
「おっと、ここでのんびりしている場合じゃなかった…!ではっ!またどこかで!さよーならー!」
ティナさんは手をブンブン振りながらハイスイードで去っていった。…嵐みたいな人だったな。それにしても速い。あっという間に後ろ姿が豆粒くらいになった。メリーベルからあのスピードを維持しているのだとしたら、結構な魔力の持ち主かも。
「私達も行きましょう」
アリシアさんの声掛けに頷き、私は箒を前に進める。山が間近に迫ってきて、見上げないと山のてっぺんが視界に入らないくらいになった。高い山なだけあって、てっぺんの方は木も生えておらず、荒々しい岩肌が剥き出しになっている。今いる高さでも結構な風なので、てっぺんとかだとすんごい吹き荒れてそう…。
街道を見つけて、その上を飛んでいく私達。街道は馬車なども通るので、急な坂がない代わりに、距離を稼いでだんだんと高い位置へと登っていく。街道脇の谷底には川が流れているけど、結構深い谷なのか、川の音は聞こえない。
私達は箒で飛んでるから全然苦じゃないけど、ここを歩けと言われたら嫌だと答えるくらいには険しい道のりだと思う。周囲はもうすっかり山奥の様相で、自分が住んでいた地方の端っこはこんな所だったのかと意外に思う。山に海……この国は広いなぁと。
峠に近づくほど道のクネクネ度が増してきて、何度も曲がって進んでいく。普通空を飛ぶときはまっすぐ進む場合が殆どだから、こういうのも新鮮。
「あそこが峠みたいですね」
アリシアさんが前方を指差すと、地平線みたく道の先が無くなっているのが見えた。ようやく峠か……。長かった…。エクサロからここまででだいたい五時間くらい。もうすっかり昼である。お腹もすいてきた…。
「もうお昼ですね。降りてランチにしましょうか」
ちょうどよくアリシアさんからお昼の声が。お腹がぐーぐー鳴ったら恥ずかしいので、良かったとホッと安堵。私達は降り立つと、街道脇の広くなっているところにピクニックシートを広げて座り込んだ。
私はアリシアさんからサンドウィッチを受け取り、頬張りながら景色を眺める。高いところなだけあって景色がきれい。眼下には湖もあって、良いアクセントになっている。
「遠くまで来たって感じがしますねー」
「ですね。シエルさんと移動していると、ピクニックしてるみたいで楽しいです」
「明日から新天地で仕事ですよー」
アリシアさんは嬉しそうにサンドウィッチを食べている。アリシアさんは普段から私のことを褒めてくれるけど、一緒にいて楽しいと言われるのは素直に嬉しい。
「さすがに日が落ちる前に着くのは無理そうだし、夕日は次の休みの日までお預けですね」
「うぅ…待ちきれませんね…。早く次の土曜になってほしいです」
「まだ着いてすらないですよ」
いじけ顔のアリシアさんに困り笑い。9割は大人びてるのに、この1割だけ妙に子供っぽいところがあるのがアリシアさんのおもしろいところ。…いや、3割くらい?
サンドウィッチを食べてお腹を満たしたら、箒に乗って飛び上がり、街道の上を進んでいく。相変わらず道はクネクネで、曲がる度に景色がコロコロ変わる。あのランドマークと言うべき高い山は、いつの間にか上の方が雲に隠れて見えなくなっていた。山の天気は変わりやすいと言うのは本当だったんだなと、ボーッと眺めながら箒を前に進める。
しばらく進むと、ランチの時に眼下に見えていた湖まで降りてきた。風もだいぶ落ち着いたので、街道から逸れて湖の上を突っ切っていく。波が殆ど無く穏やかで、湖面に小さく私達の姿が映る。私はローブを身に纏った自分の姿をボーッと眺める。…ふと、昨夜の温もりを思い出して、顔が熱くなってしまった。




