第40話 出発前夜 後編
リヒトは顔中が熟したリンゴくらい真っ赤になっていた。
「…魔法省の就職面接の時より緊張してる」
「ほんとに?難易度高い?」
「高い…」
なんの難易度なんだというのは置いといて、私の顔も熟したリンゴ状態なんだろうなと思い、ちょっとでも落ち着かせようと深呼吸してみる。リヒトも釣られるように深呼吸。
「しばらく会えなくなるけど…忘れるなよ」
「心配性だなぁ〜。忘れないよ」
私はリヒトの頭をぽんぽんと優しく叩く。こんな初めてを忘れるわけがない。なんか恥ずかしさが麻痺してきた…。
「リヒト、掌出して」
私がそう言うと、リヒトは手汗を拭いてから恐る恐る差し出した。私は自分の掌をタッチさせてみる。おぉ、結構大きさ違うもんだね〜。
「手…こんなに違うんだな…」
「ちょっと悔しいかも…なんちゃって」
「か、か…」
「か?」
リヒトがかしか言わなくなったので首を傾げて見せる。
「…反則」
「してないよ?」
リヒトがどんどん言葉足らずになってきた。逆に私は麻痺しちゃって意外と喋れるから、なんか一方的になっちゃったかな……なんて思いつつ、私は思い切って頭をリヒトの肩に乗っけた。
「俺よりシエルの方が…恥ずかしがり屋だと思ってたのに…、逆転してる…」
「へへ…粘り強い?」
「ずるい」
「ずるい?」
「反則的にか……で…ずるい」
途中が抜け落ちている。言葉を詰まらすのではなく、詰まる部分を飛ばしちゃう作戦か。
「アリシアさんが夢中になるのが…わかる」
「アリシアさん抱きついちゃうもん」
「抱き……え…」
「リヒト…気を確かに」
リヒトが燃え尽きそう…。そんなリヒトの頭を私も撫でてみる。撫でられると落ち着くけど、撫でるのも落ち着く。
そのまましばらく静かな時間が流れる。リヒトがなかなか目を合わせてくれない。私は期待を持ちつつ、頭を撫で続ける。
「…ホントは魔法学校の時から仲良くしたかった」
「え…?」
私の手がピタリと止まる。
「…でも、優秀な姿を見てたら、変に対抗心が出て…」
「そうだったんだ。かわいいとこあるじゃん」
私は笑みを浮かべる。今更過去の記憶を掘り起こすことはしない。私にとっては今この時間が大事だから。
「ミロルで再会した時も…本心では嬉しかった。まさか再会するなんて思ってもなかったから」
「それ聞けただけで嬉しいよ。私だって、リヒトと再会してなかったら地元に逃げてたかもしれないし。今ここに私がいるのはリヒトのおかげだよ」
「甘い…」
「甘いね…。でも私なんか麻痺しちゃって…意外と今平気」
普段なら絶対真逆なのに…自分でも不思議。
「やっぱずるい…。頭良くて強くて優しくてか……で」
「あともうちょい…!」
「…か、か、…かいい」
「かゆい?」
「ちが…!かわいい…!」
私の心臓がドクンッと。麻痺してたのに、急激に恥ずかしくなってきた。
「シエル……どうしても魔女に…なりたくなくても…そのローブは着ててほしい」
「うん。宝物だもん」
私とリヒトの腕がいつの間にかお互いの背中を包み込んでいた。あったかくて…ほっかほかで…嬉しくて…。




