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魔女になりたくない魔法使い  作者: 甘塩
エクサロ編
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40/51

第40話 出発前夜 後編

 リヒトは顔中が熟したリンゴくらい真っ赤になっていた。


「…魔法省の就職面接の時より緊張してる」

「ほんとに?難易度高い?」

「高い…」


 なんの難易度なんだというのは置いといて、私の顔も熟したリンゴ状態なんだろうなと思い、ちょっとでも落ち着かせようと深呼吸してみる。リヒトも釣られるように深呼吸。


「しばらく会えなくなるけど…忘れるなよ」

「心配性だなぁ〜。忘れないよ」


 私はリヒトの頭をぽんぽんと優しく叩く。こんな初めてを忘れるわけがない。なんか恥ずかしさが麻痺してきた…。


「リヒト、掌出して」


 私がそう言うと、リヒトは手汗を拭いてから恐る恐る差し出した。私は自分の掌をタッチさせてみる。おぉ、結構大きさ違うもんだね〜。


「手…こんなに違うんだな…」

「ちょっと悔しいかも…なんちゃって」

「か、か…」

「か?」


 リヒトがかしか言わなくなったので首を傾げて見せる。


「…反則」

「してないよ?」


 リヒトがどんどん言葉足らずになってきた。逆に私は麻痺しちゃって意外と喋れるから、なんか一方的になっちゃったかな……なんて思いつつ、私は思い切って頭をリヒトの肩に乗っけた。


「俺よりシエルの方が…恥ずかしがり屋だと思ってたのに…、逆転してる…」

「へへ…粘り強い?」

「ずるい」

「ずるい?」

「反則的にか……で…ずるい」


 途中が抜け落ちている。言葉を詰まらすのではなく、詰まる部分を飛ばしちゃう作戦か。


「アリシアさんが夢中になるのが…わかる」

「アリシアさん抱きついちゃうもん」

「抱き……え…」

「リヒト…気を確かに」


 リヒトが燃え尽きそう…。そんなリヒトの頭を私も撫でてみる。撫でられると落ち着くけど、撫でるのも落ち着く。

 そのまましばらく静かな時間が流れる。リヒトがなかなか目を合わせてくれない。私は期待を持ちつつ、頭を撫で続ける。


「…ホントは魔法学校の時から仲良くしたかった」

「え…?」


 私の手がピタリと止まる。


「…でも、優秀な姿を見てたら、変に対抗心が出て…」

「そうだったんだ。かわいいとこあるじゃん」


 私は笑みを浮かべる。今更過去の記憶を掘り起こすことはしない。私にとっては今この時間が大事だから。


「ミロルで再会した時も…本心では嬉しかった。まさか再会するなんて思ってもなかったから」

「それ聞けただけで嬉しいよ。私だって、リヒトと再会してなかったら地元に逃げてたかもしれないし。今ここに私がいるのはリヒトのおかげだよ」

「甘い…」

「甘いね…。でも私なんか麻痺しちゃって…意外と今平気」


 普段なら絶対真逆なのに…自分でも不思議。


「やっぱずるい…。頭良くて強くて優しくてか……で」

「あともうちょい…!」

「…か、か、…かいい」

「かゆい?」

「ちが…!かわいい…!」


 私の心臓がドクンッと。麻痺してたのに、急激に恥ずかしくなってきた。


「シエル……どうしても魔女に…なりたくなくても…そのローブは着ててほしい」

「うん。宝物だもん」


 私とリヒトの腕がいつの間にかお互いの背中を包み込んでいた。あったかくて…ほっかほかで…嬉しくて…。

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