第37話 束の間の雑談
まさかのアリシアさん隠れて見ていたかもしれない事件が勃発したけども、とりあえず恥ずかしさを紛らすために、さっきまでのやり取りはなかったことにした。
やらなきゃいけない書類チェックは全部終わってしまったので、ちょっとした雑務をやりつつ、三人で雑談をする。私とリヒトは目配せして、変な感じにならないように意思統一を図る。アリシアさんも察してくれてるようで、いつもの感じで話をしている。
「そういえばリヒト、ソフィーさんが後任って聞いた時、天を仰いでたけど…苦手なの?」
私はふと気になっていたことを尋ねる。エクサロに着いてすぐのリヒトとのやりとりの話だ。リヒトはチラッとアリシアさんを見た後、私に目を向けた。
「新人研修の時の講師だったんだけど…、スパルタっつーか理詰めがすごいっつーか…、まぁ結構しごかれたからさ」
「ほぇー…」
私は口を開けて、リヒトの意外な過去に軽い驚きを見せる。…確かに、リアーネさんも泣きそうになってたしな…。新人にも容赦ないとは…。
「アリシアさん、今言ったのはオフレコですからね…」
「もちろんわかってますよ」
アリシアさんはにこやかな笑みを浮かべる。改めて、アリシアさんの包容力に感服…。
「シエル、アリシアさんは超優しい部類だからな。こんなに優しい人なかなかいないぞ」
「それはわかる。アリシアさんは聖母だもん」
「なんだか恥ずかしいですね…」
本人の前でも構わず褒め称える私とリヒト。だって事実だし。…たまに暴走しちゃうけど。
「アリシアさんはメリーベルは初めてなんですか?」
「うん。どんなところか楽しみなんだ。海沿いで夕日がきれいらしいし」
「シエルは海とか見たことあるのか?」
「失礼な!海くらい見たことあるから!…子供の頃だけど」
私は小さく付け加える。地元も魔法学校も海とは無縁の地域だし、子供の頃に家族で出掛けた時くらいで、ずっと見ていない。…海に沈む夕日なんてのも見たことない。…そういえば、アリシアさんと二人で見る予定なんだっけ。恥ずかしい…。
「以前聞いたことがあるんですが、島が多くて、行き来するのに魔法使いは重宝されるらしいですね」
「そうなんだ。シエルさん!人助けのチャンスがたくさんありますよ!」
リヒトの話を聞いたアリシアさんは早速目をキラキラさせて私に視線を向けてきた。
うへぇ〜〜!ここで急に人助けの話かー。尻込みする…。
「その……無理のない範囲で…」
途端に私は気後れしてしまい、蚊の鳴くような声で返事したのだった。




