第34話 終わりは必ず 前編
私はリヒトの隣に座ってクロワッサンを頬張る。サクサクふわふわで、バターの風味も効いてるし、宿の朝食に出てくるパンより断然おいしい。
私が美味しそうに頬張ってる傍ら、リヒトは仕事の手を止めて背伸びをする。窓辺に差す朝の光が心地良い。小鳥の囀りだけの静かな時間。
「美味しかったよ。ありがと」
私は背伸びをし続けているリヒトにボソッとお礼を言う。リヒトはようやく背伸びをやめて、両手を机に置く。
「昨日あの後見つけたんだ」
「へぇー、私も寄ってみようかな。メリーベルまで長そうだし」
アリシアさんからサンドウィッチ貰ってばっかだから、たまには私があげる側にならないと。
「メリーベルか…。行ったことないな」
「どんなところなんだろうね?」
私も当然行ったことないので、想像するしかない。前にアリシアさんが言っていた話だと、海沿いで夕日が綺麗なんだとか。
「ミロルより大きな街らしいぞ」
「えっ!?そうなの!?ミロルだって私からしたら都会なのに!」
「田舎娘だもんな」
おっと、ここで悪口カウント入りましたー。私はムスッとしてリヒトを見る。
「エクサロの田舎で苦しめ三ヶ月」
「呪いのように言うな」
ぷっ…と私はおかしくて笑ってしまう。リヒトも釣られるように頬を緩ませる。
「…代わりの人たちって、いつぐらいに来るのかな」
「早ければ今日の夕方には来るかもな」
「…そっか。でもその場合、夕方から出発って訳にも行かないから、明日の朝出発かな」
リヒトはこれから三ヶ月はここに残り続ける。一方で私とアリシアさんは、しばらくこの地方に戻って来ないかもしれない。こんな時間も……明日まで。
「リヒトはさ、行きたいところとかあるの?」
「…やっぱ首都グラツェかな。入省の時にちょっとだけ居たけど」
「そっか!最初はグラツェに居たんだ!羨ま〜」
「都会すぎてシエルは道に迷いそうだな」
悪口カウント二回目ー。失礼な!そもそも空飛べば迷うことなんてないわ!
「言っとくけどねー、私結構方向感覚鋭いんだからねー」
「まぁ、あの魔法陣描くくらいだからな。あれはマジで凄いと思った」
唐突に褒めてくるから…、なんか…調子狂う…。
「もっと褒めて良いんだよ?」
調子狂って変なこと言っちゃった…。案の定、リヒトは不思議そうに目を向けてきた。み、見るな…!
私は慌てて、積まれた書類をパッと手に取って顔を隠す。
「大事な書類を盾に使うな」
「何急に真面目モードになってんの!」
私は書類の盾を装備したままそう訴える。完全に調子狂わされてる…!今は挽回のチャンスを窺うしかない…。
リヒトは仕事を再開し、静かな室内でペンの音が流れていく。私も盾を解除して、魔法陣を描こうと立ち上がると、リヒトが尋ねてきた。
「シエルはこの旅が終わったら地元に帰るのか?」
「…わかんない」
それだけ告げて、右手に杖を発現させて床に向ける。…旅の終わりなんて考えてもなかった。…でも、終わりは必ず来るわけで。この時間だってそうだ。…ふと、私はリヒトに目を向けた。
「あの魔法陣、描き方教えてあげよっか?」




