41、報復
セルティスの足取りを追って向かった先は隣の領のロペス侯爵領。見通しの悪いその場所には少女とゴロツキ7人の死体があった。
「これは……」
「少女だけ手口が違いますね」
「仲間割れ? それとも別にまだ誰かがいるのか?」
「いえ、恐らく男たちはセルティスがやったのでしょう」
「無事なら何故戻って来ないのですか?」
「お嬢様!」
「どうしたの?」
「こちらをごらん下さい」
見ると男が死んでいた。その男の腕には血文字でガスパール伯爵と刻まれていた。
アシェリはニヤッとした。
「この男たちはガスパール伯爵の手の者なのでしょう、少女を使ってセルティスを呼び出し、セルティスか私を殺すつもりだった? ああ、ガスパール伯爵と言えば息子がいたわね、ではセルティスを殺すつもりだったのね、そして返り討ちにあった」
「ではセルティス様は…」
「ガスパール伯爵もところへ行ったのでしょう」
「この死体の始末はいかようになさいますか?」
「放置でいいわ。証拠もない、セルティスは少女を送っていっただけ」
「はい、承知致しました」
「ふー、これよりセルティスに合流するべくガスパール伯爵のもとへ行くわ。準備して頂戴」
「「「畏まりました」」」
王宮にはムージマハル国とセンダラーハン国が開戦したとの情報が齎された。
至急 関係者などに召集がかけられ今後について話し合われている。
我が国とは直接関係はないが、いつどの様な形で関わりを持つか分からない、楽観視はできない。しかも今は ムージマハル国から留学生まで抱えている、そして何度かガーランド公爵家や王家と繋がりを持とうと接触を図ってきた。これでムージマハル国だけに肩入れすれば思わぬ形でセンダラーハン国から被害を被るかもしれない。
センダラーハン国は頭のおかしい武装国家、自国が最強と思い、新たに兵力を持ったり、新たな武器を作ったり、新たな戦略が出来ると戦争をしたがる、相手も構わず噛み付く駄犬と一緒。タチが悪いのは相手の力量を正しく測れないところだ。まあ、そんな国でもこのスターチス国には直接仕掛けてきたりはしない。それは直接面していない点もあるが、軍神タングストン侯爵家のお陰もある。タングストン侯爵家は バーバラの祖父も父も兄も武勇伝を代々作っている有名人だ、この時代にあって強い魔力と圧倒的な軍事力を誇っている。
タングストン侯爵家は代々魔力の強い家系で1人でも一騎当千の働きをする武将、そして領に抱えている魔法騎士もレベルが高い、『タングストンの魔法竜』と呼ばれ、魔法騎士の中ではそう呼ばれる事が名誉であり誇り、タングストン侯爵に師事し肩書を得たいと願う、またタングストン侯爵領のメンバーに入れない者も個人的にでも教授を願う者が後を立たない、国内外に轟く鉄壁の防御と攻撃を誇る精鋭たち。国内最高峰とは世界最高峰でもあった。
タングストン侯爵家に至急準備するよう使者を送ると、タングストン侯爵は既に領地に帰っていた為、領地まで使者を送った。戻ってきた使者はタングストン侯爵領では既に臨戦態勢に入っていると聞き頼もしく心強く思い、戦況を見守った。
セルティスはガスパール伯爵周辺を探っていた。
ゴロツキを雇ったのがガスパール伯爵と掴むとセルティスはゴロツキを始末し、ゴロツキたちが言っていたトーマスと言うガスパール伯爵家の者を探した。
トーマスと名乗る者はロペス侯爵領にある宿屋で身を潜めていた。ゴロツキたちは2週間の猶予があると言っていた事を思い出した恐らくそれまで潜伏するつもりだろう、そこで先にガスパール伯爵を探ることにした。
風魔法を使って情報を集めてみる。ガスパール伯爵は領地を持っていないので王都に行くつもりだったが、意外な場所にいる事が分かった。
ガーランド公爵領は広大なので様々な領地と面しているのだが、ロペス侯爵領とヴァルドール侯爵領の間にある小さく細長い領地カカヤック伯爵領、3領に面してはいるがカカヤック伯爵領はほんの一部だけ、殆どの者が 主にロペス侯爵領からヴァルドール侯爵領へ行くために通り過ぎる程度の認識しか持っていない。カカヤック伯爵領はその通行料と宿場町として恩恵を受けている以外目立った要素はない。だが中継地点として屋敷を構えている商売人が多い。大貴族であると場所代や屋敷の賃貸も高額だったりするが その点でもカカヤック伯爵領は丁度良かった。
ガスパール伯爵もその1人でカカヤック伯爵領に屋敷を構えている。
ガスパール伯爵程度の人間がどこに屋敷があるかなど完全に意識から外れている為盲点とも言えた。ガスパール伯爵はわざわざロペス侯爵領で事を起こし、すぐ隣で成り行きを見ていると言うわけだった。
探っているうちに分かった事は、ガスパール伯爵は21歳になる息子がいた。恐らく私を殺すよう命じたと言う事はアシェリを息子チェザレの嫁にと考えているのだろう…そう思うと虫唾が走った。だが様子を伺っていると更におかしな状況に出会した、妻と息子を離縁して追い出そうとしているのだ。そこには泣き縋る妻が見える。
「旦那様! 何故いきなり私と離婚するなどと言うのですか!! 私が何をしたと言うのですか!!」
「父上! 私と母が何故家を出なければならないのですか! 訳を! 理由を言ってください!!」
「えーい! 煩い煩い!! お前たちは当主である私に黙って従っていればいいのだ!!」
「あんまりです! あなたの女癖の悪さだって黙って耐えてきたと言うのに何故! 何故!! どうして今更そんなこと言うのですか! 私たちに路頭に迷って死ねと言うのですか!!」
「父上、また女なのですか? その女が母上と私を家から追い出せと言ったのですか!?」
「私は真実の愛に目覚めた、美しい女には財産もある…くひひひ お前たちと比べるまでもない! 分かったらさっさと出て行け!!」
怒りで爆発しそうだ。
事もあろうか あの男!妻にアシェリを望んでいるのか!?
はっ! ケダモノが!!
死刑だな。
セルティスの怒りと共に周辺の気温が一気に下がる。
「我々は納得できません!我々はここを出て行くなどしません!! 離婚には応じません!!」
「そうです! この家だって! 旦那様が女遊びに使ったお金は私の実家から援助していたのです、私と離婚すると言うなら今までのお金も全て返して頂きます!」
「はーーはっはっは! 馬鹿が! あの女は大金持ちだ! あの女さえ手に入ればお前の言う金など2倍…10倍出したって小遣い程度にもならん! 世間知らずが! あの程度の金で私を縛れると思うなどあさましい。まあ、体が寂しいって言うなら金を払えば抱いてやるぞ? あ? どうだ? はっはっはっは!!
ほら! さっさとここにサインしろ!! サインしなければ一文なしで家の外に追い出してやる!! ほら! 無駄な時間をかけるな! 書け! ほら書け!!」
「ふぅぅぅぅぅぅ!!」
泣きながら無理やり手を添えられて署名させられる。
「クズが! 母上参りましょう!」
「チェザレ…うぅぅ悔しい!」
「ふぅー、結果は同じなのだからさっさと書けば良いものを。さて私はこれから離婚申請のために王都へ行ってくる、帰ってくるまでに荷物を纏めて出て行くのだ、良いな!!」
予想外のクズが登場した。
さて、死刑は決まったが方法はどうしたものかな? 早めに手を打つ必要がある、皆の幸せのために。
王宮では意外な人物が陛下に謁見を求めていた。
ムージマハル国からの留学生 ダリウス・トラガルトとカラバスク・パーマシーだった。
伯爵家の人間だと思っていたダリウスはなんとムージマハル国の王太子であった。
「急な申し出にもかかわらず謁見をお許しくださり感謝申し上げます。
私ムージマハル国 王太子 ブリースト・ククス・ムージマハルでございます。
本日は陛下にお願いがあり参りました」
正式な手続きが踏まれたわけではなかったので、沈黙を貫いても良かったのだが彼が身分を明かしたことで無視も出来なくなった。
まあ、予想通り戦争が始まりその支援を要請するものだった。
「積極的に戦争に加担するつもりはない」
バッサリと切り捨てた。
「ですが、そうも言ってられないのではないでしょうか、我が国が万が一にでも押されることがあればこの国にも多大な被害を被る事になります。そうならない為にもここは協力する必要があるのではないですか?」
「ほぉ、貴殿は自国の力だけではこの局面を脱することはできないと明言するおつもりか?」
「そうではありません。ただ互いのために準備は必要ではないか、と言う話です」
「いやいや、ご心配痛み入る。だが我が国は常に万全である、不届き者の侵入を許すことはあるまい。それより早くお帰りになり備えた方が宜しいのでは?」
くっ! くそっ! 何の約束も取り付けられない。
「左様でございますか、ではガーランド公爵をご紹介いただけませんか? ガーランド公爵であれば必ずや力になってくれると思うのです」
本来であればガーランド公爵さえ味方につけば 別にスターチス国の支援など必要ではない、だが王の顔を立てるため、話がスムーズに進むためにここへ来たに過ぎない!!
くそっ!
「ああ、そうしてやりたいが今は難しいであろうな」
「それはどういう事ですか?」
チラッと視線を宰相に飛ばす。
「実はですね、現在ガーランド公爵家では誘拐事件が起きているのです。ですからガーランド公爵はお忙しくされていて出仕もお断りになっている次第でございます」
「なっ!? それは! いえ、どなたが誘拐されたというのですか!!」
「残念ですが、それはお教えできません」
くそが! 何てこった!
「道中気をつけて帰られよ」
「……はい、有難う存じます」
ブリースト王太子は王宮を後にした、だが自国には帰らなかった。
戦争がもっと激化すればどの道またここへ来る事になるからだ。
そこで、ガーランド公爵家の誘拐事件をこちらで片付け恩を売ることにした。急ぎ情報を集める事にした。学園の方は…セルティスもアシェリもステファンも登校はしていなかった。
よって誰が誘拐されたかは特定出来なかった。
密偵を飛ばし、急ぎ全容をつかむための行動をした。
学園ではマリアの地位が地に落ちていた。
アレクシス王子殿下も正気に戻りマリアをそばに置くことは無くなった。
パトリシアを悪役令嬢と断じていた者たちは正気にかえると、揃って学園を休んだ。勿論報復が怖いからだ。そして学園の半分、つまり聖女マリアと崇めていた生徒たちも皆揃って学園からいなくなったのだ。
マリアは針の筵の中、1人学園にいた。
マリアには頼ることができる実家も友も誰もいなかった。
数日前まではアレクシス王子殿下も優しく微笑んでくれていたのに、日を追うごとに無表情となり言葉では甘いことを囁いても人形みたいになっていった。そしてとうとう昔に戻ったみたいに蔑む目を向け側に寄れなくなった。
頼みの綱のカミラも暫く学園を休んでいる、連絡も取れない 一体どうなってしまったのか、訳も分からず孤立していった。
女神様! 女神様助けて!! 私はどうしたらいいの!!
今回の願いは女神様に届くことはなかった。




