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40、誘拐

領内を探したがセルティスは見つからなかった。

「申し訳ございません! やはりついて行くべきでした!!」

「自警団の方には何か情報はなかった?」

「今のところ ありませんでした。今 見かけた者がいないかあたっております」

「足取りは追っています」

「私たちがここにいるのを知っているのは誰かしら? 外部の者がこの領に来て誘拐なんて出来るかしら?」

「確かに…。お嬢様たちの行動は事前に決めてあった行動ではありませんし…、ずっと跡をつけていたとしてもあの場所からセルティス様だけお一人で出てくることは予想できることではありません」

「では、どこかで事故の可能性もあるのか!?」

「いえ、事故であれば憲兵や自警団に連絡がいく筈よ、やはり事件に巻き込まれたと考える方が自然だわ」


セルティスを狙ったのか、私を狙ったのか?


「他所ものを当たってみます」

それも難しいだろう。ガーランド公爵領は今や王都よりも栄えているのだ、流行に聡い者たちは挙ってこのガーランド公爵領に集まっている。貴族の別荘地もある、他所よりも高額であるにも関わらずガーランド公爵家と結びつきたい者たちはこの地に別荘を建てている。

ただの余所者と言うだけでは到底絞れないだろう。

セルティスにも結界魔法をかけている、命に関わることはないだろうが…、モノによっては危険になることもある。相手の正体が分かれば!!




セルティスは馬車に揺られていた。


計画的な犯行だったのだろう。小さな女の子が道で泣いていた、このガーランド公爵領では珍しい光景に思わず足を止めた。

「どうしたのだ? 迷子か?」

「おかーさん! えっぐえっぐ おがーざんがー!!」

「母親が見つからないのか?」

「おがーざんだずげでー! おがあざん ぢー! だずげでー! じんじゃうー じんじゃうおー!!」

「怪我をしてるのか!? 何処だ! 案内しなさい!」

「うんうん、あっじー! あっじにいるの!」

「大丈夫、きっと大丈夫だから泣くな、ほら行くぞ!」


4歳くらいの少女の後をついて行くと、どんどん領境の方へ駆けていく。誰にも告げずに来てしまったから不安に駆られたが今は目の前のこの少女の母を助けねば、そう思った。

先に進むにつれ嫌な予感がしたが既に遠くまで来てしまった。

「おい、何処まで行くつもりなのだ?」

「あっち! あっちの崖のとこ!」

少女の顔は母が心配で不安と言うより、魚を釣り上げ満足そうな漁師のようにギラギラと輝いていた。この時 後悔が80%、誰かにせめて連絡するべきだったとの後悔と、私を狙う…つまりはアシェリの敵、この手で滅してやる気持ちが20%だった。


地形的に崖というより見通しの悪い林か森かそんな感じであった。

案の定 茂みから人相の悪い男たちが6〜7人出てきた。


「母親はどうしたのだ?」

「えへへ」

屈託なく笑った。少女は男たちの1人に駆け寄ると誇らしげに手を差し出した。

「ほらね、上手く行ったでしょう? 報酬を頂戴!」

「分かった、分かった」

そう言うと男は少女を斬り捨てた。

「ご苦労さん」


考えてみるとガーランド公爵領で、こんな少女が1人で泣いていることなどあり得ない、憲兵も自警団もキチンと機能しているのだから、罠に嵌った。敵は一体誰なのか?


「小銭をやれば殺す必要はなかったのではないか?」

「小銭欲しさにまた告げ口するかもしれねーからな」

「誰の差しがねだ? 私をどうするつもりだ?」

「いやーなに、元はお前さんを閉じ込めておけって話だったのだが、お前さんを殺せばもっといい金くれるって奴が出てきた訳だ。まあ、こちらも商売だから悪く思わないでくれよ、ヒッヒッヒッヒ」

「まあ、一応言っておくが、そのいい金蔓より報酬を払うと言ったらどうする?」

「うーん、悩ましいが答えはノーだ。ガーランド公爵家がそんなお優しいとは思えないからな、殺して報酬貰った方が命の心配がない」

「そうか、残念だよ。ところでどうせ殺されるなら誰と取引したか教えて欲しいな。あの世で恨む相手を知らないんじゃ哀れだろう?」

「そうだな。閉じ込めておけって言った最初の客は女だ。悪いが名前は知らねー。これしか金はないってはした金を持ってきやがった。殺してお前の指輪のついた手を持ってこいって言ったのは、まあ偽名だろうがトーマスと言ってたな、何処かの家の執事だ。だが、ガスパール伯爵家の家紋の入った懐中時計をしていやがったな」

「成る程ね、目端は効くんだな。私の手に日時の指定はあるのか?」

「2週間の猶予を貰った、場所はここだ、案外早く片付いて楽勝な仕事だったよ。これであの金を貰えるのだから ヒッヒッヒ 今夜は美味い酒が飲めるってものだ」

「そうか、それは良かったな」


シュンシュン バスバスバス バタッ!



「アレクシス様! 何故 急に冷たくなられたのですか? わたくし何か気に触ることでも致しましたか?」

「パトリシア嬢、何が不満だと言うのだ?」

「何故お側にわたくしではなくマリア嬢をお呼びになるのですか? 私ではお役に立てないのですか?」

「役に立ってもらうことがないから わざわざ公爵令嬢である貴女にはご遠慮頂いているのだ。貴女の用は何なのだ?」

「用、用は特には…ございません」

「ならお戻りになるといい。いつも用もないのに呼びつけられて迷惑しているのだろう? 今まで無理をさせてすまなかった」

アレクシスは顔を背けてしまう。

「わたくし そのような事申したりしておりません! 貴女ね、マリアさん! 貴女がアレクシス様に嘘を吹き込んでいるのだわ!」

「ひ、酷いわ! 私…そんな事…」

ブルブル震えるマリアの肩をそっと支え、すまなさそうに見ている。

「今までパトリシア嬢は 人々の上に立つ完璧令嬢だと思っていたが、思い違いをしていたみたいだ。兎に角 用件がないなら帰って欲しい」

「あんまりです、アレクシス様!! …ぐっ、こ、これで失礼致します」

踵を返すと泣きながらパトリシアは去っていった。


「アレクシス王子殿下 可哀想…、心を許せる方が側にいないって、辛いですよね?

私ならいつでも話を聞きますから、ね?」

「ああ、有難う。マリア嬢は優しいな」

「ううん、マリア嬢なんて呼び方寂しいですぅ、マリアって呼んでください」

「ああ、マリア分かったよ」

最初こそ優しい眼差しをむけていたが次第に翳っていく、大好きなマリアの側にいると言うのにアレクシスの顔はちっとも嬉しそうには見えなかった。偶に眉間に皺を寄せ言葉だけマリアが望む甘い声を発する、人形のようであった。



娘パトリシアから報告を受けたクーゲル公爵は激怒した。

クーゲル公爵は王妃陛下に抗議し、影でマリアの実家であるダラス男爵に圧力をかけ始めた。ダラス男爵はすぐにマリアと会いパトリシア嬢に謝罪しアレクシス王子殿下に不用意に近づかないようにキツく言い含めたが、それを逆手に取り マリアは大勢に前で悲劇のヒロインとなり大袈裟に泣いて見せた。すると周りはパトリシアを責め始めた。本来責められるべき抗議ではない、婚約者のいる相手に異性が必要以上に近づくのはふしだらと思われても仕方にない行為だからだ。だが、そんな常識さえもマリアの周りでは通用しない。


だが一定数、マリアを問題視する者たちもいた。学園内は変な空気に包まれていた。

そんな中、セルティスが行方不明と報告された。その知らせは一部の者しか知らなかった筈が、あっという間に広がっていった、そしてその内容は衝撃的なものだった。

『アシェリ・スタッド伯爵夫人が、自分の夫を殺してアレクシス王子殿下の妻の座を狙っている』と言うものだった。そうなるとパトリシア嬢に対する誹謗中傷もアシェリ・スタッドの仕業ではないかとの憶測が広がった。


クーゲル公爵も当然 アシェリの事は耳に入った。

だが、迂闊に疑える相手でもなかった。よって入念に調べ上げた。

結果は何も出て来なかった。

学園でも常に魔法師たちが側にいて1人になる事はない、そして夫のセルティス以外とまともに話しているところを見ることもない…、結果は相変わらずの引き篭もりでオドオドしていて、派閥の者を使って何かを企むような事もない、そもそも取り巻きの1人もいない。肝心のアレクシス王子殿下とは近づく素振りどころか避けている。

以上の事からアシェリ嬢がパトリシアを疎ましく思い画策する必要がない、噂は故意に悪意を持ってアシェリ嬢を貶めているだけ。だが実際にパトリシアはアシェリ嬢以外の誰かに貶められているのは事実だ。そこで噂の出所を先入観を除き追うことにした。

アシェリ嬢がどうなろうと関係はないが、パトリシアが傷つき、クーゲル公爵家が傷つき、未来の王妃を逃す事態をおざなりにできることではなかった、総力を使って犯人を見つけ出す!



報告の中で最も怪しいのは聖女マリアだ。メリットから考えればあの小娘しかいない。

そこで手始めに聖女マリアの後ろ盾と実家ダラス男爵家に痛い目を遭わせることにした。




アシェリは意識を集中させてセルティスの行方を追っている。

今のところ結界に影響は出ていない。つまり結界を破られる事態には陥っていないと言うことで少し安堵する。


セルティス君とアシェリちゃんはやっと本当の夫婦になれたのに、アシェリちゃんがどれだけ悲しんでいるか!! 犯人許すまじ!! おばちゃん本気出すからね!!


セルティス君は風魔法が使えるから 何か信号を出しているかも!

あっ! そうだ アレがあるじゃないか!!



「お嬢様! お嬢様!」

「ノークどうしたの!?」

「目撃者を見つけました! セルティス様は泣いている少女の救援に応じ少女と共にロペス侯爵領の方へ向かったと言うことです!」

「すぐに向かうわ! 馬を用意して頂戴!」

「はっ!」


許せない! 眠ったままでいたい子供を起こしたわね! セルティス君に何かしたら…いやもうしているか、関わった人は絶対…許さないんだから! 厨二病 全開で懲らしめてやるんだから!!




クーゲル公爵はマリアの実家 ダラス男爵家の関係者・親族全てに圧力をかけた。ダラス男爵は大騒ぎし始めたが、正直マリアにとっては父親の実感もない、ただの生物上のつながりでしかない、父親の注意には従わなかった。マリアにとっても折角掴んだチャンスを逃すわけにはいかなかった。


そして次に問題視されたのがマリアの成績についてだった。

前回の成績ではマリアは学年4位と右肩上がりどころの騒ぎではない優秀な成績をおさめたが、マリアは元々平民の出で字を書く事はもちろん、字を読むのも貴族で言う8歳程度のレベルであった、つまり生活に必要な言葉だけ。聖女教育でマリアが学んでいたのは、魔力操作、回復魔法、貴族のマナー、教養など どれをとっても普通以下。回復魔法は体力を回復させる程度のもので欠損部位を再生させる程のものではない。世間は平民から聖属性の魔法の使い手 聖女が出たと言うことが重要で、魔法レベルはまだまだ未熟であった。

それが学年で4位の成績などあり得ない!!と暴露したのだった。


成績については教鞭をとった教師たちからも疑問視されていた、授業の中で見たマリアはとても成績優秀者とは言い難く、寧ろ落ちこぼれだったのだ。がからこの成績に関しては、教師間では何らかの不正があったのでは? そう囁かれていたので、マリアの疑惑を肯定することとなった。

マリアは懸命に『私はカンニングなんてしていない! 答えが頭の中に浮かんだだけ!』

そう答えたが納得してくれる者はおらず、再テストを望む声が次第に大きくなっていった。


この再テストの声には何故か聖女マリアの信者が庇う声がだんだん減っていった。

マリアの周りには日を追うごとに味方が減り、唯一の味方であったカミラも側にはいなかった。孤立して行くマリアはアレクシス王子殿下たちに救いを求めたが、アレクシス王子もまた以前のように冷たい表情をするようになっていた。


後日マリアには再テストが行われた。

その結果は散々たるもので学年4位は取り消された。そして『平民はやはり信用できない』『偽物聖女』『パトリシア嬢からアレクシス王子殿下を毒牙で奪おうとした』など悪意に満ちた噂で持ちきりとなっていった。

マリア自身もここ最近のことが自分でも理解できずに困惑し孤立していった。

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