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42、想定外

「おい、ダリウスどうする? マジで誘拐事件は起きているみたいだぞ? 既に戦争は日を追うごとに深刻な状況だ。スターチス国の援軍も、ガーランド公爵家の後ろ盾も何も得られていない、次の手はどうする?」


ダリウスことブリースト王太子やカラバスクは身分を隠し各国をただ漫遊していたわけではない。各国に直接王太子自身が入り込み主要人物と強力な人脈を築くために回っていたのだ。ムージマハル国はセンダラーハン国と常に一触即発の状態にあったため、王子と生まれた瞬間からセンダラーハン国との未来 付き合い方について叩き込まれる。

そしていつも結論はセンダラーハン国を潰すべし、で終わる。何故ならばセンダラーハン国こそが元凶、戦闘狂で他国から奪い略奪することしか考えてない頭のおかしい奴らだからだ。こちらが幾ら話し合いを持って協力関係を築いていこうとしても無駄なのだ。我が国以外はどうしているかと言えば、高い塀を築き精鋭を国境に配備し、常の監視状態しにして臨戦態勢だ、

だからダリウスたち王子は自国で就学を終える者はまずいない。大半の者が各国を周り自国のための防衛と対策を学び、各国の王族との良好な関係を築く努力をする。そして就学の時期になるとスターチス国に留学し学び自国へ戻るか、更に別の国に潜伏する。

ダリウスことブリーストの父もかつては学園で学んだ後、タングストン侯爵領の隣に潜伏しこっそり探り、22歳の時に自国へ戻った。その時戻ったのもセンダラーハン国が戦争を仕掛けてきたからだ。

ムージマハル国にとっては迷惑極まりない厄介な存在だった。


くそっ! 何だって今なんだ!!


ブリーストのスターチス国での役割は3つ。

1、ガーランド公爵と太いパイプを作ること

2、スターチス国からの支援を取り付けること

3、アシェリ・ガーランドと懇意になり自国へ連れ帰る事(結婚相手として)、若くはステファンと友人関係になること


全くもってこの数ヶ月 何の収穫もない状態だ。

こんな事未だかつてない。どこへ行っても王者の風格に鼻のきく者は擦り寄ってきたがこの国では誰も寄ってこない。所詮弱小国と馬鹿にしてのことか…?いや、その前に我らの事を調べている様子もない。ガーランド公爵程になれば既に知っていると思ったが、ステファンにしてもあのアシェリにしてもこちらに興味を示さない。

それにしても我が国に店を出していたり、家を購入する者もいたのに、その者たちも接触してこない。どういう事なのだ?


「この国にある薬屋セレニテを張ろう。代表のルイス・レーベンは各国を回っていていつ帰るか分からないとの事だが、それでもいつかは帰るだろうし、連絡を取る者はいる筈だ。

時間はかかるが今はそれしか手立てがない。働く人間全てに見張りをつけろ!」

「分かった」


ガーランド公爵も必ず会わねばならぬが、誘拐が起きているとなると難しいだろう。

誘拐の可能性が1番高いのはアシェリだろう、そうなると今ゴリ押しするのは悪手だ。

それより今は大量の物資が必要になるかも知れない、そちらを準備するべきだ。


ブリーストたちは自国に今必要な事から着手した。




学園では不思議なことが起きていた。

「アレクシス様?」

恐る恐る声をかけたパトリシアだった、それに困惑した顔を浮かべるアレクシス王子殿下だったが

「パティこちらへ来て」

「は、はい」

「…ごめんね、酷い事を言って、凄く傷付けたよね?」

「ヒックヒック 凄く淋しゅうございました」

「本当にごめん」

優しくパトリシアの頬を両手を包み込み目を見て謝罪をした。

少し落ち着くと何があったのかをアレクシス王子殿下に聞いてみた。


「それがよく分からないんだ。こえ、声が聞こえてそれに抗うことが出来ない…、最初はマリアが正しく、マリアを否定する者たちは間違っている、マリアを否定する者たちは悪人だ、許してはならないと声がするんだ。自分の意思ではどうにも出来なくて凄く恐ろしかった…、最近になってやっと声が小さくなってマリアの意見が正しい訳ではないと頭の中では否定出来るが、行動は相変わらず意思に反してマリアの声に従ってしまっていたんだ。

自分でも何が起きているのか…、怖くて仕方なかった。パティに伝えたい事はちっとも声にならないのに、勝手に言葉が出てきてはマリアに甘い言葉を囁く自分がいるんだ、気が狂いそうだった」

「まあ! なんて恐ろしい! そんなにもお苦しみになっていたのにわたくしったら…アレクシス様を責めてしまったりして申し訳ございませんでした」

「いや、悪いのは私だ。ちゃんと真相究明するつもりだよ、本当にすまなかった」


「しかしながら学園の半数近くの者が休むなど、異常な事態ですわね」

「ああ。だが私も気持ちは分かる。ここ暫くのことを考えると、学園に…マリアに何かあるのかと思わざるを得ない、だから少し距離を取りたい…恐らくそんな心情だと思うよ。自分が自分でなくなる感覚は二度と味わいたくない」

「不思議ですわね…。わたくし周りから悪役令嬢だって後ろ指刺され苦しかったのです。でも…、同じようにアシェリ様も悪し様に言われて謂れのないことで誹りを受け無実と分かっていてもわたくし自身もやはりアシェリ様が何かしたのかも…などと憎しみが募ったのです。

その…アシェリ様の名前が上がったことで今回も父が徹底的に調べたそうなのです、ですがアシェリ様の関与は一切見受けられなかったと報告を受けました。つまり本当にあの方もわたくしと同じ被害者だった。けれども彼女はいつも耐えてらっしゃる、証拠もないのに疑うなど淑女あるまじき行動でしたのに、それが出来なかった」

「そうだね。本来公爵令嬢であるパティにも彼女にも弁明も出来ないなど、やはり私の罪は大きいな」

「申し訳ございません、その様なつもりではなかったのです。ただ、その…実は…、父がアシェリ様の周りを探るうちに掴んだのですが、現在ガーランド公爵家では誘拐事件が起きていらっしゃる様なのです」

「何だって!?」

「しっ! お静かに願います。まだ公になっておりません。それに万が一アシェリ様でしたら、大醜聞です。迂闊に広めるべき事ではありません」

「ああ、ああ その通りだ。まだ見つかっていないのか?」

「学園ではステファン様、セルティス様、アシェリ様 どなたも登校されていません、まだどなたの事かは分かっておりません」

「なんて事だ!! 私がおかしくなっている間にも事件が起き、何も知らずにのうのうとしているなど! …私は無力だな」

「アレクシス様…、ですがあのガーランド公爵家です。きっとすぐに見つかります」

「ああ、そうだな。無事だといいな」

アレクシスはこの件を聞いてマリアに対する恐怖は吹っ切れた。自分がやるべき事に目を向けた。




カミラ・グラハムは実家に呼び出されていた。

「お父様 どうなさったのですか?」

父親の顔色から見てもいい話であるはずはなかった。

「すまない、お前に縁談だ。商売をしている人で平民ではあるが結婚しこの家を継いでもらおうと思っている」


「お相手の方は何歳ですか? 商売って何をしている人ですか? いつ結婚するのですか? 私に拒否する事は出来るのですか?」

「ぐっ、相手は46歳で…、高利貸しをしていらっしゃる。結婚は2〜3ヶ月後……我が家は貴族だ、拒否しようと思えば出来るだろうが、借金が嵩み…もう、うちはゴーギャン殿に頼るしか他にないのだ」

カミラは震える手でドレスを握りしめる。


ずっとこの日を恐れて準備してきたのに!!

最悪の結末を変える事はできなかった! 何のために頑張ってきたのよ!!


「お父様、他に手はありませんの?」

「すまない、私も色々とやっては来たのだ! お前との結婚以外はなんでも! でも駄目なのだ、私には金を増やす才能がない。お前だって娼館で働くより男に嫁いで1人の男と添い遂げる方がいいだろう? これからは金の心配もいらないのだぞ! 借金も無くなるし、お前もその方がいいだろう? 私はお前のためを思って決めたのだ」

「やめてよ! 私のためって何? お父様が誰彼構わず人に借金してまでお金を貸すからお母様だって出て行ったんじゃない! だからお父様にお金を貸さないで、借金しないでって何度も言ったわ!仕事だってお父様にも出来ることを考えた、でも騙されてばかり。それなのにいつも私が尻拭い…私じゃなくて貧乏人にばかり良い顔して!! 私がいなかったらお父様はこの借金をどう返済するつもりだったの? 私を売った後はどうするつもり? 次は何を売るつもり?」

「お前はお父様になんて口を聞くのだ! 困っている人がいるのだから仕方ないだろう!」

「どうして? ねえ どうして困っているのは私でしょう! なんで私がお父様より年上の、そんな30歳も上のおじさんと結婚しなきゃならないのよ!! お父様が年上の金持ちのおばさん捕まえて借金肩代わりして貰えばいいじゃない!!」

「…そんなこと言ったって…私には女性を引っ掛けられる様な魅力はない…」

「そういう事じゃないのよ!!」


カミラは部屋に閉じこもった。

とてもじゃ無いけど学園に戻る気にもなれなかった。


どうして!? なんでこうなるのよ!!

何でよ! どうして私ばっかり苦労するのよ!何で幸せになれないのよー!!



カミラ・グラハムは転生者、前世での名前は水野香澄 享年16歳 短い人生だった。

香澄の親は所謂ネグレクト&モンペだった。

私には無関心なくせに何かある度に学校に乗り込み大声で喚いた。そうすると先生も私に気を遣う様になった。私が親に告げ口しない様に滅多な事では怒ったりもしない。小学生の高学年辺りから私は勘違いする様になっていった。友達も先生も皆私のご機嫌取りをする、だから何をしても許されるって勘違いした。

母さんは学校で何があったかよく聞いた。普段は聞き流しているくせに偶に母さんのアンテナに引っ掛かると根掘り葉掘り聞き出す、でも嬉しかった、その時だけは無視じゃないから。


うちの両親はいつも不満でいっぱいだった。

だからあっちでもこっちでも文句を言う、そうすると菓子折りを持ってスーツ着た人がヘコヘコ謝りにくる。そのタダで貰った菓子折りにまで文句言う。

皆がうちの親にヘコヘコするからうちって偉いんだなって思ってた。


中学に上がって友人関係に変化が生まれた。

いつも一緒にいた友達が距離を取る様になった。最初は忙しい時もあるか、その程度にしか思わなかった。だけど仲の良かった友達は皆塾に通うから遊べないって言うようになった。塾に通っていない私は時間が余る様になった。他に塾に通っていない友達を探したが見つからなかった。ある時、仲の良かった友達が皆でネズミーランドに行ったって小耳に挟んだ。何だよ! 何で誘ってくれなかったんだよー!

そう思って話に行くと焦った友達がスマホ落とした、そこにあったのは私の悪口のオンパレード。「何これ?」睨む私に「あっあっ! 言わないで! あんたん家の親に言わないで!!」必死に泣き縋る。

「はぁ? その前に言う事あんだろ? 見せろよ!」無理やり奪ったスマホにはずーーーーっと前から、仲が良いと思ってた時から私を省いたメンバーで私の悪口言いまくってた。

友達と思ってたの私だけかよ…。その中でうちの親がイカれてるから私の機嫌取らないとヤバいことになるってあった。全部うちの親が偉いんじゃなくてイカれてるからだったんだ。道ですれ違ったスーツのお兄さんたちも「毎度毎度ふざけやがって!いつか訴えてやる!」「警察には通報済みだそうですよ、警察の話だとかなりの被害が出てるって」「早く捕まえろっての!」あれはうちの事だったんだ…。

うちは皆から嫌われていた『イカれたクレーマー』うちについたあだ名だ。


知らなかったんだもん、小さい時からそれが当たり前だったから!


修学旅行のグループ決め…誰とも組めなかった。

前だったら「一緒に回ろう」と言えたけど、知ってしまった後では声を掛けられなかった。そしたら担任が余った奴と一緒でいいか、1人がいいか聞いた。

愕然とした、あんな冴えない奴とあたしが一緒だって言うの!?

ムカついたから1人を選んだ。だけど念押しで「あなたの意思を尊重した結果ですよ」だって。現実が見えてきた…学校に行くのが嫌になってきた。


そして天の定めかそのタイミングでうちの親が捕まった。

後ろの車の運転が危ないって通報されてた、それでもいつもの様に手当たり次第に噛みついて無理やり運転手を外に引き摺り出した。恫喝を繰り返し運転手は恐怖から心臓を押さえ苦しみ出しうちの親から逃げ出そうと走ったところ対向車に轢かれた。

連日 うちの両親の事がテレビで報道された。娘である私の事までテレビで悪魔の子はやはり悪魔と叩かれた。その上、学校や近所も皆有る事無い事悪口を言いまくってた。

誰も彼も怖くて家から出られなくなった。


親もご飯なんて買ってくるだけで作って貰ったことなんてないし、私も家事が出来ない。

やる事もないからスマホを見るとネットも全部うちのネタで見る気しなくなった。外が煩いからヘッドホンで音楽聴いていた、そこに置いてあった母親が買い替えて置きっぱになってた古いスマホがあった、暇だからその中の乙女ゲームを一日中やってた。


家にあるもので何とか凌いだけど数ヶ月経つとその内ガスも電気も水道も止まった。冷蔵庫の解けた氷の水を飲んだりマヨネーズとかケチャップとかも飲んだ。カップラーメンもかじった。何もなくなってスマホも動かなくなって、あたしも動かなくなって気づいたらこの世界に来てた。


でも転生した先はよりによって貧乏な家。

混乱した、目を覚ましたら外人の顔してる奴があたしの親とか言うし、少しするとお母さんとお父さんと思われる人たちは喧嘩してお母さん出ていっちゃった。物心がつくとお父さんが借金ばかり作ってうちはお金がないって事が分かった。昔の?記憶にある親は人を恫喝して物を巻き上げる人だったけど、今のお父さんはどこまでも良い人らしい。困っている人がいると放っておけないらしい、まるで正反対だ。 …あれ?前の人ってどこの人だっけ? あたしの名前は何だっけ? カミラ…そうだ、カミラあれは夢か、変な夢を見た。


借金を返すために親子2人で頑張っていた。でも気づくとお父様は「お金を貸して」って言われると借金してまで貸してしまう、それはヤメテと何度言っても治らない、貴族なのに細々と小さな仕事をしながら生きてきた。お父様はずっとそばにいてくれるんだもん、その為にやれる事をやるしか無い。


転機が来た。

14歳の時にパードック侯爵領で流行病が発生してマリアの願いに女神様がお応えになり、マリアが聖女の力を授かった、その時に思い出したのだ、いや違うこの世界が乙女ゲームの中だって認識した。それから分かる事を確認するとあのゲームの世界そのままだった。一気に楽勝モード突入!

マリアに近づき情報を与えバックアップする事で信頼を得てマリアの侍女となり王宮で働いて、王妃付きの筆頭侍女になれば借金も返して、食べるものに困らない生活ができると思った。でも、肝心なとこで悪役令嬢アシェリ・ガーランドがゲーム通りに動かないとか意味は分かんない! マリアの為にアイテムのカップケーキだって何度もミッションクリアしてゲットした。でも全然ゲーム通りにならなかった。必死に足掻いても足掻いても全然思う様にならない!

でも考えた、あの乙女ゲームで違う行動をしているのは悪役令嬢アシェリにパトリシアそれからアシェリの旦那のセルティス。アシェリがちゃんと悪役令嬢をしてくれないから上手くいかないんだと思った、だから悪役令嬢に悪役令嬢の仕事をして貰おうとまずはセルティスを誘拐して貰った、ちゃんとお金を払って。これで旦那がいなくなればきっとアシェリもアレクシスの事好きになると思った、それに働いて高いアイテムも買った、そしたら最近やっとアレクシスとマリアがくっつきそうになって 良いところなのに急にお父様に呼び出された、あとちょっとなのに!

どうして上手くいかないの!! ゲームの舞台が整わないから上手くいかないのよ!

一体誰のせいよ!!

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