13 夏の暑月 6
ある日のことです。お兄様が夕食の席で思い付いたようにおっしゃいました。
「プリム、来週どこかで時間は取れるか。メアリー嬢も一緒に」
「来週ですか? エステル、わかる?」
「今のまま変更がなければ、調整可能でございます。メアリー様は存じ上げておりませんけれど」
エステルの答えにお兄様は頷きます。
「郊外の王立庭園で百合が見頃だそうだ。お前も休暇中だし、散策でもどうかと思ってな」
そう言いながら、お兄様は給仕に葡萄酒のお代わりを頼まれます。
なるほど、それは
「メアリー様とのデートをお膳立てすれば宜しいのですね」
もう二人きりで出掛けてらっしゃるのに、何を今さら、と思わないではないですけれど、誘っていただけるのは嬉しいですし。
「ま、まあ、そう言うことだ。お前がいた方が、メアリー嬢も楽しめるだろう」
少ししどろもどろなお兄様は珍しいかもしれません。わたくしは頷いて答えます。
「かしこまりましたわ。メアリー様にお手紙を書いてみます」
「ああ、頼むよ」
百合の盛りの庭園なんて、何て素敵でしょう。緑も盛りでしょうからきっと見ごたえがあるはず。
この時期のお出掛けなら薄着でも良いでしょうか。日焼け対策もしなければなりませんし。お弁当には食中毒対策がいりますわ。
「お弁当、ご用意しますわね」
わたくしはうきうきと口にします。お兄様はカッと目を見開いてから、なにか口許をモゴモゴさせ、それから
「お前は思いもよらない美味を作ることがあるから、そのだな、多めに作ってくれ」
と小さく溢されます。
「まあ」
わたくしは思わず笑ってしまいます。
「かしこまりましたわ。お兄様。取って置きのお弁当をたくさんご用意しますわね」
夏ですからなま物はいけませんわね。火を通して、良く冷ましたもので、それをさらに現地で少し、わたくしの魔法で炙るのも良いかもしれません。
「あまり暑くならないとよろしいですね」
とエステルが珍しく口を挟みます。
「それはそうだけれど、どうして?」
「王立庭園とはいえ屋外でございますから、宅内でお召しいただくような肌の見える薄着はご用意いたしかねますもので」
町に出る時は薄着だった気もするのですが、その辺り、わたくしの知らないマナーがありますの? 準茶会くらいの心持ちでいた方が良いのかも知れません。
「おそらくまだ刺激が強うございますので」
最後にエステルが呟き、お兄様が、んぐっ、と息を詰めました。
「ああ。わたくしが薄着を選ぶとメアリー様も薄着になりますものね。それは、お兄様に目の毒ですわ」
うふふ、と笑うと、エステルとお兄様が遠い目をしました。
なんで。
なんで二人が分かり合ってるのですか。
「どうせわたくしの薄着など見たくもない、ということでしょう。分かっております。が。メアリー様には薄着で行こうとお誘いしておきます」
可愛くしようとかわたくしが色気を出すなってことでしょう。わたくしだって本当はTシャツとデニムで夏を過ごしたいところなのです。綿のワンピース一枚で過ごしたいところなのです。
わたくしはメアリー様の引き立て役に徹しましょう。そうしましょう。
「お前は可愛いから自信をもて。余り可愛くすると『変な虫』がつくだろう」
「まさか。王立庭園でそんなことございませんわ」
変な虫、とはつまり変質者や悪い男性という方々でしょうが、警備が厳しい王立庭園でその様な無体をできるわけがありません。
お兄様がそれを知らない訳はありませんから、ただ、わたくしへのフォローなのです。
「お嬢様、お嬢様の薄着は可愛らしすぎて目に毒なのです。ほんと、本当です。ですから、せめてスカートは長めにいたしますね。ええ。長袖は暑いかもしれませんから、わたくしが日傘をおさししますから」
エステルの言葉にのってわたくしが拗ねたから、エステルがとても困っておりますね。別にエステルを責めたいわけではないのです。
「ありがとう、エステル。わたくし、あなたを責めたのではなくてよ?」
「存じておりますお嬢様。閣下が悪いのです『最初』から」
やけに『最初』に力を入れておりますけれど、わたくし、庭園に誘われたこと自体は嬉しいのです。
「庭園に誘っていただいたのは嬉しいわ。メアリー様も一緒だもの。お兄様の恋の応援とはいえ、とても楽しみだわ」
エステルは仕方ないわねぇ、という顔をしています。良く分かります。わたくしが我が儘を言うと、エステルが折れてくれるとき、こんな顔をするのです。
「かしこまりました。では、目一杯楽しめる装いをご用意します」
エステルが微笑んでくれて、その日のお話は終わりました。
翌日、わたくしは早速メアリー様に手紙を書き、下男に直ぐに届けてくれるよう頼みました。
下男は思ったより時間がかかって帰ってきて、その手にはメアリー様からのお返事を携えておりました。
メアリー様! 急いでお返事を書いてくださったのですね! 好き!
メアリー様のお返事には喜んで、いつでも構わないとありましたので、今夜お兄様にお話しして、お兄様のご都合に合わせましょう。
楽しみです。ああ、あのマダムにお見せした小花柄のワンピースなんてどうでしょう。つばの広い帽子を被って、レースの長手袋をすれば良いかも知れませんわ。
「エステル。メアリー様が何時でも構わないそうだから、当日の服を一緒に選んでくれる?」
今のうちにコーディネートを考えて、早めにお弁当のメニューも決めておきましょう。試作も必要ですしね。
「かしこまりました。お天気に合わせて三種類ほど組み合わせを考えておかれてはいかがでしょうか」
有能~~。流石の対応ですわ。
「そうね。暑い日と、そうでもない日、あとは雨の時の三組かしら」
「左様ですね。流石に雨ですと閣下が中止になさるかも知れませんが、小雨なら出掛けられるでしょうし」
小雨用はブーツに合わせられる装いがいいわね。水飛沫を見越して、洗濯しやすい生地にしましょう。
暑い日は半袖にしたいし、そうでない日は五分丈かしら。
エステルを伴って衣装部屋に向かうといつの間にかポリィとオルトも付き従っておりました。
ポリィとオルトは、わたくし付きだけでなく、家政やメイドといった屋敷全体の仕事を学んでいる最中でもありますので、時折こうして、わたくしのそばを離れることがあるのです。ただただ、わたくしの側仕えに加わるというだけでなく、わたくしがやがて嫁いだりしたときに、女主人として振る舞うことを補助するために屋敷の運営を学んでくれているそうです。ちなみに、エステルはエステルの母であるメイド長家政婦の仕事を全てこなせるのだとか。さすがわたくしのエステルです。
そしてちなみに、わたくしがこんな風にのんきにお出掛けの用意をして夏休みを満喫出来ているのは学園の皆様のお陰だったりしております。
本当は、学園祭のスポンサー集めに、商会回りをする予定でしたし、そのつもりで日程も組んでいたのですけれど、特に商業専科がここぞと燃え上がりまして。本気ですかと思っておりましたら、わたくしが学園から屋敷に入った二日後に、話はついた、と、商業専科の自治会役員であるサーティー様からお手紙を頂いたのでした。
その後、各商店との契約書面の写しも見せていただきましたので、ほんと、やること失くなってしまいましたのよね。その上、商業専科はその契約したスポンサー何店舗かの商品を置く模擬店とは別に、各専科、たとえば調理専科の方々が調理に専念できるよう、仕入れや会計などのサポートにも付くそうなのです。実務の訓練になる上、調理専科の自分でお店を持ちたい方々などは商流の勉強にもなって一挙両得、Win-Winの関係なのだとか。素晴らしいです。というか既にそこまで話が進んでいておいてけぼりな感じが凄いですわ。
自治会という横の繋がりが、新しい学びを産み出した、となれば、学園側も学園祭を支援した甲斐があったと思ってくださるでしょうし。
ありがたく、お休みを満喫いたしましょう。
衣装部屋の中を歩き回って早速装いを考えます。
涼しげな色味が良いですわね。
晴れの日はやっぱり、あのワンピースを選びたいのですけど。
「エステル、先日のワンピースを晴れの日の装いにしてはどうかしら?」
「よろしいかと思いますが、上半身がタイトな仕上がりですから散策で苦しくなられないかわたくしは心配です」
なるほど。動き回るのでサイズに『遊び』があるものがよいのですね。確かにそうです。
「そうねぇ」
どうしようかと歩き回ると、五分袖パフスリーブのブラウスが目に止まりました。
「あら。これ、暑くない日にどうかしら。スカートはなにかいいものはある?」
「でしたら、緑溢れる庭園ですし、こちらのバーガンディ色などいかがですか」
オルトがさっと差し出したのはバーガンディ色の膝下スカート。裾に白いレースがあしらわれています。
白いブラウスに、ふんわりとした形の、けれど落ち着いたシックな赤系スカート。緑の中に赤なら紛れなくて良いですね。
「これならブラウンの革の靴が良いわ」
「でしたらこちらを」
ポリィがシューズケースから美しい赤みがかったブラウンのブーティーを取り出しました。
「こんなの、持っていたかしら」
バーガンディのスカートも、このブーティーも、初見の気がするのですが。
「ご入学の際に、こちらでお召しになる分として、作らせておきました」
普段着向けにわざわざ作ってくれていたのですね。いつの間に。
「ありがとう、エステル。そこまで考えてくれていたのね」
「お決めになったのは閣下でらっしゃいます。こちらの屋敷には基本的にドレスと部屋着と余所行き数着しかないから、学園に入ると不便になるはずだ、と」
お兄様、そこまで気を遣って頂いていたなんて。
「これはなんとしても、お兄様とメアリー様の関係を応援しなくては」
わたくしはふんすと気合いをいれます。
「このブーティーが可愛いから、暖かい日の装いもこのブーティーに合わせましょう」
わたくしがそう告げて、衣装選びは進んで行きました。
なんとか選び終えて迎えた夕食の席で、お兄様にメアリー様のお返事を伝えますと、あからさまに安堵したご様子。断られたら悲しいですものね。
「では、そうだな。来週の水曜日でいかがかと伝えてくれ。我が家の馬車で迎えに行こう」
「かしこまりました。お伝えいたしますわ」
楽しみですわね、と続けると、お兄様は微笑んで、
「ああ、そうだな」
と応じてくださいます。今日が水曜日ですからちょうど一週間ですね。準備をすすめましょう!
そうこうするうち、あっという間に一週間が過ぎ、夏休みも後半に突入。今日はお出掛けの日です!
朝から天気は快晴で、暑くなりそうですが、無事に出掛けることは出来そうです。
少し早起きしてお弁当をバスケットに詰めて、それからお兄様と朝食です。お兄様も心なしかそわそわとなさって。
食後のくつろぎも早々に、わたくしは部屋に戻って身支度です。
顔を洗い化粧水を馴染ませて、乳液をマッサージと共に塗り込まれます。
染み込ませている間に服を着替えましょう。晴れた日の装いは、さらりとした手触りの生地のワンピースです。これも、春先にお兄様が用意してくださったものだとか。このデザインが、お兄様の趣味だとしたら、どういう顔をしたものでしょうか。
ともあれ、ワンピースを着たら、髪型とお化粧です。エステルたち三人が一斉にわたくしの周りを取り囲みました。
わたくしはされるがままです。
ポリィとオルトが二人で髪を弄っていますし、エステルが化粧をしていきます。どんな状態か見たいのに、
「目は閉じて。動かないでください」
と言われてしまえば従わざるをえません。
夜会や正式な集会ではありませんから、そんなに気合いをいれなくてもと口にしようものなら多分物凄く怒られますから口は噤んでおきましょう。
そうして、一歩間違えば眠りそうになる心地よさの中。
「よろしいですよ」
とエステルが声を掛けてくれたので、そっと目蓋を開きます。
正面の鏡には、ほんのりと化粧をしたわたくしの顔。別人、とまでは言いませんが綺麗にして貰いましたわね。大分気合いを入れられた気がします。
ナチュラルに華やかな感じですわよ。腕を上げましたわねエステル。
かたや、髪型は帽子を被ることを想定して、低めに編み込みで纏めてあります。鏡をもって後ろに立ってくれたポリィのお陰で、正面の鏡越しに髪型が見えます。涼やかな白いレースのリボンで纏められておりました。
「可愛すぎないかしら」
引き立て役としてはあまり盛り過ぎも良くないと思います。
「お嬢様は可愛いです」
間髪入れない全肯定エステルは平常運転ですね。
立ち上がって、姿見の前でくるりと回ってみます。
胸元でリボンを絞ったハイウェストのエンパイアライン。エンパイアドレスほど胸元が開いていないのがポイントでしょうか。
日焼け防止に短めのレースの手袋もしておきます。帽子は、今回のお出掛けに付いてくるエステルが持ってくれています。
「ありがとう、三人とも」
お礼を言って微笑むと、嬉しそうにオルトとポリィがはにかみました。
年上だと思うのですが、可愛いと思ってしまいます。
「キッチンでバスケットを受け取って、エントランスのサロンに行きましょうか」
そうそう。わたくしのポーチのなかに、エステルとの合作メアリー様用サシェも忘れずに。もちろん、わたくしのサシェも入っております。
三人を引き連れて、わたくしは自室を後にしました。
サロンでは既にお兄様がお待ちでらっしゃいます。遅刻したでしょうかと時計石を見ますが、少し早い、くらいです。お兄様、わくわくしすぎでは。
「お待たせいたしましたわ」
お声がけすると、お兄様がソファから立ち上がられました。
ゆったり目の詰襟シャツにジャボを付けて、濃紺のボトムスに革のロングブーツ。乗馬もできそうな装いですね。
「わたしが早すぎたんだ。気にしなくて良い。しかし、可愛くして貰ったな。ただその、まとめ髪で襟足を出したままにするのか?」
先日おっしゃっていた、悪い虫、をまだ気にしてらっしゃるのでしょうか。
「エステルが持ってくれている帽子を被りますわ。お兄様。ご心配には及びません」
「あまり、めかし込むと心配なんだが」
「またまた。お兄様は今日はメアリー様をしっかりエスコートしてくださいましね」
うふふ、と笑うとまたお兄様が遠い目を。
まったくもう。メアリー様にお会いするのに心配ですわ。ともあれ、まずはお迎えに参りましょう。馬車は二台。片方にわたくしとお兄様。もう一台にエステルとトーマスが乗り込みました。メアリー様にはわたくしたちの馬車に乗っていただく予定です。
ぱかぽこ、馬車は貴族街を進みます。
コンツェルト伯爵の邸宅は、貴族街の位置としては、やや大通りよりにあります。爵位と位置の関係なら例外のひとつでしょう。というのも、百年前の戦時に、当時のコンツェルト伯爵が直ぐ様王城へ行けるように、と大通りにより近い場所へ邸宅を移したからなのです。
騎士を代々勤めるコンツェルト伯爵の邸宅は、正に質実剛健という門構えです。馬車や騎馬が難無く通れる広い通りに面して、大きく鉄の門が建っております。
先触れを遣っておりますから、門前には既に門兵と共に使用人が立っておりました。
門が開かれ、コンツェルト家の使用人が我が家の御者に一言二言伝えますと、使用人はさっと邸宅へ向けて走り出し、先に帰って行きました。おそらく、到着を告げに行ったのでしょう。それを見送ってから、馬車もゆっくりと門の中へと進みます。
窓から覗き見れば、観音開きの正面玄関が、ゆっくりと開かれているところでした。
馬車が玄関前に滑り込むと、メアリー様が姿を現します。白いレース袖のブラウスに、ひまわりのようなイエローのスカート。裾に蔓草の刺繍がされています。
夏! といった装いですわ。草原の真ん中で麦わら帽子を風にさらわれて欲しいですわね。
御者が馬車のドアを開き、踏み台を置くと、お兄様が直ぐに降りられます。わたくしは馬車の中から顔を覗かせました。
「ご機嫌麗しく、メアリー嬢」
「ご機嫌よう。メアリー様。お変わりはない?」
「ご機嫌よう。変わりありませんわ。リバート様、メアリー様も、お変わりありませんでしたか」
お兄様の手を借りながら、メアリー様が馬車に乗り込まれました。
「ええ、変わりありませんわ」
メアリー様に隣に座るよう促して、二人並んで座ると、向かい側にお兄様が腰を下ろされました。
ぱたん、とドアが閉まり、ゆったりと、馬車は走り出します。
わたくしは、早速メアリー様に、作ったサシェを取り出しました。
「メアリー様、よろしければ、こちら受け取ってくださいまし」
「プリム様、こちらは?」
「ジンカイイのハーブを使った香り袋ですの。二重袋になっていて、外袋と中袋の間に乾燥させたハーブが詰まっておりますわ。お友達の印に受け取ってくださいませ」
わたくしが自分の分を取り出して振って見せると、メアリー様は直ぐに気付かれたようでした。
そっと両手で抱き締めてくださいます。
「ありがとうございます。プリム様。こちらの刺繍は、花と剣、ですか?」
「左様ですわ。お恥ずかしながらわたくし、絵心は手に入りませんでしたので、イメージを伝えてエステルに刺してもらいましたの。メアリー様の分は最初の一針だけわたくしが。
わたくしが最初から最後まで刺したのがこちらですの。お見苦しいでしょう?」
エステル曰く、花と蛇の刺繍をお見せすると、メアリー様は目を真ん丸にされました。
「その、えっと」
「気遣いは不要ですわ」
わたくしが苦笑するとメアリー様も苦笑いを浮かべられました。
「その、確かに絵は、わたくしが頂いた方が美しいと思いますが、刺繍の刺しは、プリム様の方が緻密に見えますわ」
メアリー様の慰めに、わたくしははたと思い出します。
そう、生前祖母に習っていた日本刺繍の腕は衰えては居なかったのです。
「今回は自分で絵を描いたのが間違いでしたわ。次回からちゃんと、下絵は別の者に頼みますわ」
わたくしのことばに、メアリー様は苦笑のまま頷かれます。
それから、ご自身の巾着袋から、そっとハンカチーフを取り出されました。
「リバート様、プリム様、今日はお誘いいただいてありがとうございます」
そう言って、わたくしとお兄様に一枚ずつ、蓮の花とイニシャルの刺繍がされたハンカチーフをくださいました。
「プリム様の手をご覧になったあとでは恥ずかしいのですけれど」
「いい──」
「いや! 嬉しく思う。大切に使うよ」
わたくしがいいえと言うより早く、お兄様が答えます。お兄様ったら。嬉しくてはしゃいでおられるのね。
メアリー様は今度は自分のハンカチーフに包んでいた小さな結晶を取り出されると、そっと、わたくしのお渡ししたサシェに仕舞われました。
それを見ていたわたくしに気付いて、二人で微笑み合います。
このサシェの意味がわかるのは、わたくしたち二人きり。なんだかくすぐったいです。
「仲が良いな」
とお兄様が呟かれますが、もちろんですとも。
「だって、わたくしがメアリー様を大好きなんですもの」
「わたくしもです!」
「相思相愛とは羨ましいことだ。しかし、プリム、お前は刺繍が得意ではなかったか?」
お兄様、それを蒸し返されますか。
「以前お見せしたのは、一枚布に図案を写して刺したものですわ。今回は、蓮布の端切れでパッチワークをしたこともあって、図案を写せなかったのです。それでその、わたくしの絵心のなさが露呈しましたの」
わたくしが答えますと、お兄様はなるほどなと頷かれます。悔しいです! お兄様、刺繍したことないでしょうに!
「しかし、蓮布の端切れか」
お兄様がなんとなしに呟かれ、メアリー様は首をかしげられます。
「蓮布、ですか?」
「ジンカイイでは蓮根栽培が盛んなのはお伝えしたかと思いますけれど、蓮根は蓮の根、蓮布は蓮の茎から作りますの」
「まあ。そのような使い方が出来たのですね」
「ええ。手間がかかるのでたくさんは作れないのですが、少しずつでも良いものを作っていると自負しておりますわ。この香り袋の布はそれを使っておりますの。とはいえ、先日店先で見つけた端切れをパッチワークしたものなのですけれど」
あまり高価な資材では、意味が違うと思いましたの。
メアリー様は美しく微笑まれます。
「プリム様、わたくしは、プリム様のお心遣いが嬉しいです。どんな高価なものよりも、この匂い袋を大切にいたしますわ」
そのお言葉にほっとしたわたくしも、自然と笑みが零れます。
二人でそれぞれポーチや巾着袋に改めて仕舞って、このお話はお仕舞いです。




