12 夏の暑月 5
今日から通常更新です。よろしくお願いいたします。
夏休みに休みなのは、当然ながら学生だけです。
ごきげんよう。プリムでございます。
わたくし含む学園の生徒たちは夏休み真っ只中ですが、お兄様は毎日登城して、殿下の側近としての勤めを果たしておられます。最近は帰りも遅くお疲れのご様子。
朝食はともかく、夕食は別々になることも増えております。お兄様が先に食べておいでとおっしゃるので、ご心配をかけるのも申し訳ないですから、今は先に食べて居りますが、その分シェフたちに二回作らせることになって申し訳ないですわ。
トーマスに尋ねると、お嬢様はお気になさらず、と言ってくれるけれど、我が家がブラックな職場、というのは嫌ですわねぇ。
「エステル、この別邸の家政費はどのくらいで、貴族の街屋敷の家政費の平均はどのくらいか、なんて、簡単に分かるかしら」
「このお屋敷については、兄に聞けば分かるかと。平均については、お嬢様のお考えにはそぐわないかと存じます」
「そうなの?」
「はい。ジンカイイ家は使用人を大変手厚く取り扱っておりますよ」
「本当?」
「ええ。交代で週に一度はお休みがありますし、勤務時間についても厳格です。朝昼とそれ以降でシェフも異なりますし、メイドや下男もそれなりの数が交代でおりますよ」
「エステルたちは変わらないけれど」
「わたくしたちからジンカイイ家を取り上げると我が家が死にます」
「死ぬの?」
「父はボケますし母は途方にくれるかと。わたくしは泣き暮らしますし、兄は身を持ち崩すでしょうね」
「そ、そう……」
エステルの家についてはちょっと拗らせていると思っておきましょう。
我が家が思っていたよりホワイトでわたくしの心が救われましたわ。
「ジンカイイ侯爵家の使用人については、待遇が良いので辞めるものも少なく、その結果業務が円滑に進みますから、ますます業務負荷が減って、皆様に丁寧にお仕え出来る良い循環になっております。毎年数人、家の事情などで辞める者はおりますが、追加の募集は直ぐに埋まりますし、練度が高く優秀に育ちますよ」
すごくホワイトでしたわ。前世のわたくしもこんな職場に勤めたかった、なんて言っても仕方ありませんけれど。
「我が家が職場として健全なようで、安心しましたわ。不便や不条理があったら、直ぐに伝えてね。わたくしも考えるから」
雇い主の仕事は、従業員に損をさせないことだと思います。働いたら働いただけ報われなければ、やる気なんて起きませんものね。
エステルは深々と頭を下げて、承知しました、と応じます。
ドア横に控えるメイドも同じように。
そう。お屋敷におりますので、側に控えるメイドが増えております。
「エステル、聞いていなかったけれど、彼女たちは見たこと無い方々ね」
「はい、お嬢様。この春から別邸のレディスメイドとして雇いいれた二人でございます。お嬢様が学園に居られる間、いつお帰りになっても良いようにと、リバート様のご指示です。お嬢様ご卒業後は、そのままお嬢様付きとしてお供する予定でございます」
「普段はわたくしも居りませんのに、良いのかしら」
「学園との連絡係もして貰っております。下着ですとか、下男に頼みにくい物を届けさせたりですとか、普段着の入れ換えなどを」
なるほどー!?
いつの間にか寮のクローゼットの中身が入れ替わっているのはそういう仕組みでしたのね! 先日のお茶会もかんたんにドレスを屋敷から取り寄せると言っていて不思議だったのです。
「いつの間にか変わっていて、選ぶのが楽しいと思っていたのよ。貴女方だったのね。ありがとう。いつもわたくし好みの物を届けてくれて」
控える二人に声をかけると、二人がぱっと顔を上げました。
「お嬢様に満足いただけるよう頑張ります!」
「なんでもお申し付けください」
「エステルに妹が出来たみたいね」
微笑ましく思って呟くと、自分で言ったことにもやっとします。
あら? 確かに微笑ましいと思ったはずなのに、何故かしら?
「わたくし、エステルをとられるとでも思ったのかしら?」
わたくしは首をかしげます。焼きもち、なのでしょうか? わたくしと同じくらいの年頃の方々に?
どう思うと聞こうとしてエステルを見ますと、あの、前世で見た「我が人生に一片の悔い無し」の人みたいになってますわ。
「……エステル?」
「ごちそうさまです、お嬢様。いえ、ええ、あの、えっと」
珍しい。エステルが狼狽えていますわ。頬も赤くて可愛らしいです。
「ふふっ。赤くなっていてよ、エステル」
「お恥ずかしいところをお見せいたしました。お嬢様にそのように言っていただけて光栄のあまり」
「大袈裟ね。わたくしの方が、大人げなかったわ。貴女方、お年はいくつ? お名前は?」
正直なところ、エステルがあんなに狼狽えてくれたので、わたくしもう、なんでも許せる気がしますわ。現金ですわね。エステルには、ステラお姉さまとは違う姉感がありますのよね。内緒ですけれど。
「ポリィと申します。今年十八になります」
「オルトと申します。同じく十八になります」
「ポリィと、オルトね。覚えるわ。ありがとう」
「この春に侍従専科を卒業した二人でございます」
エステルが追加情報をくれて、なるほどと頷きます。
「二人は通いなの? 住み込み?」
エステルに尋ねると、今は通いとの答え。今は?
「お嬢様が学園を卒業されましたら、お嬢様の居るところが住まう場所になりますので」
エステルがさも当然のように申しますけれど。
ステーーーイ!
それをブラックと言わずしてなんと言いますの。住居選択の自由は日本国憲法に書かれておりましてよ! 確か!
「そん、無理を言ってはいけないわ。二人がそれで良いと言ってくれるならともかく、二人にも事情があるでしょう?」
「いいえお嬢様!」
「わたくしたちはお嬢様のものです」
ものってなにー!!!!
食い気味に答えられて狼狽えてしまいます。エステルは微笑みながら答えました。
「昨年度の商会の奨学金で、学園に入った二人なのですよ、お嬢様に恩返ししたいと、首席で卒業したのです」
奨学金!
えっ、でも狭き門で進学先は、ほぼ商業や法務などの実務の専科と聞いておりましたけれど!? それに、五年程度商会で働く必要があったはずでは?
「お嬢様のお考えはもっともです」
わたくしの狼狽にエステルが頷きます。
「この二人については、元々本邸の洗濯娘で、母が目を付けていたのです。15で中等学校を卒業して直ぐに本邸の洗濯娘になりましたが、それは家の事情で進学出来なかったからだと母が聞きまして、仕事も真面目ですし、もともとお嬢様の専属使用人を増やす時期でもありましたので、最初は我が家が負担して進学させようとしたそうです。それを聞いて二人はとんでもないと断ったそうなのです。母としてはこのまま二人を洗濯娘にしておくのは惜しい。それで、お嬢様の商会の奨学金を、わたくしから母に紹介いたしました。二人はその選抜を突破してくれた、というわけなのです。商会の方もそれは織り込み済みで、お嬢様に五年は仕えることが、奨学金の条件になっております」
公私混同ー!
「人質じゃないの」
思わず呟けば、二人が一斉に首を振りました。
「違います!」
「死んでもお仕えします!」
洗脳だったわいけないわ。
「そういってくれるのは嬉しいけれど、それでも、わたくしは貴女方の幸せも考えてほしいの。他の道を見付けたら直ぐに言ってちょうだい。応援するわ。わたくしや、我が家に仕えるだけが全てではないから。もちろん、働きやすくて長く仕えてくれる職場でありたいとは願っているけれど、だからって、全てを捧げろなんて言えるほど高尚な人間ではないから」
二人はなんというか、絶望した! というお顔ですわね。
「「捨てないでください!」」
「違いましてよ!?」
なぜ、そうなるのか。
エステルはうむうむ頷いておりますし。なんですの、どういう教育をしてましたの? わたくしがおかしいのですか?
「わたくしたちは、もともと農家の次女や三女で働きに出なければ完全にお荷物だったのです」
「洗濯娘でも光栄でした」
「なのにお休みがあって学校まで通わせてもらって」
「もうお嬢様にこの身をお預けする他ないとわたくしたち、学園で決めたのです」
「その心意気、忘れてはなりませんよ」
「「はい!」」
エステルが、増えましたわ。
「そこまで重くとらえなくて良いのよ。奨学金だって選択肢を広めるためのもので、決して僕を増やしたかったわけではなくて」
「結果的に増えておりますが」
「エステル!」
エステルが胸を張っておりますが、思った以上に根深そうですわね。困りましたわ。
「わたくしは、未来の選択肢を増やしたかっただけですのに」
進学を諦めるようなことがなければと思ったのがこんなことに。どうしてこうなりましたの。
「そう考えてくださるかたが居るなら、そのかたをお助けしたいです!」
「それで、わたくしたちよりもっとたくさんの人が選べるようになってほしいです!」
二人がふんすふんすと鼻息荒く訴えます。
もっとたくさんの人の選択肢が増やせるように、ですか。ふむ、と考えます。
もしも。もしもですが、わたくしがそれを成せる立場になったなら。それは、とてもやりたいことです。わたくしがここで、記憶をもって生まれた理由になりそうな。そんな予感がいたします。
「なら、貴女方の世代よりたくさんの奨学生を出せるように頑張るわ。力を貸してね」
「「「もちろんです、お嬢様」」」
三人が揃って頷きます。
三人? ええ、もちろん、エステルも頷いてくれたのです。
エステルの教え子は皆エステルになってゆくのでしょうか。わたくしは、よろしくね、と応えるしかできませんでした。せめて良い主、ホワイトな職場を目指しましょう。ともあれ。
「今日はマダム・ゲイザーがドレスの打ち合わせにおいでになるのよね」
「はい。お約束では間も無くかと」
エステルが頷きます。
秋からの社交シーズン直前のこの季節はドレス作り真っ只中なのです!
わたくし、今年は真面目に出歩かなければなりませんので、枚数が桁違いになる見込み。
こうして貴族が装いを定期的に頼むことで、製糸業、織物業、そしてお針子その他諸々の年間売上の多くが決まるので、ケチケチしておられません。
加えて、着回すドレス向けのアクセサリーや小物を新調したり、着なくなったドレスをバザー向けに寄付したりもございます。
今日は忙しくなりますよ。社交のシーズンは都に居ることが多いため、余所行きのドレスのほとんどはこちらの屋敷に置いてあります。直すものバザーに出すもの、ほどいて次の資材にしてしまうものも出てくるでしょう。
「衣装部屋には、素材にするものと直すものは広げてあるわね?」
「あとは廃棄とバザーに出す予定のものも。マダムに見ていただいて、最終判断を仰ごうかと存じます」
「それが良いわ。正直、わたくしは自分のセンスなんて信じられないもの」
「かしこまりました。ポリィ、オルト、その様に手配を」
「かしこまりました」
二人は退室。わたくしはエステルに手伝ってもらって、マダムを迎えるために着替えなければなりません。
迂闊な装いですと、こんな可愛くない服! とすぐに剥かれます。かといって重武装ではこれから着るにも、採寸で脱ぐにも時間がかかります。その絶妙なところを狙わねばならないのです。
「いっそ制服はどうかしら!」
「駄目だと思います」
エステルが一刀両断です。だって、楽だし可愛いし今のわたくしの正装のひとつですのよ、一応。
エステルはわたくしを放っておいて、さっと一枚のワンピースを取り出しました。小花柄、前世日本風に言えばリバティプリント風の生地を使ったワンピンースです。あらすてき。
「あら素敵」
思わず口に出せば、エステルはドヤァと胸を張ります。
「昨年お作りした夏物で、お召しになっていないのはこちらだけです。染め絵が緻密ですから余所行きにと思っておりましたが、ちょうどようございました」
確かに、普段着にするには勿体ないけれど、パーティーや夜会には向かない、ちょっとした余所行きね。ただ、学生の間は出番がない、というところ。生地は一期一会だから、スタンダードな型で作っておいたのでしょう。さすがだわ。
「このワンピースですと、髪はアップにした方が快活な印象になるかと思います。お任せいただけますか?」
エステルの問いかけに、わたくしはもちろん頷きます。
それからしばらく。
身支度が終わった頃に、トーマスが来客を伝えに来ました。
「お嬢様、マダム・ゲイザーがお越しです」
「衣装部屋にお通ししてお茶をお出ししてちょうだい。わたくしも直ぐに行くから」
「かしこまりました」
エステルと顔を見合わせて、よし、と気合いを入れます。
マダム・ゲイザーとの打ち合わせは一種の戦いなのです。昨年は領地で作ったものと、シーズン中にマダムに頼んだ分の二種類でしたが、領地に帰らない今年は、全てマダムにお任せの見込みです。
部屋を出て、衣装部屋へ向かいます。そそそそそ、と頭を揺らさぬ粘り腰の歩みは鈍っておりません。
安定感は増したと言って良いでしょう。何せ学園の礼儀作法の先生が、わたくしにだけやたら厳しいのです。思ったよりやりますわね、わたくしも本気を出しますわ、と初日に言われたときは天下一武闘会かと思いましたわ。言いませんでしたけど。
お陰でコルセット無しでも姿勢のキープが出来てしまうようになりました。背筋が鍛えられて腰痛知らずになりそうですわ。
衣装部屋ドアをエステルが二回ノック。
中からポリィとエステルがドアを開けました。
ソファに座っておられるのが、マダム・ゲイザーとそのお弟子さんです。
「ごきげんよう。お待たせいたしましたわ、マダム・ゲイザー」
マダム・ゲイザーはゆっくりソファから立ち上がりました。背が高く、恰幅も良い、前世の感覚ならどすこいと言いたくなる体格ながら、優雅な身のこなしの貴婦人でございます。貴婦人です。誰がどう言おうとも。
「ご機嫌麗しゅう、プリムお嬢様。体型が変わっておられなくて何よりです」
ハスキーボイスが早速抉って参りました!
「そのワンピースをお召しになられているということは、一年間体型を維持できたということです。お誇りなさいませ」
エステルがこのワンピースを着せたのはそんな意図が!?
確かに、スタンダードなデザインですが胸元や腰回りはタイトな仕上がりで、スカートのフレアを強調しているのかと思いましたのに。
「あ、ありがとう存じますわ、マダム」
「では、早速採寸をいたしましょう。ほとんど変わられてはいないようですが、念のためです。その後、デザインのお打ち合わせをお願い致します」
「わかりましたわ」
「採寸は助手がいたします。その間に、出されているドレスを確認させていただいてもよろしいかしら?」
「もちろん。ポリィ、オルト、採寸の手伝いをお願い。エステル、マダムに出してあるドレスの振り分けをお伝えして」
「「「かしこまりました」」」
二手に分かれ、わたくしは衣装部屋の片隅にある更衣スペースへ。もちろん、令嬢のドレスを脱ぎ着するためのスペースですから、前世の服屋の更衣室とは訳が違います。具体的には四畳半以上はあります。
ワンピースを脱いで、下着姿になると、マダムのお弟子さんから採寸をしていただきます。
巻き尺で身体中測られます。ポリィが巻き尺を支える補佐。オルトが読み上げられたサイズをメモして生きます。
身長、スリーサイズはもとより、首の回りが数ヵ所、首の長さ、肩幅、腕の長さと各部の太さ。股上、またした、膝丈と、とにかく測ってない場所なんて無いのではないかという程細かく測られます。昨年はここまで細かくは測られなかったと思うのですが。
「お嬢様の等身大人形が作れそうですね」
と、メモを取るオルトが呟きます。ほんと、わたくしもそう思いますわ。
「お疲れさまでございました」
お弟子さんが巻き尺を纏めながらそうおっしゃるので、わたくしは上げていた腕を下ろしました。ポリィが直ぐ様、脱いだワンピースを着る手伝いをしてくれて、あっという間に元通りです。
その間に、お弟子さんはオルトからメモを受け取っております。
目隠しのカーテンを開けて外に出ますと、マダムとエステルがドレスをよけている所でした。
「お待たせしましたわ」
お声がけしますと、マダムがむん、とこちらに体を向けてくださいます。すぐにお弟子さんが駆け寄り、わたくしの計測メモをお渡ししたようです。
「なるほど」
マダムは数値とわたくしを交互にご覧になります。
「少しお胸が大きくなられましたね。結構。では、デザインに移りましょう」
わたくしとマダム・ゲイザーがローテーブルを挟んだソファに向かい合って座ります。わたくしの後ろにエステル、ポリィ、オルトの三人が立ち、お弟子さんはマダムの隣に腰を下ろしました。
「わたくしのブランドの今年のデザインはボディラインを出すものです。ですので、タイト目のラインで数案、それから、通常のラインとスタンダードデザインをお持ちいたしました。いかがですか?」
マダムが何枚かのデザイン画をテーブルの上に広げます。
わたくしはそれをまじまじと見つめ、まずスタンダードなものを数枚選びます。
「着まわしはこの辺りが良いわ。今までより柄生地が多いのかしら?」
「左様です。シーサヤ公爵家が布に『印刷』する技術を開発したのです。描くのではなくにじみなく染め抜きますので細かく美しい柄が描けるようになりました。その分生地の値段は上がっておりますが、これからのドレス生地は柄生地が席巻することでしょう」
マダムが深く頷きます。お弟子さんが大きな鞄から生地見本を取り出しました。何枚かを選び出して、
「こちらのデザインで使うのはこのあたりの柄生地になります。柄が緻密ですが、刺繍ほど生地自体は重たくはなりません。一年中着ていただけますよ」
とマダムが説明してくれます。
「では、これらはマダムのおすすめ生地でお願いね」
「かしこまりました。ではトレンドのものは、お気に召したデザインはございまして?」
わたくしは改めてデザイン画を並べます。
そのうちの一枚に、目が奪われました。
「これは──」
ある意味一番『尖った』デザインです。ですが、目を奪われる美しさを感じます。マダム・ゲイザーは満足そうに頷きます。
「お嬢様なら、分かってくださると思っておりました」
見た目だけで申し上げれば、恐ろしいほどタイトな、ロングのチャイナドレスに、追加でフレアの大きなフィッシュテールを付けたようなと申しましょうか。なんとも、説明しにくいですわね。
「このスカート部分は巻きスカートのように致しますので、タイトドレスとしてもご利用いただけますが、その場合スリットが深く見えますのでご留意を」
チャイナといえばスリットですし、ダンスのためにもスリットがないと踊りにくいでしょうね。
艶やかな生地に大きな刺繍が踊るように足元から胸元へ上がっていくデザイン。人魚みたいですわね。
「でも、素敵だわ。巻きスカートはリボンにしてフィッシュテールと一緒に流しても良いのかしら」
「素晴らしい! 追加で太いリボンを巻けるようにしてみましょう」
マダムは直ぐ様デザインに書き足します。
わたくしはまた何枚かのデザインをめくりながら、生地見本を眺めます。
「この印刷柄生地はやっぱり素敵ですわ。これだけだと夜会用には生地が弱いから、刺繍と合わせたりできないかしら。素人考えですけれど、柄生地を花束に見立てて、刺繍で蔓を作るですとか」
デザインそっちのけで呟くと、マダム・ゲイザーがカッと目を見開きました。
「花束のドレス! そうしましょうそういたしましょう! お嬢様、あとはお任せいただいて宜しいですか? お選びいただいたデザインに加えて、何着かご用意の上お納めいたします!」
何か閃かれたご様子。わたくしは全幅の信頼を寄せておりますし、エステルを見上げても頷いていますから、問題ないでしょう。
「構わないわ。任せるから、よろしくね」
「必ず!」
必殺技でも出しそうな太い声で、マダム・ゲイザーは頷き、直ぐ様立ち上がって部屋を出て行きました。
慌てて追いかけるお弟子さんが、大きな鞄によろめいております。
「ポリィ。下男を呼んで。荷物をお運びして!」
「かしこまりました!」
直ぐ様ポリィが駆け出し、オルトはお弟子さんの荷物を手伝います。
やってきた下男が荷物を持ち直しマダムたちお二人に続きました。
嵐が去った衣装部屋で
「楽しみね」
と呟くと、
「左様でございますね」
とエステルが応えました。
夏休みが終わりません。




