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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第585話

 俺とアーウィン将軍は騎士団本部に戻り、動員が可能な騎兵部隊を確かめつつ、それらの配置について軽く協議し、それぞれの指揮官に伝令を出した。

 本来であれば部隊指揮官を呼んで細かい部分まで作戦を立てるべきかもしれぬが、時が経てば経つほど捜索範囲が広くなってしまうので、詳細はそれぞれ指揮官に任せる以外にない。その代わりという訳ではないが、指揮官らにはなるべく短い間隔で定期連絡を寄越すよう命じた。


 伝令を出した後、軍令部の対策本部から先ほど陛下が仰っていた命令書が届いた。

 命令書の内容については概ね先ほどの陛下のお言葉通りであるが、変更点が三つあった。

 まず一点目であるが、捜索範囲の算出方法が改められ、現時点での捜索範囲が少し狭くなった。とはいえ、明日には今の捜索範囲に追いつく計算なので、大して気にする必要はない。まあ定期連絡に来た伝令に言って部隊指揮官らに伝えよう。

 次に二点目であるが、襲撃者だけでなく強奪された金品も捜索せよとの事である。これはつまり、熱りが冷めて後日回収するつもりであった金品を騎士団が回収すれば、金銭的損害を抑えられる。さらに、回収に来た魔将王軍を追跡するなり捕縛するなり、如何様にもできるようになる。

 最後に三点目であるが、農商省に協力を命じたようで、隊商などに対する各種の検査を効率的かつ安全に執り行えるようになるだろうとの事だ。明日には農商官僚百名が騎士団本部に来てくれるようで、その警護や移動手段の提供などを求められた。


 翌日。農商官僚らの到着を待っていると、枢密院の書記官が来た。枢密院でも対策会議が行われるようで、枢密院議官は全ての予定に優先して出席するよう求められた。

 俺はアーウィン将軍に後の事を任せて、枢密院に向かった。


 枢密院議事堂に着くと、ホワイティング財務大臣が既に来ていたが、責任を感じてか憔悴しきった様子であった。全てが財務大臣の責任に帰するという訳でもあるまいに、一晩で何かあったのだろうか。

 俺が席に着いてしばらくして八割程度が集まると、ヴァーノン卿とジェローム卿が書記官らを伴ってきた。どうやら陛下の出席はないようだ。


「開会前に申し上げます。宗教大臣タカム大司教は聖務により欠席、ホジャーク、クライフ両議官は帝都不在のため欠席となります。ご承知おきください」


「承知した。それでは財務省輸送隊襲撃に伴う税収減について、対策会議の開会を宣言する」


 ヴァーノン卿に帯同してきたガロー書記官長がそう言うと、ヴァーノン卿が立ち上がって開会を宣言した。

 それなりの厚さがある資料が配られると、ヴァーノン卿に指名されたホワイティング大臣が前に出て事情の説明を始めた。俺が聞いていた情報より、少しばかり詳しく説明がなされた。


 まず、輸送隊の正式名称は第二税務輸送隊と言い、長はクライヴ・イェーツという財務官僚だそうだ。イェーツは昨年から輸送任務に就いていたそうで、これは若君研修というクィーズスやテイルストに存在した慣習による人事だそうだ。これは貴族や有力官僚の子息など将来的に王の側近となるであろう若手官僚を、実力が伴わずとも実務に影響のない部署の長に据え、組織を束ねる経験をさせるためのものだそうだ。

 記録によれば、イェーツは昨年の輸送任務において、現地諸侯軍に警護を要請しようとしていた部下を止め、武芸の経験などない下級の財務官僚に帯剣させて警備としたそうだ。昨年はなまじ完遂できてしまっため、今年も同様だったのではないか、というのが財務省の出した結論であった。


 イェーツら第二税務輸送隊が輸送中であったのは、金貨のみ四千五百万枚、つまり四億五千万オールであった。これは全ての官吏が数年に渡って無報酬になりかねぬ額である。給金を目的に仕えている者は少なかろうが、それはそれとして全ての官吏に生活がある。俺のように給金を必要とせぬ者は限りなく少ないのだ。

 遷都やコンツェン遠征を控えた今、国家予算から四億五千万オールも奪われる訳にはいかぬので、軍部としては取り戻すまで作戦を続けるつもりであるが、ヴァーノン卿やホワイティング大臣、ガイエ内務大臣、シャラーヴィ国務大臣らは戻らぬものと考えているようである。


 輸送隊襲撃を知らせた半死半生の財務官僚が夜の間に、目を覚ます事なく死んだそうだ。これにより、目撃者は皆無となった。

 襲撃現場の痕跡から調べるしかない訳であるが、騎士団から引き継いだ帝国憲兵隊から報告は上がっていないそうだ。ジェローム卿も催促しているようだが、思うように進んでおらぬようだ。


「さて、我々が議論すべき喫緊の課題は、四億五千万オールを如何にして埋め合わせるか、この一点のみにある。予備費を投入して補填するにしても、四億五千万には到底届かない」


「議長、軍部としては全額を取り戻すまで作戦を続けるつもりだ。農商省には既に協力を取り付けたが、九省…いや財務省と軍務省をのぞいて七省の協力が必要であると、総指揮を執る私は考える。まず議論すべきは取り戻せなかった場合の話ではなく、取り戻すための方策ではないかと、私の立場では言わざるを得ない」


 ヴァーノン卿がホワイティング財務大臣を下がらせ、四億五千万オールの埋め合わせについて議論を始めようとすると、ジェローム卿が立ち上がってそう言った。まあ今のヴァーノン卿の言い方では、元帥たるジェローム卿自ら指揮する作戦が失敗に終わると言ったようなものであるから、議事録が残るような場で言うには少々礼を失している気もする。


「ラモリエール元帥、軍部の覚悟はご立派だが、私が受けた報告では十万以上の将兵を動員する大規模な作戦になるそうだ。仮にこれが長期化すれば、それこそ国庫に致命傷を与えかねない。長期化すればするほど、襲撃犯の発見は難しくなり、国庫への影響も大きくなるはず。ただちに中止せよとは言わないが、解決か断念か、軍部には近いうちに結論を出してもらいたい」


「議長、襲撃犯が単なる盗賊であれば、それも検討の余地があったでしょう。だが、襲撃犯はかつてサヌスト王宮を襲撃したアルフレッド一派である。奴らに軍資金を与えては、国庫どころか国家の致命傷になりかねない。金だけでも取り返さなければならない理由はこれである」


「アルフレッド一派が国家に致命傷を与えうる軍事行動を起こしたとして、それは討伐の好機ではないのかね?」


「議長、お言葉だが会戦のみが軍事行動ではないし、大軍のみが国家を滅亡させる訳ではない。金があるならばいくらでも選択肢は増やせる。であるからこそ、アルフレッド一派の行動を制限するためにも、四億五千万を取り戻さねばならないのである」


「四億五千万を取り戻すためにそれ以上の国費を用いるべきだと言うのか。国庫の負担を考えた事があるのかね」


「次の四億五千万を守るために、我らは四億五千万を取り戻さねばならないと言っている。次の四億五千万、その次の四億五千万を守れるのであれば、五億でも十億でも投入すべきだ。アルフレッド一派の討伐は金銭的価値観のみによって判断すべき事柄ではないが、充分に金銭的価値もある」


「将来の被害を防げるなら、などと言い始めてはキリがないでしょう。第一、あまり言いたくはないが、賊の討伐は軍の任務であり、その費用も予算として支給されているのに、賊によって四億五千万もの被害が生じたとは、軍の怠慢の結果と言わざるを得ない。我々はそれについて責任を追及するつもりはないが、その事を肝に銘じてもらいたい」


「そちらがそのような言い方をするのであれば、こちらも言わせてもらうが、何が若君研修だ? 今回の一件は、軍に警護を要請しようとした部下が指揮官であれば防げただろう。我らを怠慢と言う前に、今回の原因を見ていただきたいものだ」


 言い争う二人の立場が立場であるゆえ、皆が見守っていたが、少々白熱しすぎであるように思える。そう思ってふとヴェンダール夫人を見ると、俺と目が合った。目配せする限り、ヴェンダール夫人は誰かが止めるのを待っているようであったが、それは誰もが同様であろう。


「グラッシノイエ議長、少々お言葉が過ぎるかもしれません。立場と場所をお考えください」


「ラモリエール元帥もですぞ。内容はどうあれ、言うべき場所と言わぬべき場所があるでしょう」


 ヴェンダール夫人に目配せして、ヴァーノン卿を止めさせ、俺自身はジェローム卿を止めた。

 今回の件に関しては議長と副議長の対立というより、文官と武官の対立といった方が適切であろうから、どちらかの立場にある者がそうでない方を窘めた場合、同じ立場である方のみを味方したと捉えられかねぬ。ヴェンダール夫人と目が合って良かった。


「書記官長、正副議長に代わり、会議の一時中断を宣言してもらいたい。議官の決を採ってもらっても構わぬ」


「承知いたしました。休会に反対される方はご起立ください…ご起立された方がおられません。それではモレンクロード帝国騎士団長の要請により、一時休会を宣言いたします」


 俺はガロー書記官長に言って会議を中断した。正直なところ、議事を整理すべき議長とその職務を代行すべき副議長が論戦を繰り広げては、もうどうにもならぬ。二人には頭を冷やしてもらわねばならぬ。

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