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神に仕える黄金天使  作者: こん
第2章

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第582話

 翌日。騎士団長として騎士団の出発準備に関する指示を出していると、農商官僚と建設官僚が訪ねてきた。彼らはサントル・アンピール残留組だそうで、出発の準備がないため、大して忙しくないそうだが、俺達はそうではないので少々迷惑である。


「さて、俺は暇ではないのだ。簡潔に頼む」


「お忙しいところ恐縮ですが、輓馬要らずの車両について伺いたく存じます」


 一応は応接用のソファーに座らせると、エラッジ・マカロックと名乗った農商大臣補佐官がそう言った。

 魔導車についての話が官僚にまで広がっているとは、少なくともこの忙しい時期には情報を統制すべきであったかもしれぬな。


「魔導車か」


「はい。交通行政に大なる影響を与え得るのか、その点についてお伺いしたく思います」


「残念だが、俺はそれに対する答えを持ち合わせておらぬ。だが、モレンクの家政を俺に代わって執行する者を紹介できる」


「ありがとうございます。ぜひご紹介いただければ、と」


「うむ。直接の紹介は無理であるから紹介状を書こう」


 俺は交通行政など一切分からぬので、アズラ卿に全て任せてしまえば良い。寧ろ、アズラ卿もそれを望んでいるかもしれぬので、ちょうど良かったかもしれぬ。

 マカロック補佐官は魔導車が主流な移動手段に置き換わると思っているのかもしれぬが、帝室でさえ導入を見送る程の維持費を要するものが、主流になどなりえぬ。まあアズラ卿が上手く説明してくれるだろう。


「それで、建設省は何用であったか」


「はい。我々といたしましては、帝国各地の都市計画を見直すべきかどうか、お伺いしようかと思っていたのですが…」


「紹介状だな。承知している」


 俺はアズラ卿に宛てた簡単な紹介状を認めた。アズラ卿ならば良いように進めてくれるだろう。

 紹介状を渡すと、二人は簡単な挨拶をして足早に立ち去った。よほど重要視しているようだな。


 二人が立ち去った後、俺は再び出発の準備を進める事になった。


 翌日。朝早くからエジット陛下がジェローム卿やヴァーノン卿、ガイエ内務大臣、ファーブル宮内大臣、サヴォイア将軍、カサール侍従長を連れて訪ねてきた。


「おはようございます、陛下」


「モレンクロード公、おはよう。私が選ばせてもらった八人だ。乗せてもらえるかな」


「ええ、むろんです。ところで、高官がこれほど集まって、視察団の指揮はよろしいのですか?」


「大丈夫だ。コティヤール大将軍とホワイティング財務大臣に任せてきた。貴族も聖職者もいないし、準備は万端だし大丈夫だろう」


「左様でありますか。では改めまして、魔導車について簡単にご説明いたします。シュムラ准尉」


 俺はそう言い、シュムラ准尉を呼んで簡単な説明をさせた。陛下に説明した時にはいなかった面々もいるし、先ほどの官僚のように噂だけを聞いて勘違いをされていては困る。

 陛下がジュスト殿とホワイティング財務大臣に任せてきたのには、おそらく訳がある。ジュスト殿は国防軍の総司令官として、同じ大将軍の第二防衛軍司令と第三防衛軍司令より上席にあるから当然である。ホワイティング大臣の名前が挙がったのは、枢密院の正副議長が欠けた時、その職務の継承順位が内務大臣に次ぐ二位であるからだろう。ちなみに、騎士団長は第一防衛軍司令に次いで十二位であるが、さすがに枢密院議官が十名以上も欠ける事はないので、気にする必要はない。


 シュムラ准尉は説明を終えると、まず俺に後部荷室に乗るよう促し、次いで陛下が乗り込んだ。

 席順としては、右側が前から俺、ジェローム卿、ガイエ内務大臣、サヴォイア将軍、左側が前から陛下、ヴァーノン卿、ファーブル宮内大臣、カサール侍従長となる。完全武装の兵士が八名乗車できる設計であるから、完全武装の者がおらぬ今はある程度余裕がある。


「今のところ馬車との違いはないな」


「ええ。ですが馬車も汎用魔導車も乗り物ですから、動いてからのご感想をいただきたく」


「それもそうだな」


 陛下は乗り心地について感想を仰ったが、乗り物の乗り心地を判断するには動いてみなければ分からぬ。まあ動かずとも乗り心地が悪い乗り物はあるが、それはそれである。

 シュムラ准尉は俺達が乗車し、周囲を確認すると、扉を閉めて車長席に乗り込んだ。


「それでは出発いたします。揺れなどにご注意ください」


 シュムラ准尉がそう言うと、汎用魔導車が動き始めた。

 汎用魔導車の周囲には、陛下の侍従武官や近衛兵が中心となる騎馬隊が護衛として付き、宮内省や内務省の大臣の側近らが車両後方に続いている。ちなみに、アキやエヴラール達は近衛兵らと護衛任務についている。


「陛下、いかがですか」


「うむ。今のところ快適だな。舗装されているからかもしれないが、揺れもほとんどない。値段が値段なら導入したいが…」


「そればかりは申し訳ありませぬ」


「技術の進歩に期待するしかないな。あと数年もすれば今の半額程度にはなるんだろう? ただまあ、問題は維持費だから、販売価格が半額になろうが一割になろうが、大差ないだろうがな」


「…販売価格?」


「うん。一昨日貰った資料にある。これは型録だと思ったが違うのか?」


「確認不足でした。失礼します」


 俺はそう言い、一昨日の資料を出した。ジェローム卿もこの資料を読んでいたようで、どこに何が書いてあるか教えてもらった。

 販売価格については、資料の後ろの方に付属する型録に、性能や各種費用、車両の絵などとと一緒に書いてあった。


 汎用魔導車は八千万リロイで販売するようである。維持費に関しては、整備費用と燃料費用に大別できる。

 整備費用については、モレンク血閥から整備役務を販売する。これはモレンク血閥から整備士を派遣し、車両の整備を請け負うもので、故障があろうがなかろうが、年間八百万リロイである。これには部品などの費用も含まれている。

 燃料費用については、当然ながら移動距離によって異なるし、魔石は基本的に時価なので、こちらも定まらぬ。例えば、昨年十二月時点の価格では、百メルタを進むのに一万リロイ分の魔石を要する。これだけ見れば高価であるとは思えぬが、例えば今回の移動は約四百メルタルの移動であるから、四千万リロイ分の魔石を消費する。まあこれから魔物が増えて魔石の獲得量が増えれば、魔石の価格もある程度は下がるだろうが、それはまだまだ先の話である。


「ロード公、この移動で四千万も使って大丈夫なのか?」


「大丈夫なのでしょう。私もよく分かっておりませぬが、好きに使うよう言われております」


「それならいいが…急に申し訳なくなってきたな。一台くらい買おうか?」


「いえ、陛下。私が言うのおかしな話ですが、今買っていただく必要はありませぬ。それに、今は遷都で入用だと仰ったのは陛下です。気を遣われませぬよう」


「そうか…せめて大事に乗らせてもらおう。この乗車体験を今後に活かさなければ…」


「気負いすぎです、陛下。単なる移動手段でありますから、気楽にお過ごしください」


「う、うむ。気楽にな、気楽」


 エジット陛下はそう言うと黙り込んでしまった。

 ちなみに、四千万リロイがどの程度の価値かといえば、枢密院議官の俸給が年間四千五百万リロイである。正直なところ、エジット陛下は皇帝であらせられ、金銭的価値に換算できぬものに触れる機会も多かろうから、高価であるからといって緊張すべきではなかろう。まあ気持ちの問題であるから、すべきでないからといって直ちに辞められるわけでもない。

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