心的外傷
異世界転生をした元魔術師の俺は、赤子の俺でも魔術が使えるこの世界のすごさに感動して”最強の魔術師”と言う夢を目標にしていきることにした。
友人のカノン、恋人のアリシャ、後輩のクリームと共に日々切磋琢磨している。
そして俺は現在、国の最高戦力の1人であるアルトに土下座して”聖女を助けてほしい”とお願いされている。
その後聖女であるアグラを助け出すため俺は城へと忍び込んだ。
そこでアグラを攫い逃げ出そうとするも、すぐに見つかり交戦状態へとなってしまう。
必死に戦うも防御不可の攻撃を喰らってしまう。
そのまま死を覚悟したが、友人であるカノンが敵の攻撃を防ぎ助けにきてくれた。
友人に敵の足止めをお願いして逃走し、後一歩のところで逃げられる……というところで近衛騎士・バランドとエンカウントしてしまった。
そして時は少し遡りアリシャとクリームが部屋で会話をしていた。
リーシェがアグラを攫う少し前、リーシェの止まっている部屋にて。
「ねえねえー・・・・・・この手錠外してよー。」
「駄目ですー。そんなことしたら私がリーシェさんに怒られてしまいます。」
「お願いだからさー。何もしないからさー。」
「何にもしないからなんて言葉ほど信用できない言葉はありません」
「もし外してほしければ先に契約魔術をつけてですよ。」
「それは困るね……。」
「何かする気満々じゃないですか。」
二人の少女が他愛の無い話をしている。
それを暗い顔をして、体操座りで部屋の片隅で縮まっているアルトが聞いている。
「というかさ……」
「アルトさんは本当に何もできないのかな?」
アリシャがアルトに対して質問を投げかける。
「アリシャ先輩の気持ちも分からなくないですし、自分も先ほど感情的になってたのであれではありますが」
「そういう心の病気ってのは本人以外だと分かりにくいことな上、他人からだと軽く見られるんですよね。」
「そういうものなのかね?」
「そうですね、心的外傷なんかは分かりやすい例でしょう。」
「心的外傷って?」
「精神的、又は肉体的にとてつもない悪影響を及ぼすことです」
「例えば子供のころに火事にあって両親を亡くしたことで、それ以降火事に関しては心的外傷があり人1倍怯えるなんてこともあります。」
「まあ火事は怖いからね。」
「正直簡単に消化できると思うんで、あんまり怖い印象は無いですけどねー。」
「それは魔術師だから……普通の村には魔術師はいないから火事によって住居が無くなるのは死活問題。」
「脱線をしましたがアルトさんは心的外傷ではないでしょうけど、心の病気というのは周りの眼からすれば『その程度で』?ってなることが多々あるんですよ。」
「私の周りだとそんなことないけどね……。」
「それはアリシャ先輩が周りの人に恵まれていたからです」
「なので、アルトさんが本当に動けないってのは普通にあると思いますね。」
「でもクリームは怒ってたよね?」
「それはそれ、これはこれ」
「自分は命を賭けずに他人に命を賭けて人を救わせる。ってのは実際にどうあれ第三者視点からすれば気持ち良いことではありません。」
「さっき言ったことと矛盾しているような気もするけど……。」
「実際に心の病気で大変な可能性はあるけど、それはそれとしてあなたは何も賭けないで他人に命を賭けさせるんですか?って意味なので矛盾はしていませんね。」
「分かった……それでアルトは動けないの?」
「話聞いてました!?」
「うん……精神的に大変な状態なのは分かった」
「でもそれはそれ、これはこれでしょ?」
「まあうん?そうなんですかね?」
「アルトさんはさ、なんでリーシェにお願いしようと思ったの?」
「今頼れる実力者ってリーシェさんしかいなかったからじゃないんですか?」
「違うよ……だってアルトさんはシュドラさんとサラーレさんの知り合いだもん……。」
「特級冒険者のお2人でしたっけ。」
「うん。単純な実力ならその二人の方が強いわけだし……リーシェに頼りに来る意味が無い。」
「両方とも別の村や町に出かけていたとかでは?」
「それにしても、もしその二人を先に頼ったのなら酒場に行くはず……」
「なのに、さっき暴れたときにアルトに近寄って臭いを嗅いだけど酒場独特の臭いは感じなかった……。」
「臭いを嗅いだんですか……。」
クリームの先輩に対する尊敬の気持ちが減っていく。
「いや違うから……本当に疑問に思ったから気になっただけだから!」
「でも酒場には少ししかいないですぐに帰ったとか、直接嗅いだわけじゃないから臭いが薄くて分からなかったとかじゃないんですか?」
「これだけ暗い顔をしたアルトさんが酒場に来たんだもん……絶対強引に引き留めて話を聞こうとする」
「アルトさんは冒険者じゃないけど……前は結構来ていたらしいから知り合いの一人二人はいる。」
「強引に酒場から離れたとかは?」
「あれだけ暗い表情を放置するとは思えない……一応臭いを嗅いでみて……。」
「私そういう趣味は無いので結構です。アルトさん本当ですか?」
そうアルトに問いかけると、アルトは険しい表情で話す。
「ああ本当だ。彼女の言う通り私は真っ直ぐこの宿に来た。」
「凄い!当たりましたね!」
「うん……正直適当に理由付けしただけだから、ほんとうに当たっていて私も驚いている。」
クリームの先輩に対する尊敬の気持ちが減っていく。
「でもなんとなく不思議だなー!って思ったのは本当……。」
「まあ先輩に対する評価が落ちたことはさておいて……アルトさん、何故なんですか?」
「酷い!?」
「それはな……リーシェ君はあのアグラに頼られたからなんだ。」
「そんなに人を信用しない人だったんですか?聖女様は。」
「人並みに人のことを信用はしていた……」
「ただ彼女は神託と言われる、神の言葉を聞く力を持っていた。」
「神の言葉……。」
「それは聖女でも特別な力だな」
「そして彼女は、その神託を聞くことによって何度も死から救ってもらったんだ。」
「いいことじゃないですか!」
「助けを求めた人の命と引き換えにだがな……」
「実際にそうかは不明だが、彼女は今まで何度も人に助けを求め……そして助けを求められた人の命と引き換えに生き残った」
「その度に彼女は少しづつ元気が無くなっていき……いつしか人に助けを求めることが無くなったしまった。」
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