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初陣5


「離れるな!まとまれ!バラバラになると死ぬぞ!」


「ヒィィっ!」「かなわねぇ!逃げろ!」「ぎゃぁぁぁ」


「くっ!崩れるのは止められないか……」


制圧を完了したはずの村の東側部分に死体処理や燃えた家の鎮火作業に当たっていた長貴達。東側以外ももはや壊滅状態、ほぼ戦は集結したと思っていた。


突如、正体不明の集団が奇襲を仕掛けてくるまでは。完全に想定外であったが、始めてとは思えない長貴の統率力で混乱し逃げ惑う足軽達をまとめあげて対抗したのだ。しかし、それでも勢いは止まらない。敵は皆こちらの足軽達とは格が違う実力を有しているのにすぐに気付かされた。


それでも何とか足止めが出来ているのは、長貴が足軽達を密集させて被害を軽減し、敵が纏まった行動を取らずバラバラに動いているからだ。しかし質の差は埋めがたく、そろそろ持たなくなってきた。


「青海さん!まだかい!?」


「もうすぐ………行けます!」


長貴側が持つ唯一と言っていい対抗手段、それは青海や千雪達の妖術である。が、これに関しては相手がバラバラになって動いていることが仇となった。


「うわっ!またきやがった!」「避けろぉ!」「ぎゃぁぁ!」「よっと」


何人かは戦闘不能に追い込むことが出来るが、殆どが避けられる。また、敵の方にも何人か妖術使いがいるようでこちらの足軽が何十人とやられている。直撃すれば身体が消し飛んで即死、そんな妖術が飛んでくる恐怖で士気はもうボロボロだ。


「はぁはぁ…」


膝に手をあてて肩で息をする青海。これで何発目か、流石に妖力がきれてきた。


「大丈夫かい!?」


その様子に表情を厳しくする。こちらの頼みの綱である妖術がもう放てなくなる。それは、長貴達の持つ唯一の対抗手段が無くなるということだ。妖術は敵への脅威だけでは無く、味方の士気を保つ最後の砦でもある。無くなるということは、次に訪れる未来は…総崩れ。


そうなってしまったら妖術を放つ青海達を守るものがいなくなり逃げ遅れる仲間がやられるかもしれない。それだけは避けなければいけない。


「ぬぅ!長貴殿!妖術はまだか!」


「……すまない!もう少し待ってくれ!」


前線で身体を張る岩蔵達。それも満身創痍で前線足軽の心の支えになっている。前線が今なお持っているのは岩蔵達のおかげだ。しかし、有効威力を持って撃てるのはあと1発くらいだろう。


「青海さん達は何とかあと1発!次は…次は…」


考える時間とこちらの戦力が圧倒的に足りない。それまではその場しのぎで何とかなったがもはや崩れるのは必至。長貴の頭の中は足軽達をどうするかではなく、味方達をどうすれば生き残らせるかにシフトしていた。


「ねぇ、長貴。このまま退くことは出来ないの?そうすれば被害だって…」


千雪が悩む長貴に疑問をぶつける。


「ダメだよ…練度の低い…ましてやこんな状態で1歩でも後ろに下がれなんて言ったら総崩れするのが目に見えてる…。そうなったら僕達も逃げる事が難しいかもしれない」


人数自体は多いのだ。それが一斉に逃げ出したら邪魔でしょうがないし、何より相手が逃すわけない。


「なるほどね…。はぁ…だいたい何なのあいつら急に現れて…何が目的なんだか」


「さぁね…でも、この国の開拓者や傭兵団が大多数を占めているというのと、中にはこの軍にいた者も少なくないみたい。もっと金払いの多い所に鞍替えしたんだろうけどそんな事がこの国で出来るのは1人しかいない」


「木板則平ね…雇い主は分かっても目的が何だか分からないんじゃ、どうしようもないわね……っと、もういいわよこれが多分最後…」


「……分かった」


妖術の準備が出来た。これが最後で何としても有効的な攻撃をしたいが、敵も何となくタイミングを分かって少し身構えているのが分かる。今のままで放ってもたいした効果は期待出来ないのは目に見えている。しかし、このままでは前線の岩蔵達や必死に戦う足軽達の士気が持たない。


「…放っていいのか…どうする…」


このままでは仲間が死ぬかもしれない。何とか逃げる時間だけでも稼がないといけない。足軽達を犠牲にしてでもだ。


徐々に切り捨てる物が多くなる長貴。それほど追い詰められているのだ。


チラリと岩蔵達を見る。助けたいとは思う。しかし、後ろの青海に危害が及ぶ可能性があるのであれば多分切り捨てて逃げるだろう。危険な思考が過ぎる。岩蔵達を犠牲にするのであれば逃げることも容易になってくる。妖術を放ちしだい姿を消す。部隊は崩れるだろうが、知ったことではない。岩蔵達がまとめようとするが出来ずに敵に討ち取られる。そこまで見えてくる。


喉がカラカラに乾き、今までにないくらい頭に色々な事態が過ぎる。非情で、非難は免れないが、確実に逃げることが出来る。危険な思考が頭を支配していく。唾を飲み込み声を発しようとした瞬間。


「オラオラァ!猿吉様の到着だぁ!テメェら俺に続け!!」


「待てよ!もう少し、状況を確認あぁ!あの突撃馬鹿が!」


猿吉と直家が参戦した。西側の抵抗を続ける残存勢力を掃討していた猿吉達がバラバラに動く開拓者、傭兵団に突撃をする。真横から攻撃されるとは思わなかったのだろう強者共とはいえ突如現れた猿吉達に混乱していた。バラバラに行動する敵は少数ながら密集して突撃する猿吉達に討ち取られるか逃げ惑いくらいしか出来ない。


「……はぁぁ…」


仲間の参戦で状況が変化した為に最悪の決断をしなくて済んだことに一息つく。猿吉達の参戦で負担の軽くなった岩蔵達を見る。


「おぉ!長貴殿!これは行ける!流れが変わった!我々も突撃を!」


「……ははっ、そうだね。今が好機だ」


先ほどの己の思考を恥じる長貴。これほど必死に戦ってくれている岩蔵に申し訳ない。が、同じ状況にまた陥ったら同じ判断をするだろうが。守るべき優先順位の違いと、指揮者と古くからの為政者の血、合理主義の考え方はそう簡単に変えられるものではない。


「皆!今が好機だ!敵は引き腰だ!今出れば勝てる!岩蔵を先頭に進め!」


「俺はここだ!ついてこい!」


「オオオオオオ!」


槍を掲げ、妖力を満ちさせ己の存在を知らしめる。その姿は敵に畏怖を味方に勇気を与える。典型的な豪傑タイプである。


猿吉達と、岩蔵達の突撃で敵が身動き取れずに何箇所かに纏まり始める。


「っ!今だ!青海さん!敵が密集してる所に!」


「はい!」


一斉に放たれる最後の妖術。それは、始めて敵を纏めて仕留めることが出来る有効打になった。


「しまっ!」「がぁぁあ!」


「クソッ!旗色が悪ぃ!こんな所で死ぬのは割に合わねぇ!にげろ!」


まだまだ数はそれほど減っていないが、少しでも旗色が悪くなると逃げ出し始める開拓者、傭兵団。金で雇われ、忠誠心など無く己の命が一番の者達だ。当然だろう。もしまともに、敵がこちらに攻めてきたらこちらはすぐに逆転されて駆逐されていただろうが、これが統率された軍と烏合の衆の違いだ。


「敵が逃げ出したぞ!俺らの勝ちだ!勝ちだ!勝ちだぁ!」


狂ったように叫び続ける猿吉。一見、気でも触れたかと思うがこれには猿吉の狙いがある。1度は心が折れる寸前まで追い込まれて一人ひとりが格上の相手だ。まともにやり合っても勝てるはずが無いという考えを持っていれば全力で突撃なんて出来やしない。


今は旗色が悪いから逃げ回っているが、何かがあればすぐに逆転されてしまう可能性があるのだ。今のうちに徹底的に再起不能まで追い込みたい。なので、お前らは勝ったのだと暗示をかけて自信を持たせ突撃に参加させる。勝ち戦だと思ったら調子に乗り始めるのは、どの軍も共通なのだから。


その意図を読み取って岩蔵も叫び始める。


「勝ちだ!我々の!勝利だ!鬨の声を上げろぉ!」


「勝ちだ!勝ちだ!勝ちだ!オオオォ!」


声を出し、暗示をかけられ叫ぶ足軽達。退くことしか考えられなかった少し前が信じられないくらい今は前に進むことしか頭に無い。そこまで、味方を鼓舞し操る能力。それに関しては猿吉は天賦の物を持っていた。


狂ったように進む猿吉達。討ち取った数自体はたいしたことはないが完全に戦場を支配していた。声を出し威圧し、動き続ける猿吉を止められる敵はいない。殆どが、旗色悪しと見て逃げ出している。森に逃げ込めば後は追ってこれない事は分かっているために動きに焦りの無い者が多い。戦況を確認しながら退いているのだ。


奇跡的にこちら側に極めて優勢に事が進んでいた。そのまま押し切れると戦場の誰もがそう思っていた。








「チッ!今回はハズレだな…。小林秀三っぽい奴もここにはいねぇし…しゃあねぇ逃げるぞオメェら」


「へーい。ま、金自体は前払いで貰ってるからいいんだけど」


しかし、惜しいな。小判1枚も充分大金ではあるが大判2枚はただの傭兵、開拓者に出す金額の中では破格だ。食料が高騰してる中でもそれだけの金があれば暫く遊んで暮らせる。


「まぁ頭、待ってくださいよ。あいつら勢いはいいけど弱いから逃げるのはいつでも出来ますって」


「大体は確かに弱ぇけど、中に強ぇのも混じってるから厄介なんだよ。死んだ馬鹿共は殆どそいつらのせいだろ?」


「そうですけど、もう少しだけ……大判2枚ですぜ!簡単に飽きらめきれねぇすよ」


「欲が深いねぇ。でも、万が一でも死にたくねぇから俺は逃げるぞ。来ねぇなら置いていくぜ?」


「げっ!酷い!分かりましたよ…行きますよ」


もの惜しげに後ろを振り返りながら森の中に逃げる準備を始める。その時、最後に足掻きで周りを見る男があることに気がつく。


「か、頭!ねぇ!あれ!あれ!」


後ろを振り向かずズンズン進むお頭の肩を掴み揺さぶる男に煩わしそうに手を払う。


「なんだよ!これ以上はいくらごねられても残らねぇぞ!」


「待ってくださいよ!あれ!あれ見てください!」


「どれだよ……」


男の指さす方向を見るお頭。気だるそうな表情が一変した。腰から出した人相書きの絵と見比べて、ニヤリと笑い無言で見つけた男の背中を叩く。


「いてっ!……どうします?」


「どうって……決まってんだろ?」


「逃げますか?…いてぇ!」


「馬鹿か!行くに決まってんだろ!」


「冗談なのに……」


「コッソリ行くぞ!他の奴らに見つかりたくない!」


「わかりやした!」


男達が向かう先には、必死に戦場に走る秀三の姿。少数の護衛のみで絶好のチャンスだ。軍にもまだ合流していない。


この男達は手柄を独り占めしようとしたが、こんな男が見つけるくらいだから他の開拓者や傭兵団も次々と見つけていく。そして、逃げていくはずの同業者が何故森とは違う方向に向かうのかと訝しんだ他のものたちも気が付き……すぐに我先にと秀三の元へ走り出していく。逃げ惑う姿はもう無く、全員同じ方向に進み始める。本気になった格上の集団の勢いを止める手段を長貴達は持ちえていなかった。





「なんだこいつら急に纏まり始めやがって!」


「どこに向かっているんだ?こっちには見向きもしないし」


「知るかよ。おい、直家!なんか見えるか!」


そうか、猿吉は背が低いからよく見えないのだ。可哀想に。仕方ない見てやろう。そう思った瞬間、猿吉の刀と直家の槍がキィン!という音と火花を散らす。


「すまねぇな……身体が勝手に動いた」


「そうか……刀をしまえ」


「ここは戦場だぜ?無理な相談だ」


互いに顔を歪め、睨み合う。ちょっとした茶番があったが、直家が敵の向かう位置を凝視して見る。


「……あれ…は、秀三さんじゃないか?」


「あぁ、いたなぁ。今頃到着かよ遅せぇよなぁ」


「まぁ、今頃感は確かにあるけど…何で全員あっちの方に…」


その時、長貴がこちらに走って来るのが見える。


「2人とも!急いで!秀三さんを守らないと!」


「狙いがあの冴えないオッサンだってのか?確かにそっちに向かってるけどよ…」


「あのー、直家。これ」


「ん?」


死んだ開拓者漁りをしていた蛍が1枚の紙を直家に渡す。


「これは!?」


そこには、小林秀三の人相書きと討ち取ったものに大判2枚の懸賞金がかかっていることが書いてあった。


「なんで、こいつにこんな金額が?破格すぎるだろ!」


「今はそんなことを行っている場合じゃない!早く向かわないと!」


秀三を逃がすだけなら何とかなる。それに、ここの足軽たちは秀三を守るためなら多少の無茶は承知してくれる。それほど秀三に心酔している者が多いのだ。


「それなら急がないと!」


「俺達はいくぜ!」


我慢ならないといった五助と犬太。2人だけで走っていくのを見て俺も俺もと次々に2人について行く者が増えていく。戦闘には消極的であったが、秀三を守るためなら戦うこともいとわないらしい。


「………僕達も行こう。でも、青海さんと千雪さんたち妖術使いと岩蔵さんはここに残ってくれませんか?妖力がきれている状態じゃ戦闘は厳しいだろうし岩蔵さん達はその護衛を頼みたいので」


「うぬ…仕方ないか。我々も満身創痍で役に立てると約束は出来ない状態だからな」


「わ、分かりました………」


「仕方ないわね…」


疲れきった顔の青海と千雪達。静に至っては言葉を発することも出来ないくらいに疲れきっていた。


「さぁ、行くよ二人共」


「とっくに準備は出来ているっての」


「俺もだ。いつでも」


「よし、多分最後の仕事だ。一番厳しいかもしれないけど気張って行こうか」


初陣から激動の戦場を走り回った直家達。それらも遂に終局に向かおうとしていた。必死に駆けずり回る戦場の雄を嘲笑うように戦局はこの戦場を作り出した者達の理想の形に近づいて行くのであった。直家達もまだその手のひらの上に踊る哀れな駒に過ぎない。

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