初陣6
「秀三様!敵がこちらに真っ直ぐ向かっております!」
悲鳴のような声を上げる秀三の護衛部隊の一人。百人近い開拓者、傭兵団がこちらに我先にと突き進む姿に恐怖し腰が引けてしまうのを咎める事は秀三には出来ない。
「何故…」
足を止めて呆然と呟く。この戦場に来てから不可解な事が多すぎる。これではまるで自分自身、秀三の首を狙っているような敵の動き。敵の真の目的は何か?敵は何を考えているのか?裏を考えるが出てくるはずもなく。
「秀三様!このままじゃ!お逃げくだせぇ!」
「……それは出来ない。目的は俺の首ではないはず…ならばその目的がわかるまで俺がここから退くことは出来ない」
「けど!敵の動きはどう見ても!」
秀三のみに狙いを定め走る獣の群。目には人の持つ知性など欠片も感じず己の欲望を満たすことだけを考える者達。
「虎狼の輩とは…よく言ったものだな……」
高台にいるために周りをよく見渡せる。いくら口で否定しても欲望の視線の先に自分がいることは秀三が一番自覚していた。
「……お前達は逃げた方がいい。敵の狙いが分からない中、俺はここに残るがお前達は余計な危険に身を晒す必要は無い」
最後まで己が狙われているとは全く思わない秀三。それがこの男の最大の弱点である、自己評価の異常な低さ。その原因は辛い過去と川上家での扱い、その過ちが決定的な遅れとして秀三の運命を決めようとしていた。
「……その命令にゃ従えません。俺たち農民が気に食わねぇ川上家の戦に何度も駆り出されて、それでもここまで付いてきたのは……秀三様、アンタがいたからだ」
「そうだ!秀三様がいたから命を掛けれた!嫁も子供もいねぇ、村の中の立場も弱ぇから村から強制的に戦に出るように言われて最初はいやいやだったけどよ!それでも、アンタがいたから数え切れねぇくらい戦に積極的に参加してきたんだぜ!」
「俺達はあそこにいる奴らほど強くはねぇよ。秀三様からすると頼りねぇかもしれねぇ。でもよ、俺達はあそこにいる奴らと違って金で秀三様を見捨てたりしねぇ。ただの農民だとおもって舐めてくれないでくだせぇ…我々にだって意地と誇りがある。今までに秀三様と一緒に戦ってきたって言う誇りが」
「な……何を…」
「俺達は川上家に付いてきたんじゃねぇ。金の為でもねぇ。秀三様、アナタに付いてきたんだ。この、護衛についた殆どがその想いが強い奴らだぜ?逃げろと言われて逃げるような薄情もんは誰もいねぇや」
「…………っ!!」
遅まきながらようやく理解した。あまりにも遅い理解。敵が眼前に迫り今まさにぶつかるという瞬間にだ。数は40人程の護衛隊。その中逃げるものは誰も存在せず勝てるはずもない戦いに武器を構える。最初、敵の迫力に腰が引けていた者達の姿には見えなかった。ほぼ確実に命を落とすであろう戦いに覚悟を決め、己の信念に従う者達。欲に忠実な敵と比べその有り様は、美しく、高潔だ。農作業に明け暮れ、土に汚れる農民達の背中がこれほど頼もしく思えたのは始めてであった。
「……うっ…」
目から涙が溢れ出てくる。自分には勿体ないくらいの者達が己の為に命を捨てると平気で言うのだ。これだけの数が、誰1人逃げる事なく。
「何故…気が付かなった…俺は!」
自分など価値が無いと思っていた。皆も嫌々従ってもしもの時は逃げると思っていた。しかし、何もかも違った。これ程の者達が従う自分が無価値な理由が無い。敵の狙いは己の首。
しかし、あまりにも遅い。この人数ではすぐに蹴散らされて殺されてしまうだろう。それが涙が出るくらい悔しかった。
「安心してくだせぇ、俺らが死んでもまだまだいますぜ?秀三様を命を掛けて守ってくれる者達が」
「…それは、どういう…っ!?」
顔を上げて先を見る。視線の先には村を制圧しに行っていた部隊の殆どがこちらに走って来ているのが見える。それぞれ必死に走りこちらに向かっているのが見える。そこまでする必要など何も無いのにだ。
「だから、死なねぇ出くださいよ。逃げて、俺らの死を無駄にぜず生きてくだせぇ」
「…な…らば、余計逃げれないな…。お前達がここに留まるというのに俺1人逃げるわけには絶対にいかない!」
「…まぁ…そう返ってくるとは思いましたけど」
「諦めろよ。こういう秀三様が好きでここまで付いてきたんだから」
苦笑する護衛隊の皆。意地でも退かぬという秀三をこれまた意地でも守ろうと覚悟を新たに決める。死を恐れぬ腹の据えた者はいかに離れた実力差があっても厄介なものだ。
「おい!あの奥にいんのが多分秀三つぅ奴だぞ!殺せぇ!!」
「俺が先だボケェ!」「どけ!邪魔だ!」「誰に当たってもいい!妖術を放てぇ!」「「「「「ぶっ殺してやるッ!!」」」」」
先頭集団がこちらに接触するまであと10秒。
「お前ら!命を捨てろ!援軍が来れば勝ちだ!俺らの刃は敵には届かない!だから斬られても何されても、死ぬその瞬間まで敵を足止めしろよ!行くぞ!」
死を恐れぬ部隊の全てをかけた足止めが始まった。援軍が来るまで5分。その時間を耐え切る事だけに全てをかける男達の魂の咆哮が響くのであった。
「クソッ!間に合わねぇか!」
「もう秀三様の部隊と敵部隊がぶつかったはず……こちらももうすぐ着く。ギリギリだけど何とか」
「いや予感がする……蛍」
「ほいっす」
「先には行っててくれないか?農民達の速度合わせるとどうしても遅くなってしまう」
「了解っす。直家達もなるべく急いで来るようにするっするよ?」
「わかっている」
シュッと姿が見えなくなる蛍。ここら辺は流石忍者だ。そして、この中で一番の適任である。足の速さもそうだが、隠密性が何より役に立つ。もしもの時は秀三を守ってくれるだろう。
何も蛍だけでなく直家達だって農民達を置いて行くことだけだったらなんの問題もなくすぐに着く事が出来るだろう。しかし、それでは農民達の士気を下げることに繋がる。自惚れではなく、確かに猿吉や長貴は部隊の中心にいた。また、直家も強者として認識され付いてくるものもすくなくない。
その中心人物の3人が離れるのはあまり得策に思えないのだ。だから逸る気持ちを抑えて行軍をしている。かなり速度を落としても農民達は付いてくるのがやっとだといった顔をしている。
しかし、それでも疲れて足を止めるものは皆無。それぞれが限界以上に足を動かし秀三様の元へ急いている。その光景をみて、正直驚いた。
「しっかし、あの秀三つぅオッサンこんなに人気あったのか?」
「確かにそれに関しては僕も驚いているよ。彼にこれほどまでの求心力があったなんてね。正直始めてあった時は全然分からなかったよ」
「今は分かるっていう口ぶりじゃねぇか」
「少しだけだけどね」
直家も長貴に同意だ。最初は冴えないオッサンという印象しかなかったが今は違う。秀三の仕事を手伝ったことにより分かった彼の苦労と非凡さ、そして分け隔てなく人と接する性格。この身分制度のハッキリとしている社会でああいった性格は非常に珍しいのだ。それは、直家達にはかなり新鮮に移った。
「彼から、学ぶことはまだ沢山ある。まだ死なせる訳にはいかないよ」
「そうだな」
「そうかぁ?まぁいいけどよ」
直家と長貴はこの戦乱の世では珍しい方法で人を纏める秀三の手腕をもっと深く知りたいと思い、猿吉は懐疑的だが助けることには異論はないようだ。
長貴の求めるものは徳で人を纏める者。まさに、秀三に近い存在である。猿吉はどちらかと言うと、力と欲望と勢いで人を動かす比較的にスタンダードなタイプである。秀三は参考にならないとは言わないが少し違う。
「…俺は…」
秀三に向かって走る中ポツリと呟く。
直家はどちらになるのだろうか?それは、本人にもまだ分からなかった。それこそ人を率いる人になるかどうかすら。ならば、今は学ぶ時期なのだろう。あらゆるものを見て自分に合うのを見つければいい。その大事な資料である秀三を失うのはあまりにも痛いような気がしたのだった。
「秀三さまぁ………」
ばたりと倒れる護衛隊。もう、10人も残っていない。その残っている者達も右手が無かったりと、四肢を欠損していたりと満身創痍の者が多い。そして、そこら中に転がる死体…と言っても殆ど護衛隊なのだが、損傷が激しく何度も何度も執拗に刺されたであろう死体や、首が無い死体。確実に死んだと外目で見ても分かるようになっている死体が多いのだ。
「ッチ……手こずらせやがって…」
「ハァハァやらせるかよ…こっから先は死んでも通さねぇぞ」
その原因は異常なしつこさ。斬り捨てて倒れても足を掴み槍で突いてきたり、武器が無くなっても噛み付いてきたりと開拓者、傭兵団からすると理解できない行動の数々に苦しめられた。しかし、それでもいつまでも格下に手こずるわけなくならば確実に殺してやればいいと、滅多刺しにして丁寧に1人ずつ殺して秀三を逃がさないような包囲を完成させていた。
「面倒くせぇ…後は一気に行くぜぇ!殺してやるっ!」
「やらせるかぁ!このっ!ぐぁっ!」
1度食らった手は2度とくらわぬと瞬く間に10人が殺され。最後に残るは秀三1人。その秀三に向かって1人抜けた傭兵が刀を振るおうとした瞬間
「やらせないっすよ!」
秀三に迫る凶刃をいきなり現れた蛍の短刀が受け止める。
「な、なんだこいつ!」
「はいはい!その答えはあの世でっす!」
突如現れた蛍に一瞬戸惑い反応に遅れた男に蛍の短刀が胸に突き刺さる。短刀をグリッと捻り更に奥に突きこみ人間の急所まで届かせる。妖力の回復などする暇など無いほど早く即死させた。
「うぐっ!」
「いっちょ上がりっすね」
苦しそうな呻き声を上げて前のめりに倒れる男をひらりと避けて更に前に出る蛍。
「うわっ、まだこんなにいるんすか…」
「こ、この野郎!」
「この野郎って…これでも、ちゃんとした女の子っすよ?」
返り血を浴びた身体に血の滴る短刀を持ち、そううそぶく蛍。月の光を浴びてニィと笑う蛍にゾクッとした妖艶さを感じる男達。その不気味な感覚に気圧される。
「って、敵は1人じゃねぇか…何びびってんだよ」
「タダじゃおかねぇぞ…ヒヒィ!」
何人か我に返ったり、下卑た笑いをする男達が3人一斉に襲いかかる。
「……やらせるかァッ!!」
「ぬらぁっ!」
その時地に伏して死んだと思われていた護衛隊の何人かが手元に落ちていた槍で死角から突き出したり、足を掴み噛みだしたり、短刀で滅多刺しにしたりと、殺傷力はほとんど無い攻撃だがそれでも確実に足は止まった。
「この死に損ないが!邪魔すんじゃねぇっ!」
肩に突き刺さった槍を奪い頭に突き刺し、足を噛み付いてきた男の首に刀を突き立て、頭を踏み潰したりと確実にトドメを指した。が、その隙を逃す蛍ではない。
「もーらいっす!」
「しまっ!」「なにぃ!」
流れるように首を掻っ切る蛍が2人を即死に導く。残る1人を殺そうとした蛍が後ろを振り向くと。
「フンッ!!」
「ぎゃぁぁ!」
「あれ?戦えないわけじゃないっすね」
秀三が斬り捨てていた。
「これでも武士だよ。そう簡単に開拓者には負けないよ。まぁ、君には勝てそうに無いけどね」
刀を抜き放ち敵を睨みつける秀三。仲間を殺された怨念に満ちた視線を真っ直ぐ向ける。まだまだやる気だ。
「ただでは死ねないね。この首は思っているより重いんだ」
「あー、やる気になっている所申し訳ないっすけど…勝負は決まったすよ」
「え?」
せっかくカッコつけた台詞を言ったのに水を差されてほうけた声が出た瞬間
「オラァオラッ!猿吉様のご到着だぁ!ひれ伏して首を差し出せコラァ!」
「何様だよお前は…」
「いいじゃない勢いがあって。それに、間に合ったみたいだし。蛍さんが守ってくれたみたいだね、後でお礼いいなよ直家くん」
「…終わったら考える」
続々と村制圧部隊が到着する。先頭の直家達に蹴散らされた開拓者、傭兵団。そして、完全に旗色が逆転した事にいち早く察して早々に逃げ出す者達も出る。
「クソッ!チンタラやりすぎた!」
「頭!どうします?」
「ここまできて諦められるか!!首を掻っ切ってにげるぞ!」
そして、最後チャンスに賭ける者達。比較的少数だが、油断できない存在だ。
「ハッ!やらせるかよ!」
「どけ!チビ!」
「どかねぇし、テメェはここで殺す!」
「蛍!秀三様を頼むぞ!」
「ガッテン承知っすよ!」
最後の乱戦が始まった。殆どが逃げ出してしまったため絶対な優勢で敵を1人ずつ駆逐していった。
「秀三様ぁぁぁ!」
「よく無事で!」
「あぁ、二人共…何とかね…」
五助や犬太が敵の中を掻い潜り秀三の元まで辿り着く。その他の者達、音吉達も数人の敵を斬り殺し秀三の近くを陣取り徐々に秀三を中心に即席防衛陣が形成されていった。
そこまでいって始めてもう無理だと思ったのか執拗な敵も次々に逃げ出していったのだった。
「頭…」
「チッ!無理だったか…クソッがぁ!にげるぞ!」
「逃がすわけねぇだろ!」
「チビに構ってる暇はねぇんだよ!」
「んだとぉ!」
完全に形成はこちらに傾き、勝利は確定的であると確信をもって言える所まできてそれはきた。
「んっ?この音は?」
「馬蹄の音かな?」
聞き覚えのある音。音のする方に目を向けてみるとドドドッという音をたててこちらに向かってきている騎馬隊が見える。旗からみて味方の部隊。
「おぉ!援軍だぁ!」
「もう、勝負は決まっているのに…今頃?」
懐疑的な視線を送る直家達と味方部隊。そして、敵部隊である開拓者、傭兵団達は顔が青ざめる。
「オイオイオイッ!話がちげぇぞ!雑魚しかいねぇって聞いてたのによぉ!」
「頭!そんなことを言っている暇無いっすよ!早く逃げねぇと!」
勝利は確定的から絶対的に変わり沸く味方の軍。しかし、その喜びはすぐに消え去る。
「……なぁ、あいつら誰か追っかけてないか?」
距離が離れていてよく見えなかったが、近づいてくる事に詳細が見えてくる。その騎馬隊はこちらに向かって逃げ出した開拓者、傭兵達を追い回しながら近づいてくるのだ。
「な、何で…」
理解が出来ない。逃げた敵を追撃するところまではわかる。しかし、何故馬に乗っているはずの騎馬武者達が歩兵の開拓者、傭兵団に追いつかない速度で走ってこちらに向かってきているのか。
これではまるで、目的を遂げるまで逃げることを許さないと元の場所に戻すよう調整しているかのように見える。
「川上家ってのは、ここまで馬鹿なのか!何で敵を呼び戻すんだよ!」
「分からない…何が目的何だ?」
「包囲殲滅か?」
「そんな面倒なことをしなくても騎馬隊単独でそれは可能だよ」
「じゃあ何で…」
誰1人騎馬隊の真意が理解出来ぬまま唖然とする。
「って、敵がこちらに戻ってくんだ!お前ら!準備しろ!もう一度蹴散らすぞ!」
「「お、おぉ!」」
全員戸惑いながら武器を構える。
「いや!待ってくれ!何か目的があるはずだ!俺が聞いてくる!すまないがそこまで護衛を頼める者はいないか?」
秀三が理解できない武士達の行動を知ろうと騎馬隊の元まで向かうことを決める。
「なら、僕達が!」
近くにいた音吉達や五助と犬太が護衛に名乗り出る。
「秀三様!あぁ!行っちゃった!いくら何でも少なすぎる……蛍!また頼めるか?」
「えー…忍者使いが荒いっすよ……」
「こっそり後ろにつくだけでいい。もしもの時は頼む!」
「後でなんかでっかいお礼を求むっすよ!」
変な捨て台詞を吐いてシュッと直家の前から姿が消える。
「頼むぞ…嫌な予感がするからな…」
「秀三様!あそこの馬に乗ってる人!なんか偉そうな感じがする!」
「ありがとう犬太!でも、その言い方はやめた方がいいよ」
単独で戦場抜けて、大きく迂回して騎馬隊の側面に出る。
「あれは、山中様…何故馬廻り衆隊長がこんな少数で…」
「さぁ、偉い人の考えるとはよく分からんから。それに、それを聞きにきたんですよね、秀三様は」
五助が気楽そうに答える。どんな目的であれ、味方であることには違いない。もはや、勝ちは確定なのだという気持ちからそういう態度になるのは無理もないだろう。
「そうだね…」
全てが引っかかる。が、立ち止まってもしょうがない。前へ進む、進んでしまった。
「おお…秀三殿ではないか…久方ぶりだな」
「ハッ!山中様もお元気そうで」
部隊の奥で指揮をしていた山中虎助がこちらに気が付き、近づいてくる。秀三達全員が地に伏して頭を下げる。
「ハッハッハ!水臭いな!幼き頃はよく遊んだ仲であろう」
「畏れ多い事です。そして、全ては過去の話……お忘れください」
「フッフ……運の悪い男だ。お主の親父と仕える家さえ間違えなければ天下に響くほど名が通っただろうにな…」
地に平伏しながら怪訝な顔をする秀三。いったい何の話をしているのか?天下に響く程のものなど何も己は持っていないと思っていた秀三は山中の話を理解できない。
「…理解出来ぬか…。まぁ、仕方ないであろうな…貴様の価値を本当の意味で理解出来ているのは川上家ではこの俺だけ…その俺にしたって…本当に運の無い男だ…」
「それは…どういう…ッ!」
つもりですか、その言葉はもう二度と出ることは無い。宙に秀三の首が舞う。それを馬上で掴む逆の手にはいつの間にか抜かれていた刀。
「貴様の価値を理解する者が敵だという不運がだ………お前がもう少し無能ならば昔の誼で助けてやったというのに…」
少し寂しそうに山中虎助が何が起こったか分からぬまま死んだ秀三様の首を抱えて呟く。
「なっな、何を……」
「秀三様ぁぁ!」
「……………お前ら始末しておけ。誰1人逃がすなよ。知られると面倒だ」
「ハッ!」
「くっ!皆!立ちあっ!」
音吉がいち早く反応し立ち上がったが馬上の槍の一突きに胸を貫かれ倒れる。それを呆然と見る2人の女も首をはねとばされ槍で滅多刺しにされる。
「な…なんなんだよ!ちくしょう!ちくしょう!!」
犬太の胸が貫かれるのをみて、叫ぶ五助。
ゆっくり奥に引っ込んでいく山中虎助。五助の叫びは戦場の喧騒に消されて誰にも届く事が無く騎馬武者の囲みの中消えていくのであった。
声は誰にも届かなかった。しかし、闇に消えるはずの事実を見た者はいた。
「これは……思ったよりやばそうっすね…」
忍者の生存本能でその場には出なかった蛍。余裕綽々の蛍には珍しく冷や汗が溢れ出てくる。
「なんすか…あの化物…山中虎助とか言ってたっすね。刀を抜いたの全く見えなかったっすよ……ッ!!」
シュッと物凄い速度で短刀が蛍のいる位置に向かって飛んでくる。それを僅かに頬に掠らせ避ける。ドッドッドっと心臓が破裂しそうなほど鳴っている。太い木を貫通し、更に奥の木に深々と刺さっている。
「や、やばいやばいやばいっす!」
必死に茂みの中を走り見つからないように逃げる蛍。チラリと騎馬隊の方を見ると先ほど蛍のいた方をじっと鋭い目で見ていた山中がいた。
「……っ………」
息を殺して身を潜める。物音一つどころか妖気の僅かな違和感ですらバレそうな気がするのだ。
「どうか致しましたか?」
「…………いや、気のせいだったようだ。ネズミが紛れ込んでいたと思ったが…」
「索敵してきますか?」
「いや、いい。この件の重要度はそれ程高いわけじゃない。目的は達した。後は計画が止まることはないだろう。これを知られたところで川上家はもう終わりだ」
「分かりました」
心臓を掴まれているような圧迫感が消える。
「……ぷはぁ…ハァハァ…死ぬかと思ったっすよ……」
重大な秘密を知った蛍は逃げるようにその場から立ち去るのであった。
これで、直家達の初陣は終わりを告げる。目的であった村の制圧を無事に成功させて勝利に終わった…ことになっていた。
川上家公式記録 山中虎助直属部下提出
足軽隊580人
負傷者220人
死者145人
小林 秀三 奮戦の末、敵兵の凶刃により討死。山中虎助様の手によって首を取り返すことに成功。
村勢力250
負傷者32人
死者218人
負傷者も縄をかけて温情で生かされていた女子供も死罪に決まった。しかし、財政難だということで武士のひとりが奴隷として売ることを提案している。
開拓者94人
負傷者18人
死者22人
逃亡54人
足軽隊が新たな勢力の乱入により劣勢だった所、山中虎助様の独断で助太刀に入り打ち破ることに成功した。足軽隊だけでは戦力にはならないという事が証明された戦いになった。
感想よろしくお願いします。




