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足軽達2


「ハァハァ……クソがァ…どんだけ丈夫なんだよテメェのは」


「ハァ…ハァ………そういうお前だって動きが人間じゃねぇよ…」


互いに膝をつき肩で息をする。しかし、武器は手放さないで目もしっかりと相手を見据えてする。どちらかが、少しでも動き出したら応戦する体勢は整えていた。


「あ…あんたら、すごいなぁ」


「…あ?」


疲れた体に鞭をうち再度尽きかけた妖力を掻き集めて最後の攻撃に移ろうとしていた2人を止める声が聞こえた。直家達が模擬戦という喧嘩を繰り広げる前に慣れない様子で武器を振っていた若い農民達だ。


「馬鹿!邪魔してんじゃないよ!」


「いてっ!」


惚けたように直家達を見ていた男を後ろから叩くこれまた見知らぬ男。


「すみませんね。こいつ田舎ものでして」


「五助だって同じ村出身じゃないか…」


ニコニコと愛想笑いして直家達にペコペコ頭を下げる五助という男。それに対し納得いかないといった表情の男は叩かれた頭をさすっている。


「ポケェーっとしてる犬太とはちげぇんだよ!へっへっ、いやぁ、うちのツレが大事な稽古中にお邪魔しました。おら!行くぞ!」


「あぁ!話を聞くくらいいいだろう?引っ張るなよ」


そんな若い農民と言った風貌の2人にすっかり毒気を抜かれて互いに顔を見合わせて武器をしまう。


「別にいいぞ。あのままやってれば俺が勝ってたから結果はわかってる」


「そうだぞ。そのまま続けていたらそこの人間の皮をかぶった猿なんてすぐにカタがつくからかな。やらなくても結果はわかっている」


そう互いにニコニコと笑いながら、一瞬の空白の後に互いにしまったはずの武器を抜き刀と槍がぶつかる音がする。


「「ひぃぃ!」」


目の前で火花が散るような勢いで武器が衝突するなんて恐怖以外の何ものでもないだろう。2人は腰をぬかして地面に尻を叩きつける。


「………おいおい…どうした?槍なんて出して。ビックリして俺も刀を抜いちまったじゃねぇか」


「…いやぁ、冗談キツイぜ…。先に抜いたのはそっちだろうに」


表情はニコニコしたままなのにギリギリと武器同士が火花を散らす。その様子に小さく悲鳴をあげ互いに抱きつく犬太と五助。


「ハッハッ…。おふたりさん武器をしまってあげたらどうですか?怯えてますよ?」


「「あ…」」


互いの事で頭が一杯になっていた2人は今初めて腰を抜かしている犬太と五助に気がついた。少し恥ずかしくなり互いに武器をしまう。


「いやぁ、すみません。少し出すぎた事を言いましたね。申し遅れました私は音吉といいます。一応開拓者をやっていましてね、お見知りおきをと思いしまして」


「い、いや、止めてもらってありがとうございます。俺達も開拓者ですからお仲間ですね」


どことなく長貴と同じような雰囲気を感じる男性。着ている服装も何となくピシッとして見えるし顔もイケメンだ。武器は腰に差している刀だろう。


「そうなのですか? てっきり見たことがないので他国の傭兵団の1員なのかと思いましたが…」


「見た時が無い?それは……」


それは当たり前ではないのか?開拓地は多く開拓者同士と言っても見た時が無いのは不自然なことではないはずだが。と、言おうとした瞬間猿吉に叩かれた。


「いてぇ!何すんだ!」


「いや?アホずら晒して油断してからつい」


「んだとぉ!……はぁ、もういい」


と、一瞬頭に血が登りそうになったが猿吉の目が冷静なのを見て少し考えてみる。そして、猿吉が何の為に直家を叩いたのか見えてきた。開拓者同士見た時が無いというのが当たり前という考えはあくまでも直家達がいた山城国の話で開拓地が豊富で開拓者も多いが、この陸後国では事情が違うかもしれない。この国では開拓地が少なく開拓者同士が顔馴染みというのが当たり前なのだとしたら、不用意な発言だったと思い至ったのだ。


「?なんかよく分からないけど、仲がいいね」


「それはないな」


「だな。目が腐ってんじゃねぇか?」


「ハッハハ…羨ましいね。私も男の友人というものがもっと欲しかったよ」


直家と猿吉の答えに苦笑いしながら答える音吉。少し引っかかる発言だ。


「ねぇねぇ?お話って終わった?」


「長いわよね〜」


「ねー」


その時音吉の後ろから可愛い女の子とほんわかとした容貌の女性が表れる。


「……2人とも…もう少し待てないの…?」


「だって長いんだもん!」


「長いわよねぇ~」


頬を膨らます女の子とそれに同調するほんわか女。困ったように対応する音吉には殺意しか思い浮かば無い。何故だろう、今なら猿吉と分かり合える気がする。


「ッチ!女持ちかよ…しかも2人……ぶち殺してぇ」


ほぉら同じだ。嫉妬の目線だけで人が殺せるならもう3回くらいは殺している自信がある。


「まぁまぁ、2人共もう少しだけ大人しくして…ね?」


「むぅ!」


「早くしてねぇ~」


音吉から離れていく2人。しかし、あの2人が作り上げた空気はアンチ音吉だった。


「ごめんね…昔馴染み何だけど我儘で」


「へぇ、あんなに可愛い女の子と昔馴染みねぇ。良い人生送ってるねぇ」


「え?」


「俺聞いたことがあるぞ。開拓者の音吉だろ?確か金持ち商人の息子なのに開拓者なんてやってる変わり種がいるって」


「あっ、その話は聞いたことかあるぞ!確か2人いる許嫁を開拓者に引きずり込みこんだクソ羨…外道がいるって!」


「え…えぇ!?」


遅まきながら今の状況を理解した音吉は何とか挽回を図る。


「い、いや!私が開拓者になったのは自分の意思だけど彼女達は勝手に着いてきたんだ!私が引きずり込んだのではない!」


「へぇ…わざわざ危険な開拓者になって着いてくるような幼馴染みがいるのか…ふぅん」


腕組をした直家はジトっと音吉を見る。完全にモテない男の僻みである。


「猿吉もなんか言えよ。幼馴染みにクッソ可愛い女の子がいて開拓者になってもついてくるんだぜ?」


何故か一番ボロクソ言いそうな猿吉が黙ったままだった。


「……そう…だな。別にいいんじゃねぇか?」


「えっ…」


「…おぉ!初めて味方が!」


まさかの裏切り。最初の猿吉の暴言は何だったのか。ここで直家はある可能性に行きあたる。


「………まさか…猿吉。お前もいるんじゃないんだろうな」


「…………いねぇよ」


凄まじく疑わしい。が、これ以上追求しても意味は無いだろう。まさか猿吉の出身の村まで行って確認するわけにはいかない。しかし、そんな素振りなんて何にもなかったのだが…。


「ま…まぁ!そんな話なんてどうでもいいじゃないですか!えっと直家さんと猿吉さんですね?珍しいですねぇ、今この家に味方するなんて…もうほんとすぐに戦が起きますよ?給金貰って殆どの傭兵、開拓者は逃げたのに…」


「そういうお前だって、残ってんじゃねぇのか。どうしてだ?」


あまり話を続けるとボロを出しそうだと話を切り返す。


「あぁ、私の商家はこの町にあってね。この家というよりは私のお店を守りたくて」


「なるほどな。まぁ、俺らも似たような理由だ」


「へぇ〜!猿吉さん達もここの町が地元なんですか?」


「近いな」


全てにおいて明言を避けてヒラヒラ躱す猿吉。人を煙に巻くのもお手の物とは流石である。


「音吉さんって、開拓者の何等級なんですか?」


「私は3年間やって来て6等級だね。ここから中々上に行けない日々を送っているよ」


ハハと笑う音吉。何気に直家達の7級より高い。しかし、あれから人生最大を次々に更新する危機の数に実力はかなり上がったが。


「2人は何級なんだい?」


「俺は5級でこの直家って言うのがお前以下の7級だ」


「ハハッ、こいつ嘘が上手いだろ?本当はその逆だよ。俺が5級でこいつが7級」


「あぁ!わかったわかった!2人とも5級なんだね!」


互いに武器に手を伸ばしているのを見て慌てて止める音吉。五助と犬太はササッと距離をとっていた。地味に等級のサバをよんで罪悪感がある。


「いやぁ、俺らからしたら3人ともすげぇや。開拓者やってるとそんだけ強くなれんだな」


「この戦終わったら俺らも目指すんだからいいだろ」


「君たちは開拓者志望なの?私が言うのも変だけど…大変だよ?」


若い2人、と言っても妖力量のせいか若く見える音吉と並んだら年齢はそう変わらなく見える。確かに、生半可の覚悟でやれる職業じゃない。直家達の同期だってもう1年で半分くらい死んだり怪我して村に帰っている。


「覚悟の上ですよ!どうせ口減らしで村からこの城に来たんだ!村に未練は無いし、村のヤツらを見返してやりたい!な!犬太!」


「そうだな!俺達はこれからだよ!」


今この明日の戦で命を落とすかもしれない中でこれほど未来を明るく描けるのかと。少し驚く。


そして、それは1ヶ月後まで命があるかなんて考えている直家の心を少し軽くした。若い2人なんて言い方はもしかしたら直家より年上かもしれない二人には失礼かもしれないが、それでも悲観的になっていた直家に未来を思い描く2人のエネルギーから力をもらった。


「……そうだな。頑張れよ」


「まぁ、お前らがいくら頑張っても俺らには追いつけないがな!」


心からの応援は猿吉の心無い言葉に消え去った。何となく音吉も猿吉の人間性が分かってきたのか苦笑いしている。


その時、先ほどの入ってはいけないと言われた二の丸に続く道からドドドというあきらかに人間の足音ではない音が聞こえる。


「ん?なんだ」


その道から20人程の小綺麗な格好をした武士が馬のような生き物に跨り走っていた。馬の様なというのは直家が元の世界で知っている日本原産の馬は力強いがポニーのようなずんぐりむっくりの馬しかいないと聞いていたが、今見たのは元の世界の競馬のサラブレッドよりも更に1回り身体が大きい馬だったからだ。


そして、ドンッドンッと太鼓を叩いている音が聞こえる。大きな音でこの町中に響いているだろうと思うほどだ。


「な、何なんだ!」


急な出来事で戸惑う直家。猿吉は眉を顰めて黙っている。


「あぁ、直家さん達は初めてか…」


「来て早々って運が無いね…」


「だから、何…」


馬が出ていったその少し後、ヒィヒィ言いながら秀三が走って来た。


「み、みんなぁ!準備して!」


何となく、何が起こるか予想が着いてきた直家。


「また、小領主が蜂起したみたいだね。最近は毎日のようにあるよ」


秀三が息を切らしながら走ってくる時点で皆それぞれ準備中を始める。鎧を着込み武器を身体に装着する。


「あぁ、直家くん達は今日が初めてだったね…。あれ?他の皆は?」


「いまは、別行動です」


「町の中にはいるんでしょ?なら、すぐ来るはず…」


「秀三さん……これって…やっぱり」


「あぁ、うん」


肩で息をしているためか少し途切れ途切れだが、少し息を整えて直家を見据えていう。


「戦が…始まるよ」


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