足軽達1
「おぉ!君たち開拓者でしょ?まだこの家に味方してくれる者が現れるとはありがたいなぁ!」
「お……おう」
傭兵団との戦闘から少しして、町の中心部にあるお城の門の前に到着し一兵卒の足軽として雇って欲しいという旨を伝えると、担当者という者がすっ飛んできてこの喜び用である。正直、思っていた態度と真逆といってもいいくらい違ったので、猿吉ですら面食らっている。
「あっ、すまないね。申し遅れたよ。俺は小林 秀三っていう者だよ。君たちがこの家で戦う限りこれから暫く関わるだろうからよろしくね」
「……あぁ、うん。よろしく…お願いします」
長貴が釣られて頭を下げる。
「あぁそんなにかしこまらなくていいよ。俺なんて一応武士なんてやってるけど本当に下っ端だからさ。それにおじさんあんまり強くないのよ」
あはは、と笑う冴えないおじさんといった風貌の男の人。背丈は高いが肉付きが悪く頬がこけていることが余計その印象を持たせる。
「……なんか…思ったのと違うっすね」
「そうだな…。でも、こういう人なら好感が持てる」
一応引きこもりではあったが、日本人してきたのだ。謙虚な人の方がよいと感じてしまう。
「そうかぁ?ナヨナヨしてて自信が無さそうだしよ。こんな奴で大丈夫かよって思うけどな」
「横柄な態度を取られるよりはマシだと思いますけど…」
「青海の言う通りよ。頼りなさげでもいいじゃない。そっちの方がやりやすいわ」
「ちょっ、ちょ!皆!」
「あはは……。みなさん正直だねぇ……いや、大丈夫ですよ。気にしてませんから…」
「あっ…」
口ではそう言うが、肩が落ちて雰囲気も少し暗くなった。思ったよりも声が大きかったのだろう。全て聞かれた。物凄く気まずい。
「あぁ、そうだ皆さん。お城の中の案内をします。勿論入れない所の方が多いですが…まぁ、入っては行けないところを覚えるつもりで」
「…はい」
では行きますと歩き出した秀三。ついて行く全員が気まずく無言である。それを気にしてか再度こちらを振り向き
「みなさん先ほどの事は気にしないでください。私はぜんぜん気にしてませんから…。昔から耳がいいので聞こえてしまうたちでしてこういうことは慣れてますから」
なにか、よけい悲しい過去を垣間見た気がするが考えるのをやめる。
「本当にすみません…」
申し訳なさそうに詫びる長貴。
「本当にもういいですよ。……あ、あそこに見えるのが本丸ですね。ここは三の丸ですが近そうに見えてけっこう遠いんですよ」
この話を続けるのはあまり良くないと話を変えた秀三。気をつかってくれたのに、これ以上話を続けると逆に申し訳ないだろう。
「へぇ…。高低差はありますけど目と鼻の先に見えますね」
「そうなんですよ。今通っている道を真っ直ぐいくと道が二つに分かれていて遠回りと思う方が近道だとか片方が行き止まりだとか」
へぇ、やはり結構考えられて作られているみたいだ。細かい所で先人達の知恵を垣間見る事が出来るのは結構勉強になる。
「っと。申し訳ないけどここまでだね。これ以上足軽達は通っちゃいけない事になっているんだ」
「ん?ちょっと待って。ここから先が二の丸に繋がる道何でしょ?私達この先に通れなかったらもしもの時どっちに逃げたらいいか分からないわよ?」
「俺にも聞かせろ。道が二つに分かれていているんだろ?どっちかも教えねぇのか?それって俺たちはもしもの時は見捨てるってことか?」
千雪と猿吉の指摘に、顔を伏せて絞り出すように
「……すまないね。俺にはどうしようもない…」
「ッチ…所詮、武士以外は仲間だとは思わねぇんだな。俺ら開拓者だけでなく、この国の農民も足軽だろ?それも」
「猿吉くん。彼に言ってもどうしようも無いよ。秀三さんに決定権があるわけじゃない」
「……わぁってるよ」
眉を顰めていた猿吉は口を閉ざす。しかし、思っていることは変わらないだろう。猿吉に限らずこの国のやり方にはっきりとした不信感を更に強めた。
「…でも、みんな!三の丸は広いよ!少し道を戻って少し進めば狭いかもだけど足軽達の居住する所があるし!一応食べ物だって支給される!給与も出る。戦で活躍すれば…もしかしたら多分何か恩賞を貰えるかも!だから…その…戦があるまで逃げないで欲しい…」
暗い雰囲気を払拭しようといい所を必死でアピールする。しかし、言っている内容がかなり無理がある。待遇はそれほど良くない、肝心の恩賞をだってそれほど期待できないときた。
第一この動乱を期に武士になろうだとか、成り上がろうと考えるの連中は下々の民と見下す連中にはつかない。何故なら、どれだけ活躍しても正当な評価などしないし、下手すれば嫉妬で潰される。そして何より、完成された身分制度に世襲制の家で誰の子どもがどの役職に付くというふうに決まっている、埋まっている家には成り上がろうにも空いているポストが無い。
ましてや、勢力的に劣勢ときた。こんな状況の中だ。いったい誰が味方をするのであろうか?
それほど数がいる訳がない。裏切る事前提か、訳ありか、強制的に集めた農民達か。どちらにしても数で言うならかなり少ないだろう。
それを一番わかっているのは秀三だろう。実際給与が入ったら逃げる人を何人も見てきたのだろう。
「…………クソッ!」
「………僕達は逃げませんよ」
そう、直家達は逃げられない。少なくとも1月。ここから離れることはできないのだ。カテゴリ的には訳ありと言ったところか。
「よかった…。さ、次の案内をしますよ」
逃げるか逃げないかは分かっていても聞けない話だ。それをわざわざ聞くのは人間性か、それほど追い詰められている状況なのか。両方あると思わせるのは秀三の人徳だろう。
「これで大体終わったかな」
時間にして半刻(一時間)になるかならないかして、全ての案内が終わった。と言っても一々広いだけで、足軽達が押し込められている長屋が乱雑に並ぶ広場と、昔に使われいただろう足軽用の練兵訓練用の広場くらいだ。
「秀三さん。基本的には城から出るのは自由かい?」
「あぁ、それは仲間が1人でも城に残ってくれればいいよ」
「逃げるのを防止する訳か…。まぁ、いいや。わかった」
「後は何かない?」
聞きたい事がない訳じゃ無いが、この人が答えられ無いだろう話が多い。細かいところは1ヶ月もいるのだ順次覚えていくだろう。
長貴が全員を見渡して何も無いことを確認し
「いや大丈夫だよ」
「じゃあすまないが俺はこれで。何かあったら遠慮なく呼んでくれ俺も最近は三の丸にずっといるから」
一礼して、直家達から別れる。この家のやり方高慢な考え方には反感を覚えるが、秀三に関してはあまり悪い印象は持たなかった。開拓者とはいえ元は農民達が多いのに礼を尽す態度に、最近は三の丸にずっといるという事はつまり足軽達の事を考えて同じ所に住んでいるということだろう。
何故こんな人がこの家のために働いているのか分からないくらいだ。
「………さて、みんなこれからどうする?」
「そうだな…町にはあまり行きたくないし…。俺は練兵訓練の広場で槍でも振ってるよ」
「チッ…直家もかよ」
「なるほど、2人はそっちね。一応僕はあの長屋のどこに住めるのか聞いてくる」
「じゃ、じゃあ、私も」
青海は長貴と一緒に行く事にしたようだ。
「私はこの城の中をフラフラと散歩でもしてるっすよ」
「えっ?危なくないの?」
「忍者っすから。見つからないっすよ。もしもの時の為に後で入れなかった所の方も見てくるっすよ」
「すまないね。お願いするよ」
千雪達と岩蔵達はどうするか少し迷ってから町に出ることにしたようだ。
「じゃあ、暗くなる前にこの宿舎前に集合ね」
皆が頷きそれぞれバラバラに動き始める。直家と猿吉は、武器を肩に担ぎながら練兵用の広場に向かう。先ほどの紹介された時も思ったが農民達が慣れない様子で武器を振っていた。中には開拓者、傭兵らしき武器を扱いなれている人もいる。人数自体もそこそこ多く50人近くいるだろうか。
「組合の広場とは比べ物にならないな…」
「たりめェだろ。ここは数百人とか場合によっちゃ数千人が動く場所だぞ?規模がちげぇんだよ」
猿吉の言う通りである。しかし、一つ組合の広場と比べて劣る所が木刀の類の、数が少ないか品質がかなり悪い。随分と長い間この場所は使われずに忘れられて来たのだろう。所々草が生えている。
とはいえ使う人が少ないので広々と使える。武器も持っている直家達には不服はない。
「オラ、やるぞ。武器を出せ」
「いや、俺たち真剣しか持ってないだろ」
「ああ、悪い悪い俺はお前のトロイ攻撃なんて当たんねぇだが、お前はそうだったな」
「あ?調子のんなよ?俺だってお前の軽い攻撃なんて効かねぇよ」
「んだどコラァ!」
「証明してやるよ!武器抜けコラァ!」
何となくこうなると予想していたが毎度喧嘩になり本気の殺し合いに近い形になる。
槍を構える直家と、鞘から刀を抜いた猿吉。体勢をかがませて地面を蹴る猿吉。対面すると分かるが日々速くなっていくのが分かる。地面スレスレを進む猿吉が直家の槍の射程に入る寸前に直家の前から消える。
何度も対戦しているから分かるが本当に消えたわけじゃない、更に加速して目で追えない程の速度を一瞬出したのだ。
勝負はこの速度についていけるかだ。槍を大きく振り回すのは下策。構えをコンパクトにして何処から攻撃が来ても対応できるようにする。あくまでも防御、カウンター狙い。
一瞬の空白。真後ろから妖気の気配を感じる。が、後ろは振り向かない。これで何度目か分からない稽古だ。単純に後ろを取るだけじゃ互いに攻撃を与えるには不足だっていうこと知っている。
ここから必ず何か仕掛けてくる。それを一瞬だけ待つ。
「もらったァ!」
声が聞こえたのは真後ろでは無く直家の右側。刀が振り下ろされる。
「やらせるかぁ!」
いつでも動かせるようにしてあった槍を動かし猿吉の刀を受け止める。勢いと速度がついている分重くのしかかるがそれをものともせずに弾き返す。
「もういっちょォ!」
上半身の体勢を崩されたはずなのに蹴りを放ってくる。その蹴りは少し身体をそらし避けたが、猿吉は片手でバク転しながら体勢を元に戻す。最近は動きが猿を越えてきた。
「オルァ!」
勿論このくらいで止まる猿吉ではない。常に先手をうち敵の行動を全て封じる。ずっと俺のターンを体現したような戦い方である。直家の周りを走り出して死角を取ろうとする。
「ふんっ!」
直家とて、ずっと黙っている訳じゃない。槍で牽制し突き、払いう。猿吉は全てを避けるが、刀の届く射程内に中々入れない。
「…ッチ!」
猿吉としては何かしら場所を動いてくれた方がやりやすいのだろう。直家は猿吉がどのような行動を取ってもその場から動かない。揺さぶりをかけてその場を動かして有利な位置、有利な体勢に持っていきたいのだがそれができない。
「しょうがねぇ!」
直家の槍を刀受け止めて滑り込むように直家に肉薄する。刀の届くというより、顔がぶつかりそうな位置で睨み合う。ギリギリと刀と槍が火花を散らすが互いに引かない。
「「オラァ!」」
武器が使えない、足技は近すぎる、ならばと考えることが同じか、互いに頭突きをかます。
「ってぇ!」
「がぁっ!」
意地と意地のぶつかり合い。おおよそ普通の殺し合いと同じだけの熱量で稽古は行っていた。
互いに眩暈がして、少し距離を離す。直家もその場から退いたが猿吉も追撃はできない。
「この野郎……」
「……石頭が…」
赤く腫れた頭を抑えて互いを睨みつける2人。それもすぐに回復し互いに武器を持ち直す。
「オラァッ!」
「ぬぉぉぉ!」
2人の稽古の名を借りた殺し合いはまだまだ続く。それを見ている外野のざわめきを無視して。
最近、投稿時間を変えようかなと悩み中。




