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VS傭兵団

遅れて申し訳ありません!


「あひゃひゃひゃ!なんだそのブッサイクな顔は!笑えよ!ほら!」


あぁ、愉快だ。ここは最高だ。目の前の涙を流すいい歳した店主が学も何もねぇ、俺達にやめてくれ、と泣いて懇願するなんて最高の愉悦といっても過言じゃねぇよ。


色んな国で戦働きしてきたがここほど条件の良い国は中々ねぇ。金払い自体は普通か少し高いくれぇだが、今みてぇに俺達のような他国の傭兵が何してもここの武士共は何もいわねぇしよ。他国じゃ、戦働きくらいしか出来ねぇ俺達なんてのはいつも邪魔者扱いだ。


どの店でも何か些細なことがあったらその国の武士共がすっ飛んで来て俺達が一方的に悪いって事になる。自分の所の民と他国の流れものの傭兵は常に差別されてきた。金の為ってのもあるがお前らの国の為に命を懸けて戦ってるって言うのによ。


差別は常にあった。嫌ってほど身に染みてる。肩身の狭い思いは何度も何度も何度もしてきた。


「はぁ、最高だ…」


そう、ここは最高だ。ここは差別など無い。あるのは区別。武士共上流階級とそれ以外というわかりやすいな。俺達が、俺以外の全ての他国からの、いや、この国の開拓者なんてのも自由に振舞っている。今までの鬱憤をはらすかのように。


そして、俺達、俺以外の全員含めて分かっているのはこの国に忠誠心なんてこれっぽっちもねぇってこと。金さえ払えばよってくる蛆虫位の存在としか俺達の事を見てねぇってことがよく分かる、あの目。あの目は人間がそう簡単に出来る目じゃねぇ。人を人とも思わねぇ人でなしの目だ。


「だから…好き勝手やらさてもらうぜ?」


この国は病という表現で表すなら末期。もう、明日死ぬ国だ。その元があの武士達。確かに精強で強いかもしれねぇ、でももうそれだけじゃ国は治めることが出来ねぇ。古いんだよ、時代錯誤っていってもいい。色んな国を見てきているから分かる、多数の家が滅んだ、その滅んだ家はほとんどこんなに感じだ。


俺達以外だってそんな事分かっているはずだ。本気でこの川上家で戦おうと思っているのは武士連中の中にだって何人いるか…。もはや滅ぶ家。俺達が小さな店を潰すか潰さないかなんて本当に些細なことなんだからよ。どうせこの城下町は火に包まれて灰燼にかすんだからよ。


「だから、それまで楽しませてくれよぉ!」


涙を流す不細工な店主の顔を見るのも飽きてきた。そろそろ潰してしまうとしよう。背中に背負っていた野太い槍を取り出す。


「ぎゃあああ!!」


「な、なんだテメェら!」


その時、仲間の悲鳴が聞こえた。この町で俺達に手を出すなんてほかの傭兵か?それとも、開拓者とかいう力押ししか脳の無い馬鹿共か。


「チッ!いい所によぉ。誰だぁ?」


楽しくやってただけだってのに。邪魔してんじゃねぇよ。


「答えても誰か分かんねぇだろ?馬鹿な事聞いてんじゃねぇよ」


鞘付の刀を肩に担いでこちらを馬鹿にするように笑うオレンジ頭の男。持っている刀に不釣り合いなくらい低い身長に挑発的な顔にはこちらの神経が逆撫でされるのが分かる。


「あぁ!?テメェ…ぶち殺されてぇのか!?大体何しに気やがった!」


手に持つ槍の先端を怒りのままに柱に叩きつけて吹き飛ばす。


「ハッ!やれるならやってみろよ。なにしにねぇ…ただ気に食わねぇからぶちのめしにきたんだよ?分かるだろ?」


なんだコイツ意味がわからねぇ。なんで、中指立ててやがんだ?だが、今この町で正義の味方ごっこのつもりだったら現実を見せてやらねぇといけねぇな。


「お前といるとこっちが悪役に見える…」


なんだ…もう1人いやがったのか。こっちは身長がそこそこ高くて筋骨隆々の一歩手前あたりの身体つき。得物は俺と同じ槍か…、面倒だな。


「なんだ、お前?正義の味方ごっこがしたかったのか?俺はただ気に食わねぇからぶちのめしにきただけだよ。嫌なら待ってろよ」


「……いや、理由は同じだからいいけどよ。もう少しオブラートに包もうとする努力をしようぜって話だ」


オブ?何処の言葉だ?さっきのチビの中指を立てる謎の行動といい、こいつらも他国の傭兵か?ッチ……気持ちよく楽しんでたのによぉ…。


「…頭…どうします?」


「………なぁ?こんな時俺がどうするかお前なら分かんだろ?」


仲間の胸ぐらを掴みあげる。小さく悲鳴をあげる仲間は苦しそうに


「…っみ、みなご、ろし…です!」


「分かってんなら聞いてんじゃねぇ!!テメェからぶち殺すぞ!」


あぁ、イライラするぜ。最悪な気分だ。


「テメェら!!武器を抜け!皆殺しだ!この馬鹿共に俺達に喧嘩を売ったことを後悔させろ!切り刻んで、泣いて懇願しても許すな!」


この、激情を収めるためにゃテメェら馬鹿の命が必要だ。大人しく死ねや。








一斉に襲いかかってくる男達。人数は20人程だろうか?全員どこかしら傷が身体に刻み込まれている歴戦の人達なのだろう。傷は刃物傷が多い所を見ると傭兵といったところか。諸国を周り戦に参加してきたのだろう。


「はっ!傭兵共か!おもしれぇ!」


「なんにも面白くはない!この人数は厳しいぞ!」


妖怪退治はが本分の開拓者である直家達と、それこそ対人戦に慣れている傭兵で、しかもこの人数差では勝てる気は一切しない。


「じゃ、隅っこでブルブル震えてろ!気がむきゃ助けてやるからよ!」


「それはゴメンだ!」


対人戦の経験は相手の方が圧倒的に上だ。しかし、開拓者には開拓者の戦い方がある。常に自分より強く、妖力が上の妖怪と戦い続けた開拓者はほかの戦闘職と比べて段違いに妖力量が多い。妖力を食う回復が沢山出来る開拓者は自損覚悟の戦いが出来るのだ。身体能力強化もただの傭兵共より強力になる。


「オリァ!」


「ハッ!遅ぇなぁ!」


3人一斉に刀で斬り掛かれた猿吉は真上に飛び避ける。天井にしがみつき口で鞘を抑えて刀を抜く。


「っぺ。オラ、行くぜ?」


鞘を捨てて、ニヤリと笑い天井が抜けるほどの威力で蹴りこみ先程猿吉に斬り掛かろうとした3人のうち1人を真上から勢いをつけて斬る。肩口から足の付け根まで真っ直ぐ斬られた男は一撃で地に沈む。即死だ。


「っ!」


仲間の即死に一瞬動きが止まるかと思ったがそこら辺は流石に歴戦の傭兵。すぐに猿吉の刀の射程から逃れようとする。


「でも、遅ぇんだよ!」


片手に刀を持ち片手が床についた体制から、逃げようとした1人の傭兵に追いつき正面から切り上げる。その返す刀で首をはね飛ばし返り血を浴びた猿吉。赤く染る猿吉の戦い方はほとんど獣と一緒だ。理屈ではなく感覚で動くゆえに誰も想像できない動きを見せる。


「な、なんだコイツ!猿みてぇな動きしやがって!」


「ちょこまかと!」


刀を使うと思えば蹴りを放ち、蹴りを放つと思えば頭突きを食らわせる形の無い戦い方。それに、傭兵達は大混乱だ。ところどころ同士討ちしている傭兵もいる。


「喰らえ!」


「ハッ!こっちは愚鈍そうだな!」


対してこちらはあんな芸当はできない。直家には出来るのは大人しく槍を振り回す位だ。


「でも、こいつ!堅い!」


直家の開拓者としての戦い方は守りだ。常にそこを動かず敵を引きつける。だが、今はそれではきりがない。


「オラァ!」


「ぐはっ!!」


守りに使っていた槍がいきなり攻撃に転じて頭の骨を砕く感触を確かに感じる。これで1人。


「馬鹿め!腹ががら空きだ!」


ほか3人が刀と槍をそれぞれ振り上げて直家に斬り込む。刀が直家の腹や肩に直撃。直家に血が刀をつたる。しかし、仕留めたとニヤリと笑う傭兵の表情はすぐに変わることになる。


「っ!こいつ!どんだけ身体が…」


「刃が通ってねぇ!」


血が吹き出る程ではない。皮を破り筋繊維にまで達しているがそれだけだ。すぐに回復出来る傷。このくらいの傷なら何度も受けてきた。今更怯む程じゃない。


「ッッ!!いてぇなぁ!オラァ!」


穂先で肩口を切りつけた男の首を跳ねる。急いで武器を引き抜き逃げようとする2人。


「な、なんで刀が抜けねぇんだ!」


「動かすなよ。いてぇだろ」


槍の柄で脇腹を殴りつけて肋骨を木っ端微塵にした感触がしたのを確認し最後の1人へ向き直る。


「く、クソっ!こいつら!化物かよ!」


武器を捨てて距離を取ろうとすると槍の射程の長さを生かして心臓を一突き。即死だろう。


「あー、痛い…」


身体に刺さったままの刀を抜き、妖力を使い傷口を塞ぐ。


「相変わらずの化け物具合だな。同じ人間だと俺も思えねぇや」


直家の右上から猿吉が降ってきて何とも失礼な事を言う。どの口が言っているのやら。


「さぁ、次こいよ」


「くっ……なんだコイツら…」


ジリッと直家達から距離を取る傭兵達。それを見て黙って見ていた傭兵達の頭がブチ切れる。


「テメェらそれでも諸国を廻った傭兵団か!!テメェらにはテメェらの戦い方があんだろ!チッ!……しょうがねぇな……馬鹿野郎共、俺の指示に従え!俺が前に出る」


「おぉ…頭…」


「これ以上不甲斐ない戦いを見せるヤツは俺が殺す!並べぇ!」


傭兵団の頭が指揮を取り始めた瞬間、傭兵達の目の色が変わった。バラバラだった傭兵達が頭の後ろに綺麗に1列に並ぶ。


「ッチ…」


これで縦横無尽に動き回っていた猿吉の動きを封じられた。機動力が無くなったら猿吉の脅威は半減する。それがすぐ分かるとは、よく見ている。


ただ、単純に戦えば直家達には勝ち目は無いのだ。直家だってそう何度も攻撃を受ければ妖力が尽きるのは必定。


「行け」


短く、号令をかける。傭兵団が動き出す前に頭が先に動く、傭兵達の誰よりも速い。


「くっ!」


猿吉を狙っていたようだが、直家が一歩前に出て頭を抑える。


「なるほどな……確かに硬そうだ。だがなぁ」


鍔迫り合いから頭の力が抜けて前につんのめる。右足を前に出して転ぶのを抑えるが、重心が前に出た所で右足を槍で払われる。


「…はぁ!?」


完全に体制が崩れて、一瞬上下が分からなくなり、浮遊感のすえ床に転ぶ。その状態で顎先を蹴られて左脇腹を槍の柄で殴りつけられて吹き飛ぶ。


「ほら、1人潰したぞ。そのまま押しつぶせ」


「ハッハー!流石頭!」


何が起きたか分からない直家。起き上がろうとすると目の前がグワングワンと揺れるような感覚に陥る。脇腹も骨が折れているのが分かりすぐに膝を付く。


「所詮開拓者なんてのは力押しか頭にねぇ連中だ。少し足元をすくえばすぐに転ぶんだよ。こんな雑魚に手間取ってんじゃねぇぞ!」


「何やってんだよ直家!クソッ!」


体制を崩した直家と囲まれて身動きの取れない猿吉。形勢逆転である。


「少しずつ距離を詰めろ。焦るな。少しでも動いたら警戒しろ。開拓者なんてのは獣の狩りの様にやるんだよ」


そう言いながらジリジリと猿吉を囲む輪が狭まっていく。正直舐めていた。最初が上手く行き過ぎていたのだろう。が、頭と言われる男が強く、統率力もある為かすぐに逆転されてしまった。


「ほら、やれ。終わりだ」


今まさに刀が届く瞬間。壊れかけの壁を突き破り包囲をしている傭兵達を何人か吹き飛ばす。更に店が壊れたが、店主はもう泣き疲れていたのかボーッと突っ立っていた。


「なんだ。威勢よく飛び出した割には情ない…」


そこには岩蔵が仲間達と一緒に立っていた。


「あぁ、クソッ!まだいやがったのか!」


「頭!あいつらも数が多いですよ!」


「ッチ!開拓者はあんまり大人数で群れるのは好きじゃねぇはずなんだが……」


その仲間達を見た猿吉は余計なお世話だと言う顔をして、直家は皆が呆気に取られている間に身体を回復させて動けるようにしていた。


「うちの組の者が世話になったね。このお礼はキチンとしないと…」


この状況に合わずニコニコと笑う長貴に、不気味さを感じて距離を取る傭兵達。


「テメェら!何ビビってやがる!行け!」


「お、オォォ!」


「ふぅんぬっ!!」


槍を大きく振り払い3人丸ごと吹き飛ばす岩蔵。その岩蔵の仲間達も武器を使わずに殴り飛ばし傭兵達を無力化していく。千雪達、青海の妖術は流石使わない。本当に店が吹き飛ぶ。もう、手遅れのような気もするが。


「大丈夫っすか?」


「うおっ!……蛍か。びっくりさせるなよ…」


店の奥の方に吹き飛ばされた直家の耳元から声が聞こえてビクってなる。


「いやぁ、気配を消して来たものっすから。結構手酷くやられたっすね…。もう直ったようっすけど」


「……流石に強い。けど、もう同じ手は食らわないようにするがな」


立ち上がる直家。もう動きには支障はない。猿吉も距離を取り、武器を構え直す。岩蔵達も腕を組んで高い身長で傭兵達を見下ろす。長貴からも静かに妖力が満ちていく。


「………旗色が悪ぃな…」


また、形勢逆転だ。斬られた仲間をチラリと見るがすぐに目をそらす。


「しょうがねぇ!退くぞ!テメェら付いてこい!」


「逃がすわけねぇだろ!」


猿吉が前に立ち塞がる。しかし、足止めは苦手な猿吉は頭の振り払われた槍をガードするがそのまま吹き飛ばされて道が開く。


「どけぇ!」


「クソッ!」


「もういいよ…。逃げ足は速いし。もう追いつけないよ」


流石は諸国の戦に参加してきただけの事はある。有利か不利かをすぐに見分けて、逃げる決断も速い。これまで生き延びてきただけはあるのだろう。


「ふぅ、でも酷くやられたね直家くんは」


「トロイからあんな感じにやられんだよ」


「うるせぇよ。まぁ、そうだな。対人戦に慣れて無いってのは結構効いた」


開拓者には開拓者の戦い方があるが。傭兵団には傭兵なりの戦い方があるのだろう。それに見事に足を掬われた形だ。戦いは妖力量だけではないということだろう。


本格的な戦の前の小規模のイザコザみたいな戦いだったが、開拓者の弱点を知れて得るものがあった。


しかし、話はこれだけでは終わらない。


「……あ、あんた達……私の店に恨みでもあるのかい…?」


震える声で、直家達を睨みつける店主。冷静になって店を見渡してみるとグチャグチャだ。お皿は使えるものの方が少なく、壁には穴が空いて、柱が吹き飛んでいる。この建物がまだ健在だということが不思議なくらいだ。


「……なぁ?私の店に…なんの…なんの恨みがあったか言ってくれよ…なぁ!?」


冷静になればもっと違う言葉が出ていたのかもしれないが…。ものの数10分で店が再起不能になった店主からしたら冷静になどなれない。他人のせいにでもしないとやってられないのだ。


「………………」


「教えてくれ……誰か教えてくれよ……私の、何がいけなかった…」


膝をつき、焦点のあっていない目で呟くように言う店主はもう涙を枯れたのであろう。原因の一端は直家達にもある。しかし、ここでお金を払って助けることはできない。ここから1月何があるか分からないのだ人助けなど出来るほど余裕があるわけじゃない。


「お父さん!!」


その時店主の娘らしき人が走って店主の肩を支える。今まで隠れていたのであろうか。それにしては服が乱れている。この声は最初に聞いた悲鳴の声に似ているのに気がついた。


「大丈夫!?」


「照か……。ごめんな…お父さん…お店を畳むかもしれない…お前こそ大丈夫か…?服が…」


「…………………大丈夫だった。なんにも無かったよ」


そう微笑む顔は少し泣いていた。そして、乱れた服を少し直して、直家達の方を睨みつけるように見る。


「……もう……満足でしょう?………出ていって……お願いだから」


まだ、年若い女性が気丈に睨む。もう、失うものがないから。なにもかも失い尽くした。


「……皆。行こうか」


長貴か歩き出す。これ以上ここにいるのはお互いにとっていいことは無いとの判断なのだろう。直家達も少し後ろ髪が引かれる思いがするが長貴について行く。


後ろから大きい泣き声が聞こえてくる。それを聞いた直家はボソリという。


「俺達は…何のために戦いに行ったんだろうな…」


「言ったろ。正義の味方ごっこならやめておけってよ。どうせろくな事になりゃしねぇよ」


「そう…だったな」


誰が悪かったのであろう。あの、傭兵達か直家達か。分かっているのは直家達が助けに入った所で何も変わらなかったということ。


「誰が悪かったなんてのは考えるだけ無駄だからやめておけ。こういう時はこの町を作った為政者が悪い…そうとだけ考えておけ」


岩蔵が思い悩む直家に言う。


「それは……少し無責任なような」


「いや、岩蔵の言う通りだよ。そういうのを含めて治めるものの責任だ。武士はそれを担っている。それを怠るからこういう事態になる。それは事実だし、それ以上考えても僕達には何もできない」


「…………」


その通りなのだろう。だが、素直に納得は出来なかった。


「気にする必要無いっすよ。ああいう輩はこれから沢山出てくるっす。一々気にしてたら身体が持たないっす」


「そう…だな」


心に残る。気丈に睨みつける店主の娘の顔が離れない直家。皆は忘れろと、気にするなと言う。だが、心のどこかで忘れてはいけないと叫ぶ自分がいる。それは、この世界に慣れるために忘れてきた心。何故か、それが少し戻ってきた。


というよりこの現実を受け止められる程、昔よりは少し心が強くなったのだと、気がつくのはもう少し先だ。



メンタル大事。

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