陸後国へ2
ちょっと短いです。
直家、猿吉が力不足を嘆いても無常にも時は進む。これから参加する戦には当然死人が出るはずだ。その中の1人にならないといえるだけの実力があるとはとてもではないが言えない。ましてや、格上である武士連中がほぼ全員参加するのだ、仲間の命以前に己の命一つ守ることは難しい。
「到着だ。あれが陸後国一の都であり最大の規模を誇る陸上城。貴様らがあそこでふんぞり返っている守護大名の足軽共になり、あやつらが撒いた悪政のツケを貴様らが受けるわけだ」
陸後国に着き更に5日ほど過ぎた。それからはあまり目立たないように国内を移動しこれといった戦闘もトラブルも無く着いて目的の地に着いてしまった。
「それを受けるハメになったのはテメェのせいだろうが」
猿家の言い方にイラッとしたのか猿家の思い通りになるのが嫌なのか猿吉が突っかかる。
「それは貴様らのツケだ。まだ、命があるだけでもマシだと思えと何度も言っているだろ?」
「それが本当だったからといってこの状況に感謝できる奴は中々いねぇと思うがな」
「そこが我々の理解出来ぬ所だ。感情を抜いて考えれば良いものを」
「理不尽な状況に従順になれるのは家畜か忍者くれぇだよ」
そう言い捨てて、猿吉が話を切り上げる。猿家は猿吉になんと言われても何も感じないようだ。流石忍者である。そうは、なりたくないが。
「さて、早速だがここからは別行動だ。貴様らは直ぐに陸上城へ向かい志願兵となれ。ただの農民どもの徴発兵よりは使えるだろうからまぁ悪くはない待遇を受けれるだろう」
「いや、待ってくれ。いきなり行って怪しまれないのか?」
直家はこの後、他国の間者だ!捕らえて斬り殺せ!という展開にならないか心配なのだ。初っ端から出鼻をくじかれて詰むのは冗談ではない。
「あやつらにそんなものを確かめる手段は無い。それに多少怪しくても戦力不足の状態で貴様らをどうこうするわけないだろう?例え裏切ったとしても開拓者風情直ぐに潰せるだろうしの」
言葉の最後の方は鼻で笑いながら言う。少し腹が立ったが、思った心配が無いのだと分かれば何も言うことは無い。
「これで、顔を突き合わせるのは暫くない。聞きたいことがあったら聞くがいい。答えるかどうかは分からんがな」
「できれば、これ以降の人生でテメェらの顔はみたくねぇんだがな」
「なに、もうすぐ人生が終わるかもしれんのだ。そう焦るな」
猿吉の悪態に皮肉で答える猿家。キレる一歩手前あたりの表情をする猿吉に少し同情する。
「けっ!行こうぜ直家!こいつの顔を見てると気分が悪くなる!」
そう言って走早に陸上城下町に入っていく猿吉。気分が悪くなるのは直家も同感なので肩を怒らせる猿吉に着いていく。
「……一応言っておくが…」
「監視の目は常にあるってんだろ!わーってるよ!クソが!」
「分かってるなら妙な真似は起こさぬよう。では、我々は暫く消える。一応定期的に情報を貰いにいくが……基本的には一月後だ」
そういうが早いか、猿家の姿が目の前で霧のように消える。
「………一緒に行動してる時も常に見られているって感じがして気分が悪かったけど……いなくなってもあんまり変わらないわね」
「そりゃそうっすよ。今も見てるっすもん」
「えっ!?蛍ちゃん分かるの?」
「よくぞ聞いてくれたっす青海さん!これでも元忍者っすよ!何処で見てるか、どのような術を使っているかは大体想像つくっす!」
「へぇー!凄い!蛍ちゃんも出来るの?」
「………それは聞いて欲しくは無かったっす……」
「あっ……えと、ごめん?」
「ごめんね。青海たまに無神経な質問するから。……こういう所は全然変わってないのね」
「……ごめんなさい……」
そんな会話を横で聞きながら心の中で思う。もとから、向いていたら忍者辞めてないよ青海さん、と。
「……女どもは能天気だな。これから死ぬかもしれねぇ戦に参加すんのによ」
「逆であろう?これから戦があるからいつもより明るくしないといかんのだ。それは、彼女達の心遣いでもあるのだぞ?そのような言い方はするな」
岩蔵が猿吉を窘める。流石にここら辺の達観ぷりは年上と経験の長さであろう。
「そうかぁ?」
言われた猿吉は胡散臭そうに女衆を見る。正直、ここは猿吉と同意見というか、心遣いのようには見えない。ただ、事実それで心の助けになっているのだからそこら辺はあまり考えなくてもよいというのが直家の立場だ。
「どっちでもいいだろ。それより、早いところ用事を済ませてしまおう。変な緊張感を持ったまま突っ立っているのは嫌だ」
「そうだね。早く行こうか。逆にここでずっとこの人数がフラフラしている方が怪しいからね」
「わーってるよ。俺だって面倒くせぇことは早く終わらせてぇ」
ということで長貴が組合がある所を町民から聞き出して城下町の中心部にある組合に向かう。
「僕達が見たあの開拓村よりはマシだけど……」
「荒れてるな…」
今は中心部にある陸上城に向かっているために大通りを通っているが賑わいは無い。すれ違う人の顔も何処か暗く、やせ細ってはいないが血色は悪い。
「大通りでこれか……」
大通りはいわゆる町のメインストリートである。賑わっていて当然のはずなのだがそれが無い。そして、チラチラと見える裏道には乞食や死体の区別がつかない人達が大勢いた。
「ある意味…開拓村よりひでぇかもな」
開拓村はまだ妖怪を狩ったあと、その肉を食べることが出来る。しかし、都市はまず生産拠点が少ないのだ。食べ物が不作だった場合、村の農民達は自ら食べる分を確保するために必死に隠す。勿論、取り立てる側も必死なのだがそれでもどうしても取れない部分が出てしまうし、そうなると都市に送られる米が少なくなるのだ。
ましてや、これから戦をするのであれば物資などいくらあっても足りないものだ。本来市場へ流れている食糧を根こそぎ集めてる為により酷くなる。
そんな城下町の状況に眉を潜める。その時、大通りのある飲食店から大きな怒鳴り声と物音がした。
「テメェ!俺様の言うことが聞けねぇってことか!?あぁ!?」
「も、申し訳ございません!!で、ですが!それではうちの店は潰れてしまいます!」
「知るかよ!出来ねぇんなら今ここで店を畳むのを手伝ってやるぜぇ!」
そう言って壁を破壊して、ニヤリといやらしそうに真っ青になった店主に再度言う。
「なぁ?金は払うんだ。まけてくれや、1割によぉ?」
「わ、分かりました!分かりましたから、やめて下さい!」
悲鳴のような店主の叫び、しかし身体の大きな男達はニヤニヤと笑いながら再度壁を破壊する。
「あぁん?何をやめてほしいってぇ?聞こえなかったなぁ?なぁ!テメェら!ここの店は客への態度ってのがなってねぇよなぁ?」
「あ……あぁ。そんな…」
「タダにしろよ?俺ら10人の飯代と酒代を。じゃねぇと右手がまた疼いてきちまう」
「わ…わかりました。お代は結構です!」
「ガハッハッハ!このオッサン顔が真っ白になってやがる!笑えるぜ!」
「ホントだ!馬鹿みてぇにほうけた面してるぜ!」
「……でもよ、この顔はお客への顔じゃねぇよな?」
「……笑えよ!ほら!早く笑わねぇと」
今度はテーブルの上に積み上げられていたお皿の類が割る。
「手が疼いちまう…」
リーダー格の男がまたニヤリ笑いと店主を見る。その姿に笑う、嗤う、呵う。酷く下品に、膝から崩れ落ちて柱に縋りついて泣き狂う店主を指さして腹を抱えて、笑う。
「……あれは、なんだ?」
血が頭に登っていく。妖力が満ちていくのが自分で分かる。何をする訳じゃないが、身体が熱い。
「いろんな人を高給で集めているって事はああいう輩もこの町に来るって事だよ。心底、胸糞悪いけどね」
「あれを取り締まる武士は?どうしてるんだ?」
「さぁ?もとから、下々の事は興味の無い家だからね。どうなろうと知ったことないんじゃない?」
「そうか」
直家は納得した。なるほど、これが地獄か。統治者がいない世界がこれだ。力こそ全て、自警機能はもはや無い。こんな状況では、外には出たいとは思わないは分かる。
また、店主の魂の嘆きの声と身体の大きな男達の狂ったような笑い声。それにまた、女性の悲鳴が何処からか聞こえる。
「……俺達は…。こんな…地獄みたいな状況を作り出した家の為に戦うのか?」
「……………………」
無言。何も言わない。どうにもならない悔しい気持ちを持つのは直家だけではない。長貴も歯を噛み締めながら激情を堪えている。皆だってそうだ岩蔵達も憤怒の表情で睨みつけ拳を握っている。青海、千雪、蛍達だって眉を潜める。
「…行こう。見てると気分が悪くなる」
そう言って先頭を歩く長貴が進もうとする。リーダーとして仲間を危険に晒すわけにはいかないのだ。ここで変にトラブルでも起こしたら何が起こるか想像がつかないのだ。リーダーとしての判断…、感情は真逆である。
「……先に行っててくれや。ちょいとここに用が出来た」
猿吉が妖力を漲らせながら長貴にそう伝える。瞳孔は小さく、声も震えていた。もはや、真っ直ぐ笑う大柄の男達しか見ていない。
「…悪い。俺も少し残る…」
直家も猿吉と共に残る事にする。互いに頭では分かっているのだ。やった所で厄介事を背負うだけで賢い人なら首を突っ込んだりしないと。しかし、堪えることは無理そうだ。
「ちょっ!まっ!……てよ」
慌てて止めようとする長貴の言葉はもう走り出した直家達には届かない。
「……あぁ!もう!あの2人は!」
頭を掻きむしりながら2人の暴走に怒る。が、何処か顔はスッキリしたような顔になり口角が少し上がる。
「ふぅむ、若さゆえの誤ちという奴か。どれ、若人の責任は我々の責任………おのれらぁ!!あの馬鹿2人に続けぇ!!」
「「「オオォォォォ!!」」」
そう言って嬉々とした表情で直家達を追いかけ走る岩蔵達。
「あーあ。行っちゃったっすね。どうするっすか?」
「……しょうがない。こうなったら僕らも行こう」
走り出した人達を追いかけようと進み出す。
激情にのまれ衝動的に動き出した直家と猿吉。それを止める者はもういないのだった。
直家くん結構性格変わったですね。扱いやすいキャラになってありがたいです。




