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初陣1

急にブクマが増えてビックリしています。検索数が1日で三千を越えたのを見た瞬間軽く小躍りしてしまいました。


「戦が…始まるよ」


まだ少し息がきれている秀三。その言葉に身が固くなる直家と猿吉。しかし、どうも周りの反応は違うようで。


「よっしゃ!五助!今度はもっと沢山首をとるぞ!」


「頑張るぞ犬太!」


うおぉぉ!と、燃える2人はさておき、音吉は何処かやれやれといった顔をしている。直家と猿吉との温度差が全然違うのだ。


「おい…これはどういう事だ?これから戦が始まるんだろ?なのに何でこんなに腑抜けた雰囲気なんだ?」


戦は当たり前だが死人がでる。弱者にとってそこら辺に転がる死体は1歩間違えれば自分だという意識が強いはずなのだ。だというのに、微塵も自分が死ぬとは思っていないように見える。


「あぁ…うん。実は最近こういった小規模領主の反乱が頻発してて…こっちは全力で行くからまず圧勝なんだ。それにその領地から農民とか戦える人は全部出てくるから相手の質も低い……だから」


「だから、今回も楽勝だろうと。頻度が多い分、命の危険だとかより面倒になってきたと」


「まぁ、うん。そうだね。あんまり言いたくないけど主君である川上家は金払いがあんまりよくないんだ。戦で戦功を挙げても恩賞の一つもあげないから」


なるほど。少し話が見えてきた。普通の足軽というのは毎月入る定期収入と戦の戦功での恩賞が2大収入源だ。人によっては戦の方が多いということはよくある。なのに、恩賞がほとんど無いのであればいくら頑張ったって意味なんて無い。こんな雰囲気が広がるのも納得である。


「いや、まて。俺はこの家が劣勢だと聞いたぞ?戦歴を聞くと圧勝続きってのはどういう事だ?」


猿吉が腕を組み疑問を秀三にぶつける。確かに色々と疑問が出てきた。


「…一応説明しなくちゃ駄目かな。町にいる人がここに集まるまで時間はあるし、うん。あんまり喋っちゃいけないって言われているけど殆ど周知の事実だし」


ブツブツと呟く秀三。少し迷ったが説明することに決めたようだ。


「えぇと…何処から説明したらいいかな…ハハッ」


「いいから早く言え」


少しややこしい話だからなのか何処から話すか迷い苦笑いする秀三を急かす猿吉。


「うーんと、この川上家はここ最近…って言っても10年くらい前になるか。その時から不作続きで苦しめられてきたのは多分当事者だから知ってると思う。当たり前だけど、不作が続くと苦しむのは農民だけじゃない、俺ら武士達も食べるものが無くなるしお金も無くなる。どこの武士家もそうなんだ。でも、この川上家はその状況を理解出来て無かった。変わらず、高い税率を維持して年貢を取り続けた」


昔を思い出すように上を向き説明する秀三。それを、静かに聞く直家と猿吉。同じように聞く五助と犬太は口を眉間に皺をよせて黙る。


「大名家は直接農民達から取るわけじゃない。農民達の領主達である武士から取るんだ。だから、農民達の苦しみなんて分からないんだろうね。食べ物なんて降ってくるものだと本気で思っていたのかもしれない。餓死をして、僅かな食べ物を巡り立つのもやっとな人達が友人が家族が殺し合いをしているのを見たら変わって……なんて、今言ってもしょうがないか」


チラリと横目で五助と犬太、音吉を見る。持っている武器を強く強く握り締めて激情に耐えているのが分かる。味方であるはずの足軽達にすらこれほど憎まれているのかと密かに驚く。


「城仕えの武士は分からないだろうけど、領地に根をはる武士は農民達の事をよく考える者が多い。武士達は自らの生活を切り詰めて農民達の税率を軽くしようとするけど焼け石に水。第一、税が無くても全員に行き渡らない量なのにそこから取られたらもうどうしようもない。無論、領主たる武士達は耐えた。川上家には取り立てて貰った恩がある。愛する農民達を見殺しにして川上家に年貢を与え続けた」


ふぅーと、長く息を吐く秀三。もちろん、そんな心優しい武士だけじゃなくてガンガン殺しまくってとりたてまくった武士もいるけどそこは村ごと消滅したよ。と、冗談キツイ事を言ってくる。


「………つい、三年前の話だよ。川上家が更に税率を引き上げようという決定を下したのは。武士達の悲鳴は聞こえていたはずなのに」


猿吉も直家を眉を顰める。理由を尋ねると。


「川上家は神室幕府が設立する時代に活躍した家でもあるんだ。そこそこ有名な武門の家で…結構戦の儀式を重要視する。また良い武器に良い鎧、武士という意識も高い事から見た目にもこだわる。お金がかかるよそりゃあね。あ、俺はあんまりこだわらないタイプでね。よく女房に怒られるよハハッ」


少し話が分かってきた。農民達の窮状を知らずにその儀式とやらと武具、城仕えの武士にかなり高い給与を払っていたようだ。もっと詳しく聞いてみると、なんとこんな状況でも神室家にお金を献上しているらしい。


「まぁ…当たり前だけど。それで堪忍袋の緒が切れたんだろうね。領主達は次々に川上家に反旗を翻した。村を支配する武士達の9割が一斉にだ」


「9割が一斉に…?それは……」


猿吉が何かに引っかかったように考え始める。


「……後ろに誰かいるのか?」


「!?…凄いね、猿吉くんだっけ?その通りだよ。この陸後国の東の方にいる領主に木板(きいた) 則平(のりひら)という男がいるんだけど、彼は元から端っこ方の領地の人で独立性が強かったんだ。だから、今回の飢饉のときから領主達である武士達に色々働きかけていたらしい。今じゃ裏切った勢力の8割は彼の傘下だよ。この国で見ても6割は彼が持ってるって言っても過言じゃない」


新しい名前が出てきた。木板 則平という男が反乱軍の頭領なのだろう。しかし、新しい疑問も出てくる。


「6割?そんなのもう勝負がついてんじゃねぇか?なんでこの川上家がまだ持ってるんだ?この家にいたっては国の3割も掌握しきれてねぇだろ?」


「うん、それなんだけど……」


その時、また二の丸からの道から音が聞こえる。先程も聞いた馬蹄の音。今度は数が多い。


「元々城仕えの武士が多いというのもあるんだけど…」


騎馬集団の先頭を走る男が見えた。格好も他の武士とは違く、より高価な鎧と槍と刀を装備する大鎧姿である。男はこちらを向きもせずに前だけを見つめ進む。


「ッ!?」


しかし、直家と猿吉は目を見開き身体中から鳥肌が立つ感覚がする。周りの雰囲気も変わる。この広場から距離は離れているが、一目見ただけで分かる。格が違う、と。


同じ空間にいるだけでこれだけの威圧感を放つのだ。その後ろを進む1騎も相当な実力者だと分かる。そして、その他大勢の武士達の騎馬集団も全員相当な実力を持っている。


少しして、100騎近くいた騎馬集団が全員三の丸からいなくなった。


「……はぁっ!はぁはぁ……」


「………なんだ、あの化物は」


あまりの存在感に息をするのを忘れていた直家は苦しそうに大きく息を吸う。猿吉は気圧されたように光秀で尋ねる。


「さっき、先頭を走っていた男…村下 勝真(かつなお)様の存在があるからなんだ。村下様は、川上家の武士団の実質的統率者である御方で一番お強いんだ。しかも、圧倒的に」


納得した。納得せざるおえない。あれは別格だ。直家が百人いても傷一つつけられる気がしない。猿吉も言葉を失っている。


「村下様の後を走っていた男は 山中 虎助様という御方で……彼が馬廻り集の隊長で武士団の2番手なんだ。一応、村下様と双璧となされる御方だよ。実力ももっとも村下様に近い」


なるほど村下勝真に隠れてしまっていたが、山中虎助という者も相当な力量を持っているのだろう。精鋭軍団で名が通っているだけはある。人材は豊富だ。


「村下様と山中様、あの2人の存在があるから木板は攻めてこない。数だけ見ると圧倒的な戦力差なのに」


なるほど、ようやく腑に落ちた。だからこれほどまでに川上家は強気で出られるのであろう。


その時また、1騎も武者がこちらに向かってくるのが見える。かなり若いように見える。


「!?皆の者!地に伏せ頭を下げろ!」


「へっ?なん……ってぇ!」


反応の鈍い犬太の頭を急いで下げさせる五助。直家も猿吉も急いで頭を下げる。正直、状況が理解が出来ない。


「おい!秀三!準備はまだ整わぬのか!」


「はっ!申し訳ありません!町にいる足軽達がまだ戻ってきておらぬので、もうしばらくは!」


「チッ!使えぬな!村下と山中、武士団はもう出立したぞ!はぁ、だからワシは反対したのだ!このような使えぬ烏合の衆を使うなど……金の無駄じゃ!……お主のような裏切り者をまた使ってやっているのだから結果を出せ!足を引っ張るな!ったく、無能が!」


槍の石突きで秀三の頭を叩く。頭を下げる秀三の頭が地面にめり込む。それを見て、鼻で笑い馬を翻し町の方に走っていく。


「……んだあの野郎…」


頭を上げた猿吉は眉を顰める。確かに気に食わないやつであった。頭をわざわざ下げるくらいだからかなり偉い人なのであろう。直家も頭を上げて叩かれた秀三を心配し近くによる。


「……大丈夫ですか?」


「………………」


無言で血の出る頭を少しだけ上げる。パラパラと石が額から落ちる。


「っ!?」


その時見た秀三の表情は凄まじいの一言であった。人と言うのはこれほどまでに顔の形が変わるものなのかと思うほど、憤怒の激情を顔に表されていた。まるで鬼のように。あの穏和な秀三を知っている直家からしたら信じられないほど。


「…あぁ…うん。心配してくれてありがとう。俺は大丈夫だよ、ごめんね、すぐに反応出来なくて」


「あぁ……うん」


すぐにいつもの優しそうな顔に戻りにこやかに話し始める。その態度の変化に少し気圧される。


「アイツがこの家の国主たる、川上 義長(よしなが)が嫡子……義持(よしもち)様。笑えないよ……あの高慢な男が次のこの国の国主なのだから。私は恐怖でしかたないね」


音吉が吐き捨てるように言う。


「俺達はあんな奴らのために戦っているなんて考えると虫唾が走るよな」


「だな。まぁ、村の代表だから…この戦が終わるまでは帰れねぇし。帰ったらさっさと開拓者になっちまおうぜ」


話を聞くと完全に人心は川上家には無い。この短時間しか陸後国にいないのに川上家がいかに病的かということしか耳に入らない。何度目か分からない後悔がでてくる。忍者達に脅されなければこのような泥船になど乗りはしないのに。


「てかよ、さっきあの義長が言ってた裏切り者ってどういう意味だ?あんた以前にこの家を裏切ったのか?」


「…………俺じゃ無いけど…そうなるね。その時領主であり家長であった親父が川上家のやり方についていけなくてね8年前かな?1人で蜂起したんだ」


皆黙る。その先は聞かなくても分かるからだ。


「後は…多分予想が付いているだろうと思うけど」


ふっと自嘲げに笑う。


「皆殺しだった。俺の住んでいた村は灰になったよ。生き残ったのは俺と他の家から嫁いだ女房くらい。8年前なんて不満を持っていてもまだ誰も裏切らなかった中、裏切ったものだから見せしめとして手酷くやられたよ。一応……俺は結構上級武士だったんだ。だけど、今は下っ端も下っ端になっちゃった…」


寂しげに笑う秀三。つまり、今に至るまで見せしめは続いているということなのだろう。酷い話である。


「……他の家に逃げる事は出来なかったのか?」


「そうだね。そうしたかったし、今もそうしたい。でもね……女房を人質に取られたらなんにも出来ないよ……あ!町の人達が来たね」


これ以上この話はしたくないと秀三が話を辞める。これ以上聞くなと言うのが直家達も分かり一旦話をきる。


秀三が門の前まで走っていき、案内を始める。このような下人の仕事を元上級武士がやるとは……いくら元の性格が気さくでもかなり心理的にはくるだろう。


ぞろぞろと門を潜り進む人達。ひとけがなかった三の丸がまたたく間に人で溢れかえる。


「……結構…町にいたんだな」


「いやいや、直家さん。かなり少なくなってますよ、あれ」


五助が直家に言う。話を聞くとここ最近は日に日に人が少なくなっているのだと言う。傭兵団から開拓者までフリーの連中は特に酷いらしい。まぁ、当然だろう。


「まぁ…いなくなっているというか木板家の方に行っているらしいけど。財産面はそっちの方が潤ってるから、金払いはこっちより遥かにいい。ちゃんと恩賞がでるし」


音吉が補足説明をする。直家だってそうしたい。というかよく見たら少し前にイザコザを起こした傭兵団の姿を見ない。町からでていったのであろうか?


「まさか、城に籠るわけじゃないと思うけど…何処で戦うんだろ?」


「何処って……そりゃ、敵の本拠地ですよ」


直家の疑問に犬太が答える。敵の本拠地?こちらが攻めるのか?


「あぁ、そういう事か。こっちが攻められたんじゃなくてこっちから攻めんのか…。ってことを考えるとさっきのは無茶苦茶だな」


猿吉が眉間に皺をよせて呟く。つまりはいざこちらから攻めるってなった時、出陣の日を伝えずに急に出陣するわけだ。なるほど、足軽達は信用出来ないから重要な情報は伝えないということだろう。


しかし、それでは兵糧の準備はどうするのであろうか?武具は?より人を集める算段は?少数精鋭たる武士達はいいだろう、ましてや武士達は情報を知っている。武具を揃えてそこそこの兵糧を持参し出陣をする。だが、足軽達はどうか。数が多い分兵糧の確保に時間がかかるし、編成にだって時間がかかる。武具だって、……など言い始めるとキリがないのだ。


それをうまく短い時間でまとめて出陣に漕ぎ着けるだけ凄いのだ。それを、無能と罵った義長やそのような男を下に置く川上家の見る目の無さ。理不尽さは凄まじい。


動き回る苦労人秀三に付き従う者も多い。戦闘能力は低いかもしれないが、確かに川上家の力になっていた。川上家が、そして本人である秀三が思っているより影響力は大きいのであった。


少数の兵が小競り合いをする時代は終わりかけている。大軍勢がぶつかり合う時代にもうすぐ突入する中で、確かに世に必要とされる才能を秀三は持っていた。


初陣というタイトルなのに、ほぼ説明回なのはごめんなさい。

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