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陸後国へ1


「見えたな…」


中層を抜けて、山を4つ程越えた当たりだろうか。もはや、何処を歩いているかは分からないなか、5つめの山の頂上でいくつかの集落の炊煙が遠目に見ることができた。


長く険しい道のりを越えて陸後国内に入ることができた。しかし、身体はさらに強ばる。むしろこれから越えるべき苦難は山の比ではないのを皆知っているから。


本来は安全な公道を通って関所を通るところ、獣道を通って来たために完全な不法入国である。今、この瞬間を見られていたら捕えられても文句が言えないのだ。まず、これが今第1に気をつけなければならないこと。


直家達に神経の休まる瞬間はこの国にいる限り訪れる機会は中々ないと言っても過言ではない。


「……行くぞ…」


足が止まった直家達の前にいた猿家が躊躇無く進んでいく。慣れた足取りである所を見ると何度か視察しにここまで来ているのであろう。


ここまで来てしまったらもう戻る事が出来ない。最早何も言わずに大人しく猿家達に付いていく。










「あそこの村で今日は泊まるぞ」


いくつかの村を通り過ぎて、猿家が突如一つの村に指を指す。直家達の返事も待たずに歩を進める。歩きながら姿形が変わっていき、忍者から商人、農民、開拓者などに変身する。それぞれのクループに分かれて別れて進む姿は違和感がほとんど無い。


「流石は忍者ね……変装はお手の物って事………」


「目の前にいたのに全く見えなかった……」


「……あれ?あいつらはどうすんだ?」


農民や商人の方に変装した忍者達は直家達と違う道を歩き始める。


「こんな大人数で移動していたら怪しまれるであろう。我々と貴様ら、開拓者としてあそこの村に行く」


後から聞いたが直家達が1日滞在する村は開拓地村らしい。よく考えれば、直家達は開拓地を通って国を跨いで来たのだ。超えた先にも他国の開拓村があった方が自然だ。





早く休みたい直家達は少し走早に村に向かう。頭には遠山村のようなものを想像していた。遠目から見たら遠山村なみの規模で、それに見合った人の数がいるだろうと思ったが、


「……何だこりゃ…」


「人が…少なすぎる…」


「と、いうか……ここにいる人たち…なんかおかしくないか?」


唖然とする猿吉と岩蔵。直家も人がいない以上の異変に気づく。ほとんどの人が家の壁にもたれかかり野垂れ死にしている者も少なくない。歩いている人ですら、フラフラと幽鬼のように目に生気は無い。そして、皆一様に痩せ細っている。まるで、この一月何も食べていないかのように。


「いや、違うか…。ようにじゃなくて、何も食べていないんだ…」


たまに、妖怪を狩ってきた開拓者とすれ違うがその者達に顔に疲労を滲ませていた。開拓者というのは命の危険はあるが高給取りなのだ、腕のある開拓者ですら困窮するような状況なのだろう。


「……ぁあ…。お願いです…少しでいいです…食べ物をめぐ…ぶがァ」


先頭を歩いていた猿家に今にも死にそうな体の老人を容赦無く蹴り、道を開けて何も無かったように進む。強靭な足腰を持つ忍者の蹴りを貰ったのだ、しかも一般人であろう。


「…………酷い…」


青海がボソリと呟く。痛ましげに蹴られた老人を見る。しかし、だからといって助けたかというと青海でも助けはしなかったであろう。そこまで甘くは無い…無いのだが、あまりにも無情。他にやり方があったのではないかと、そう思ってしまう。


「……いや…。これに関しては猿家の野郎は正解だ」


「えっ?」


青海の呟きを聞いていた猿吉が、顔を歪ませて喋る。


「もし、一瞬でも止まったら他の乞食共が群がってくる。それにあのジジイ、他の死ぬ1歩手前の奴らと違って何処か演技じみていた。少しだが、ほかのヤツらに比べると余裕があったんだろうな。……まぁ、微々たる違いだがな…明日死ぬか今日死ぬか位の」


直家もチラリと後ろを振り返り溜息を吐きながら話に加わる。


「あぁ、あと一般人だと思っていたけどあれは元開拓者だな。あれ食らって死んでない…。まぁ、半死半生だがな。他の乞食共が群がってとどめを刺しに行ってるからもう生きてないかもしれないけど」


それを聞いて青海は後ろを振り返り目を見開く。そこには、血塗れの爺に寄って集って服からお金から全てをはぎ取ろうとする乞食共の群れ。抵抗の無い老人はもう誰かにとどめを刺刺されたのだろう。


「……………」


今度は言葉も出なかった。まさに、地獄絵図。話には聞いていたがこれほどまでに隣国は困窮していたのかと驚く。


「これを見ると…何でこの国で戦が起こるのかが分かるわね…。何処を見ても地獄なんだもの。どうせ明日死ぬのであれば一か八かで今日死に行くのも何となく理解できるわ」


疲れたような表情の千雪。あまり、見ていて気持ちのいいものではないの。


「この国にいる限り、この中に入る可能性があるって思うとゾッとするっすね…。いや、まぁ、私は山城国でも野垂れ死にかけたっすけど」


「そういや、お前はそうだったな…」


「多分1人になったらああなる自信しかないっす。見失わないように見ていて欲しいっす直家!」


「そうなったら強く生きろよ。俺は知らん」


「そ、そんな…お腹の子はどうするっすか!」


「ばっ!おまえ!」


傷ついたような表情をする蛍を口を抑えて黙らせる。頬がピクピク動いているから笑いを堪えているのだろう。なんと憎たらしいのだろう。


「……直家さん。酷いですね…」


「最低ね…貴方が野垂れ死ねばいいのに」


「そんな人だったんだ…」


女性陣の視線が痛い。青海は少し距離を取り目を細め直家を見ている。千雪は絶対零度目線で直家の背筋を凍らせる。小春や多美や静達もうわぁって顔で直家を見ていた。


助けを求めるように長貴を見るが目を逸らされる。猿吉に至ってはこの一言


「身から出た錆だ。俺を見るな殺すぞ」


正論と罵倒を貰い、視線の先を変えることしかない。岩蔵達も誰1人目線を直家には向けない。


「すまぬな。経験上女子を敵に回すと碌なことが無いことを知っておる」


……味方は1人もいないようだ。


「ぷっくっっくぅ!」


笑いを堪えきれずに漏れ出す声に苛立ちが募るのを抑える。


「…ふぅ。いやぁ、面白かったっす。冗談すよ今の所子供が出来たかどうかなんて分かるわけ無いっすし。別に見なくてもいいっすよ?私は忍びっす。私が見逃さないっすよ」


「はぁ、分かったよ。もう、それでいいよ」


なにか余計に疲れたような気がするが、何処か気持ちは軽くなったような気もする。


死体や地獄の様子を見続けてきたのだ。無意識に心は摩耗していく。


もしかしたら、それを見越してこの話を始めたのかもしれない。その考えが頭をよぎり、能天気そうな顔でフラフラと歩く蛍を見る。直家としては好感度マイナスという代償があったが、一時的にでも明るい雰囲気が戻った。


どう見てもそのような気を使うような顔ではない…が、この女はよく分からかい。惚けたようで頭の良い所を時々見る。どちらにせよ、蛍に少し救われた。


「……ありがとうな」


誰にも聞こえないようにボソリと呟く。蛍に直接言うのは気恥しいから聞こえないように言った。これが、千雪の言っていた意気地無しというのだろう。


少しして、直家の少し前を歩く蛍も誰にも聞こえないような声で返事を返す。


「…どういたしましてっすよ」


この言葉は今度こそ誰にも届きはしなかった。実力的にも申し分ないがそれ以上にこの極限状態の開拓者達を裏から支える小さな策略家であった。蛍の担う役割は皆が思っているより遥かに大きいのだった。









この国の開拓者達が愛用していたであろう、そこそこ大きい規模の宿屋に泊まることができた。というか、ほかの宿屋はほとんど潰れてしまってここくらいしか泊まることが出来るところが無かった。しかも、めちゃくちゃ高い。山城国の5倍近い値段だ。これでは困窮するのも分かる。


その宿屋で少し詳しいこの村の話を聞いた。開拓者達がごっそりといなくなってるのは各地の地頭や武士達に金で雇われているらしい。聞くと普通に開拓者やるより遥かに高給らしい。


これで少し納得できた。しかし、この開拓地の麓の村はこの国の守護大名にとって妖怪から人の生活範囲を守る拠点でもある。そこに開拓者達がいないとなれば妖怪が神社などを壊してここら辺一帯がまた、人の住めない妖怪達の土地になってしまう。


それは、許容出来ないはずだが…。それを許さざる負えない状況なのだろう。


それぞれが宿屋で部屋を取り玄武組の男、女子全員、岩蔵達に分かれた。その中で今まで思っていた疑問をぶつける。


「というか、この国の守護大名って誰だ?」


「んな事も知らねぇのかよ…」


「そうだね…、説明しておくよ。川上って家で、古い武門の家って言う話だね。家臣達にも精強武士が多くて、幕府にも頼りにされてたって話だね。まぁ、武士としては優秀なのかもしれないけど理財の才能とか、農業とかにはあまり目を向けないから領民からの評判はそれほどだとか」


「俺達もその川上家側で今回戦うって話。家臣の武士達は数は少ないが一騎当千の強者揃いだからまぁ、暫くは持つだろ」


「ん?持つってことは川上家は最終的には勝てないって思ってるんだ」


「たりめェだろ。いくら一騎当千つっても限度があるしよ、それに何より…金がねぇんだろ?領民にそっぽ向かれているようじゃ年貢も碌に入って無いと思うしよ。いくら強くても食い物が無くちゃ、戦には勝てねぇだろ。第一、その一騎当千の家臣達が裏切って今の状況が生まれてんだろ?そう長くはねぇよ」


「ハハハッ…凄いね猿吉君は。普通の農民だったって聞いたけど…


「あ?馬鹿にしてんなら殺すぞ?」


「いくら何でも気が短すぎるだろ…」


「あぁ、ごめんごめん。そんなつもりは無かったんだ」


「けっ、そりゃ元農民の貧相な頭でもよ、そこそこ本でも読みゃ物分りが良くなるわな」


少し不貞腐れた様子の猿吉。なるほど、猿吉は猿吉で勉強をしていたのだろう。しかし、書籍の類は高いはずだが…なるほど毎回金がねぇねぇと言っていたがそういう事情もあったのか…。


しかし、


「本を読んでも、品格は備わらないってことか…」


「おう?その喧嘩買ったぜ?表に出ろや。今度こそ短足如きとは格が違うってことをテメェの長い胴体に教え込んでやる」


額に血管を大量に出して切れる猿吉。その一言に直家もブチギレる。


「チビの分際でよく言うじゃねぇか。いいぞ、串刺しにしてもっと身長を縮めてやる」


腕を捲り上げてメンチをきる。


「はいはい、させないよ」


そんな睨み合う2人にチョップをかます長貴。軽く放ったようだが結果は劇的だ。顔が宿屋の床にめり込む程の威力。血が上った頭から一気に血が抜けた。というか、血が頭から出ているだけだが。


「あ……ごめん」


無意識だったのだろうが。それにしても力が強すぎる。


「っっってぇえぇ!」


「くぅぅっっっ!!」


頭を抑えて転げ回る直家と猿吉。


「大体!何なんだよ!鬼人化って!聞いたことねぇぞ!」


涙目の猿吉が立ち上がり長貴を指さして叫ぶ。直家も頭を抑えて立ち上がる。


「そ、そうだ。なにか知ってるんだろ?教えてくれよ」


「う、うーん。昔、親戚に武士のおじさんがいるって言ったよね?」


「あぁ、聞いた」


「その人に少しだけ教えてもらったんだ…。その当時は全然出来なかったけど……」


「あの赤熊の野郎とやりあってる時か…」


「そう…だね。怒るかもしれないけども、死ぬ気で身体中にある妖力を掻き集めて、それでも足りないからもっと集めて…身体に纏える妖力量にも限りがあるしそれも足りなかったね。もう、何もかも足りなかったから、後先の事を考えずに全力で身体に妖力を流し込んで文字通り命を削って……」


「あん時長貴の妖力が血管のように波打ってた。身体が赤くもなってたし…」


「そのへんはよく覚えていないな。でも、昔を思い出したよ。おじさんが目の前で実演して…たしか、森の主を瞬殺していた」


「凄まじい親戚だな……。武士の中でもかなりのもんだろ…それ」


「そうかもね…武士だってことは分かってもどんな人か詳しいことはよく分からないし…。でも、覚えているのはこれ人にはあまり伝えるなって言われた事くらいかな」


「そりゃ、そんな手っ取り早く強くなれる方法があるんだったら人にゃ言いたくねぇだろうな。ったくよぉ!早く言えよぉ、長貴!早速やるぞ!」


嬉しそうに妖力を身体に浸透させていく猿吉。とりあえず、長貴と同じように限界を越えてやってみるようだ。相変わらず行動力は凄い。


「………いや、猿吉くん。辞めた方が…」


躊躇しながら猿吉の行動を止めようとする長貴。その時、天井の板が外れる。


「はぁ………馬鹿者が」


「ガッ………ぬぐぅ!」


そこから降りてきたのは猿家。猿吉に手刀を決めて意識を刈り取ろうとする。


「ハァハァ何しやがる!!糞畜生!」


既のところで意識を留めた猿吉が叫ぶ。


「貴様の命を救ってやったと言うになんという言い草だ」


「はぁ?俺様の命?」


「長貴、貴様も止めろ。あれだけ仲間を死なせたくなかったと言っていた奴が一人失う所だったぞ?」


「………やっぱり…危険なんだ…」


「当たり前だ。普通は妖力が尽きて死ぬか、身体が妖力の負荷に耐えきれずに爆散するぞ?」


「でも、長貴は成功したけど?」


「鬼人化は才能と長い研鑽により培った実力が必要だ。そこの長貴は才能の比重が大きいが、貴様らより長くは研鑽を積んでおる。それでも、鬼人化の条件に片手が届いた程度。なのに、才能も研鑽も実力も足りていないお主らがやっても死ぬだけだ」










「あまり馬鹿な事をするなよ」


そう言い残し、部屋から出ていく猿家。一応戸から出ては行ったが監視しているというので、またどこかで見ているのであろう。


「………くそっ!俺様が…まだ足りていねぇだと…」


機嫌が悪そうに悪態をつく猿吉。口ではあぁ言っているがそれを何より自覚しているのは本人だろう。


何故分かるか。何故なら直家も同じだからだ。あの後、直家もやろうとした。それほど速く強くなれるのであれば直家だってやらない選択肢はない。


例え、命を削るような苦しみが来ても答えは変わらないだろう。


何より己の実力不足を何より自覚しているための答えなのだから。


「……………」


長貴は何も言わない。そんな2人の気持ちが分かるからだろう。これから、戦に参加する。そんな中では小夏だけでなく他に死人が出る確率が非常に高いのだ。それは、自分かもしれない。まずは自分を守るために。そして、自分だけでなく、他の人を守るために。その力が欲しいのだ。


残念ながら、ここは都合の良いライトノベルの世界ではない。可愛い女子はいても都合よく覚醒する、眠られた力などは存在しないのだ。それは地獄ではなくただの現実。それが才能を持たない直家と猿吉に余計重くのしかかったのだった。

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