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中層進出

よろしくお願いします。

あれから2週間程たった。その間、中層近くまで足を伸ばして、地理の把握と小鬼や赤猿を狩り続けていた。いつもは逃げる様な大きな群れにも果敢に挑戦し地道に実力をつけて行った。


そして今日、念のため野宿など出来る用に色々と準備し、本格的に中層へ進出する。


「ようやくか…、遅ぇなぁ。俺らは」


猿吉が玄武組の進行の遅さにぼやくように呟く。


「でも、こないだ中層に狩場を移した同期の開拓者達が全滅したの知ってるでしょ?」


「死ぬよりマシだって事だろ?でもよ、そういう奴らが多いこたぁ知ってるけどよ、そのまま順調にいって他の村に移った奴らも少なくねぇぞ?」


「俺らは俺ら、あっちはあっちって事だろ?別にいいじゃないか、どうせ今日俺らも中層に狩場を移す予定なんだからさ」


「うるっせぇぞ、直家!んなこたぁわかってんだよ!」


「なら、ぶつくさ言うなよ……」


「ま、まぁまぁ、あの、2人とも落ち着いて、ね?直家も、抑えて。猿吉くんは、えと、こんな人だし」


「ああっ!?青海テメェ!それはどういう意味だコラァ!」


「ひっ!ご、ごめんなさい!」


「言葉通りって事だろ?」


「直家……テメェ、次の模擬戦の時覚えてろよ…。顔面の形が変わる位、木刀叩きつけるからな…」


「ふん、負ける気が無いからすぐ忘れるだろうな。逆に自分の身体の心配をしたらどうだ?」


「……………ここで、真剣勝負してもいいんだぜ?」


「…やるか?」


腰の刀を半分抜きながら、目に見えるくらい額に大量の血管を浮かばせながらこちらを睨みつけてくる。直家も負けじと背中にある槍に手をかけながら睨み返す。何だかんだこの2週間模擬戦はお互いに引き分けか、片方が勝つ時は必ず次の試合にもう片方が勝つというのを永遠と繰り返しているのであった。なので、こうなったら互いに引かない。


青海が止めようとすると、先程の用に火に油を注ぐような状況にほぼ確実になる。そのため青海はほとんど役にはたたない。こうなるため、必然的にこの水と油のような2人を止めるために長貴が出てくる。


「はいはい、もういいでしょ。これ以上喧嘩続けるなら怒るよ」


「……っけ、長貴に免じて許してやるよ」


「俺は別に許してもらわなくてもいいんだがな」


「な、直家くん!お、抑えて!」


そんなこんなで、直家達は朝井村を出て中層へ向かう。途中何度か赤猿や小鬼の小規模な群れに出会ったが青海の妖術を使うまでもなくそれどころか直家と猿吉の2人だけで全滅させることが出来るようになった。


「俺は13体倒したぜ?直家はどうよ?」


「俺は12体だ。1体差なんてすぐに取り返せる」


「はっ!永遠に差は縮まらねぇよ!後は広がる一方だ!」


なんて、会話をする余裕があるくらいには浅い層の妖怪は最早、敵では無くなった。それに、仲がよろしいとは言えない2人だが模擬戦や鍛練を1ヶ月以上やって来ているのだ。お互いに何が得意で何が苦手か、熟知している。なので、連携も上手い。連携に関しては相性が良いというのもあるのだが。攻めの猿吉と守りの直家、上手くハマれば実力以上の力も出せるのである。


長貴の中層行きもこの2人の連携を見て、決断したところが大きい。このように仲が悪い所を見てると不安になってくるが、いざ戦闘になると抜群のコンビネーションを見せるのだ。前回迷い込んでからまだ、2週間。二週間で、人間はそれ程変われない。が、それでもこの2人はどうも成長速度が加速した。互いを抜きつ抜かれつ、絶対にコイツには負けないという強烈な競争心が、2人にいい結果をもたらしたのだろう。


そして、それは玄武組としても、良い事だ。長貴自身もそんな2人に触発されたし、青海さんも気合が入っている。猿吉の向上心が、直家の競争心が、長貴のリーダーとしての矜持が、青海さんの思いが、玄武組を大きく躍進させたと言っても過言ではない。


勿論、まだまだこれからというのには変わりはないが、次のステップに移るくらいの能力は付いてきた。そう、長貴は解釈していた。


猿吉が思うより、長貴は現状の把握能力に、長けているのだ。そして、それは大方正しい。これは、長貴が生まれながらに持っているリーダーとしての必須能力であった。













空気が重くなった。感覚で分かる、中層にはに入ったのだ。妖気の密度が違う。身をすくめ、身体を強ばらせた二週間前。


「はぁん?なんか。前来た時より、なんか印象薄くねえ?」


「前回は夜だったからな。昼間はこんなもんだろ」


「前よりは楽なんですけど…少し、重たいです……」


「大丈夫かい?あんまり無理しないようにね」


「は、はい!大丈夫です。ちょっと元気でました」


恋の力は偉大なものなのか。顔を近づけて覗きむ長貴を見て本当に顔色が良くなっていく青海。それどころか少し赤い。そんな青海に何も気が付かない長貴が訝しげにしている。そんな2人の様子をシラーっとした目で見る直家と猿吉。


「長貴の野郎なんで気が付かねぇんだ?」


「分からない……。流石にあの反応見て、訝しげにするってちょっと理解出来ないな…。あそこまで行ってるともう落ちてるも同然、常識だろうに………」


「ある意味恐ろしい奴だな…。てか、偉そうに経験豊富そうな事を言ってるがよ。てめぇに、女いねぇだろ」


「失礼な野郎だな。馬鹿にすんな。ちゃんといた。両手の指の数以上はいたな」


「嘘つけ!そんなにいるわきゃねぇだろ!んな、すぐバレる嘘をつくなよ!」


「嘘じゃねぇよ。5千円で5人は買えたな。次元を隔てるが、皆んないい子だったぞ」


「5千、円?次元?よく分からねぇが、買うって事は商売女じゃねぇか。んなもん、数に入らねぇよ!」


まぁ、仰る通り、リアルには1人もいなかったんですけどね。数に入らないことも知ってます。でも、ああいう顔した女の人は皆んな好感度MAXでした。そのままベットシーンに突入だから。あながち間違ってはいないとは思う。うん、どうでもいいね。


「ん?2人とも何話しているんだい?」


「いや、何でもねぇよ。直家の嘘くせぇ見栄話を聞かされていただけだ」


まぁ、ほとんど嘘みたいなものだけど嘘じゃないから。セーフでしょ。


「そうなの?」


「まぁ、近いです」


だが、訂正するのも面倒くさいのでそういうことにしておく。


「ふーん、後で僕にも聞かせてよ。じゃ、中層の奥に進もう今日中に僕達の狩場を見つけておきたいからね」


中層に来ているのは玄武組だけじゃない。前は夜だったので一切見かけなかったが昼間は結構な数の開拓者達がいるのだ。というか、朝井村の開拓者の半数近くが中層で狩りをしている。浅い層でも他の開拓者達を見たり会ったりはあった、中層でもそうなりそうだ。


他の開拓者達は時によっては妖怪よりも厄介な存在だ。妖怪にいつ殺されてもおかしくない森の中、他の開拓者達を襲って武器や金品を奪い取りに来る悪質な奴らも少なくはない。仲間である、同業の開拓者を殺したとバレれば殺した方もそれなりの制裁は用意されているのだが、いかんせん森の中。死体になってしまえば小鬼や赤猿などが綺麗に骨ごと処理してくれるし、そうなってしまえば妖怪に殺されたのか他の開拓者に殺されたのか分からなくなってくる。


ましてや、中層に進出したばかりの直家達のようなのは絶好のカモだろう。残念な事に、敵は妖怪だけではないのだ。妖怪だけならあの夜から、やりようによっては何とか出来る。しかし、それに人の悪意までは処理できない。どちらかというと、長貴はそうなることを予想して時間をかけたというのが本音だ。


悪質な開拓者も、妖怪と違って死ぬまで戦う事は無い。少しでも手こずりそうだとか思うと手出しはしないのである。金品を奪うことが出来ても仲間が死んでしまうのでは割に合わないのだ。なので、小鬼や赤猿などの群れに手こずっている様な組を襲う。


同期で全滅した組がいくつかあったが、そのうちの何個かは妖怪の仕業ではあるまい。大蜘蛛は初心者狩りとして有名な妖怪だが、それ以上に恐ろしい初心者狩りが存在しているのである。常に余力を残して、出来ればほかの開拓者達に会わないようにしながら行動しなければならない。それが、昼の中層の姿であった。


そして、早くも何処からか見られているような感じが出てくる。さっそく見られているのだろう。この初心者が本当にカモであるかどうかを見極めているのだろう。これで、基準値を超えないと妖怪に殺される前に他の開拓者に殺される。多分初心者狩りの為に要所を見張っていたのだろう。


だが、暫くしてその視線も消えた。それは、3回目の戦闘で小鬼を1体も逃さず全滅させた時だった。


「お?消えたな?」


「思ったより、早かったな。どっかいってくれて良かったよ」


「そうかぁ?返り討ちにしてやっても良かったんだがなぁ」


「流石に相手の方が格上だろうね。本気で来られるとこっちがやられちゃうよ」


「んな弱気じゃ、勝てるもんも勝てなくなる」


トドメを刺して動かなくなった小鬼の身体から刀を引き抜く。適当な葉っぱを取り血糊を拭き取る。


「ま、早く剥ぎ取って俺らの狩場を見つけようぜ」


「そうだね。あんまり知らない中層の森の中を出歩くのはあんまり良くないからね。前みたいに大蜘蛛が現れたら大変だよ」


「上を見上げれば。大蜘蛛が、じゃ困るからなぁ……」


そう言って、何度目か分からない上を見上げる確認行為を行う。


「あ」


「………………」


真上、木に蜘蛛の巣を作り、巣に張り付きながらこちらを赤い目で見下ろす。因縁の相手大蜘蛛。それ程頻繁に会う妖怪ではないはずなんだがどうにも縁があるようだ。というか、さっき監視していた開拓者がいなくなったのって大蜘蛛がいたからじゃないか?


「どうした、直家?んなアホずらで上を見上げ……………」


流石にこのエンカウント率には猿吉もビックリなのか後半言葉が出ない。


「全員かまえて!直家くんと、猿吉くんは早くさがって!」


「ギシャァァァァア!」


「うわぁぁぁぁあ!」


「くそがぁぁぁぁあ!」


こうして、因縁の大蜘蛛との戦いが暫くぶりにまた始まったのだった。



評価よろしくお願いします。

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