中層進出2
「お?あの感じからすると中層に来て日が浅い感じだな」
中層の森の中、周りより少し大きい木の枝に座り込みながら仲間に伝える。
「んー?どれどれ?あー、確かに」
その下の枝にいた、男が見つけた男の指を指した方を見る。
「おーい、作良!いいのいたぞ!」
「よくやった!よーし、人数が多いがたいして強そうな奴もいなさそうだな……。おっ!しかも、女もいんじゃねぇか!さっそくつけるぞ!」
「おう!」
そして、最初の男の横で寝ていた大柄な作良と呼ばれた男が上半身を起こして見つけたカモを観察し嬉しそうに仲間につけることを伝える。
「よっと!」
大柄な身体であるにも関わらず、太い枝の上から飛び降りて身軽に着地する。仲間も似たように飛び降りる。背中に担いである槍に手をかけて獰猛に笑う。
「これだからやめられねぇんだよな。初心者狩りはよ」
「ひっでぇこというねぇ。良心の呵責なんてもんはねぇんですか?」
「なぁにいってんだよ、テメェこの前襲った時命乞いを笑いながら無視してたじゃねぇか。どの口が言ってんだよ」
「ちげぇねぇや!」
「ありゃ、痛てぇとこつかれたなぁ」
笑う、笑う。3人の欲望に塗れた笑いは尽きない。その視線の先はもうすぐ得るであろう、事や物に向けられていた。
「ありゃ。どうもこりゃ、ハズレ引いちまったかな?」
つけ始めてこれで三回目の群との遭遇に対し危なげなく勝利を収めるカモに、期待外れ感を漂わせる。
「中層に進出したばかりにしては、結構やるな。連携もいい」
「どうします?引きますか?」
「馬鹿言え、ここまで来て引くのは勿体ねぇだろ?それに、あの女よく見るといい女だぞ?引いてたまるかよ」
「まぁ、そういうと思ってましたよ。俺もそうしますし」
「でも、どうする?あいつらをそのまま襲うのはちょいと危険じゃねぇですか?あの女、戦闘に加わってねぇけど多分妖術使いだし、どんな妖術使うか位は分からねぇとこっちがカモにされちまう可能性すらあるぜ?」
「んなこたぁ、分かってる。でもよ、こっから先はアレがいるだろ?」
「…………あぁ。そう言えばいましたね」
「ソレに殺されたりしたらどうするんすか?女楽しめねぇっすよ?」
「そんときゃ、俺がアレのトドメを刺せばいいだろ。一挙両得って奴だ。頭を使え、妖怪も使い方によっちゃ味方になるんだよ」
「ひひっ、流石だな作良。でもよ、あいつら勝ったらどうするつもりだ?」
「それなりに消耗してんだろ?真正面から行っても俺らが勝つんだぜ?消耗した奴らに負けるわきゃねぇだろ?」
「わかった、流石だぜ。文句はねぇよ」
「よっしゃ、少し離れるぜ。俺達が大蜘蛛に見つかったら意味ねぇからな」
大蜘蛛の巣の場所は分かっている。戦闘が始まったと思ったら戻ればいいだろう。初心者から視線を離し、森の奥に身を潜めて行った。
「水球弾!」
「ギシャアァァァ!」
「うっしゃ!こりゃ効いたぜ!今のうちだ!畳み掛けてやる!」
青海の妖術が直撃し、激しかった大蜘蛛の攻勢が一気に衰えた。そこを逃さずに猿吉が1人突貫する。
「猿吉くん!あんまり1人で突出しないで!」
「大丈夫だ!ヘマはしねぇ!」
かなりのダメージが入った大蜘蛛であったが、欠損があるわけで無く動けるだけの体力は十分残っている。そんな状態で1人で突出するのは長貴の言う通り確かに危険だ。
「ギジャァァアァァァァ!」
「はつ!わかってんだよ!」
しかし、続け痛みに悶えながら近づく猿吉を遠ざけようと大きく脚を動かし遠ざけようとするが、その脚を上手くかいくぐって大蜘蛛のすぐ前に出る。
「またぁ!目ぇ!貰うぜぇ!!」
両手で刀を大蜘蛛の巨大な目にかいくぐった勢いを持って突き刺す。さらにすぐ次の瞬間に刀を横にグリッと回し傷口を更に広げる。
「ギシャァァァァァァァァア!!!」
「猿吉くん!早く戻って!危険だよ!」
刀を勢いよく抜きさり、更に追撃しようとする中長貴の声が聞こえる。
「大丈夫だっつってんだろ!うおっ!?ガッ!?」
妖術のダメージに更に目をやられた大蜘蛛は本気で怒り狂った様子で今までの比ではないくらい暴れ始める。途中までは上手く避けていたが流石に死角からの一撃は防げなかったようで、大きく吹き飛びされて大蜘蛛から離れる。
「猿吉くん!大丈夫かい!?」
「だ、大丈夫だ!げっ!」
吹き飛ばされて転がる猿吉に怒り狂った大蜘蛛が追撃しようと、痛みを忘れて猿吉に突進してくる。
「うわっ!ひっ!やべぇ!死ぬ!」
「馬鹿か!お前は!危ないって言ってるだろ!」
「うるせぇ!うおっ!直家!いいから手伝え!」
「助けての間違いだろ!」
なんとか、大蜘蛛の突進を避けた猿吉に更に脚で転がりながら逃げる猿吉を押しつぶそうと怒涛の連撃を始める。それに間一髪避け続ける猿吉に直家が参戦し、大蜘蛛の脚の1本を槍で受け止める。
「ぐぅっ!重い!」
「よし!よくやった直家!そのまま抑えてろ!」
「無理言うな!こんなのを何度も受け止めてられるか!」
「2人とも!離れて!妖術の詠唱が終わった!」
猿吉と直家が大蜘蛛の攻撃を受け続けながら、お互いに文句を言い合っている中、長貴の退避指示がでる。互いに次の攻撃を逃げも受けもせず後ろを向き全力で逃げる。その背中を怒り狂った大蜘蛛が2人を追って脚で押しつぶそうとした瞬間。
「水球弾!」
青海の妖術が着弾した。もとより大蜘蛛というのは動きが早く脚を上手く使った狡猾な戦いが得意な妖怪だ。しかし、怒り狂ってしまった大蜘蛛には冷静に狩りを行う狡猾さなど無く、妖術の様な大蜘蛛の様なよく動く妖怪にはなかなか当たらないのだ。なので、あまり丈夫ではないのだ。妖術を1発だけならまだしも二発目は大蜘蛛にとっては致命的だ。少なくとも回復には長い時間がかかる。
背中に攻撃しようとした大蜘蛛が、意識を向けてなかった真横から重い妖術を貰い大きく仰け反りながら痛みに悶える。それを見た、退避した猿吉が喝采の声を上げる。
「おお!致命的な一撃だぜ!よくやったぜ!ざまぁみろ!くそ蜘蛛!ハッハッハ!!」
「さっきまで逃げ回ってた奴がよく言うな」
「うるせぇよ!流れが変わった時は調子に乗らねぇとずっと乗れねぇぞ!」
「はいはい、2人とも。今の機会に畳み込むよ」
「はっ!言われなくても!」
「おい!だから、1人で走って行くなって!くそっ!」
長貴が刀を構えてこちらに参戦し、猿吉は直家の静止を聞かずに刀を肩に担いで大蜘蛛の元へ走る。直家はそんな猿吉の後ろを少し遅れて走る。
「2人とも僕を置いていくのかい……。まぁ、いいさ。僕も行くよ!」
先頭の猿吉が外れ掛けの脚を切り飛ばす。直家は勢いを持って脚の関節、比較的に攻撃が通りやすい所を全力で突き刺し脚を使えなくした。そして、長貴が2人に追いつき一閃。
「ギシャァァァァァァァァァアア!?!?!」
猿吉が一つ潰した多数ある目を一太刀ですべて斬る。更に左右の周りより少し大きめの先頭の脚を2本、関節から斬り飛ばす。
「けっ!流石にやるな!負けねぇぞ!」
「やっぱり長貴は凄いな…。俺も頑張らないとな」
「はぁぁ…かっこいい…。長貴さん。頑張って」
やはり、玄武組の中では実力が頭一つ抜きん出ている長貴の攻撃に、それぞれ反応を示す。男2人は競争心、青海は憧憬と恋心。玄武組のリーダーとして相応しい実力を示し、更に士気を上げた。
「長貴ばかりにやらせねぇぞ!」
更に攻撃に激しさの増した猿吉。
「負けてられない!」
直家も槍で殴り、斬り、突き刺し、あらゆる攻撃で着実にダメージを与えていく。
ただでさえ、致命的なダメージをもらったのにさらに脚を次々と潰されていく大蜘蛛。そして、更に勢いの増した3人の攻撃になす術はなく、大量の血を撒き散らしながら、そして全ての脚を潰され身動きすら出来なくなった。
「ギ、ガッ!ァァ!」
「虫の息ってか、オラァ!」
身動きの出来ない地に伏す、大蜘蛛の頭に刀を深々と突き刺す。逃げ出そうと途中でなくなっている脚を懸命に動かしながら動く大蜘蛛にとって、それがトドメとなった。身体から大量の血がトバッと出て、完全に動きが無くなった。
「ふぅ。勝ったぁ……。一度戦ったことがあるからなのか今回は結構、楽に倒すことが出来たな」
「まぁ、それもあるけど。僕達も成長したってことだと思うよ」
「俺は結構強くなったからな!もうすぐ大蜘蛛だってよ1人でも倒せるようになるのも近いぜ!」
「青海さんの妖術が無ければどうなってたか分からないってのに、よくいうよな」
「てめぇも似たようなもんだったじゃねぇか!」
「それ言うならお前が1人で突っ込まなければよかった話だろ!」
「んだとぉ!」
「あーもう、喧嘩しないと話できないの!?手早く大蜘蛛の剥ぎ取りして離れるよ!大蜘蛛の死体は他の妖怪を呼び寄せるんだから!」
喧嘩を続ける直家と猿吉に遂に少しキレ気味になった長貴に、大人しく従い大蜘蛛の剥ぎ取りを行う。
「ふぅ、終わったね。さぁ、離れるよ!」
「あ、あの。長貴さん!えと、また誰か見てるような…気がします…」
この中で視線に一番敏感なのは青海だ。女性でしかも男に人気のある青海だからなのだろう。一番初めに見られているのに気がついたのも青海だ。
「なんか…気持ち悪い…視線が……」
「ッチ、しつけぇな諦めたんじゃねぇのかよ」
「初めからこれが目的の可能性があるね」
「消耗した所を…か。なるほどな……少し不味いんじゃないか?」
「こっちから仕掛けてやろうぜ。誰にケンカを売ったのか分からせてやりてぇ!」
「多分相手は格上。自殺行為だよ」
「でも、どうするよ?消耗した所を襲う計画ならあっちから来るぞ」
「それは……そうだけど…直家くん近くにいるかどうかわかるかい?」
周りの木々に遮られて遠くまでは見えないがそれでも少なくとも近くにはいない。きちんと、木の上まで見ていないことを確認する。
「…………いや、多分いない」
「そうか…。僕も見つからないからね。まだ距離は遠いという事だろうね。こっちから見えないほど遠くから見るなんて、遠視の術を相手は会得しているね」
遠視の術?なんだそれは?初めて聞く名前だ。そんな顔をしていたからなのだろう、長貴が説明してくる。
「あぁ、遠視の術ってのは要は妖力で一時的に人間離れした視力を手にする事が出来るんだ。かなり遠くを見ることが出来る様になる。伝説上の千里眼の術の劣化版だと思えばいいよ」
伝説上の千里眼の術が分からないからなんとも言えないが、要は凄く目を良くして遠くを見ているって事なんだろう。でも、どうやってやるのか。ただ、目に妖力を微量送ってより妖気を見ることが出来るようにするだけだ。
大量の妖力を送り込むと最悪、目が爆発して失明すると聞いた。ならばどうするのだろうか?直家に思いつかなかった。
「それ、長貴出来るか?」
「僕?無理だね。覚えるのに時間がかかるし、妖力の消耗は激しいし、たいして役に立つわけじゃないと思うから」
「どうしたら、出来るかは?」
「それなら分かる。というか、単純だよ。少しづつ妖力を送り続ける」
「それじゃ、目が爆発すると聞いたぞ?」
「うん、だから少しづつ、毎日やっていけばほんの少しづつだけど、徐々に目の容量っていうのかな?それが、増えてくる。そうして、ある一定以上の妖力を流し込めるようになると視力が劇的に良くなる。っていうこと」
本当に単純。でも、なるほど。目も鍛える事が出来るということなのだろう。少し試して見ようかな。
「なぁ、お前ら。それ今話すことか?奴ら近づいて来てんだろ?それに近づいてのあいつらだけじゃないぞ」
猿吉に言われて周りを見渡してみる。沢山の妖怪が大蜘蛛の肉が目当てでこちらに近づいているのがわかる。
「そ、そうだね。早く離れよう。青海さん何か感じたら教えてね。じゃ、急ぐよ」
早く離れなければ行けないと言っていた本人が話で逃げ遅れそうになりかけたのは、少し気まずいのだろう。これは直家にも責任がある。そう思っている直家もどこか気まずそうにしていたのだった。
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