試合3
少しして長貴の番号が呼ばれた。結構終盤で試合が終わって帰って行った人も多く、始まってから結構時間が立った。もう少しすれば日が傾き夕焼け色に染まるだろう。
そんな中、槍を選び中央へと向かう。相手は猿吉や、直家のと試合をやった人より身体が大きく妖力量も多い男で木刀を選んでいる相手だ。勝てるのだろうか?そう思い、長貴の方はどの程度の妖力量を見てみる。
「………凄いな」
流石、武士を目指しているだけあってかなり多い妖力を保有している。それは対戦相手の倍近くある。あれは多分幼い頃から鍛錬を積んできたのだろう。多い妖力量もあるが何より武器の扱いが上手いのだ。まるで何処かの流派を学んできたかのような感じを受ける。槍さばきも直家より遥かに上手い。
「……ついてないな」
相手は武器の扱いに慣れている長貴を見て、溜息を吐きながらぼやく。
「うん、いいね。さぁ、やろうか」
一通り槍を振り終わったのか納得したような顔で、役人さんに開始を促す。それを見て、表情が固くなる相手。
「わかりました。では………はじめ!」
「ウォォォォ!」
合図がなった瞬間に相手が動き出す。猿吉と同じで勢い上手く活用して勝機を見出そうとしているのであろう。かなりの巨体にも関わらずにかなりの速度で長貴に突貫する。迫力は凄まじい。
「………フッ!」
「くがぁ!」
それを槍を持って待ち構えている。槍の射程圏内に入った瞬間に目に直家の目に見えないほどの速度で両肩と鳩尾の3箇所を突き、完全に勢いが止まる。凄まじく早い突きをくらい、それどころか自分が作った勢いで余計にダメージが強そうだ。
「シッ!ハッ!ハァ!」
相手からしたら自分の勢いが止められて完全に動きが止まったがら空きの状態だ。しかも、両肩を突かれてうまく動かせないというオマケ付きで。そんな格好の状態を無視するわけなくすかさず連撃に出る。一撃一撃に細身の身体からは考えられないような凄まじい威力の攻撃が多数繰り出される。それはまるで流れるように切れ間がなく、相手はどうすることも出来ない。
「あの動きは、武術の動きっぽいね。稽古してくれる人がいないのに何処で学んだんだろう?」
「んなこたァどうでもいいだろ。問題はあいつが強いかどうかだ。まぁ、もう決まったみたいだがな」
どうでもよくないのだが、確かに強いのは実証された。あの相手は直家と猿吉が試合した人よりも強い。あれだけの攻撃を受け続けてもなおまだ倒れていないのはその証拠だ。しかし、それだけに疑問だ。あれだけ強いのであれば直家や猿吉など足で纏いでしかない。人を上手く指揮する力が欲しいのであれば何も直家達だけでなくていいだろう。あれだけ強いのであれば引く手が数多だろうし。相性の悪い2人を上手く使うとかだったら分かるが。
「グッ!」
流石にもう耐えられなくなったのか相手が膝を地面に付ける。それを見て槍での攻撃止めて役人の方を見る。役人の人も勝負があったと思って止めをかけ、試合が終了した。穂先が布で巻かれた槍を元の位置に返してこちらに戻ってくる。
「ふぅー。いやぁ疲れたよ。相手もなかなか強かったし」
「いや、結構楽勝だったんじゃないか?」
「よく言うぜ、危ないところなんて一つもなかっただろうが」
「ハハハ。でも、これで認めてくれたかな?改めて言うよ、僕がリーダーとしての組に君達も入ってもらいたい」
「……まだお前の実力を見ただけだ。それで決めるとは言っていない。お前は話会いの開始地点に立っただけだ。調子に乗んな」
「手厳しいね。そうだね、元からそういう約束だった。失念していたよ」
猿吉すげえ偉そうだな負けたくせに。完勝した長貴に向かってこう言ったことを言えるのは意地っ張りで性格がひん曲がっている証拠だろう。凄く面倒くさい奴だな。それは長貴も分かっているだろうがそれでも大人の対応をする姿に感動すら覚える。
「第一よぉ、なんで俺たちなんだ?俺達よりもっと強い奴は認めたくねぇけど沢山いるだろう。そんな中でなんで俺達を誘うんだ?耳障りのいい事は言わなくてもいいからお前の真意を教えろ。じゃなきゃ信用出来ねぇよ」
確かにそれは直家も思っていた。一番の疑問と言ってもいい。直家もその質問の答えに耳を傾けた。
「……そう、だね。君達が怒るかもしれないけど、いいかい?」
「嫌な事を聞いたら怒るけどな」
「バカかお前は!そこは怒らないって答えておけよ!言わなくなるかもしれんだろ!」
「誰が馬鹿だ!ゴラ!俺は目の前で罵倒されたらキレるんだよ!嘘を言うよりマシだろうが!」
馬鹿正直に怒ると答えて直家が堪らずに猿吉を罵倒する。また、長貴を置いて2人で言い争いが始まる。それを見て長貴がキョトンとした顔で2人を見て、そして不意に笑い出す。
「ハハハハッ、うん。君たちと一緒にいたい理由が一つ増えたよ。毎日退屈しなさそうだ」
急に笑い出した長貴に今度は2人がキョトンとした顔になる。ひとしきり腹を抱えながら笑った長貴は、真面目な顔に戻る。
「何故君達をしつこく誘っている理由はね。昔の自分に似ていたからさ。昔って言っても10年前位かな。境遇も目指す所も力不足も被るんだよ君達と」
多分これが偽らざる本当の理由だろう。昔の長貴がどのような人なのかは分からないが、似ていると言うことは彼も才能があった訳では無い。あれだけ戦えるようになるには相当の努力があったはずだ。
「っけ。そんな事かよ。別に聞かなくても良かったぜ」
「そうかい?てっきり怒るかなって思ったんだけど」
力不足という点でという事を暗に言っていた。
「ふん、そんな事はとうの昔から分かってんだよ」
確かに猿吉の闘い方は力がある者の戦い方ではなく、王道とは言い難い。むしろ邪道と言えるだろう。それは力の弱い者が必死に考え出して工夫して、時には命を掛ける覚悟を持ってそれを埋めているのが猿吉だ。実力不足などもはや分かっているのだろう。
「……似ている……ね。長貴さんはあまり強くなかったのですか?」
「強いというのが戦闘能力という点では君達と同じかそれ以下だったよ。元来筋肉が付きにくくて病弱でね。外に出ることすらままならない位の子どもだったよ。親戚が武士というのもあって子供の時は只の農民よりは裕福な暮らしをしてい覚えがあるよ。それでもたかが知れているし、僕は長男なんだけど下に妹や弟が沢山いるんだよ。その時の一番下の子なんかまだ乳飲み子だった。しかも父親が死んでしまって母親が1人なんだ。そんな状態じゃいつ何があるか分かった物じゃない。たがら必死で鍛錬を積み重ねて親戚の人に頼んで稽古付けてもらったり、古い槍や刀を譲り受けたりしたんだ。それに、親戚の叔父さんも僕に期待してくれている」
「なるほど、だから武士を目指している訳か」
「そうだね、裕福な暮らしが出来る訳じゃないが。兄弟達を食べさせる位は容易に出せる様になるからね。それにちゃんとした勉強をさせてやりたい。僕は親戚の人が病気がちな僕の為に本を持ってきてくれたんだ。兄弟にも読ませたいというのもあるよ」
「でも、開拓者でも稼げますよ?なんで武士にこだわるんですか」
「直家くんの言う通り開拓者でも稼げることは稼げる。しかし、これが高給なのは危険が付いているからだ。目的の為に危険を犯すのは仕方が無いが。ずっと危険な所にいる必要は無い。この仕事は運も多分にあるのだから」
確かにその通りかもしれない。実力が同じで武士と開拓者選べるのであれば武士にするというのは確かに理にかなった選択だ。伯もつくし、何より自分の子供もその地位は保証されるのである。しかし、最近きな臭くなっているが。
「ん?と言うか10年前?今何歳何ですか?」
「僕かい?そうだね、確か26歳位だったよ」
やっぱり見た目じゃ分からない。何よりも学生のブレザー制服が似合いそうなイケメンだったのでもっと若いと勝手に思っていた。普通に年上だった。
「そういう君達は何歳なんだい?」
「俺は18歳です」
「……俺も18だ」
「あー、やっぱり若いねぇ。他の人達より多分君達が1一番若いんじゃないかな。逆に僕は少し高いかな?」
長貴にいやー、若いねぇと言われるのは凄まじく違和感がある、直家など長貴よりも遥かに年くっているような顔だ。猿吉は……顔は生意気そうで背も低い。見た目は反抗期の中学生っぽい。年齢偽っていねぇか?
「疑わしそうな目でこっちを見てくんな。ぶち殺すぞ!」
「被害妄想だ。そんな事は考えていない」
「そんな事って、どんな事だよ!アア!テメェ!」
「あぁ!鬱陶しい!劣等感の塊かテメェ!一々突っかかってくんな!」
「君達は一定時間内に喧嘩をしないといけない病にでもかかっているのかい?話が進まないから止めてくれ」
「っけ。んで、どんな話だったけか?」
「君達と一緒に組みたいというお誘いのお話さ。もう入ることを決めてくれて、組の名前を考えているところだよ」
「勝手に入れるな!そこまで話は進んでない!」
「なんだい。ちゃんと覚えているじゃないか」
結構茶目っ気があるな。正直に言うと、直家としてはもう気持ちの大部分が長貴について行きたいという気持ちで固まっていた。まだこの世界に来て1年だ。右も左も分からないことが多い。そんな中、早く信頼出来る味方を見つけたいのだ。
「……まぁ、入ってやらなくはないかな。只こいつがいるからなぁ」
「別に嫌なら入らなくていいぞ。代わりに俺が入る。と言うか入ることに決めた」
「おお、直家くん。決めてくれたかい。これからよろしく頼むよ!」
「はい。お願いします」
そう言って握手をし合う。長貴は嬉しそうに手を強く掴んで離さない。
「さて、別に入らなくても良いんだよ?人生にはある程度コツのようなものがあってね、嫌で反りが合わない人を上手く避けるのも必要だ」
もと引きこもりが人生のコツとやらを語っている姿は、昔の直家を知っていたら滑稽で失笑しか買わないが、ここではそんな過去は誰も知らない。この点で言うと幸せな男だ。
そんな直家の聞きかじったような人生論を聞き、額に青筋立てる。
「なんで俺がテメェに講釈されねェといけねぇんだよ。テメェが抜けろよ。俺が入るから」
「嫌だよ、そんなの。大人しくほかの人をみつけな!」
「…………俺も入る。なんで俺がお前の存在に左右されねぇと行けねぇんだ」
底の浅い煽りに静かに切れた猿吉は、かなりの部分を意地で決めた。それを見て、残念そうにしている直家を見て少し溜飲を下げたが。
「いやー、猿吉くんも入るのか!嬉しいねぇ。2人ともこれから頼むよ!」
「知るか、俺の好きなようにやるだけだ。ある程度指示には従うがな」
「それでいいよ。じゃないと猿吉君らしくない」
「あと、俺がお前より強くなったら俺がリーダーになるか抜けるぞ。それに、自分でこっちの方がいいと思った時は指示を無視するぞ」
「そ、それは少し困るな……」
「人を上手く使いたいのならこう言った面倒臭い奴に慣れると良くなりますよ」
「んだとぉ!誰が面倒臭い奴だ!」
「自覚無いの?」
「テメェ!ここで殺してやる!」
「上等だよ。組の中での、順位を決めてやるよ」
また、互いの胸ぐらを掴み合い怒鳴り合う。それを見て長貴が少し苦笑いをしながら思案顔になる。
「結局はこうなるのか。なるほど人を上手く使って行くというのは難しいな。どうすればいいのか……うーむ」
ここにとりあえず3人の男の開拓者組が結成した。組の名前は直家の世界の伝説の亀、玄武組となり、これから苦楽を共にし、長い付き合いとなる2人との最初の出会いであった。
ちなみに直家と猿吉が戦った相手は、次の試合で女性に負けています。それを見た2人は同じように落ち込みました。2人が戦った相手はそれほど強くはなかったのです。それに負ける自分って……という感じでしょうか?
あ、感想よろしくお願いします。




