行先決定
玄武組の一番最初の仕事は、まず何処の村を拠点にするかである。なので、早速開拓者寄合所の一階の一番奥、直家と猿吉が喧嘩を一番最初にした所の役人の人に基本情報を聞いた。
まず、初心者開拓者は社山城下町から北東にある、朝井村という所がオススメらしい。ほとんどの初心者開拓者はそこで暫く開拓者として必要な事を学び、そこから自分や組の実力にあった他の村に向かうらしい。朝井村が、人気の理由はこの社山城下町に比較的に近いというのと本格的な開拓地から遠いので妖怪が弱い(それでも、直家が戦っていた妖怪とは格が違うが)ので、最初の基盤作りに最適なのだ。他にも、役人さんが勧める理由としては、暫く開拓者としてやっていると他の人や組と差が出てくるのでそういった自分の実力も知れるし、他の村の状況なども情報が入りやすく次の場所を決めるのにもスムーズに出来る。
長貴がリーダーと言うことで決定権を持つのだが、話を聞いていると選択の余地は無さそうだ。他の所はあるかと聞いても恐ろしく遠かったり、妖怪が初心者では手がつけられないのがかなりの頻度で出てくるとかだったり基本的に朝井村しかなかった。
なので、同然と言うか行先は朝井村に決まり、互いに武具や必要な物などを揃えるのでとりあえずこの社山城下町に2日ほど滞在する事に決まった。
手頃な宿に泊まる為に町の中を歩きながら、3人でやっていく上での大事な決め事をいくつか決めることにした。
「まず最初に、大事なお金の事だね」
「それに関しちゃあ、俺は妥協しねぇよ。オメェがいくら強くても3等分にする。これは、譲れねぇ」
「俺もそれがいいと思う。変ないざこざが怒らないようにお金に関しては平等にしたほうがいい。だけど、割り切れない場合はリーダーの長貴さんが取ると言うのでいいんじゃないかな?」
「ふん、まぁそのくらいなら別にいい」
「………ふむ。僕も異論は無いよ。それでいいよ。お金は平等に3人で分けるというのと割り切れなかったら僕が貰うという事だね」
「で、次はなんだ?」
「あぁ、いざ戦う時の役割だよ。3人しかいないから皆臨機応変に動いてほしいけれども、最初からある程度決めておいた方がいいなと思ってね。希望はあるかい?」
「俺は一番前に出る。一番槍は俺だな、刀だけどよ」
「うん、何となく予想はして通りの答えだね。直家君はどうだい?」
猿吉のあの攻撃的な戦い方を見ると確かに前衛でこそ輝く戦い方だ。本人も分かっているからこその配置だろう。
「俺は……」
では直家何なのだろうか?どちらかと言うと攻撃よりは守りに重きを置いている所がある。前衛でも出来ないことは無いがなんかしっくり来ない。ましてや、槍というどちらかと言うと中距離武器だ。自分との適性を考えて一番良いのは…。
「俺は猿吉の後ろ、中衛という扱いが一番向いていると思う」
「……うん。2人とも大方予想通りの配置を選んだね。じゃあ、僕は後衛で遊撃に徹するよ」
「それと俺が戦っている時に、あんまり手ぇ出してくんなよ」
「それだとせっかく組んだ意味がないんじゃないか?」
「そんなものはもしもの保険程度で良いんだよ。お前におんぶに抱っこじゃいつまで立っても強くなれねぇんだから」
確かに言う通りだ。3人の中でも頭が3つほど飛び出ている長貴が前衛に立って戦っていたら直家や猿吉にいつまでたっても妖怪が回って来ない。それでは、いつまでたっても成長が出来ないままだ。あくまでも長貴の存在は保険程度で良いのだ。長貴はリーダーとして2人の動きや敵の妖怪に対して指示を下せばよい。と、猿吉は思っていた。
「……ふむ。しかし、それでは僕が強くなれないじゃないか」
「そんなの最初だけだ。何もずっとこんな力関係じゃねえんだ調子に乗るな。テメェなんかすぐに追いついて越してやる。そんときゃ、他の開拓地で一緒に戦えばいいだろ」
時おり思うのだが、馬鹿そうに見えて実は猿吉というのは頭がよいのではないかと思う。直家と同じで学はあんまりないので文字を読んだり書いたりは出来ないらしいが、凄く機転が効くし、どうも頭の回転が早い。それが戦闘中の駆け引きの強さに繋がるのであろうが。
「…それもそうか」
「そうですよ。結果的には俺達が強くなればもっといい開拓地の拠点に場所を移せるようになりますし。そうしたらもっと強い妖怪達と戦うことになりますから」
「……分かった。そうしよう。では、配置は決まったね。次は…何かあるかい?」
「大体決めたろ。後は思いついたら言っていけばいいじゃねぇか。行くんなら早く行こうぜ宿屋に。もうすぐ日が落ちるぞ」
「っと、そうだね。僕が滞在している宿屋に君達も泊まって貰うつもりで、もうすぐ着くよ」
朝より人通りが少なくなったとはいえ、まだまだ沢山いる社山城下町の表大通りを歩き、少ししたところで他の大通りを抜けて他の道に入る。その一番奥にあったのは宿屋と言うよりは、大きいぼろ小屋のような所に案内された。とてもではないが人がいる所のようには思えない。馬小屋が、使われなくなったような所だ。
「ここ?」
「あぁ、ここだよ。言ってなかったけど町の宿屋は高いんだよ。それに、どこも満室だ。だから初心者開拓者達はこう言った小屋を借りて寝るんだよ。節約は大事だよ」
「まぁ、夏だから何処で寝てもいいけどよ。虫がうるせぇんだよなこういう所は」
「我慢だよ。我慢。僕もそうしてきた。最初はみんなこんなもんだよ。それに、虫は沢山いても人があんまり寄らないから静かだよ。そこそこ広いしね」
「……まぁ、屋根があるだけマシか」
ここ1年でかなり逞しくなった直家は、期待していた宿とは程遠かったが、すぐに持ち直してポジティブに考える。
「あっ、そうだ。長貴さん。寝る前に頼み事があるんですけどいいですか?」
「ん?何だい」
「明日の朝時間があったら稽古付けてもらえませんか?その方が早く強くなれますし、1人でやるより2人の方がいい気がして」
「あぁ、そういう事か。いいよ。明日の朝からやろうか。そう言えば直家君って。槍は独学かい?」
「はい特に流派や槍術とかは無いです」
「そうか。僕の叔父さんが何処かの流派に属していたらしくてね。僕も少し教えてもらったんだ。基本だけだけどね。それで良かったら教えるよ」
「いいんですか!すいません!お願いします!」
自己流でやっていくのにも流石に無理がある。自己流でやり続けても強くなれるほど天才的な物は持ってはいない。ならば何処かで何らかの流派を学ばなければならないだろうと思っていた。伝統ある流派というのはその道の天才が起こし代を重ねる毎に洗練されていくのが常だ。最適化された動きを使えるかどうかは大きな差になる。どちらを習うか分からないが、対人用と対妖怪用では動きや戦い方は違うだろう。しかし、それでも覚えておくに越したことは無い。
「おい、そういう話だったら俺も混ぜろ」
「えー、猿吉も参加するの?朝起きられんの?」
「今ここでまずテメェををぶち殺してやろうか、アァ!!」
「直家君は挑発しない。猿吉君も一々反応していないで無視すれば良いのに」
「売られた喧嘩は買うに決まってんだろ?まぁいい。刀と槍どっち使ってもいいけどよ、模擬戦をやりてぇ。出来るなら毎日な」
「……そんなにやるのかい?」
「あぁ、じゃなきゃ何時までも強くはなれねぇからな。直家にはいいと言って俺にはダメって言わねぇよな」
「いや、そういうのはないよ。分かった、なら3人で朝早くにそういう時間を設けようか。こう言った積み重ねが後に生きてくるのは本当だからね」
長貴は人間が非常に出来ている人だから猿吉のあんな言い草にも普通に対応しているけど、怒るだろうなぁ普通の人なら。直家の方も敬語が出来ている訳では無いが。それっぽい事を言っているだけだ。
「でも、いくら何でも2人の相手をずっと僕がしているというのも辛いものがあるからね。そこは猿吉君と直家君で、模擬戦をやってくれるかい?それを僕が見ているから。実力が似たもの同士の模擬戦もお互いが高め合うから効果は高いよ」
「長貴よぉ!冗談きついぜぇ?こんな動きのトロそうな奴が俺と同じくらいの実力を持っているはずねぇだろぉ?コイツとやっても直家の野郎は成長するかもしれねぇが、俺はなぁ?実力差がハッキリとしているからなぁ」
何をほざきやがるかと思えばそんな夢物語を喋り始めやがった。猿吉の方が上だ?冗談じゃねぇよ。こんなチビに俺が負けるはずねぇだろ?少し開拓者戦で善戦したからって調子に乗ってんじゃねぇよ。と、思いながら額に青筋に沢山立てていく。
しかし、直家は身長に精神年齢が引っ張られている猿吉とは違い大人だ。ここは大人らしい対応を見せなければならない。
「うっせぇチビ!少し善戦したくらいで調子に乗りやがって!いいぜ!今すぐにでもかかってこいやぁ!テメェの考えがいかに思いやがりかどうかを分からせてやるよ!」
「アア!誰がチビだァ!コラァ!テメェのスカスカの頭じゃ実力差すら理解出来ないようだなぁ!上等だよ!ここで誰が上か分からせてやる!」
「あーもー、どうしよ」
猿吉が静かな時は直家が、直家が静かな時は猿吉がそれぞれ挑発し、必ず怒鳴り合いとなる。というか、長貴がいなかったら早々に殺し合いになっていたのじゃないかと思うくらいお互い意地っ張りで強情、負けず嫌いのある意味混ぜるな危険な連中である。こう言った2人をまとめあげることが出来れば人を上手く操る事ができるようになるのではないかと、そう思っていたが……。流石に荷が重かったかと微かに後悔をする。
「うーん。うん。こうしよう」
胸ぐらを掴み合い罵声を互いに浴びせ合う2人が互いに武器に手をかけ始めた瞬間、槍の柄で2人の頭を強かに叩いた。手加減はしているが、目から火花が飛ぶくらいの一撃だ。2人とも目を回している。
「喧嘩はなるべくしない。僕がリーダーなんだから2人とも従った貰うよ。違反したらこんな感じで叩くから」
「……っ。んな理不尽な」
流石、武士の家系の一族。こんなふたりを頭良く止めようとしたがダメだったのだ、と思い直した。考えるのを辞めるとも言うが。力で2人とも喧嘩出来ないようにした。それもまぁ、人を操る術だろう。
「さぁ、今日はもう暗くなる。もう寝よう。早速明日の朝からやるんだったら早く寝た方がいい」
「っ痛ぅ。でも飯まだ食べてないよ?」
「ここのご飯は高いんだよ。特に暗くなると何処も安い所は店じまいだよ。明日の朝に食べよう、いいね?」
「ヒィ!」
これで怖いのは槍を強く握りながらなお、笑顔で迫ってくることだ。なんか変なスイッチを入れてしまったのかあれだけ優しそうだった長貴は何処かに行ってしまった。どことなく目のハイライトが無いように見える。別にご飯を食べたいって言うのは普通の事なのに……。
「わ、分かった。もう寝よう。すぐ寝よう、おやすみなさい」
「うん。この小屋は広いからね。適当に場所を決めて寝てくれ」
「でも、ここ借りる時にお金掛かったんじゃない?それは俺達が払わなくていいの?」
「確に掛かったけどありがたい事に大したことなかったからね。別にいいよ」
「まぁ、その方がありがたいけどよぉ」
小屋の中に入り、元々は馬小屋として使われていたのかどことなく獣臭く、本来ある仕切りも所々壊れてしまっている。だが、確かに広くまだ使われていない藁が沢山積まれていた。
「元々は馬小屋だったんだけど、もっといい場所が出来てそこに移したらしく、ここは一時的な藁置き場か僕達みたいな人を泊める所になったんだ」
「ここ今まで1人で使っていたの?」
「そうだね、元々5人位は泊まれる広さがあるんだけど、ここを見つける事が出来ないだろうからね。お客は僕だけだよ。だから貸切。お金も1人分しか払ってないけど、ここに持ち主が見に来るわけじゃないし、勝手に使ってもばれやしない。僕が来た時も勝手に使っている人がいたくらいだからね」
「んなこたぁどうでもいい。俺は寝る」
「あぁ、おやすみ」
「………」
「コラ!もう仲間なんだからそんなムスッとした顔にしないで!ちゃんとおやすみって言いなさい。猿吉君も!」
なんか変にしっかりしているというか、ここを勝手に使わせるような不正をやるかと思えば、挨拶とかに気を使う。所々オカンみたいな奴だな。俺オカンあんまり知らんけど。しかし、ここで拒否するとまた目のハイライトが消えかねない。あの細まった目で見られると怖いんだよな。同じ事を猿吉も思ったのか不承不承ながら
「おやすみ……」
「おやすみなさい…」
ここは1度停戦だ。長貴を怒らせてもなんにもいいことはない。頭にたんこぶがひとつ増えるだけだ。何となくいろんな意味で力が抜けた猿吉は適当な場所で横になり寝始める。
ていうか、何となくスルーしちゃたけど馬小屋とかあるんだったら馬とかいんのかな?馬って名前だけが同じで他は全然違うというのもありえる。いい機会だから聞いてしまおう。しかしなんて聞けばいいか。馬ってなんですか?って聞くと多分大丈夫かコイツってなっちゃうし。長貴はともかく猿吉に知られて馬鹿にされるのは心底耐えられないからな、記憶喪失を全面に出して聞こう。
「長貴さん」
「ん?なんだい?」
「俺って記憶喪失だってこと今日言ったじゃないですか」
「言ってたね」
「で、本当にそこら辺の常識とかもよく分からないですよ。馬小屋って事は馬という生き物がいた訳ですよね?どんな生き物なんですか?」
「……そうか、そういったことも忘れてしまったのか。それは大変だな。今後そういう分からないことがあれば遠慮なく聞いてくれ。力になれると思う。それで馬だったね。馬っていうのは半妖怪の動物というのかな。力が強く凄まじく早い速度で道を走る生き物の事だ」
ふむふむ。何となく知っている馬の像に近い生き物だな。しかし、この世界の特に武士とかは元の世界の馬より遥かに早く走る事が出来るだろうから、馬とかはいらないだろうな。普通の人は使うだろうけど。
「長いこと人間の相棒として使われている動物でもある。普通の妖力が少ない馬は大人しく一般の人が使いやすい馬で、妖力が多い妖怪よりの馬は角が生えていたり、野生の奴は人を襲ったりと凄まじく気性が荒い。これは、ここら辺じゃ少ないがもっと東の方の国に武士が使う馬もいる。用途の広い4足歩行の生き物だよ」
うん、こっからは俺の知らない馬だな。なんだよ、角が生えてるのって。バケモンじゃねぇか。開拓者だからあんまり縁は無いとは思うけども。
「まぁ、話そうと思えばいくらでもあるんだけど。多分縁はないだろうからこのくらい知っておけばいいよ」
「ありがとう。助かったよ。じゃあ、俺も寝るからおやすみ」
「あぁ、おやすみ」
長貴と分かれ猿吉の隣の場所に入る。外は暗く目が慣れているからそこそこ見えているけども暗くてよく分からない所がおおい。それに腹も減った。と思ったら隣からグゥ〜という腹のなる音が聞こえた。猿吉だろう。
「……腹減ったァ……」
お前まだ昼飯食ってたろ。俺の方が減ってるわ。そんなことを思い、言ってやろうかとも思ったが、もはやそんな気力はなく眠りに落ちていった。
感想よろしくお願いします。




