第9話 新たな依頼・・・暴走まで秒読み態勢
王都セレナ、冒険者ギルド。
王宮から戻った翌日。
フロウベルとリンナは、いつものように冒険者ギルドへやって来ていた。
もちろん、その後ろには――。
ぞろぞろ。
ぷるん。
ぞろぞろ。
ぷるぷる。
五百匹のスライム。
「おかえりなさい、フロウベルさん」
受付にいたイリアが、いつもの笑顔で迎えてくれる。
「ただいま戻りました、イリアさん」
フロウベルも笑顔で答える。
ただし、胸元を見た瞬間、目のハイライトが消えた。
その隣では、リンナが軽く手を上げた。
「どうも」
「リンナさん、フロウベルさん、リーフェンでの依頼、お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
「町の復旧作業にも参加されたそうですね」
「はい」
フロウベルが後ろを見る。
五百匹のスライムが、ぷるぷるしている。
「この子たちが頑張ってくれました」
「……そうですね」
イリアもスライムたちを見る。
「かなり活躍したと聞いています」
「そうなんですか?」
「はい。リーフェンから、かなり詳しい報告が届いていますよ」
「へぇ……」
フロウベルは、少し嬉しそうにスライムを見る。
「よかったですね」
ぷるん。
「ぷるっ」
「……」
リンナが二人のやり取りを見ている。
「なんか、最近この子たちとの会話が成立してるように見えてきたんだけど」
「話せてますよ?私の召喚獣ですよ?」
「……え!?」
リンナが驚いて首を傾げる。
「まぁ、会話というより意思疎通が取れてる感じですね。細かい会話はできません。」
「あ、なるほど…」
イリアが二人の会話聞いて、くすりと笑い、
「それで、本日はどうされますか?」
「依頼を探しに来ました」
「そうですか」
イリアが依頼掲示板へ視線を向ける。
「でしたら、いくつかありますよ」
「何か面白そうな依頼はありますか?」
「面白そう、ですか?」
「はい」
「冒険者らしい依頼がいいです」
フロウベルが真剣な顔で答える。
リンナが横から口を挟む。
「前回は救援物資の運搬と町の復旧だったからね」
「はい。今度こそ、魔物と戦うような依頼を――」
「フロウベルさん」
イリアが少し困ったように笑う。
「冒険者ですから、魔物と戦う依頼だけが冒険ではありませんよ?」
「……そうなんですか?」
「はい」
「なるほど……」
フロウベルが真剣に考える。
「では、魔物を調べる依頼でもいいです」
「ずいぶん方向転換が早いね……」
リンナが呟く。
イリアが掲示板から一枚の依頼書を取り出した。
「それなら、こちらはいかがでしょう?」
フロウベルが依頼書を受け取る。
「……リーフェン?」
「はい」
依頼書には、こう書かれていた。
――リーフェン周辺の森における魔物生息状況の調査。
「リーフェンの森……」
フロウベルが依頼書を読む。
「最近、この森で魔物の目撃情報が増えているそうです」
イリアが説明する。
「なんか、盗賊出たり、魔物が出たりと騒がしい森だね。」
何気なくリンナが話す。
「普段は見かけない魔物や、少し強い個体も確認されているようで」
「原因を調べるんですか?」
「はい。まずは生息状況の確認が主な依頼内容です」
「討伐は?」
「危険な魔物がいた場合は、討伐しても構わないそうです」
フロウベルの目が少し輝く。
「なるほど」
リンナがその表情を見る。
「……ねぇフロウベル?」
「どうしました?」
「あなた、今、すごく楽しそうで、悪い顔してるわよ」
「どんな顔ですか!?失礼ですね!」
ぷんすか怒りながら、フロウベルは依頼書に視線を戻す。
「でも、リーフェンなら――」
ふと、フィナの顔が頭に浮かんだ。
「フィナさん、元気にしてるでしょうか?」
「そういえば、また来てほしいって言ってたね」
リンナも思い出したように言う。
「はい」
フロウベルが頷く。
「それに、前回は町の復旧作業でしたから。今回は森の調査です」
依頼書を握る。
「受けます」
「…うん、わかってた。」
諦め顔のリンナ。
「何か問題ありますか?」
「いや……別に」
リンナはため息をつく。
「まあ、私も一緒に行くけどさ」
「ありがとうございます」
「お目付け役だからね」
「はい」
「……そこは否定してほしかった」
イリアが二人のやり取りを見て、くすりと笑う。
「では、こちらの依頼を受けるということでよろしいですね?」
「はい」
フロウベルが頷く。
「お願いします」
「承知しました」
イリアが依頼書に受付印を押す。
「それでは、気をつけて行ってきてくださいね」
「ありがとうございます」
フロウベルが依頼書を受け取る。
そして、ふと後ろを見る。
五百匹のスライム。
ぞろぞろ。
ぷるん。
ぞろぞろ。
ぷるぷる。
「……」
フロウベルが少し考える。
「今回も、この子たちを連れて行っていいんですよね?」
イリアが微笑む。
「もちろんです、むしろ、置いてかないでください」
笑顔と胸元で圧をかけてくるイリア。
「は、はい。わかりました。たはは……」
フロウベルが首をぶんぶんと縦に振る。
そこで、ふと王宮で感じた疑問が浮かんだ。
「イリアさん、お姉さんいます?」
「あ、もしかすると会いましたか、ミレイア姉さんに」
「あ、やっぱり」
凶悪な胸元を思い出し、目のハイライトがまた消えた。
「やさしい人だったでしょ。姉さん面倒見良いから」
「いえ、そこまで話せませんでしたので。じゃ、じゃあ、この子たちもちゃんと連れていきますね。」
慌てて動き出すフロウベル。
ぷるぷると動き出す。
リンナが呆れた顔をする。
「もう、この子たちがいないと冒険できないんじゃない?」
「そんなことありませんよ」
「本当に?」
「はい」
フロウベルは胸を張る。
「私は召喚士ですから」
「……ああ、嫌な予感はこれか」
リンナが苦笑する。
こうしてフロウベルたちは、新たな依頼を受けることになった。
向かう先は――。
再び、リーフェン。
そして、その先に広がる森。
そこで待っているものが何なのか。
この時の二人は、まだ知らなかった。
もちろん――。
五百匹のスライムも。
ぷるん。




