第6話 リーフェン復興作業
リーフェンの町には、まだ盗賊団の襲撃による爪痕が残っていた。
壊れた家。
崩れた塀。
道端に残された瓦礫。
町の人々は、それぞれ復旧作業に追われている。
「思ったより、大変そうですね……」
フロウベルが町を見渡す。
「うん。盗賊に襲われたのが数日前だからね」
隣にいるリンナが答える。
「怪我人はだいぶ落ち着いたみたいだけど、建物のほうはまだまだこれからかな」
「なるほど……」
フロウベルは頷いた。
そして、後ろを見る。
そこには――。
五百匹のスライム。
ぷるん。
ぷるぷる。
ぷるっ。
緊張感が失われる光景が広がっている。
「……よし」
フロウベルが手を叩く。
「みんな、手伝いましょう」
ぷる!
五百匹のスライムが一斉に動き始めた。
「……相変わらず、動きはいいんだよなぁ」
リンナが呟いた。
◆
「まずは、この瓦礫を片付けましょう」
フロウベルが指示を出す。
ぷるん!
スライムたちが瓦礫へ向かっていく。
一匹では持てない大きな木材には、数匹が集まる。
ぷるぷる。
ぷるぷる。
そして――。
ずるずると木材を運んでいく。
「……」
リンナが眺める。
「次は、あっちの石をお願いします」
ぷるん。
スライムたちが一斉に移動する。
石を運ぶ。
瓦礫を運ぶ。
壊れた家具を運ぶ。
あっという間に、道が片付いていく。
「……すごいな」
近くで作業していた町の男が呟いた。
「何だ、あのスライムたち……」
「荷物まで運んでるぞ」
「五百匹もいるんだろ?」
「……数えるなよ」
「分かってる」
町の人々も、次第にスライムたちの働きに気づき始めていた。
「フロウベルさん!」
そこへフィナが駆けてくる。
「はい?」
「こちらのほうもお願いしていいですか?」
「もちろんです」
走ってきたフィナの胸元を見て、フロウベルはほっとしたような顔をする。
「どこですか?」
「あっちです!」
フィナが指差す。
「壊れた家の裏に、まだ瓦礫が残っていて……」
「分かりました」
フロウベルがスライムたちを見る。
「みんな、フィナさんについて行ってください」
ぷる!
ぞろぞろ。
五百匹が一斉にフィナの後をついていく。
「わぁ……」
フィナが嬉しそうに振り返る。
「ちゃんとついてきてくれるんですね」
「はい。言うことを聞いてくれますから」
「すごいです!」
「そうでしょう?」
フロウベルも嬉しそうに笑う。
その二人を見ていたリンナが、また妙な顔をする。
「……」
「どうしました?」
「いや」
リンナは首を振った。
「なんでもない」
◆
昼頃。
町の中央では、簡単な食事の準備が始まっていた。
「フロウベルさん、お昼ですよ」
フィナが声をかける。
「ありがとうございます」
フロウベルが受け取る。
その横でリンナも食事を受け取った。
「いただきます」
三人が食事を始める。
その周囲では、スライムたちが思い思いに休んでいる。
ぷるん。
ぷるぷる。
ぷるっ。
「……」
フィナがスライムを眺める。
「この子たちって、いつもこんな感じなんですか?」
「はい」
「疲れないんですか?」
「どうでしょう?」
フロウベルは一匹を見つめる。
ぷるん。
「……疲れていないみたいですね」
「分かるんだ」
リンナが呆れた顔をする。
「なんとなくですね。」
「なんとなくで分かるものなの?」
「召喚主ですから。そんなもんですよ、召喚士は。」
「それで納得していいのかな……」
リンナは頭を抱えた。
フィナがくすっと笑う。
「お二人って、本当に仲がいいんですね」
「そうですね」
フロウベルが即答する。
「……」
リンナがフロウベルを見る。
「やっぱり、私のこと嫌いじゃないんだよね?」
「嫌いじゃないですよ?むしろ、人として好きですよ?」
「でも、たまにすごい顔で私を見るよね?」
「…気のせいです」
「絶対気のせいじゃない」
フィナがまた笑う。
「ふふっ」
フロウベルもフィナを見る。
「フィナさんは、よく笑いますね」
「え?」
「いいことだと思います」
「……ありがとうございます」
フィナが少し照れた。
その様子を見ていたリンナは――。
「……なるほど」
「何がですか?」
「いや、なんでもない」
◆
午後。
復旧作業はさらに進んでいた。
「こっちは終わりました!」
「ありがとうございます!」
町の人々から声がかかる。
「次はこっちをお願いします!」
「はい!」
フロウベルが答える。
スライムたちが動く。
ぷるぷるぷるぷる――。
瓦礫を運び。
木材を運び。
水を運ぶ。
人の手が届きにくい狭い場所にも入り込み、細かな瓦礫を運び出していく。
「……」
リンナは、その様子をじっと見ていた。
「ねえ、フロウベル」
「はい?」
「この子たちって……本当に普通のスライム?」
「そうですよ?」
「でもさ」
リンナがスライムを見る。
「普通のスライムって、こんなに力持ちなの?」
「少し力が強いのかもしれませんね」
「少し?」
リンナが目を細める。
「五百匹いるからじゃなくて?」
「それもあると思います」
「……」
リンナは何も言わなかった。
フロウベルは、そんなリンナを不思議そうに見ている。
「どうしました?」
「いや……」
リンナは小さく息を吐いた。
「やっぱり、なんでもない」
◆
夕方。
町の復旧作業も、一段落した。
盗賊団によって壊された場所のいくつかは、まだ修理が必要ではあるものの、生活に必要な場所はかなり使えるようになっていた。
「今日は本当にありがとうございました!」
フィナが頭を下げる。
「いえいえ」
フロウベルは笑顔で答えた。
「私たちも楽しかったです」
「楽しかった?」
リンナが振り返る。
「うん?」
「いや……」
リンナは苦笑した。
「まあ、フロウベルらしいか」
「そうですか?」
「そうだよ」
フロウベルが身体を伸ばしながら
「帰ったら、『スライム?土木建設』でも立ち上げようかなぁ」
「はぁ?」
「冗談ですよ。召喚術を極めなきゃいけないので」
フィナが笑う。
「また、リーフェンに来てくださいね」
「はい」
フロウベルは頷いた。
「何か困ったことがあったら、いつでも呼んでください」
「本当ですか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます!」
フィナが嬉しそうに笑った。
フロウベルも笑顔を返す。
「……」
その横でリンナが二人を見る。
「……やっぱり妹みたいに思ってるでしょ」
「妹?違いますよ、同士です」
「…なんの?」
それについては、答えない。リンナには理解できないことだから。
◆
翌朝。
「それじゃあ、そろそろ出発しようか」
リンナが荷物を背負う。
「はい」
フロウベルも準備を終える。
フィナがギルドの前まで見送りに来ていた。
「本当にありがとうございました」
「こちらこそ」
フロウベルが頭を下げる。
「救援物資も無事に届けられましたし、町のお手伝いもできましたから」
「はい!」
フィナが笑顔になる。
「また来てくださいね!」
「はい。また来ます」
フロウベルが手を振る。
「さようなら、フィナさん」
「さようなら、フロウベルさん!」
そして二人は歩き始める。
その後ろには――。
ぞろぞろ。
ぷるん。
ぞろぞろ。
ぷるぷる。
五百匹のスライム。
「……」
フィナは、その光景をしばらく見送っていた。
「……五百匹かぁ」
小さく呟く。
「また来てくれるといいな」
◆
王都セレナへの帰路。
街道を二人で歩く。
「……ねえ、フロウベル」
「はい?」
「行きも思ったけどさ」
「はい」
「帰りも、この光景なんだよね」
リンナが後ろを見る。
ぞろぞろ。
ぷるん。
ぞろぞろ。
ぷるぷる。
「はい」
「……慣れた?」
「いえ」
「だよね」
「でも、少しだけ可愛く見えてきました」
「え?」
リンナが驚く。
「昨日、フィナさんがこの子たちを見て喜んでいたので」
「……なるほど」
リンナが笑う。
「フィナちゃんの影響か」
「そうかもしれません」
「へえ」
しばらく歩く。
街道の先に、王都セレナの姿が見えてきた。
「あ、見えてきましたね」
「うん」
フロウベルが足を止める。
「帰ってきましたね」
「そうだね」
二人は王都を見つめる。
そして――。
五百匹のスライムも、二人の後ろで一斉に王都を見つめていた。
ぷるん
ぷるぷる
ぷるっ
「……さて」
フロウベルが歩き出す。
「帰りましょう」
ぞろぞろ。
ぷるん。
ぞろぞろ。
ぷるぷる。
二人と五百匹のスライムは、再び王都セレナへと戻っていった。
こうして、リーフェンでの救援活動は無事に終わった。
そして――。
フロウベルたちの日常は、次の出来事へと進んでいく。




