第5話 リーフェンの町
翌日。
王都セレナを出発したフロウベルたちは、街道を西へと進んでいた。
そして――。
「……あれがリーフェン?」
遠くに、小さな町が見えてきた。
高い城壁に囲まれているわけではない。
規模も王都とは比べものにならない。
街道沿いに広がる、小さな町。
「そうだよ、ここがリーフェン」
隣を歩くリンナが答えた。
「思っていたより小さいですね」
「まあ、田舎町だからね」
リンナがそう言ったところで、後ろから――。
ぞろぞろ。
ぷるん。
ぞろぞろ。
ぷるぷる。
五百匹のスライムたちがついてくる。
「……でも、あれは目立つね」
「そうですか?」
「目立たないと思ってるの?」
町へ近づくにつれ、住民たちがこちらに気づき始める。
「……スライム?」
「なんであんなにいるんだ?」
「一匹じゃないぞ」
「……おい、大丈夫なのか?スタンピードじゃないよな?」
「スライムだけのスタンピードはないとは思うが」
そんな声が聞こえてくる。
フロウベルは気にする様子もなく歩いていく。
「まずは冒険者ギルドですね」
「…ねぇ町の人の声、気にならないの?……あ、うん、フロウベルだもんね。」
1人で納得するリンナ。1日付き合ってフロウベルを把握してきたようである。
「なんか、失礼なものいいですね」
今回の依頼では、救援物資をリーフェンへ届けることになっている。
そして、その受け取り窓口となるのが町の冒険者ギルドだった。
◆
リーフェン冒険者ギルド。
「ここですね」
フロウベルが建物を見上げる。
王都のギルドよりもずっと小さい。
それでも、建物の前には何人かの冒険者が立っていた。
フロウベルたちが近づく。
そして――。
「……」
冒険者たちの視線が、フロウベルの後ろへ向く。
ぷるん。
ぷるぷる。
ぷるっ。
「……なんか、つい最近同じ光景を見た気がする」
リンナが苦笑する。
「何がですか?」
「いや、なんでもない」
二人はギルドの中へ入った。
すると受付カウンターの向こうから、一人の少女が顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
少女はフロウベルたちを見る。
そして、その後ろを見る。
「…………」
少しだけ目を丸くした。
「……スライム、ですか?」
「はい」
フロウベルは笑顔で答えた。
「五百匹はいますよ」
「ご、ごひゃく……?」
少女が固まる。
「はい」
「……五百匹……」
少女はもう一度、恐る恐る外を見る。
ギルドの入口からも、スライムたちが見えている。
ぷるん。
ぷるぷる。
ぷるっ。
「……本当に五百匹もいるんですか?」
「はい」
「……すごい」
少女は驚きながらも、すぐに仕事用の笑顔に戻った。
「失礼しました。冒険者ギルド、リーフェン支部の受付を担当しています、フィナです」
「フィナさんですね」
フロウベルも丁寧に頭を下げる。
「私はフロウベルです。こちらはリンナさん」
「よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
フィナは笑顔で二人に頭を下げた。
年齢は十五歳ほどだろうか。
小柄な体つきで、フロウベルとそれほど変わらない。
どこか親しみやすい雰囲気を持った少女だった。
フロウベルの目も、生暖かく優しい目でフィナを見ている。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「王都セレナから、救援物資を届けに来ました」
「救援物資……」
フィナの表情が変わる。
「あっ!」
すぐに依頼書を確認する。
「もしかして、今回の救援物資の依頼を受けてくださった冒険者さんですか?」
「はい」
「お待ちしていました!」
フィナが嬉しそうに立ち上がる。
「ありがとうございます!」
「いえいえ」
フロウベルは柔らかい笑顔を浮かべる。
「困っている人たちがいるんですよね。無事に届けられてよかったです」
フィナとのやり取りを見ていたリンナが、少しだけ目を細めた。
「……」
「どうしました?」
「いや……」
リンナはフロウベルを見る。
「なんか、ずいぶん優しい顔してるなと思って」
「?」
「私と話してるときと違わない?」
「そうですか?」
リンナの揺れる胸元を見ながら、不機嫌そうに答える。
「そうだよ」
「気のせいじゃないですか?」
「絶対違う」
リンナが小声で呟く。
その会話を聞いていたフィナが、くすっと笑った。
「仲がいいんですね」
「そうですね」
フロウベルが答える。
「え?」
今度はリンナが驚いた。
「いや、そこは否定しないんだ……」
「え、仲いいですよね?基本、私、人を嫌うことはないですよ?」
大真面目に答える。確かに人嫌いではない。
自分にないものを持っている部分に敵意を見出しているだけである。
◆
ギルドの裏手。
そこには、救援物資を積んだ馬車が止まっていた。
「すごい……」
フィナが目を見開く。
「こんなにたくさん……」
「食料と飲料水、それから医薬品や包帯などです」
フロウベルが説明する。
「これで、しばらくは大丈夫でしょうか?」
「はい!」
フィナが大きく頷く。
「町のみんなも、きっと喜びます!」
「それならよかったです」
フロウベルが微笑む。
その後ろでは――。
「ぷるん」
「ぷるぷる」
「ぷるっ」
スライムたちが荷馬車を見上げている。
「……あ」
フロウベルが振り返った。
「そういえば、この子たちに運んでもらえばいいですね」
「え?」
フィナが首を傾げる。
「この子たちに?」
「はい」
「スライムが荷物を?」
「できますよ」
フロウベルが一匹を指差す。
「これを持って」
ぷるん。
スライムが木箱の下へ潜り込む。
「よいしょ」
木箱が浮いた。
「……え?」
フィナが固まる。
別のスライムが麻袋を持ち上げる。
さらに別のスライムが箱を運ぶ。
ぷるぷるぷるぷる――。
「あ……」
フィナの目が輝く。
「すごい……!」
「便利でしょう?」
「はい!」
フィナが嬉しそうに笑う。
「すごいです!」
フロウベルも嬉しそうに笑う。
「そうでしょう?」
リンナがその二人を見る。
「……なんだろう」
「どうしました?」
「いや」
リンナはため息をついた。
「なんか、すごく平和だなって」
五百匹のスライムが一斉に荷物を運んでいる。
木箱。
麻袋。
薬品。
包帯。
次々と荷物が運ばれていく。
「これなら、私たちが手伝う必要ないんじゃ……」
リンナが呟く。
「そうですね」
フロウベルが頷く。
「……認めるんだ」
「でも、私は『スライム?』に指示出しているから、実質手伝ってますよ?」
にやりと悪い顔で、リンナを見るのであった。
◆
物資の搬入が終わると、フィナが町の状況を説明してくれた。
「数日前の盗賊団の襲撃で、かなりの被害が出ました」
「やっぱり、大変だったんですね」
「はい……」
フィナの表情が少し曇る。
「自警団や冒険者の方たちが戦ってくれたので、盗賊は撃退できたんですけど……」
家屋の破損。
負傷者。
そして、物資不足。
「まだ、復旧には時間がかかりそうです」
「そうですか……」
フロウベルは町を見る。
「何か、私たちにできることはありますか?」
「え?」
フィナが顔を上げる。
「怪我人のところへ物資を運んだり、壊れた場所の片付けをしたり……」
フロウベルは後ろを見る。
そこには――。
五百匹のスライム。
「この子たちもいますから」
フィナはしばらくスライムたちを見る。
「……」
そして。
「お願いします!」
元気よく頭を下げた。
「はい!」
フロウベルも笑顔で答えた。
その横でリンナが呟く。
「……なんか、もうこの町に来た目的が変わってない?」
「そうですか?」
「救援物資を届ける依頼だったよね?」
「届けました」
「うん」
「だから、次は復旧のお手伝いです」
「そういうところなんだよなぁ……」
リンナは苦笑した。
冒険者なら、依頼の報酬を気にするのが当然だ。
だが、フロウベルはそんなことよりも、困っている人がいることのほうが気になるらしい。
こうして――。
フロウベルたちのリーフェンでの仕事が始まった。
五百匹のスライムと。
小さな受付嬢、フィナとともに。




