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伝説の召喚士、禁断の召喚術を試す ・・・500匹のスライムどうする?  作者: てるるん
第4章 召喚士、剣士、魔術師……はちゃっけ冒険開始
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第3話 小さな迷子と、近づく気配

 草むらの向こうから聞こえた、小さな鳴き声。


 フロウベルは足音を立てないように、そっと茂みをかき分けた。


 そこにいたのは、小さな獣だった。


 狼に似た姿をしているが、まだ幼い。全身を覆う灰色がかった毛並みは少し汚れ、耳は力なく垂れている。


 その体は小型犬ほどの大きさしかない。


「……あなた、どうしたの?」


 フロウベルが声をかける。


「きゅん……」


 小さな獣は顔を上げた。


 警戒しているのか、すぐには近づいてこない。けれど、逃げようともしなかった。


 その横では、一匹のスライムがぷるぷると揺れている。


「あなたが見つけたのね。お疲れ様」


 フロウベルはスライムに微笑む。スライムは嬉しそうにプルっと震える。


 小さな獣は、目の前の青いスライムを不思議そうに見つめた。


 スライムが少し近づく。


 すると、小さな獣は鼻を近づけ、くんくんと匂いを嗅いだ。


「ふふっ。気になるの?」


 フロウベルが微笑む。


 そのとき、後ろから声がした。


「フロウベル! あんまり奥に行かないでって言ったでしょ!」


 リンナだった。


 その後ろにはミルファもいる。


「ごめんごめん。ちょっと気になるものがいて」


「気になるものって……あら?」


 リンナはフロウベルの足元にいる小さな獣を見つけた。


「狼……みたいな魔物?」


「はい。体格や顔つきからすると、まだ幼体のようですね」


 ミルファが少し離れたところから観察する。


「怪我をしているのでしょうか?」


「うーん、見たところ大きな怪我はなさそうだけど……」


 フロウベルは小さな獣の様子をうかがった。


 毛並みは少し乱れているが、血が出ている様子はない。ただ、どこか落ち着かない様子で、何度も周囲を見回している。


「カーちゃん診てくれる?」


『きゅっ』と鳴き、カーバンクルは小さな獣の周りを動く。


『主、特に怪我はないみたい。ちょっと体力が落ちてるかな』


 カーバンクルがフロウベルに報告してくる。


「怪我はないようです」


 リンナとミルファに告げる。


「きゅん……」


 小さな獣が、再び鳴いた。


「お腹が空いているのかな?」


 フロウベルは自分の鞄の中からお菓子を取り出し、小さな獣に向ける。


 小さな獣は、お菓子の匂いを嗅ぐと、いきなり口に咥え食べてしまった。


「やっぱり、お腹空いてたんですね」


 フロウベルは、またほほ笑む。


 そんな、フロウベルを見ながら、リンナとミルファは話し合う。


「さっきの商人さんの話だと、狼のような魔物は何かを探していたんだよね?」


 リンナが思い出したように言った。


「その子を探してるんでしょうね」


 リンナは小さな獣とフロウベルを交互にみながら、


「この子が、大きな狼の魔物の子供だってこと?」


「まだ分かりませんが、可能性はありますね」


 ミルファが慎重に答えた。


 小さな獣は、フロウベルから与えられるお菓子を食べ、たまにスライムの方をじっと見ている。


 スライムがぷるんと跳ねた。


 それに合わせて、小さな獣の耳がぴくりと動く。


「ふふっ。スライムが気に入ったみたい」


 フロウベルは再びほほ笑む。


「スライムを気に入る魔物って、初めて聞いたわ……」


「そうですか? うちの子たちは、結構人気者ですよ?」


「それはフロウベルの周りだけだと思うけど……」


 リンナが呆れたように言う。


 フロウベルは小さな獣を驚かせないよう、ゆっくりと手を差し出した。


「ねえ、あなた。お父さんかお母さんはどこにいるの?」


「きゅん?」


 小さな獣は首を傾げる。


「はぐれちゃったのかな?」


 その言葉に反応したのか、小さな獣は立ち上がり、森の奥へと顔を向けた。


 そして、少し寂しそうに鳴いた。


「きゅうん……」


「……やっぱり、この子も親を探しているみたいだね」


 フロウベルの表情が少し曇る。


「そうですね。先ほどの話ともつながります」


 ミルファが周囲を見渡した。


「この子が親とはぐれたのだとすれば、目撃されている大きな狼の魔物が親である可能性もあります」


「じゃあ、あの狼の魔物はこの子を探しているのかな?」


「まだ断定はできませんが、そう考えると辻褄は合いますね」


 リンナは腕を組んだ。


「でも、どうしてこんなところではぐれたんだろう?」


「それは、親に会ってみないと分からないね」


 フロウベルは小さな獣に視線を戻した。


「ねえ。お父さんかお母さんのところに帰りたい?」


「きゅん!」


 小さな獣は、今度ははっきりと鳴いた。


 その声に、フロウベルは小さく頷く。


「そっか。じゃあ、一緒に探そうね」


「ちょっと待って。親がどこにいるかも分からないのよ?」


「うん。でも、この子を一人にしておくわけにもいかないでしょ?」


「それはそうだけど……」


 リンナは言葉を詰まらせた。


「まずは、この子が安心できるようにしましょう。無理に移動させるより、親が来るのを待つ方がよいかもしれません」


 ミルファの提案に、フロウベルも頷いた。


「そうだね。ここで少し待ってみよう」


 フロウベルは小さな獣のそばに腰を下ろした。


 スライムたちも、いつの間にか周囲に集まってきている。


 小さな獣は最初こそ戸惑っていたが、青いスライムたちが敵意を見せないことが分かったのか、少しずつ落ち着きを取り戻していった。


「……それにしても、フロウベル」


 リンナが聞いてくる。


「なに?」


「また、この魔物の子の正体って分かる?」


「わかりませんね……契約しているわけではないので」


 フロウベルは答える。


「そういえば、召喚契約はしないのですか?」


 ミルファも尋ねてくる。


「「しませんよ。召喚契約は、相手の意思を尊重するものです。でも、子供の魔物だと、その場の感情で契約を望んでしまう可能性がありますから……この子は寂しがっていますし、私を拠り所にして契約を望んでしまうかもしれません」


 リンナもミルファも黙ってしまった。


 いつものフロウベルとは違う、どこか物悲しそうな口調だったからだ。


「はぁ……」


 リンナは小さくため息をついた。


 そのときだった。


 森の奥から、かすかな音が聞こえた。


 低く、長く響く声。


「……!」


 小さな獣が、ぴんと耳を立てた。


 そして、森の奥へ向かって大きく鳴く。


「きゅんっ!」


 少し間を置いて、再び声が響いた。


 今度は先ほどよりも近い。


「……返事をした?」


 ミルファが森の奥を見つめる。


「親でしょうか?」


「そうかもしれないね」


 フロウベルは立ち上がり、小さな獣のそばに寄った。


 リンナも腰の剣に手を添える。


「油断しないで。相手が親なら、子供を守ろうとして警戒するかもしれない」


「警戒だけならいいけど、襲ってくる可能性もあります。スライムさんたち、一応、防御の陣形集まって」


 スライムたちが、三人の前で、自分たちが壁になるように並んでいく。


 森の木々が、ゆっくりと揺れた。


 風が吹いたわけではない。


 何か大きなものが、こちらへ近づいている。


 スライムたちの動きが止まった。


 小さな獣は、嬉しそうに尻尾を振りながら、森の奥を見つめている。


「……来るね」


 フロウベルがつぶやいた。


 木々の向こうに、大きな影が現れた。

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