第11話 救出! ……あの娘だよ。履いてないの(フ) 指差さない!(リ) ……(顔真っ赤の娘)
「みんな、行きますよ!」
フロウベルの声に、五百匹のスライムたちが一斉に動き出した。
ぷるぷる、ぷるんっ!
青い小さな塊が通路を埋め尽くし、魔物たちの足元へと押し寄せる。
「……なるほど!スライムたちいいわよ!」
リンナが一瞬でスライムたちの意図を察し、魔物に近づく。
スライムたちは魔物の攻撃を避けながら、足元にまとわりつく。何匹ものスライムに囲まれた魔物がバランスを崩し、隣の魔物へとぶつかった。
その隙を、リンナは見逃さない。
「今だっ!」
左右の剣が閃き、魔物の一体が倒れる。
フロウベルも状況を見ながら、スライムたちに指示を飛ばしていた。
「右側に集まって! そっちは無理しないで、いったん下がって!」
スライムたちは指示に応じ、まとわりつく相手を変えながら魔物の動きを妨害していく。
魔物たちは、何が起きているのか理解できない様子だった。
数匹なら大した脅威ではないスライムも、これだけの数が一斉に動けば話は別だ。
「な、何なんだ、こいつら!?」
冒険者の男が叫んだ。
「召喚獣だから! 説明はあと! 今は自分たちを守って!」
リンナが声を張り上げる。
彼女は魔物の攻撃をかわし、女性冒険者たちへ迫る一体を斬り伏せた。
その間にも、スライムたちは魔物の足元を塞ぎ、逃げ道を奪っていく。
やがて、魔物たちの動きが乱れ始めた。
「よし、今です!」
フロウベルの合図とともに、リンナが最後の一体へと踏み込む。
鋭い一撃が決まり、魔物は床に倒れた。
しばらくして、通路に静けさが戻る。
「……終わった?」
女性冒険者の一人が、呆然と呟いた。
「はい。もう大丈夫です」
フロウベルが答える。
五百匹のスライムたちは、彼女の周囲に集まり、ぷるぷると揺れていた。
「……あんた、これ全部、自分の召喚獣なのか?」
男が信じられないものを見るような目で尋ねる。
ジロっと男を睨みつけるフロウベル。
リンナも、
「助けてもらっといて、お礼も言わず、『あんた』呼ばわり?」
さすがに、イライラしている。
「な!? だ、誰も助けてくれとは……」
「ほぉ? そういうこと言うわけだ。フロウベル、ほっといて帰ろう」
「そうですね。この人たちを救出しようが、しまいが見つけたことには変わりありませんし。」
フロウベルも同意し、帰ろうとする。
その時、女性4人が大声で、
「「「「ありがとうございました!私達を連れて帰ってください!」」」」
同時にお辞儀する。リンナとフロウベルは、目を合わせて、にっこり彼女たちに微笑む。
「いいわよ。貴方たちは礼儀をわきまえてるようだし。」
『え、俺は?』みたいな顔をしている男は無視して、答えるリンナ。
「あと……リンナ、あの娘にあれ返してあげないと。」
「あれ?……あ!」
スカートの端を持ち、中を見えないように隠している女性のところに行き、こっそり返す。
女性は顔を真っ赤にして受け取り、物陰に隠れて履いている。
「変なこと聞くけど、なんで、あんなところに……」
女性は顔を真っ赤にしながら、答える。
「ちょうど、用を足しているときに、魔物に襲われて逃げて……」
「あ、なるほどね。……なんで、誰も見張らなかったの?」
……なにか、沈黙が落ちる。やがて、一人の魔導士っぽい女性が声を上げる。
「そういえば、ここまでのドタバタで忘れてたけど、あの時、『俺が見張っててやるから大丈夫だ』ってあんた、そういって見張りを買って出たわよね」
「え、あ、そう……だったか?」
目が泳いでる。さらに、シーフっぽいボーイッシュな女性が、
「あんた、覗いてたわね?それで対応が遅れたんでしょ!」
「な、なにを!だ、誰がそんなこと……」
剣士っぽい女性がさらに追い打ちをかける。
「あんた、人が用たす時なんか、必ず見張りを買って出るわよね。」
「そ、それは、俺が男だから……」
「私たちも同じD級冒険者だけど?」
とうとう言い訳できなくなった男。
「す、すみませんでしたぁ」
きれいな土下座をして謝る男。
「こいつはこのまま置いて、さ、帰りましょう」
リンナが促す。
「お、俺を置いて帰るのか?」
「あなたは一人で帰ってきなさい。」
にべもなく、返事するリンナ。
「お、俺も一緒に……」
「あなたがいると、私たちの身も危険に思えてくるのよ。」
それまで、ただ、黙って見ていたフロウベルが、スライムたちへ、
「女性が嫌がることをしておいて、まだ自分のことしか考えていないんですか?」
フロウベルの声から、いつもの明るさが消えた。
「あなたたち、服だけ溶かすことってできる?」
なにか不穏なこと言った方思うと、スライムたちが行動し始める。
男にスライムたちが取り付いて、服だけを溶かし始める。装備は溶かしてない。
「や、やめろ!おい、なにすんだ!!」
スライムたちが拘束し、溶かしていき、あられもない姿になる男。
「ど、どおうすんだよ!人前に出られねぇじゃねぇか!」
「ああっ!? 女性を恥ずかしい目に遭わせておいて、なんだその態度は!」
ひさびさのぶちぎれモードのフロウベル。
「ここで、ひっそり殺されなかっただけでもマシと思えや!」
フロウベルの豹変ぶりに、男は何も言い返せない。
女性たちも固まって、フロウベルを凝視している。
リンナだけが、もう慣れっこの様に平然とし、やはり男を睨みつけている。
「今回は、フロウベルの意見に同感ね。装備はあるみたいだから、自分で帰ってきなさい。」
「さぁ、皆さん帰りましょう!」
また、笑顔に戻ったフロウベルに激しく首を縦に振り、ついていく女性陣。
「ま、待って……」
そこまで言って、フロウベルに睨みつけられ委縮する男。
「スライムさんたち、悪いんだけど何匹か残って、私たちについてこないように、これ監視してて。」
何匹かが男を囲み、監視を始めた。
「危害を加えるようだったら、装備から溶かしていっていいからね。」
残ったスライムはぷるぷると、揺れフロウベルの指示に従う。
そう言って、さっさと行ってしまうフロウベル達。
こうして、男だけ取り残されていくのだった。
◇
ひとまず安全を確保しながら進むフロウベルたち。
女性四人の状態もカーバンクルで確認する。
全員疲労は激しいが、幸い、命に関わるような傷はない。カーバンクルの癒しの力で回復させる。
「これで、歩けますか?」
フロウベルが尋ねる。
「何とか……。本当にありがとうございます」
シーフぽいの女性が頭を下げる。
「私は、ルーラン。職業はシーフ。で、こっちが……」
「魔導士のミルファですわ。」
「私はカオリ。剣士だ」
「わ、わたしはシェリルです。僧侶をしてます……」
最後に下着忘れの女性が名前を告げる。
「わたしは、リンナ。で、この子はフロウベル」
「フロウベルでーす。召喚士ですよ!」
「リンナ……フロウベル……青と緑の髪……召喚士……」
「「「「ブルー&サファイア!」」」」
四人が一斉に指差し通り名を叫ぶ。
「その通り名やめろ!!!」
リンナも叫ぶ。既に王都じゃ知らないものはいない名物コンビである。
「でも、本当に助けてくれて、ありがとうございます。魔物からも、あの男からも」
女性の一人が頭を下げる。最後の方は嫌悪感も混じる声だった。
「お礼は外に出てからでいいわ。今は無理せず、私たちについてきて」
リンナはそう告げると、周囲を警戒した。
フロウベルもスライムたちに指示を出す。
「みんな、帰り道も気をつけてね。何かあったらすぐに教えてください」
ぷるっ!
スライムたちは返事をするように揺れ、通路の先へと散っていった。
こうして、フロウベルたちは四人の冒険者を連れ、迷宮の出口を目指すことになった。
◇
帰り道でも何度か魔物と遭遇したが、今度は四人を守りながら進む必要がある。
リンナが前方を警戒し、フロウベルはスライムたちに周囲を探索させる。
危険な気配があれば立ち止まり、魔物を避けられる道があればそちらを選んだ。
時間はかかったものの、大きな問題は起きなかった。
やがて、迷宮の入口から差し込む光が見えてきた。
「……なんと無事にたどり着いたね」
フロウベルが、ほっと息を吐く。
四人は一人ずつ階段を上り、ようやく地上へと戻ってきた。
ルーランが空を見上げ、深く息を吸い込む。
「帰ってこられた……」
その声には、安堵と疲労が入り混じっていた。
「よかったですね」
フロウベルは微笑んだ。
足元では、スライムたちが元気よく跳ねている。
だが、リンナはまだ気を緩めていなかった。
「とりあえずギルドに戻りましょう。報告も必要だし、詳しい話も聞かないと」
「そうですね」
フロウベルたちは四人を伴い、冒険者ギルドへ向かった。
ちなみに、残してきたスライムは、ダンジョンを出たころには何匹かはついてきていた。
◇
ギルドに戻ると、四人の救出を知った職員たちが安堵の表情を浮かべたが、一人足りないことに気付く。
行方不明者の捜索は、ギルドにとっても重大な案件だ。
四人の無事は確認し、まずは休息と手当てが優先された。
手当の最中、リンナとフロウベルは、ギルドマスターの執務室に呼ばれた。
「なんで、一名足りないんだ? もう、ダメだったのか?」
「「捨ててきました!」」
「はぁ!?なんだと!」
リンナが事の経緯を説明する。最初は怒っていたギルドマスターだが、段々と渋い顔になり、
「言いたいことはわかった……だがな、こと人命救助で見捨てたとは……」
「野放しにしてたら、女性の被害者が増えます!」
リンナが珍しくギルドマスターに逆らう。それだけ憤慨してる。
「……それとも、ギルドマスターはあの男をかばうんですか?」
ゴゴゴゴ……後ろから般若かス〇ンドが現れそうな低い声でフロウベルが問う。
「い、いや、そういうわけじゃないが、身ぐるみ溶かして、捨ててくるのはどうかと思うぞ。」
ギルドマスターのいう事は正論である。だが、その正論が通じないのがフロウベルである。
「なら、今から全てを溶かしてきて証拠隠滅でもしましょうかね……」
「すまん、怒りは鎮めてくれ。あれが戻ってきたら、女性たちに謝罪させ、それなりの罰を与えるから」
さすがに実行しかねない勢いだったため、約束してしまったギルドマスター。
そこへイリアが、女性たちを連れてきたことを告げに来た。
「マスター、女性たちの治療も終わったので、連れてきました……マスターどうしたんです、汗すごいですよ?」
「な、なんでもない。こちらに入れてもらってくれ。」
「……? わかりました。入ってください」
先ほどの四人が入ってきた。全員席に座り、質問が始まった。
まず、ギルドマスターが事情を尋ねた。
「それで、どうして六階層より下に進んだ?Dランクではさすがにきつい階層だぞ。」
四人は顔を見合わせた。
やがて、ルーランが代表して口を開く。
「……希少な素材が見つかったって、聞いたんです」
「希少な素材?」
「ええ。六階層より先でしか採れないもので、見つければかなりの報酬になるって」
リンナは眉をひそめた。
「誰から聞いたの?」
「あいつが、街で会った男です。冒険者風の格好をしていて……名前は聞いていません」
「名前も知らない相手の話を信じたの?」
「あいつが、妙に有頂天になって、『一攫千金だぁ!』とか言って張り切りだして……」
「それで、あんた達も付いていったの?」
「……はい。 なんだかわからないけど、そうなんだろうと。」
ルーランが申し訳なさそうに答えた。
「最初は半信半疑でした。でも、そいつは迷宮のことにも詳しそうで、ほかの冒険者も素材を探していると言っていたんです」
「それで、急いで潜ったってこと?」
「……そうです。あいつが『先を越されたくない』って騒いで」
リンナはため息をついた。
ここでギルドマスターが質問する。
「さっきから、出てくる『あいつ』って、見捨ててきたやつのことだよな?」
「……そうです。名前も口に出したくない!」
相当、ルーラン含め、女性陣はおかんむりである。
「はぁ……。危険な場所に行くなら、情報の裏くらい取っておきなさいよ」
「返す言葉もありません……」
ルーランは肩を落とした。ジョブがシーフなだけに情報や斥候として今回は失敗だった。
フロウベルは少し考えてから尋ねる。
「その人、どんな特徴でしたか?」
「えっと……。普通の男でした。特に目立つところはなくて、服装もありふれた冒険者のものでした」
「どこのギルドに所属しているかは?」
「分かりません。聞いても、はぐらかされました」
四人の証言は、どれも曖昧だった。
名前も所属も分からない。
ただ、迷宮の情報に詳しそうな男が、報酬の大きさを強調して深層へ向かうよう勧めた。
それだけだった。
「……少し、気になりますね」
フロウベルが呟く。
「きゅっ、主。この人たちを治療したとき、なんか変な魔法の痕跡があったよ。魅了系かな?」
ここで、肩に乗っていたカーバンクルが爆弾発言である。
「……え? そんなものが?」
「きゅっ。もう弱まってるけどね」
「それ、もっと早く教えてくださいよ!」
「きゅっ? 聞かれなかったし……」
興味なさげに答えるカーバンクル。大概にひどい。
「という事らしいです、ギルドマスター」
「はぁ……ある意味ギルドへ対しての敵対行為だな、その情報を流した奴は」
「敵対行為?」
フロウベルが尋ねる。
「あぁ、冒険者に偽情報を掴ませ、魔法で誘導操作して危険にさらした」
「なるほど……でも、なんで、そんなことしたんでしょ?」
「そうね。でも、今の話だけじゃ何とも言えないわ」
リンナも同意した。
今の時点では、何も判断できない。
「ギルドマスター、似たような話を持ちかけられた冒険者が、ほかにもいるかもしれないから情報集めてよ」
「わかってる、イリア聞いていたな、冒険者に声かけとけ」
「わかりました」
イリアはお辞儀して、執務室を出ていく。
四人の冒険者は、改めて二人に頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました」
「次からは、無茶しないこと。約束よ」
リンナの言葉に、四人は揃って頷いた。
「で、残してきたやつは、どうするんだ?」
フロウベルが、ギロッと睨みつけ、
「私たち、いえ、女性冒険者がどうにかしないといけないんですかね?」
ブチ切れ10秒前である。
「わ、わかったよ。男の冒険者にちゃんと事情を説明して探しに行ってもらう」
触らぬ神に祟りなしである。
こうして、行方不明だった四人の救出は無事に終わった。
後日談ではあるが、取り残されていた男は、5階層の岩陰に隠れて泣いていたところを発見された。
数日間、よく生き延びたと捜索に向かった冒険者たちは驚いたが、男の話では、数匹のスライムがほんのちょこっとの食べ物を運んできて、魔物からも守ってくれていたとのこと。
怒ってはいたが、やはり、死なれたら目覚めが悪かったので、最低限生き延びるだけのことはしてあげていたフロウベルだった。
後は、彼らに深層行きを勧めたという男の正体は、いまだ分からないままだった。




