第6話 行方不明の冒険者……ダンジョンなら召喚し放題?
フロウベルは、いつものように研究所で召喚獣たちの研究を続けていた。
……と言いたいところだが、今日は少し違った。
王都冒険者ギルド。こちらに足を運んでいた。
「フロウベル、ちょっといい?」
ギルドを訪れていたフロウベルに、リンナが声をかけてきたのだ。
「どうしました、リンナ?」
「実は、ちょっと手伝ってほしい依頼があるのよ」
「手伝いですか?」
フロウベルは首をかしげた。
「ええ。人探しなのよ。ダンジョン内の……」
「ダンジョン!」
その言葉を聞いた瞬間、フロウベルの目が輝いた。
「ダンジョンですか! いいですね! 未知の魔物! 未知の環境! そして、未知の召喚対象!」
「……まだ何も説明してないんだけど」
「それで、どんなダンジョンですか? どんな魔物がいるんですか? 召喚できそうなものはいますか?」
「ちょっと落ち着きなさい!」
リンナは慌ててフロウベルを制した。
「ちゃんと、聞きなさい!この間、色々叱られたでしょう!」
「……そうでした」
フロウベルは、こほんと咳払いをした。
「それで、どのような依頼でしょうか?」
「最初からそうやって聞きなさいよ……」
リンナはため息をついた。
◇
「比較的簡単なダンジョンなんだけど、そこから戻ってこない冒険者パーティがいるの」
「戻ってこない?」
「そう。予定の日を過ぎても帰還報告がなくてね。ギルドとしても、何かあったんじゃないかって心配してる」
「それで、探索依頼ですか」
「ええ。ただ、ダンジョンの中を一人で調べるのは大変だし、何が起きたのか分からない以上、私一人で行くのも少し不安なのよ」
リンナは腕を組んだ。
「そこで、フロウベルに協力してほしいの」
「私に?まぁ、一応、パーティ組んでますし、いいですよ。どうせ……」
「そう、正確には……あなたのスライムたちに、かな」
「ですよねぇ」
「あの子たち、数が多いし、狭い場所にも入れるでしょう? ダンジョンの中を探索するには、かなり向いていると思うのよ」
リンナは、少しだけ言いにくそうに続けた。
「もちろん、フロウベル本人にも来てほしいけどね。スライムたちだけ連れていくわけにもいかないし」
「なるほど……」
フロウベルは真剣な顔で考え込んだ。
スライムたちの探索能力。狭い通路への侵入。複数方向からの捜索。
確かに、ダンジョン探索には向いているだろう。
だが、それ以上に気になることがあった。
「……リンナ」
「何?」
「ダンジョンって、屋外ではありませんよね?」
「当たり前でしょう?」
「ということは……」
フロウベルの目が、再び輝いた。
「召喚獣を呼び出しても、街の人たちに迷惑をかけずに済むのでは!?」
「……あんた、今まで何を考えてたのよ」
「ダンジョンであれば、多少大きな召喚獣でも問題ないかもしれません! いえ、通路の広さによりますね。まずは現地調査をして、それから召喚可能な対象を……」
「待ちなさい! 探索依頼よ! 召喚の実験じゃないからね!」
「もちろんです。探索が最優先です」
「本当でしょうね……?」
「その過程で、召喚に適した対象が見つかる可能性は否定できませんが」
「絶対にあんたにとっては、そっちが本命でしょうが!」
リンナの叫びが、ギルドに響いた。
◇
「……まあ、スライムたちの能力を借りられるなら、私としても助かるわ」
リンナは気を取り直して説明を続けた。
「今回の依頼は、行方不明になったパーティの捜索。まずは足取りを追って、ダンジョンの中を調べる。危険な状況なら無理をせず、ギルドに報告する。それが基本よ」
「確認なんですが……」
フロウベルが質問する。
「パーティのランクと人数は? 比較的簡易なダンジョンでその状態だと、低ランクの少人数だったんですか?」
「D級で、人数は5名よ。男性1、女性4」
「……ハーレムですね」
「どこに着目してるのよ!」
「あ、すみません。でも、人数は多い方ですよね?D級になったばかりですか?」
「あと何回か依頼をこなせば、C級への昇格も見えていたパーティーね」
受付から出てきて、イリアが会話に加わる。
「フロウベルちゃんも受けてくれるみたいだから、情報を開示するけど、なにか変なのよねこの依頼」
「どういうことですか?」
リンナがイリアに聞く。
「どうも、このパーティがダンジョンに向かう直前、誰かからか妙な情報を聞かされていたみたいなの」
「妙な情報?」
「どうも、ダンジョンに向かうパーティーを呼び止めて、リーダーの男の子になにやら話して、その後に『よおし、それを見つければC級もB級もすぐだ!』とか、言ってたらしいわ」
「その男、馬鹿ですか?内容を聞かなくても、明らかに胡散臭い情報だと思いますが」
辛辣な言葉を吐くフロウベル。
「そうよねぇ……普通はそう思うわよね」
「普通じゃなかったと?」
「なんか、パーティーの女の子にいいとこ見せたいだとか、色々こそこそ男友達に言ってたみたい」
「リンナさん、行くのやめません?」
探索に興味なくしていくフロウベルの言葉に
「そうだね、馬鹿らしくなってきた」
リンナもテンション駄々下がりである。
困ったのはイリア。実は同じ理由で、もう断られ続けている。
ただ、このまま行方不明者を出したままだと、王都冒険者ギルドの沽券にもかかわってしまう。
そこで、切り札としてリンナに頼み、リンナが動けばフロウベルも動くと踏んで依頼した。
たが、自分の余計な一言で、今それも失敗に終わろうとしている。
慌てたイリア。
「ま、待って。男はどうでもいいけど、その巻き添えを食っている女性が4人もいるのよ」
「男とよろしくやってるんじゃないですか?」
やる気ないリンナの返答。
「そうじゃないかもしれないし、お願いあなたたちが頼りなの。」
フロウベルがイリアに
「本音は?」
「クズ男のために評判を下げたくないの」
イリアも大概である。
「もちろん、報酬弾んでもらえますよね?」
リンナがイリアに交渉する。
「行方不明者を助けるのは構わないわ。でも、危険につながる情報を後から出されるんじゃ、こっちだって命がけなのよ」
続けてフロウベルが、
「私のスライムの能力を既に当てにしていたし」
「「ねぇ」」
フロウベルとリンナは、笑顔でイリアに迫った。
「わ、わかりました。ギルドマスターに交渉します」
「今、交渉してきて?完了後にダメでしたってのは、無しね。」
イリアが顔を引きつらせ、「わかりました」と言って、執務室へいく。
しばらくすると、イリアを引き連れてギルドマスターがやってきた。
「お前ら、人の命がかかってるんだぞ!」
涼しい顔で答えるリンナ。
「もう何人も断ってるんでしょ?その人たちに言えば、同じこと。」
「ん!?グゥ」
確かに、金は釣り上げてるが、行かないとは言っていない二人。
先に断った人間にかける言葉である。
「わかった、通常の2倍出す」
「具体的な金額は?」
「金貨4枚だ」
「承知しました、依頼受けます。いいよね、フロウベル」
「いいですよ。リンナが納得してるなら。私はダンジョンに行くだけで、満足です」
「お前、がめつくないか?」
呆れた声で言う、ギルドマスター。
「前回の巻き込まれで、損しないよう学びました」
リンナも前回で、ある意味強かになったようである。
「フロウベル、わかっていると思うけど……」
「無理はしません。危険な場合は、ちゃんと撤退します」
「……本当?」
「はい」
「グリフォンを街中に召喚した人の言葉とは思えないわね……」
「それはもう反省しました!」
「ならいいけど……」
リンナは、まだ少し不安そうだった。
とはいえ、フロウベルのスライムたちが探索に役立つのは間違いない。
何より、行方不明になった冒険者たちが無事である可能性があるなら、放っておくわけにはいかなかった。
フロウベルの足元で、スライムたちがぷるぷると揺れている。
まるで、彼女たちの出発を待ちきれないかのように。
◇
その頃、王都の別の場所。
一人の男が、報告書に目を通していた。
「……フロウベルが、ダンジョン探索に向かう?」
「はい。行方不明になった冒険者パーティの捜索依頼を受けたようです」
報告を聞いた男は、指先で机を軽く叩いた。
「なるほど……」
フロウベルが冒険者として活動すること自体は、珍しくない。
だが、彼女の召喚能力には、まだ分からないことが多すぎる。
何を召喚できるのか。どこまでの能力を持つのか。そして、どのような条件で召喚を行うのか。
知りたいことはいくらでもあった。
「……彼女の行動を追って能力を確認するか」
男は報告書を閉じた。
「余計な手出しはするな。まずは、彼女が何をするのかを見極める」
「承知しました」
報告に来た者が退出する。
部屋には、再び静寂が戻った。
伯爵はまだ知らない。
彼が観察しようとしている少女が、観察する側の想定など簡単に飛び越えていくことを。
フロウベルも、まだ知らない。
自分の何気ない冒険が、誰かの目に留まっていることを。




